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イベントレポート

リーダーを任されたのに2週間でクビ?挫折後に気付いた、小さな成功体験を大事にするリーダーのあり方(介護リーダーの仕事術♯05イベントレポート)

リーダーになりたい人が32%。

リーダーをやってみて良かった人が83%。

KAIGO LEADERS LAB.が実施した介護職に関する意識調査で、リーダー等の役職に就いていない方と、実際にリーダーとして活躍している方のギャップが大きいことが明らかになっています。

2022年から定期的に開催しているイベント「介護リーダーの仕事術」では、介護現場で活躍するリーダーに登壇いただき、介護リーダーの仕事術を紹介しています。

第5回のゲストは、大阪府の特別養護老人ホームでユニットリーダー兼フロアリーダーを務めている鞆隼人さん介護現場で働いて16年、自身のキャリアの中で「リーダーを任されたのにたった2週間でクビになってしまった」という挫折もお持ちです

そんな鞆さんが見出したのは、小さな成功体験を大事にするというポリシーでした。どんな大変な環境でも、まずは小さな一歩を踏み出すこと。リーダーだからこそ感じられる介護の仕事の面白さについても、たくさん語ってもらいました。

最高の介護施設とは何か?

皆さんにとって、最高の介護施設とは何でしょうか?介護職として16年間働いてきた鞆さんも、ときどき最高の介護施設について思いを馳せるそうです。

人員配置は1:1で常にマンツーマンで対応できるとか、スーパーリハビリができて誰でも完全自立が実現できるとか。確かにそんな介護施設は最高かもしれませんが、現実的ではないですよね。どうしたって介護職は足りないし、人間が老いていくことに抗うことはできませんから。

だからこそ、今いるメンバーでできる限りの最高点を出す。目指す介護を、利用者一人ひとりの「自分らしさ」を実現できることに置いているといいます。

朝は絶対にパンが良いという人もいれば、そもそも朝はご飯食べないという人もいる。良いか悪いかは別にして、利用者一人ひとりが持っている習慣やこだわりって、その人らしさの表れだと思います。当然、施設にはできること、できないことがありますが、利用者一人ひとりの「自分らしさ」を実現できる介護を目指そうと仕事に取り組んできました

小さな成功体験をつくる

利用者が自分らしい生活を送れること。その支援を介護現場で行うにあたり、大切なことは「小さな成功体験をつくる」ことだと鞆さんは話します。印象に残ったケアとして、ひとつの事例を紹介してくれました。

<鞆さんが経験した介護事例>

・74歳女性

・入所時は要介護度5

・終日テープ式おむつを着用し、トイレで排泄しない

・自分の便を机に並べてしまうことがある

・寝たきりで、全ての行為に介助が必要

・季節に関係なくお正月の歌を歌っていた

職員もどのように接すればいいか分からない状態でしたが、鞆さんが始めたのはとてもシンプルなことでした。

食後にトイレに座ってもらっただけです。職員から反対の声も挙がりましたが、とりあえず座ってもらおうと。だんだん立位も安定してきたので、手引き歩行に切り替えました。しばらくすると自分でトイレに向かって歩き出すようになり、失禁もほとんどなくなったんです。

排泄が上手くいくようになった女性は、次第に季節に合わせた歌を歌えるようになりました。行動範囲も広がり、見違えるように元気になったといいます。

私たちの介護施設では、利用者の個室にトイレが備わっています。なので排泄介助から始められたのですが、特別なことは何もしていません。ですが一人の女性が見違えるほど元気になったことで、ケアをしていた私たちは「自分たちが状況を変えたんだ」と自信を持てるようになりました

施設内影響力をつけよう

小さな成功体験を積み上げるにも、周囲との信頼関係がなければ難しいもの。今でこそ周囲から信頼を寄せられている鞆さんですが、初めてリーダーに就任した際は周囲とのハレーションを起こしてしまったそうです。

自分の価値観や介護観を押し通そうとしてしまったんです。せっかくリーダーに就任したのに、たった2週間で異動を命じられて……。さすがに落ち込みましたね。自分が変わらないと誰にも話を聞いてもらえないと思い、みんなが嫌がる仕事を率先して行うようにしました。掃除やゴミ捨て、おむつ交換……。何かあったら、「俺が行きます!」ってすぐに手を挙げました。

周囲と信頼関係を構築する。そのことを鞆さんは「施設内影響力をつける」と表現します。何を言うかよりも誰が言うか。リーダーの影響力が弱いと、どんな取り組みも上手くいかないといいます。

日々仕事をしていると、上手くいかないことも多いんですが、まずは自分次第でケアの質は変わるんだという覚悟を持つようにしました。良い介護を実現するためには、施設内影響力をつける必要がある。そのためならと何でもしましたね。お勧めしたいのは、社内勉強会で講師を務めること。勉強しなければならないので多くの方は敬遠しますが、自分の勉強にもなるし、講師を務めることで周囲から「知識を持っている人」と思ってもらえます。講義の最後にちょこっと自らの価値観や介護観を挟めるので、共感してくれる仲間も見つけやすいんです。

職場内で移乗介助のレクチャーをしている様子

「何のためのケアなのか」を語れること

何を言うかよりも誰が言うか。「誰」の影響力が高まってきたら、自然と「何」の内容も大事になってきます。組織のリーダーとして求められるのは、法人の理念や方針を踏まえた上で、日々行うケアの意味と価値をきちんと語れることだと鞆さんは話します。

