「銀木犀のやり方も、もしかしたら間違っているかもしれない」 〜所長として、介護福祉士として、銀木犀を支える大下さんの想い〜
学生の目線で、介護の可能性を“もっと”探るand more project。
介護の様々な形を知りたいと、サービス付き高齢者向け住宅「銀木犀」に伺いました。
過去2回は、下河原忠道さん(シルバーウッド・代表取締役)から終末期などについてお話を伺った私たち。
今回は、銀木犀<船橋夏見>の所長、大下誠人さんにお話しを伺います。
銀木犀で働くのはどんな人?
銀木犀にインタビューさせていただくことが決まったとき、下河原さんと同じくらいお話を伺ってみたい方がいました。それは、現場のスタッフの方。
なぜなら、銀木犀について調べてみても、出てくるのは下河原さんのインタビューばかりだったから。これだけ注目されている方のもとで働いている人たちは、どんな人なんだろう。介護職としてベテラン、プロ的な人が多いんだろうか。どんな思いで働かれているんだろうか。
そんなことが気になって、銀木犀<船橋夏見>で所長として働かれている、大下さんにインタビューをさせていただきました。
大下誠人さん(銀木犀<船橋夏見>所長 介護福祉士)
介護の現場に、理論上失敗はない
所長と言っても、偉そうに座ってるだけじゃなくて、介護福祉士として現場に出たりすることも多いです。銀木犀に入社してから今年で8年目になります。
8年目ということは、銀木犀の立ち上げから携わっていたということですね。もともと介護業界に興味を持っていたのでしょうか?
もともと最初のキャリアは建設業界だし。
で、ある時下河原から「これから高齢者住宅事業に参入していきたいんだけど、興味あるか?」というお話をいただいて、なぜかそこで「あります!」と即答してしまいました。(笑)
明確なキャリアプランを立てていても、変わるときは変わる。
これからの長い人生の中で、無限にも思える選択肢の前で右往左往していた私たちにとって、なんだか救われる言葉でした。どうしてもたった一つの正解を求めてしまいがちですが、もっと楽に考えてもいいのかもしれませんね。
あくまで “家” だから…
たくさんあるけど、強いて挙げるとすれば、最近看取らせてもらった入居者さんのお部屋で、入居者さんのお孫さんと夜中の3時までビールを飲んだことですかね。(笑)
過ごされていた部屋で、ベッドに本人がいる中で。
「介護をする、される」という以前に「一緒に生活をする家族」のような感覚を持てるのは単純に嬉しいです。小さな嬉しさは、それこそ毎日のようにあります。
仕事で成果を出した、成績が良かった、という類のものとはちょっと違う、どちらかといえばプライベートで感じる嬉しさと似ている気がします。
(インタビュー前に、ご好意でご馳走していただきました〜!本当にありがとうございました!)
介護の現場は、失敗だらけ。でも、必ず次の糧になる。
もうだいぶ前のことになるのですが、「銀木犀で最期を迎えたい」という考えを持って入居された方がいらっしゃったんです。
その方、病院が大嫌いだったから、ご家族とも何度も何度も話し合いをして、「戻ってきて大丈夫だ」って話をしていたんですが…。ご本人の容態も常に変わってしまうので、結局最終的にご家族も銀木犀に戻ってくることを諦めてしまった。
例え思うような状況にならなかったとしても、絶対に次への糧にはなります。
当たり前を疑う。相手の立場に立ってみる。
大下さんは、どうしてそんな考えを持てるようになったのでしょうか?
1つ言えるとすれば、私がたまたま全くの異業種からこの業界に入って、しかもそれがいきなり銀木犀だったことが良かったのかもしれません。他の施設で働いていたら、おそらく今のような価値観には育たなかったでしょうね。
そんな中でも自分たちの大切にしたい想いからブレないするため、ずっと大切にしてきた考えが2つほどあります。
例えば、君たちが足を骨折したとして、片足でトイレに行こうとしたと想像してみて。
「さっき行ったばっかじゃん!」
「転んだら危ないから、まだ座ってて!洗い物が終わったら一緒に行ってあげるから!」
と言われたらどう思う?
年齢を重ねるごとに自分のことができなくなってしまった方だって、自分のできることは自分でやりたいんだよね。考えれば当然のことなんだけども。
葛藤・苦しみを乗り越えると、介護は一気に面白くなる。
特に介護の分野に置いて「自由」を追求するのはとても難しいから。
先進的な取り組みとして施設を取り上げてもらうことは多いけど、その裏ではちゃんとたくさん葛藤がある。
視察にきてくださる方々は、自分たちがやっている施設の運営、利用者との接し方を良い風に変えようと思ってくれていて、銀木犀のやり方を肯定的に捉えてくれる人がとても多い。
うちの代表(下河原さん)はあんな感じだし、運営当初から根本の部分はブレずにやってきたから今があると思ってます。
「自由は難しい」。遠くからは、一見革新的なことを難なく実現されているように見えていましたが、インタビューをさせていただいて、その裏の苦労が垣間見えた瞬間でした。でも、それを乗り越えてこられた大下さんの表情はとても誇らしげに見えました。
介護に “絶対的な正しさ” なんてない。
さっきも言ったけど、ありがたいことに銀木犀のやり方に賛同してくれる人、視察の申し入れをしてくれる団体はたくさんあって、君たちみたいに話を聞いてくれる。 介護現場の皆さんは、自分の介護に誇りやプライドを持って、それぞれの持ち場で踏ん張っているんだよ。
ただお褒めの言葉をもらうだけじゃなくて、適度に緊張感を持ちながら、他の施設の良い要素、銀木犀に足りない要素ももらいながら、一緒にレベルアップしていきたいなと思ってるよ。
「銀木犀だって間違ってるかもしれない。」
銀木犀の先進的な取り組みばかりに注目していた私たちにとって、目を覚ましてくれるような一言でした。そして、改めて介護の面白さを教えてくれる一言でした。これから私たちも、介護の正解を求めず、たくさんの人たちの声を聞いていきたいと思います。
大下さん、お時間をとってお話をしてくださり、本当にありがとうございました!
次回予告
来週は、下河原さん、大下さんのお話を聞いて、今わたしたちが感じることをお届けします。
お楽しみに!