28歳、大学時代の友人3人で、デイサービスを起業!介護が必要になっても夢に挑戦できる場づくりの序章(Soda)
「介護業界で新しいチャレンジをしたい!」
「介護事業で起業したい!」
そんな想いを抱いたことはありますか?
ハードルが高く、なかなか行動に移せないかもしれません。
KAIGO LEADERSのミッションの1つに「介護と勇気をつなぐ」があります。
介護業界で活動する若い世代に向けて、想いを形にしていく後押しとなる事例を紹介していきたいと思います。
今回は、岡山県総社市にて2024年8月にデイサービスをオープンする準備をすすめている28歳、合同会社28の土井脩平さん、中山千香さん、小武(おだけ)悠さんにお話を伺いました。
御三方は県立広島大学の同級生でした。
デイサービス立ち上げに至る経緯、どのようなデイサービスを作っていくのか、そしてその先のビジョンについてお話いただきました。
まずは、御三方それぞれのバックグラウンドについてお伺いしました。
最初に、合同会社28の代表 土井さんにお話いただきました。
現場で抱いた違和感が出発点
Q:もともと介護に関心があったのでしょうか?
土井さん:もともと介護に関心があったわけではありません。
中学の時に部活でサッカーをしていて、足首の怪我をし、病院で理学療法士の方のサポートを受けました。その時、「困っている人を後ろから支える理学療法士の仕事ってめっちゃいいな!」と思い、理学療法士になりたいと考えるようになりました。
スポーツの分野に関心があったのですが、大学に入学してから、実習で、おばあちゃんたちにチヤホヤしてもらったのが気持ちよくて(笑)病院や介護業界に関心を抱きました。
しかし将来、人口が減少していくと病院の数は減っていきます。そうなると、「病院で働き続けることができないのではないか」という不安も抱えていたんです。
理学療法だけではなく、いろいろなことを掛け合わせていく必要性を感じていました。
Q:大学卒業後は、どのようなお仕事をされていたのでしょうか?
理学療法士として働く上での基礎固めとして、まずは地元の岡山市の大きな病院で働くことにしました。デイケアというリハビリテーション施設でも働いていました。
そこで働く中で、せっかく来てくれても寝て帰るおじいちゃんがいたり、画一的なレクリエーションが実施されていることに違和感を抱いたんです。「結局、利用者が元気になってないよな」って。そんな時に、愛知県豊田市にある「P-BASE」というデイサービスを知り、見学へ行きました。そこに通うおじいちゃんおばあちゃんが元気で笑顔だったんです。そのデイサービスを運営する合同会社P-BEANSが、将来独立することも応援してくれる会社だったので、3年という期限を決めてお世話になることにしました。社会人4年目のことでした。
環境やかかわる支援者次第でいくらでもその人が元気になれる
Q:デイサービスで勤務されていた時に印象に残っていることは何ですか?
3年間デイサービスで働きながら、週末は旅行支援をしていました。「高齢の方って、やればできるんだ!」と思ったきっかけは、旅行でしたね。
「もうどうでもいいわ、好きに介護してちょうだい」と言っていて完全に受け身だったおばあちゃんが、旅行に行くとめちゃくちゃ歩けるんです!デイサービスでの機能訓練や歩行訓練では全然動かないのに、目的地が見えた途端、いくらでも歩けるみたいなことがあって。
環境や支援者側のかかわり次第で、その人の能力って100%以上、120%出るんだ と知りました。その成功体験が積み上がっていくと、結果として、生活機能がぐっと底上げされる。表情も良くなって、元気になって、家族も喜んで、みんなハッピーに!そんな事例をいくつも見てきました。
これから立ち上げるデイサービスも、「環境やかかわる支援者次第でいくらでもその人が元気になれる」という想いを持って運営していきたいです。
Q:お話しを伺っていると、とても素敵なデイサービスで働かれていたのが伝わりました。そのままそちらのデイサービスに所属するのではなく、起業の道を選択したのはなぜでしょうか?
