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イベントレポート

リーダーシップとは、対話の雨を降らせる技術!コロナ禍を乗り越えたリーダーに学ぶプロの心得(介護リーダーの仕事術#03イベントレポート)

あなたは、介護リーダーになりたいですか?

リーダー職についているあなたは、この先も今のチームでリーダーを続けたいですか?

KAIGO LEADERS LAB.が実施した介護職に関する意識調査では、チームリーダー等の役職に「就きたい」と回答した方は32%にとどまりました。一方で、現在の役職が「チームリーダー」の人のうち、リーダー職に「就いてよかった」と回答した人は83%に上りました。

介護リーダーのやりがい・魅力とは何でしょうか?

介護リーダーの仕事術」では、介護現場で活躍するリーダーなどをお招きし、介護リーダーの仕事に触れていきます。

2023年1月26日(木)に開催された第3回のゲストは訪問介護事業所リバーサイド・ヴィラの雨澤慎悟さん。雨澤さんは、訪問介護事業所の管理者として勤務されながら、地域全体の介護レベルの底上げをはかり、安心して暮らせる地域づくりに取り組まれています。

新型コロナウイルスが流行しはじめた際はコロナ禍でも在宅ケアが継続できる仕組みづくりのため、感染疑いのある利用者のお宅への訪問シミュレーションや各事業所における感染対策の共有と支援継続にむけたディスカッションを地域の訪問介護員、訪問看護師、ケアマネジャーや薬剤師など様々な職種の方と実践されていました。

事業所だけでは難しいことも、視野を広げ、地域で一緒に取り組んでいけば、乗り越えられるかもしれません。

“誰もが生きたい場所で生きられる。”

そんな安心して暮らせる地域づくりを、雨澤さんはどのように実践されてきたのでしょうか。

イベントは、KAIGO LEADERS発起人の秋本可愛との対談形式で開催し、雨澤さんよりスタッフ、利用者、家族や地域を巻き込む介護リーダーの仕事術についてお話いただきました。

在宅に施設のケアや技術を

 

秋本可愛

今回は社会福祉法人根木内福祉会訪問介護事業所リバーサイド・ヴィラの雨澤慎悟さんにお越しいただきました。

雨澤さんは、事業所を超えて「地域の管理者」ではないかというくらい手広く活動されているので、そういったお話も聞けたら嬉しいなと思っています。まずは簡単に自己紹介をお願いします。

私は、長期療養病床で最初5年ぐらいリハビリ助手を経験した後、埼玉県の老人保健施設で介護職として働くようになりました。 その後、埼玉から千葉の流山市にある老人保健施設に転勤し、そこで在宅復帰支援や研究発表を頑張るなか、ある時「自分たちってそもそも在宅介護を知らないよね」という疑問を持ちました。

自分自身も家族介護の経験がなく、尚且つ訪問介護の現場を間近で見たこともない。
「何でそんな自分たちが在宅復帰支援をやっているんだろう?」と疑問を持ち、在宅介護を知る必要があると考え、新たに訪問介護事業所を立ち上げました。
この立ち上げから8年後、2022年10月から別の法人に移り、新規オープンの訪問介護事業所リバーサイド・ヴィラを立ち上げて今に至る、という流れです。

秋本可愛

訪問介護事業所も注目を集めていますが、前職の流山の訪問介護事業所の取り組みが新型コロナウイルスの対応等について多くのメディアで取り上げられているのを拝見しました。どんな事業所運営をされていたか教えていただけますか?

前職の流山の時には、自分含めて4人という本当に小規模な訪問介護事業所を立ち上げました。 自分たちは、身体介護については割と上手な方でしたから「施設でのケアや介護技術を在宅でも活かしたい」という緩やかな方向性は持っていましたね。だから、訪問介護事業所なのに生活援助の算定もせず身体介護特化でやっていました。全サービスが身体介護。もう身体介護しかやらない事業所だったんですね。

このスタンスで地域のケアマネさんからも、例えばご自宅でのお看取りともなると「やっぱり雨澤さんの事業所じゃないと安心できないですよね」といった評価をいただきながら育ててもらったという感じですね。

専門職にはない視点を活用する

秋本可愛

訪問介護事業所を立ち上げる前に、老人保健施設でリーダーになった経緯を伺いたいです。

リーダーになる前、一番最初にやったのは排泄改善でした。少人数の介護職で業務を組み立てられて、かつ、利用者にとってもいい。最初はそんな仕組みを作るところから始めました。例えば、定時の排泄介助で一斉にトイレへ行くのではなく、本人の要望に合わせて時間をずらしていけば職員1人で対応できたりもします。

私は介護職に就く前に工場とかの生産現場にいたことがあったんです。そうした経験から、介護の現場では「非効率的な動きがたくさんあるな」という印象と、加えて「これは利用者のためにもなっていない動きだよな」という改善ポイントの発見がありました。
このような改善を繰り返すことで「職員と利用者双方のストレスをなくせた」ということを何となく認めていただき、役職がもらえるようになったんです。

秋本可愛

「このケアってどうなんだろう?」と思った時に、役職を持たない職員が改善案を上司に持っていき、実際に改善を実行していくにあたって、どんなことを心掛けていたんですか?

