スポーツ×福祉が人と地域をつなぐ!新しい暮らしのカタチ(ファミリークラブあかね雲)
2022年3月12日に開催された「全国介護・福祉事業所オンラインツアーVol.4」では、“介護×音楽”、“介護×スポーツ”、“地域共生型ケア”など、特色あるテーマで運営している3つの事業所にお話を伺いました。掛け合わせで広がる介護福祉現場の可能性がテーマの今回のオンラインツアー、2人目にお伺いしたのは「スポーツ×福祉」で地域をつなぐ社会福祉法人信和会でサービス付き高齢者向け住宅 ファミリークラブあかね雲の施設長を務める高橋愛さん。
フットサルコートが併設されたサービス付き高齢者向け住宅で、実際にどのようにスタッフが働き、地域の方やご利用者の方が交流されているのか、様々なお話を伺いました。
ファミリークラブあかね雲は昨年の3月にオープンしたばかりの新しい施設です。一番の特徴はやはりフットサルコートが併設されていること。それだけで、まず「なんでそんなふうになったんだろう?」と、とても経緯が気になりますね。
信和会は千葉県茂原市・長南町・大多喜町で、13の事業所を運営しています。メイン事業は、高齢者ケアに関する事業で認知症グループホームを中心として、デイサービス、そして高橋さんの所属するサービス付き高齢者向け住宅、などがあります。その他、子供のケア、医療や看護ケアも並行して行っています。
福祉はとてもクリエイティブな仕事
高橋さんはまず、福祉の仕事についての考えを次のように述べています。
福祉や介護というものは一般的には、身の回りのお世話をすること、と考えられていると思います。しかし、信和会では、それだけではないと考えています。
では、いったいどういうことなんでしょうか。
それは、みんなの困りごとを解決したり自分らしさというものを叶えていくこと、暮らしや生活を良くしていくこと、そんなふうに考えています。
福祉の仕事をより大きな社会の枠組みのなかで捉えている高橋さん。
福祉には、まだまだ未完成でたくさんの可能性があり、クリエイティブな仕事だと、お話され、次のような課題に取り組んでいることを教えてくれました。
みなさんのお住まいの地域には、このような課題はありませんか?私が住む千葉県の外房地域でも、独居高齢者の増加、子育て支援の不足、過疎化、元気のない商店街など、多くの課題が山積みになっています。
フットサルコートは人と地域をつなぐ
信和会は、『福祉で地域を元気に』というビジョンを掲げています。そして、まずは福祉を変えていこう、という考えのもと、福祉とスポーツの融合により人と地域をつなぐことができないか、と考えたそうです。
そして、元サッカー日本代表のカレン・ロバートさんが、代表をつとめるローヴァーズというチームと共同して、フットサルコート併設のサービス付き高齢者向け住宅をオープンしました。スライドで、実際の施設の様子を見せていただきました。
この食堂の奥の窓のところからフットサルコートをのぞむことができます。この窓は床から天井まで伸びていて、すべて開放することができますので、入居されている方にとって、とても開放的な空間になっています。
こちらは夜ですね、若い方々がフットサルをする様子が見えます。このように、日常的にフットサルをする若者を、高齢の入居者さんがいつでも目にすることができる施設になっています。
福祉×スポーツによって地域とのつながりを
また、あかね雲では、多世代間交流を行う機会として、スポーツ庁委託事業のSports in Life推進プロジェクトを開催。
このイベントでは、日常生活ではつながることのなかった世代が、スポーツを通じてつながる、ということを目的として、高齢者世帯、子育て世帯、福祉施設や一人暮らしの若者、3歳から80歳まで、様々な方が参加しました。
このようなイベントを通じて、地域に暮らす様々な世代の方々、住民の方々との横のつながりが生まれます。スポーツによってつながった心が地域を支えることができるのではないかと、高橋さんは言います。そして今後も、このようなイベントを定期的に開催して、地域のハブになれるような、そんな施設を目指しています。
それを象徴するような、イベントのワンショットを見せてくれました。
入居されている方とスタッフのお子さんの写真です。
この入居者さんは実は認知症があり、自分が置かれている環境などを理解することが難しくなってきています。しかし、このお子さんに会うと「大きくなったね」とか「久しぶりに会ったね」と、いつも笑顔で話します。そして、このお子さんも、「じーじ」と言って、とても入居さんになついています。
このように高齢の方々がお子さんたちと触れ合うことで生きがいを感じ、そして、若い世代の方が高齢の方々と触れ合う機会が生まれる。このような多世代の交流や様々な交流の場が生まれ、地域が活性化することの期待も込めてあかね雲が作られています。
また、信和会の施設の特徴は、それだけでなく、たくさんの動物たちがいることもその1つです。信和会では、動物たちも同僚、というふうに考えているのです。
多世代間の交流というのを通り越して、動物たちとの交流というのも、高齢の方々にとって生きがいにつながるといいな、と。
「福祉はクリエイティブな仕事だ」という先程の言葉の通り、とても自由な発想で「交流」を通した生きがいづくりをされていることがわかります。
私たちが活躍する場というのは、地域全体だと考えております。あかね雲もオープンする前から、実は地域の人と様々な活動を行ってきました。地域のお祭りに参加させてもらったり、高校の授業に参加させてもらったり、ローヴァーズと共同で小学校でサッカー教室を開催したり。そして、今後もこういった活動を通して地域を元気にしていこう、と考えています。
スタッフが楽しく働き、楽しい日常をつくる
そんな地域を元気にしていく信和会で働くスタッフのみなさんはどのような想いで働いているのでしょうか。
私たち信和会は、スタッフが楽しくなければ意味はない、楽しく働くことがモットーです。スタッフが笑顔だと、入居者さん、利用者さん、みなさん自然と笑顔になれるのではないかと考えています。スタッフのみんなが楽しく働けるようなイベントを常に考え、日常の業務に追われる中でも、楽しさというものを見出していければいいなと思います。
看護の知識を活かしより良いケアを
ここからは、イベントのモデレーターを務めたKAIGO LEADERS運営メンバーの北村から質問させていただきました。
北村:ありがとうございました!あかね雲の取り組みについて、フットサルコートの写真も見せていただきながらお話いただいたんですけれども、もしよろしければ、「みんなが1つのチーム、大きな家族」という言葉をモットーに掲げる高橋愛さんの、これまでの経歴や簡単な自己紹介をいただいてもよろしいですか。
高橋愛さん:はい。私は、大学で福祉を勉強し卒業後は児童養護施設で児童指導員の仕事を行ってきました。その後、信和会に入職し、信和会に入ってからはデイサービスでの生活相談員を担い、産休育休を経てキャリアアップをしたいと考え、看護学校に通いました。看護師の資格をとってからは、日常の利用者さんの看護業務だったり、あとは提携する医療機関との協力・連携、新規の入居を検討されている方の相談窓口などの仕事をしてきました。
北村:ありがとうございます。デイサービスの相談員など介護業務に携わっているなか、さらに看護の勉強をしようと思われたのは何かきっかけがあったのですか?