深い話になるのですが……。自分が死ぬ時にどういう状態だったら幸せかなっていうのを考えたことがあって。誰かのためにがんばった、誰かのために尽くした、その結果、周りの人が喜んでくれたり……。「土井さんありがとう、感謝してます」って言ってもらって死ぬのが一番良いなと思いました。
人生において、努力して、困難を乗り越えて、自分が思っていることを形にして、皆さんが笑顔になってくれることを追い求めたいです。
あと、やっぱり僕は地元が好きだということもあります。「自分がお世話になった地元に貢献したい」「自分の好きな場所を盛り上げたい」そんな想いで、愛知県から岡山県に戻りました。
不安よりも“楽しみ”が圧倒的に大きい
次に、中山さんのバックグランドについてお話を伺いました。
中山さんは、デイサービスSodaの管理者になります。
Q:これまでどのようなお仕事をされていましたか?
中山さん:大学時代は、土井さんのように考えたことは特にありませんでした。平凡に、最初は、基礎をしっかり学べるように新人教育がちゃんとしているなるべく大きい病院で働きたいと思い、広島の回復期病院に就職しました。
Q:デイサービスを土井さんと立ち上げることになった経緯を教えてください。
病院での仕事自体はとてもやりがいがあって楽しかったんですけど、患者さんと話をしている時に寂しさを感じました。「退院後にやりたいことや目標にしたいことはないですか?」って質問をすると、「楽しいことなんてないよ」って言う人がすごく多くて……。
生きがいっていうほどのものでなくても、生活の中に「これが好きだな」というささやかな楽しみを持ってもらいたいなという想いを抱くようになったんです。しかし、病院ではできることが限られていました。
同時に、「ずっとこの病院でなんとなく理学療法士を続けて良いのかな……」というモヤモヤした想いも漠然とあり、自宅での生活を支えたいと考えるようにもなりました。
そんな時に、土井さんがデイサービスを立ち上げようとしている話を聞いて、「共感できることが多いな」と感じたのが、デイサービスの立ち上げにかかわるきっかけとなりました。
土井さんが3年後にデイサービスを立ち上げるということだったので、その間、何をしようか考えました。病院でしか勤務したことが無かったので、暮らしに寄り添ったサポートの仕方を学びたいと思って訪問看護リハビリステーションで勤務しています。働きながら、約3年間土井さんと毎週ミーティングをしました。
6月に退職し、7月には引っ越します。生まれも育ちも広島ですが、創業を機に岡山県民になるんです。
Q:元々、起業を考えていなかったということですが、不安はなかったですか?
不安はなくもないんですが、元々あんまり深く考えず、何とかなるっていうスタンスで生きています。どっちかと言えば、楽しみな方が圧倒的に大きいです。
土井さんとは、大学時代から色んな遊びの企画をして一緒に楽しんでいたので、一緒だったら楽しいだろうなと思いました。
そして、小武さんのバックグラウンドもお伺いしました。
小武さんは、京都市のデザイン会社に勤務されています。京都でその仕事を続けながら、デイサービスSodaのPRやコンテンツづくりをされています。
介護のアルバイトやデンマークへ留学した経験もつながって
Q:これまでの経歴を教えてください
小武さん:大学3年生の時に重度訪問介護のアルバイトをしていました。始めたきっかけは、結構給与が良くて、友達もやっていたからです。アルバイトをやっていた時は、利用者の想いがなかなか周囲に伝わらないことにモヤモヤしていました。
その後、デンマークに留学し、障害のある方のサポートをしました。
脳性麻痺のある方が「海にダイブさせてくれ!」と言ったら、本人の意思だからと実行していたりと、日本との大きな違いを感じました。
そんな経験を通して、臨床だけではなく違う道もたくさんあるなと気がつき、ヘルスケア企業でのメディア運営や、ロボットベンチャー企業でのユニバーサルロボットの開発・営業等に携わりました。現在は、宿泊施設とカフェを運営している京都市のデザイン会社で働いています。カフェの一角をつかって、小さな赤ちゃんがいるお母さんが、自分らしくいられるための場づくり等もしています。海外から訪れる人や高齢者等色んな方が集う場の企画・運営や、デザイン等、様々なことに携わってきました。
Q:土井さんとデイサービスを立ち上げることになった経緯を教えてください
僕の結婚式に、土井さんが参列していて、その時に土井さんがデイサービスを立ち上げようとしていることを聞いて、「何か面白そうだな!」と思ったのがきっかけです。デンマークでの出来事等のこれまでの経験や、現在やっている仕事とのつながりを感じて、土井さんに「一緒にやろう」と声をかけさせてもらいました。
僕は岡山県には引っ越さず、今の仕事も続けながら参画しています。
これからつくるSodaのようなデイサービスを全国に増やしていきたいなという想いも持っています。
小武さんがデイサービスSodaの立ち上げプロジェクトのメンバーになったのは、2022年11月頃。その頃から3人でお仕事終わりに週に2回、LINE電話をつないでミーティングを重ねられました。
「どんな人のためのサービスをつくりたいか」
「その人にとってどんなサービスがあるといいか」
「そのサービスをつくるためにどう進めていいか」
丁寧な対話と言語化を積み重ねています。
その歩みをnoteに綴られていますので、是非ともそちらもチェックしてください。
デイサービスは、重要な“分岐点”にかかわれる
ここからは、これから立ち上げるデイサービスSodaについて具体的にお話しを伺いました。
Q:介護保険サービスは様々な種類がありますが、デイサービスを選んだ理由は何ですか?