自分の場合は、同僚に「この方法は、逆に大変なことをやってるよ」みたいなことを提案しながら、味方を作っていくという方法をとりました。同僚を味方にしたうえで「これがみんなの総意なんで、こうやっていきます」って上司に持っていくのがいいと思います。

秋本可愛

確かに上司としては「みんなが言ってるなら」ってなりますよね。

そうです。だから、いきなり組織を変えようとか現場を改革するんだとか思わず、たった1人の味方を作ることから始めたらいいんじゃないかと。横(同僚)のつながりを大切にし、横の味方を少しずつ増やしていくのです。周りを味方につけていくと、自分がリーダーのチームが自ずと作られていく体験がありました。

秋本可愛

そういったことはどこで学ばれたのですか? ともすれば正論を振りかざす手法をやってしまいそうですが。

自分にとって運が良かったのか悪かったのか、介護現場を全然知らずに入職したことが影響していそうですね。流行を知らないし、知識が無いからこそ、現場を見て、現場でリアルに起こっているおかしなこと、利用者にも職員にとっても負担が大きいこと等を伝えていったから意見が通りやすかったのかなと思います。

最高の介護を届けるため、他の事業所と一緒に成長していった

秋本可愛

雨澤さんは、介護業界に入職後どのタイミングでリーダーポジションになったのでしょうか?また、ご自身をどのようなリーダーだと考えますか?

リーダー的なポジションには、入職して1年半くらいでなりました。どんな感じのリーダーだったかというと、例えば業務改善を実行する際、2ヶ月間など時期を決めて具体的に修正を加えていきました。その修正点を上司などに先んじて伝えて実現していく。これらを積み重ねていったんです。加えて、改善案を自分の中に留めておくだけではなく、周りに公表していました。期限を区切ることで「2年前はこうだったけど、今こんなに成長したよね。みんなすごいじゃない」みたいな、協力してくれた職員たちの貢献を、根拠を持って伝えたんです。すると職員たちも嬉しくなって、「さらに上を目指そうじゃないか!」みたいな感じになりましたね。

秋本可愛

なるほど。雨澤さんが以前立ち上げ、管理者を務められていた訪問介護事業所は、地域を巻き込みながらリーダーシップを発揮されていた印象です。巻き込んでいくプロセスや意識されてきたことを伺ってもいいですか?

その訪問介護事業所は4名で運営してきました。例えば、毎日何回も訪問しなければならない方や、お看取りの方がいらした時「我々だけで全てのケアを埋めることはできない」という前提があったんですね。

身体介護だけでも膨大な量の訪問介護サービスを入れなければならないケースでは、うちの事業所だけで全部請け負うなんて不可能で、他の事業所と一緒に入ることが前提としてあった気がします。

その中で介護の質や量にばらつきがあると、利用者にとって良くないですよね。なので、例えば他の訪問介護事業所に頼まれて同行したこともありました。そういった形で、他の事業所と一緒に成長した感じですね。

秋本可愛

他の事業所に同行を頼まれるってすごいですよね。「ここの訪問介護事業所は質がいいんだよ」ということは、どのように伝わっていったのでしょうか?

そこは自分たちを本当に大切にしてくれたケアマネジャーたちがハブになってくれています。うちが一部でも入ると利用者もケアマネジャーも安心できるみたいな、ありがたい声もいただいていたので、他の事業所も「ちょっとあそこで習ってみたら」とか、言ってくれるようになったんですよ。

秋本可愛

そうした信頼を得るまでのタイムスパンはどれぐらいでしたか?

2年ぐらいかかりました。自分が働いている法人が大規模だったことにも救われていますね。

基本、私は経営者ではなく、介護職なんですよね。「最高の介護を利用者に届けたい」っていう思いがあったので営業とかも行かずに、ずっと技術練習ばかりしてきました。そんな甘ったるいことできないよとかいう指摘もあると思いますが、そこはラッキーだったと考えています。

ケアは利用者と共に「作っていく」

秋本可愛

どれくらいの頻度で、勉強会や技術練習をされているんですか?

