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イベントレポート

ひろがる“福祉×○○”の可能性!その実現のためのヒント。 (全国介護・福祉事業所オンラインツアーVol.4トークセッション)

2022年3月12日に開催された「全国介護・福祉事業所オンラインツアーVol.4」では、“介護×音楽”、“介護×スポーツ”、“地域共生型ケア”など、特色あるテーマで運営している3つの事業所にお話を伺いました。

本レポートは、オンラインツアーの最後のプログラムであるトークセッションの内容をレポートします。

3つの事業所の概要は以下の通りです。

1 》介護×音楽 》埼玉県 》デイサービス 音楽介護予防施設KEION

元警察官のキャリアを持つ上野施設長が始めたデイサービス。好きな音楽に夢中になりながら「楽しく幸せな人生を送る」とのコンセプトのもと、皆で作詞作曲をしてコンサートを開催したり、音楽に合わせて体操しながら身体機能維持も目指しています。アットホームな空間の中から生み出される、介護×音楽の魅力について伺いました。

KEIONのレポートはこちら

2》介護×スポーツ 》千葉県 》高齢者住宅 ファミリークラブあかね雲(社会福祉法人信和会)

スポーツを通し、街の日常に溶け込む高齢者向け住宅を運営。住宅の隣には元プロサッカー選手がコーチを務めるサッカーチームのフットサルコートを併設しています。部屋の窓からは子供達の姿も見えて高齢者の元気の源にもなっているそうです。世代を超えた交流や新しい暮らしと家族のあり方について伺いました。

ファミリークラブあかね雲のレポートはこちら

3》地域共生型ケア 》岩手県 》特定非営利法人 里・つむぎ八幡平

認知症対応型デイサービス、有料老人ホーム、共生型グループホームなど6事業所と、古民家食堂「なつかしの家」を運営し、高齢者と障がい者が一緒に暮らす「地域共生型ケア」を展開。制度上区分されているサービスの境界線をゆるやかに往来しながら「地域まるごとケア」を実践している高橋さんのお話を伺い、これからの介護・福祉サービスの可能性を一緒に考えました。

里・つむぎ八幡平のレポートはこちら

トークセッションのファシリテーターはオンラインツアー運営メンバーのもんよです。
まずは、参加者の方とゲストによるグループワークで出た意見について共有いただきました。グループワークのテーマは『福祉×○○ あなたは何をかけ合わせる?』でした。

ひろがる可能性と現実とのギャップをいかに埋めるか

もんよ:今、それぞれのグループでどんなお話があり、どんな感想をお持ちになったかゲストの方からお話を伺いたいと思います。高橋(和人)さんからよろしいでしょうか。

高橋和人さん:うちのグループは、「福祉×文房具」、「福祉×臨床美術」や「福祉×温泉」とか、「身近にあるものでいかに利用者に楽しんでもらうか?」や「どう実践していくか?」という話題がありました。ただ、衝撃的な話があって、利用者が動き出したら「動くな」と言ったり、歩き出したら「どっちいくの?」とすぐに聞く施設もまだいっぱいあるということも聞きました。私としては非常にびっくりしました。

もんよ:ありがとうございました。夢が膨らむ話がある一方で、整える人や環境がないので「普通の暮らしをつくる」ということが難しく、モヤモヤしているスタッフがいるということが見えてきましたね。高橋(愛)さんのグループはいかがでしたか?

高橋愛さん:福祉×○○ということで、“お笑い”だったり、“笑顔”だったり、様々な意見をいただきました。私が印象的だったのは、やっぱり皆さん、そして私自身ももちろんそうなんですけど普段の日常業務に追われているということで、他のことを考える余裕がないというのが現実なんじゃないかな、と思います。
そんななかでも、利用者さん•入居者さんの“笑顔”につながる方に皆さんの考え方が一歩進むといいなぁという思いでお話を聞かせていただきました。

もんよ:ありがとうございました。今、現場もやることがたくさんあってなかなか楽しいことをする余裕がないんじゃないかというお話をいただきました。あかね雲では、様々なイベントをされていたと思いますが、直近で「やってよかったな」というイベントがありましたら、そのエピソードを教えていただけないでしょうか。

高橋愛さん:例年は秋頃に法人全体で納涼祭を催していました。お笑い芸人さんに来ていただいたりもしました。しかし、このコロナ禍で、“人が集まる”ということができなくなりましたので、出張のお祭という形式でイベントを開催しました。担当スタッフがレクリエーションに使う道具を全て手作りして、各事業所を回って入居者さんにイベントを提供するというようなことを最近はおこないました。

あかね雲 ぷちかみはぶ祭の様子

もんよ:利用者さんの反応はいかがでしたか?