1つめの理由は、色んな人たちがかかわる空間ということです。病院で勤務していた時は利用者と僕、1対1のかかわりでした。その場合、脳が2個しかない。色んな人がいれば、脳が何十個もあるので、楽しいアイディアがたくさん湧くし、「あの人のためにこれをやろう!」といったポジティブな感情が溢れると考えました。
2つめの理由は、分岐点にかかわれることです。外出できる人は、体力もそれなりにあって、そこから状態が悪くなることもあれば、反対に劇的に良くなることもある。そう考えると、“通いの場”が大事だと感じたからです。
コンセプトは、「そうだ、一緒にやってみよう!」
Q:デイサービスのビジョンを教えてください
私たちがつくるデイサービスの名前は「Soda」といいます。「そうだ、一緒にやってみよう!」っていうコンセプトです。受け身の介護ではなく、主体的に自ら取り組む人たちが増えて、ゆくゆくはみんなが元気に自己実現できるような世界になっていくと良いなと思っています。
また、介護に対するネガティブなイメージを変えたいです。本屋や駄菓子屋を併設し、まちに開いたデイサービスを運営することで、介護に対するハードルを下げ、介護って楽しい世界なんだっていうのをみんなが知ってくれると良いな。
そんな想いを抱いています。
やりたいことがない利用者にとっても居心地のよい空間
Q:他にこだわっていることを教えてください
現在かかわっている、もしくは過去にかかわってきた患者や利用者を思い起こし、その中からデイサービスのペルソナ(典型的な利用者)を約20人設定しました。その方々が「行きたいと思うデイサービス」はどんなデイサービスか、またどんなサービスを提供したいか3人でずっと考えていた時期がありました。そこは、かなりこだわっていますね。
Q:考えた先に、どのようなアイディアが生まれたのでしょうか。
デイサービスは3つの部屋があります。
その時の気分で、どの空間で過ごすか選ぶことができます。
1つめの部屋が、メインホールです。そこでお菓子を作ったり、食事をしたり、おしゃべりを楽しめます。
2つめの部屋は、アトリエです。
アトリエは少し奥まったところにあって、学校の図工室のようなイメージの空間で、ものづくりができます。壁には様々な工具が揃えられています。
3つめの部屋は、ラウンジです。
ラウンジは、静かにゆっくり過ごしたい人が選択できる空間です。これら3つの空間を自分の気持ちで選べるようにしたのが重要なポイントですね。ずっとポジティブな気持ちでいるのではなく、ネガティブな気持ちの方もいますよね。こういったネガティブになっている方へのアプローチは、中山さんが考えてくれました。
私が今、訪問看護リハビリステーションでかかわっている利用者さんの1人に、好きなこともやりたいことも何にもないという方がおられます。でも、家族の介護負担を減らすために仕方なくデイサービスに行ってるんです。みんなで体操したり、カラオケしたり、“みんな”に合わせなくてはならないのが苦痛だと言っていました。そんな方に、無理に「何か楽しいことを見つけましょう」と言うのは、なんか違う。そんな方が行きたいと思える場所は、何かを強制されないけれど、放っておかれるわけでもなく、何となく人の気配や気遣いが感じられて、孤独を感じず、居心地がよい。そんな場所なんじゃないかと考えました。
いままでのデイサービスが馴染めなかった方も居心地よく過ごせる場所になったらいいですね。
Q:積極的に活動されたい方は、どのような活動ができるのでしょうか?
駄菓子屋や本屋の店番をしたり、地域の方、子どもたちと交流したり……。あとは、旅行支援を自費サービスとして提供します。
Q:なぜ、本屋を併設したのでしょうか?