例えば私が所属する事業所では、「その人らしい生活を最期まで支援する」というケア目標があります。達成するための原則として、「寝たきりにしない・させない」、「生活習慣を大切に」、「主体性・個性を引き出す」というのがあるんですけど。先ほど紹介した74歳女性の事例は、「寝たきりにしない・させない」に該当しますよね。自分たちのケアが、組織のケア目標達成に近付くものだということを伝えていくことが大切だと思います。

小さな成功体験を積み重ねることで、説得力のある根拠と理論を持つことができる。「彼らができたんだから、私たちもできる」という雰囲気がつくられてくると、事業所の雰囲気もだんだん変わっていくのです。

どんなことでも最初は、小さな成功体験から始まります。「自分でもできた」という輪が広がっていくと、組織は自走するようになります。その状態になって初めて、「良いチームが育まれている」といえるのではないでしょうか。

リーダーになって、少しずつ現場を変えていく

リーダーや管理職は責任を伴う仕事。できれば一般職員として伸び伸び介護に取り組んでいたい。ですが鞆さんは、リーダーだからこそできる仕事があると強調します。

機会に恵まれたら、ぜひリーダーや管理者に立候補してください。どうしても、事業所や組織の改革・改善をするにあたり、一般職員ではできることに限界があるからです。リーダーになって、所属している法人の理念や方針を踏まえた上で、日々のケアに意味と価値をつけていきましょう。

最後に鞆さんがイベント参加者に呼び掛けたのも、小さな一歩から始めることの大切さでした。

私は若いとき、空いている時間は全て研修やイベントに参加するようにしていました。何かを変えたいと思っていたんです。でも研修に参加しても、次の日に何も変わらない日常がある。同じような毎日が続いてしまうんですよね。嫌になってしまうこともありますが、それでもやっぱり、小さな一歩から始めるしかないと思います。小さな成功体験から始めて、少しずつ現場を変えていく。皆さんもどうか一緒に、介護現場を変えていきましょう!

質疑応答

最後に、参加者の方々から寄せられた質問にお答えいただきました。

Q. モチベーションの低い職員に手を焼いています。どのように対応したら良いでしょうか?

モチベーションは目に見えないもの。そもそもモチベーションや感情で仕事が回っているわけではないので、その職員が手掛けている仕事そのものにフォーカスしてはいかがでしょうか?

モチベーションの高い職員はありがたいものですが、頼り過ぎてしまうと、逆にモチベーションが下がったときにしんどくなってしまう。「仕事が回っていればオッケー」ということにして、日々のケアに臨むことが大切だと思います。

Q. 嫌がる仕事を率先してやるのは、しんどくないですか?また、そういった期間をどれくらい続けていたのでしょうか?

「しんどいからこそ率先してやる」という考え方なんです。当時は、あまり損得勘定で物事をとらえないようにしていましたね。みんながやりがたらないことをやってくれる人って、どちらかといえば「良い人」じゃないですか。

ただ実際のところ、私が主体的に嫌がる仕事を引き受けていた期間は短かったように思います。ケアの改善が進んだり、ナンバーツーとして動いてくれる職員が出てきたり。介護現場が変わってくると、そういった部分も仕組みとして上手く回せていけるのだと思います。

Q. 介護を辞めようと思ったことはありますか?

めちゃくちゃありましたね。特に就職した当時は集団処遇ばかりで、「介護って、つまらない仕事だな」と感じていました。

それが変わったのは、上司に言われた一言がきっかけです。いつものように何も考えず入浴介助をしていたら『君がやっているのは人体洗浄だ。プロだったら入浴介助をしなさい』と注意を受けました。どう改善しようか考えたときに、利用者のご家族の協力を仰ぎました。息子さんから『今から面会に行くので、お風呂に入って待っていてください』と手紙を書いてもらったんです。今考えると、ちょっと変な内容の手紙でしたけどね。

でも、それがきっかけになって、今まで無理やり入浴されていたおばあさんが、自ら入浴に足を運ぶようになったんです。介護の仕事をして、「ありがとう」と言われたのもこのときでした。関わりが変わるだけで、ここまで介護の経過が変わることに驚きました。そのとき、「一生、介護の仕事をしよう」と思うことができたんです。

 

ゲストプロフィール

鞆隼人(とも はやと)

特別養護老人ホーム(大阪府内)ユニットリーダー 兼 フロアリーダー

介護予防を中心とした専門学校へ入学、特別養護老人ホームへの実習体験をきっかけに介護の仕事に就こうと決意。卒業後は地元の特別養護老人ホームへ入職、就業後ずっと施設介護の仕事を続けている。現在はユニットリーダー兼フロアリーダーを任命され、施設内での新人研修、法定研修、実技講習などを行っている。SNSやセミナー等でも積極的な情報発信を行っている。目標は、「長生きして良かった」と思ってもらえるような施設を増やすこと。

開催概要

日時: 2023年8月28日(月) 20:00〜21:30

場所:オンライン(Zoom配信)

この記事を書いた人

堀聡太

堀聡太Sohta Hori

株式会社TOITOITOの代表、編集&執筆の仕事がメインです。ボーヴォワール『老い』を読んで、高齢社会や介護が“自分ごと”になりました。全国各地の実践を、皆さんに広く深く届けていきたいです。