高橋愛さん:そうですね。“日常と違う”という点では、皆さん新鮮な反応を示してくださいました。男性の方とかは「ちょっと幼稚だから嫌だな」と仰ることもありましたが、それでも参加していただくと笑顔でヨーヨー釣りをなさっていました。こういったことは続けていきたいと考えました。

もんよ:そうだったんですね。ありがとうございました。では、上野さんのグループは、どんなお話がありましたか?

これからのキーワードは“特化”

上野拓さん:私が変わったことをやっているので、皆さん興味を持ってくださいました。「音楽に特化して大丈夫なの?」という話も出ました。

これから「起業したい」、もしくは「自分の施設でやりたい」っていう人で現状を変えたい場合、人がやっていることをやっていちゃダメだと思うんです。そして、それが楽しくないと意味がない

こういうアイディアとかを話し合っていけるようなサロンも、聞きたい人がいれば開催したいなとは思っています。是非、もっと話を聞きたいを思ってくれた方はホームページやFacebookで株式会社OPEN UPと調べてみてください。

もんよ:ありがとうございました。参加者のチャットから、「“特化”とはどういうことですか?」と質問が届いております。

上野拓さん:“特化した”というのは、音楽に絞っているということです。うちは、お風呂もないですし。川越市には35万人いて、そのうち9万5千人が65歳以上の高齢者。そのうちの1%、95名がうちに登録してくれれば事業は成り立つ。それならもう、音楽に特化して、音楽でできることで機能訓練をやっていけばいいという考えに至りました。例えば、盆踊りで身体を動かしたり。

実際に、身内の方がコロナに感染し、1週間うちのデイサービスの来られなかった方がいたんですが、その方は声も出なくなってしまったし、歩けなくなってしまったと家族から情報共有がありました。でも、うちに来たら、「ここに来たかったんだよ」と言って、散歩も行けるようになったし、歌えるようになった。90歳の人は、「家にいるよりここにいた方が楽しい。もう先がないんだから苦労とかは考えたくない。その日が楽しければいい」って言っていますね。だからまずは、楽しいことから始めて、それで機能訓練につなげていきたいという考え方ですね。

KEIONで生演奏をバックに歌を披露する利用者さんの様子

もんよ:好きなこと・得意なことに特化したところがたくさんあって、それぞれが繋がっていろんな人の生活を豊かで幸せなものにできたらいいなと思いながらお話をお聞きしました。

高橋和人さん:上野さんの“特化型”はこれからの時代は一番大事なことだと思って、すごいなと感じました。

もんよ:“特化型”は思い切っていて良いですよね。

高橋和人さん:不特定多数じゃなくて、自分の得意な分野でその方々が賛同して利用してくださる。それで良いと思います。ここで言っては少しあれですが、団塊の世代の人たちってわがままな人も多いし、全部を満たすなんて難しいですし。

里・つむぎ八幡平の利用者さんも得意なことで活躍されています

もんよ:皆さん自分で情報収集して、自分で選ぶこともできるようになってきていますしね。そうなってくると“特化”もキーワードになってきますよね。

高橋和人さん:だからこそ、福祉は随分と変わってくると思いますよ。

もんよ:時代とともに変わっていかないといけない部分があるということですね。

 

理念に共感できないスタッフとのかかわり方

もんよ:次に、高橋(和人)さんに質問です。高齢者と障害のある方が共生しているということで、包括的にかかわる“まるごとケア”を実践する皆さんは、日々、色んな葛藤、しんどいことや、どうしたらいいかわからないことにモヤモヤしたりすると思うんですけど、問題解決や前に進んでいくために時々立ち止まって、スタッフ同士どのような話をしているのでしょうか?