中山さんの夢が、「いつか本屋さんをやってみたい」だったからです。 僕たちは、利用者の夢を叶えていきたいですが、その前にスタッフの夢を叶えていきたいです。
また、地域に開かれ、地域の方とかかわりを持てるデイサービスにしたかったので、本屋を併設することで、ふらっと地域の方が立ち寄ってくれると考えました。
事務所の前が通学路になっているので、駄菓子屋も併設しました。
デイサービス起業のリアル
Q:現在抱えている課題はありますか?
めちゃくちゃ課題はあります。行政に提出する指定申請の書類の作成は難しいですし、送迎車をどれにするか選んだり、どの保険に入るか考えたり……。
駐車場借りれない問題とかもありましたね。
あと、資金面が一番大きな課題です。
そして、利用者は本当にくるのかなと不安になります。高齢の方やケアマネジャーにどれだけSodaの存在がちゃんと届くのかは、心配しています。
Q:課題を解決するために心がけていることを教えてください
手が止まって、悩んだらすぐ誰かに相談することを心がけています。やったことがある人に聞くのが一番早いですからね。中山さん、小武さんとのグループLINEにも連投しまくってます(笑)
Q:資金調達は具体的にどのようにされているのでしょうか?
現在は、「銀行や金融機関からの融資」、「クラウドファンディング」、「補助金(総社市独自のそうじゃ商人応援事業補助金)」の3つを活用しています。
まず、日本政策金融公庫に自己資金がどれくらいあったらお金を貸してもらえるのかを聞いて、「300万円」と教えてもらいました。3年間で300万を貯めるために支出管理を徹底。電気代600円くらいの月もありましたね(笑)かなり生活水準の低い生活をしていましたが、夢があるから頑張れて、楽しめましたね。
介護の世界の楽しさが広く浸透する未来へ
Q:デイサービスSodaの立ち上げと運営をされ、その次のステップはどのように考えていますか?
僕は根底が医療・介護の人間ですから、このフィールドが良い世界であることをもっと多くの人に知ってもらいたいです。自分のフィールドがネガティブな想いを持たれているのはちょっと嫌ですしね。サービスか、コミュニティスペースかは決めていないですが、これから先も医療・介護を知るきっかけとなる仕掛けを地域につくっていきたいですね。
Q:最後に、抱負や読者の方へのメッセージを教えてください!
利用者だけでなく、誰でも気軽に立ち寄れる場所にしたいです!デイサービスを身近に感じてもらい、年齢を重ねても、「こういう場所に通える楽しみがあるな」と思ってもらいたいです。
「介護が必要になってもできることはいっぱいあるな」と感じてもらえるような場所をつくれるように頑張りますので、是非ともこれからも応援してください。
「自分が行きたい」、「家族に行かせたい」と思える場所を全国津々浦々に作りたいという野望があります。一緒にやりたい方がいらっしゃいましたら、是非ともお声がけください。
介護の世界って本当に楽しくて、夢もたくさんあるし、可能性もまだまだあります。1人ひとりの心の持ちようで変わっていくと思います。
Sodaを一緒に育ててくださると嬉しいです。
お話を伺っていて、Sodaがどんなデイサービスになるのかと想像すると、とてもワクワクしました。
これからの土井さん、中山さん、小武さんのご活躍が楽しみです!
また、「自分も何かに挑戦したい!」そんな気持ちも湧いてきました。
プロフィール
土井 脩平(どい しゅうへい)さん
県立広島大学理学療法学科卒業後は病院、通所リハビリテーション施設、デイサービスでの勤務を経て合同会社28を設立。デイサービス勤務時代には、シニア/障害者向け旅行支援や地域高齢者に向けた運動教室講師などを経験。
中山 千香(なかやま ちか)さん
県立広島大学理学療法学科卒業後、回復期病院にて入院患者のリハビリテーションに携わる。デイサービス立ち上げに向けて生活期について学ぶ目的もあり、訪問看護リハビリステーションへ転職。リハビリ主任代理として業務に取り組む。
小武 悠(おだけ ゆう)さん
県立広島大学理学療法学科卒業、京都大学大学院修士課程 (医学部人間健康科学系専攻) 修了。学生時代より、ヘルスケア企業でのメディア運営や、ロボットベンチャー企業でのユニバーサルロボットの開発・営業等に携わる。現在は、京都市のデザイン会社にて、自治体や企業の課題解決を目指した伴走型デザイン事業や飲食/宿泊施設などの運営を通じた地域の場づくりを行う。