最近は身体介護技術の勉強会は開いていません。1日10分、どこか雑談ができるくらいの空き時間があったら、相手を見つけて立ち上がりの練習や大変な移乗介助についてディスカッションしてみるといったことをおこなっていますね。それらを日常に溶け込ませていきます。

秋本可愛

私の知り合いが、雨澤さんの移乗介助を受けたら、「ものすごくお上手で、いとも簡単にさらっとやられて、びっくりした」と言ってました。職員に介護技術を指導するうえでの心掛けを伺っても良いですか?

自分は、利用者や家族をチームに巻き込みます。利用者の同居家族とか、高齢の方でも訪問介護員のオムツ交換なんかを、じーっと見てくるんですよね。「どうやってるのかな?」ってね。そのタイミングで家族に頼むんです。

自分自身も直接誰かに指導されたっていう経験はあまりなくて、ずっと利用者に聞きながら、「これやったら痛くないですか?」と確認していくことを積み重ねてきた背景があります。

僕もすごく下手だったんですよ。でも、利用者が教えてくれました。だから「このやり方をうちの訪問介護員にも教えてあげてください」って利用者に伝えています。

秋本可愛

利用者によってはすごく我慢されていたり、「ま、こんなもんよね」で遠慮されて言わずにいたことを、ちゃんと言葉にしてもらう。言ってもらいながら本当の人間関係を作っていくんですね。

ケアは提供するんじゃないんですよ。いいケアを利用者と共に作っていくことだと思っています

初めから利用者にも「痛かったら痛いと言ってください。どうしたらいいか一緒に考えて、いいケアを作っていきましょう」って説明をしますね。引き出しは少しずつでもいいからたくさん作っておいた方が良いと思います。

専門性よりもプロフェッショナル性、その違いとは?

秋本可愛

スタッフとの人間関係やコミュニケーションで悩んでるリーダーがとても多いのですが、人間関係とかでの失敗はあったんですか?

失敗、失敗、失敗です。自分が「きっとこうだろう」と思っても、利用者が悪い方向に進んでしまったっていう負の失敗もいっぱいありましたからね。そういうのをオープンにして、傷ついて落ち込むような姿を逆にスタッフに見せてきました。

でも次はね、「もう負けるか!」みたいな感じでまた何かに取り組んでいくんです。リーダーシップ以前に、「自分自身が介護職として最良のケアを提供しているのか?」「そのための努力をしてるのか?」そして、「失敗を認められるのか?認めたうえで、繰り返さない努力をしているのか?」等を考え続けています。そうした姿をスタッフに見せることが、結果リーダーシップに繋がっていくように思っています。

本来は、何か向かうべき場所があるからリーダーシップが必要になる。でも、リーダーシップそのものが目的化されている場合が多く、向かうべき場所がないのにリーダーシップを発揮しようとしている状態の人が結構多いかなって感じています。
専門性っていうよりは、プロフェッショナル性の方が大事かなと。

秋本可愛

どう違うんですか?専門性とプロフェッショナル性って。

専門性って、諦めのために使われることが多いんです。専門性で“判断する”というよりは、プロとして“突破していく”前提を、自分の中で持てるか?だと感じています。「介護はこうだからね」とか専門性をもって判断して諦めるのではなく、利用者と対話をしながら「やりたくてもできない」といった課題や悩みなんかを、プロフェッショナル性を発揮して“突破していく”努力をするという前提を持つことが大事だと考えます。難しかったこともあるし、全てが突破できるわけではないですけどね。

秋本可愛

具体的なエピソードはありますか?“突破する”ということのイメージがより具体的に共有できたらいいなって思っています。

末期ガンで全身がだらんとして全く動けないけど、「今まで通っていたデイサービスに行きたい」という利用者のケースについてお話しします。その方は、デイサービスに大変お世話になった人たちがいて、どうしてもお礼をしたかったんですね。でも、2階に住んでいて、どうあがいても車イスなどが使えなかったんです。そんな中、訪問看護師とケアマネジャーの2人が、うちの訪問介護事業所を思い出してくださって。私が車を運転していたら「助けてください!」って電話があって、「じゃ、今行きます」って駆けつけました。

それで少し体を動かすだけでも痛がってしまう方だったんですが、何とか最低限の痛みで1階に降ろせるようになり、ご本人の望みを叶えることができたんです。

うちの事業所で理念としてあるのが「誰もが生きたい場所で生きる」。そして「行きたい場所に行ける」。それは、自分が逝きたい場所で逝くことにも繋がります。

コロナ禍でも日常のケアを続けるために

秋本可愛

新型コロナウイルス感染症の対応の際にも地域でリーダーシップを発揮されていた印象を受けました。地域の人たちの巻き込み方を教えていただいてもいいですか?