高橋和人さん:スタッフのなかでも、僕の考えにすごく同調してくれる人と、「なんだよここまでやらせるのか」みたいなことを思う人もやっぱりいるわけです。そこは時間をかけて話をしていくのですが、どうしても合わない人は出てきます。それはしょうがないことです。だから、絶対に「これをやってくれ」と命令することはないし、「僕の考えに賛同して協力してくれたら嬉しい」というスタンスでやっています。

最初に言うんですよ。「来てくれたら嬉しい。でも、合わなくて去るならそれは仕方ないことだから」って。誰か去れば誰かやってきますから。そのなかの過程での努力はしますが、絶対に一緒にみんな同じ方向を向いて仕事をしようなんてありえないじゃないですか。そこの部分はある程度割り切っています。今日は上野さんや高橋(愛)さんのお話を伺ってとても新鮮でした。

最後の一言メッセージ

もんよ:最後に皆さんから一言ずつメッセージをいただいて終わりにしたいと思います。

上野拓さん:警察官をやっていた立場から言わせていただくと、介護、福祉や行政って、人がやらないような面倒くさいことや煩わしいことをやってお金になっているんですよ。だから、その仕事を選んだ人たちは、そこを「嫌だ」と言っちゃ成り立たない。さきほど、高橋(和人)さんが言ったように、しようがないところもあるんです。ただ、「これがあるからこの会社で働きたい!」と思えるような何か一点、光るものがあれば変わってくるんじゃないかな。あと、経営者が現場に行って、現場の声や利用者さんの声を直接聞くのが一番。お金ばっかり勘定している経営者もいるからね。お金も大事なんだけど、声を拾って、一緒に考える事業所になんないとダメなんじゃないの、と思います。

高橋愛さん:皆さん、本日はどうもありがとうございました。今回、私の方では、「福祉×スポーツ」というテーマでお話させていただきました。日常の業務に追われているところが現状としてあると思います。私自身もそうです。正直、そんななかでも、難しいことばかり考えないで、例えば「福祉×スポーツ」だったら、まずはスタッフ同士が何かスポーツを始めてみるのがいいんじゃないかと考えます。「そんなことしている暇はない」というのが本音だとは思いますが、スポーツをすることで私たちの身体も健康になりますし、そういった楽しみが日頃のケアにつながるんじゃないかなというふうにも思っています。

高橋和人さん:介護の仕事をやっていて、ものすごく苦しかったり、上司に不満があるとかそういうのをいっぱい抱えている人は、そこを辞めればいいんですよ。だって働くところはいっぱいあるし、調べればいろんなケアをやっているところはあります。無理する必要はないと思います。合わないところはさっさと出て探したらいいし、しがみつくような働き方はしてほしくないです

ゲストプロフィール

1》株式会社OPEN UP 代表 上野拓

約40年間警察官として勤務し、1000件以上の検視にあたる。その中で高齢者の孤独死を目の当たりにし、自身の老後や幸せについて考えるようになる。自身の音楽好きを活かし、老後に夢中になれることを実践する場として、音楽介護予防施設「KEION」を設立。全国的に類をみない全く新しい型のデイサービスとして、様々なメディアから注目を集める。
https://kawagoe-openup.jp/

2》社会福祉法人信和会
サービス付き高齢者向け住宅 ファミリークラブあかね雲
施設長 高橋愛

山形県出身の35歳。現在は千葉県茂原市在住。大学卒業後は児童養護施設での児童指導員などを経て、2012年に信和会へ入職。入職後は、デイサービスセンターにて生活相談員を務める。その後産休育休を経て、法人の資格取得支援制度を活用し、准看護師資格を取得。卒業後は、看護業務の他、グループホーム利用者様の調整窓口として入居対応や連携医療機関とのやり取り、法人運営まで幅広い業務を担う。ファミリークラブあかね雲開設に伴い、設計から携わり2021年3月に施設長へ就任。
https://fcakanegumo.shinwakaigo.org/

3》特定非営利法人 里・つむぎ八幡平
理事長 高橋和人

1961年 岩手県八幡平市(旧西根町)生まれ。60歳
1982年 早稲田大学中退後、国内外各地を旅する。
1987年 インテリア販売業を営む。
2005年 インテリア販売業を畳んだ後、社会福祉法人立ち上げと特別養護老人ホーム開設に関わり、そのまま入職。
2011年 実母の認知症発症等を契機にNPO法人里・つむぎ八幡平を設立し、独立。
「まるごとケアの家と半農半介護」を運営の核に据え、今に至る。
http://www.s-tumugi.jp/

イベント概要

日時:2022年3月12日(土) 19:00~21:30
場所:オンライン(Zoom配信)

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この記事を書いた人

森近 恵梨子

森近 恵梨子Eriko Morichika

株式会社Blanketライター/プロジェクトマネージャー/社会福祉士/介護福祉士/介護支援専門員

介護深堀り工事現場監督(自称)。正真正銘の介護オタク。温泉が湧き出るまで、介護を深く掘り続けます。
フリーランス 介護職員&ライター&講師。

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