流山市に訪問介護部会があり、部会長をさせてもらっています。そこで、「あの人がリーダーシップを取ったんだろう」と、見ていただけることが多いんですね。コロナ禍になっても日常のケアとの線引きを考えてなかったというか、あくまで「日常のケアを持続するためには一体どうしたらいいんだろう?」と考えながら、行政や訪問看護師に、ずっと感染症のことを教えてもらっていました。

僕は困ったことを表現するんですね。めっちゃ「助けて!」って言うんですよ。

当時、コロナでマスクもガウンもない。訪問看護師と、流山の市役所に行って「困ります」って言ったら、すぐに行政が1000着のガウンを用意してくれて。
行政も、医療も、介護も、一緒になってやっていかないとコロナウイルスに太刀打ちできない。そんな風に騒ぎ立てたら、いろんな方が助けてくれて。

結局みんないい人で、話せばわかってくれるんですね。
めっちゃ低姿勢で「お願いします」って、言い続けることが巻き込むポイントなんじゃないですかね。

まず、他者を認めるところから始める

秋本可愛

やる気が低い、非協力的な職員や事業所をどう巻き込んで、やる気を上げていくのか?ということについてはいかがですか?

「諦めちゃう」というのも1つの手ではないでしょうか?コロナウイルスの陽性対応としては、レッドゾーンに入れない事業所が大多数でしたよね。

例えば、家族が陽性になって、とある訪問介護事業所が撤退しちゃった。そうしたらケアマネジャーがうちに頼んでくれた。うちはレッドゾーンに入っていく。でも、食料がなければ僕らが入っても何もできないじゃないですか。すると、そのレッドゾーンに入れない訪問介護事業所が、買い物の生活援助をしっかりおこなってくれた。

1人の利用者を救済するために別々の事業所が機能的に連携すれば、結局利用者は救われるんだからいいんじゃない、って私は思っています。
やる気を一定にしようとか、あんまり考えなくていいと思うんですね。 

それぞれができることを探して、チームとして機能的になっていけばバラバラなことも認められる。まず、認めるところから始めるって、スタンスとして大事ですよね。言葉にしなくても、パワーとか空気で伝わるじゃないですか。

おわりに

秋本可愛

今日のポイントをおさらいします。

①リーダーになるためのポイントは、横のつながりを大切にしながら現場の中で小さな改善を宣言し、尚かつ実行に移して結果を出す

②業務改善のためのスタッフへの伝達方法としては、1日10分くらいの隙間時間に行う小さな研修を日常にしていく。

③リーダーは、家族や利用者を巻き込むことで指導力を発揮できる。

④リーダーシップの中心にあるのは「とにかく、いいケアをする」こと。失敗も共有しながら、真摯に向き合って努力する姿勢が大切。 

⑤専門性よりもプロフェッショナル性が大事というお話からは、利用者と対話をしながら共に課題を突破できるかどうかが大切であるということ。

⑥とにかく仲間を巻き込むコツの1つとして、低姿勢で「お願いします」と頭を下げるということ。

雨澤さん本当に今日はありがとうございました。ぜひ、最後に皆さんに一言いただけたら嬉しいです。

本当はこちらが教えてもらいたいぐらいですが。もっと自由でいいかなって思っています。無意識の中で自分の可能性を抑えちゃう人が多いので、もっともっと利用者のために自由でいいんだよっていうことを意識してもらえたらな、って思うんです。

介護のリーダーが、日本のリーダーになる、そのパートナーとして、一緒に日本を明るくしていけたらと本当に思っています。

ゲストプロフィール

雨澤慎悟(あめざわ しんご)

 

 

 

 

 

社会福祉法人根木内福祉会 訪問介護事業所リバーサイド・ヴィラ 

埼玉県の老人保健施設で入所と通所リハビリテーションを経験する。平成25年に千葉県流山市の老人保健施設に転勤後、訪問介護事業所を開設する。

誰もが生きたい場所で生きて
行きたい場所に行けて
逝きたい場所で逝ける…

そうした地域をつくりたいという意欲のもとに活動を続けて、平成30年全国老人保健施設大会では優秀奨励賞を受賞する。また、流山市訪問事業部会では部会長を務める。令和4年9月に前法人を退職して、10月より社会福祉法人根木内福祉会にて訪問介護事業所を開設する。

開催概要

日時: 2023年1月26日(木) 20:00〜21:30
場所:オンライン(Zoom配信)

この記事を書いた人

有持 庵

有持 庵ARIMOCHI Iori

徒歩30分圏内の視点で介護・福祉について発信していくがモットー。
介護福祉士、介護支援専門員、社会福祉士。