高橋愛さん:そうですね。介護の仕事って、どうしても医療とは切り離せないお仕事なのかなというのをデイサービスの相談員をやりながら強く感じたんです。その中で、切り離せないのだったらもっと突き詰めたいなというふうに考えて、進学を決意しました。
北村:デイサービスの仕事をするなかで、もう少し何かできることがあったらいいな、もっと知識があればこの方のために“いいケア”ができるんじゃないか、というところで、視点を広げて勉強してみることも1つ、ということでしょうか。
高橋愛さん:そうですね。私も実際に看護学校にいって自分の中で知識を増やして、そこで利用者さんとのかかわり方を変えることができたかな、と実感しています。
「つながり」を意識したイベントを通して地域を元気に
北村:ありがとうございます。信和会では「地域を元気に」ということをビジョンに掲げ様々な取り組みをされていますが、実際に「元気になってきたな」「取組の成果が出てきているな」と感じるのはどんな場面でしょうか。
高橋愛さん:そうですね。「元気になってきたな」という実感はまだあかね雲はオープンから1年ほどなので、正直あまりないです。これからも地域の方々との「つながり」を意識して行うイベントを通して、いろんな方々との横のつながりができてくると、どんどん地域は元気になっていくのかなと考えています。
北村:ありがとうございます。地域とのつながりを意識したイベントや取り組みは、どんなふうにアイデアが出てきて、誰がどの様に形にしていくんでしょうか。
高橋愛さん:そうですね。実際、Sports in Lifeのイベントに関しては、私たち信和会だけではなく、ローヴァーズさんも一緒でしたし、他のスポーツクラブさんをはじめ、様々な方にご協力いただいて行うことができたイベントになります。
いろんなアンテナを張って「こういったことができる」「ああいったことができないか」と常々考えている中で、まずはできることからやってみようと試しています。
北村:組織のトップの方はそういった地域のつながりをよく見つけて動くと思うのですが、あかね雲のスタッフのみなさんも、信和会さんの想いに沿って同じように働かれているのでしょうか?
高橋愛さん:そうですね、やはり一番最初に動くのはトップだと思うんです。
ただ、トップの人が全てを自分で進めてしまうのではなく、実際にいるスタッフみんなを巻き込んで「じゃあここまでは自分がやるから、ここから先はみんなに任せたからね」というやり方をしてくれるので、自分たちで考えて、やりやすいようにとか、とても良い雰囲気でやらせてもらっています。
北村:ありがとうございます。スタッフを巻き込んでやっていく、ということが大事なことになってくると思うのですが、スタッフに伝えていくこと、理念を浸透させていくことについて、何か難しいなと思ったことなどありますか?
高橋愛さん:そうですね、新卒で入ってきてくれる若いスタッフは、こういう活動をし始めてそれを知ってもらって入ってきているので、すごくスムーズに浸透しています。一方で、介護業界での勤務歴が長いベテランのスタッフだと、日常の業務に追われてしまい、当たり前なんですけど、「そんなことをする余裕はないよ」という声もどうしても出てきます。
そういった苦労はあるのかなと思います。ただ、みんなやっていると、意外とベテランさんも、「楽しそうだね」ということでイベントに参加してくれたりします。入居されている方とか利用者さんに良い影響があると、それがどんどん伝わって、みんなでグループになってやってくれているかな、と感じます。
北村:なるほど。スタッフ全員が、やろうとしていることに対して「あ、それいいね!じゃあやってみよう」と一気に動くというより、「それ楽しそう、ちょっとやってみよう」と思える若いスタッフが中心となって動き始める。そして、実践やイベントを経て、利用者さんの生活とか雰囲気とかお顔とか、良い変化が目に見えてきた時に「なんか良さそうだからやってみようかな」と動いてくれるスタッフもいる、という感じですね。
高橋愛さん:そうですね。
若い世代が介護って楽しそう!と思ってくれる職場に
北村:こういった活動をたくさん発信していることで若い人が来てくれるようになったというお話も先程ありましたが、楽しいことをご利用者さんに提供していったり地域に向けて活動をつくっていくうえで一緒に働く“仲間”が大事になってくるかと思います。人材採用で、工夫されているポイントはありますか?
高橋愛さん:そうですね。先ほど私が発表したスライドも、実は私が全て作ったのではなくて、人事の担当が説明会とかで使っている資料を拝借して使わせてもらっています。
人事がすごく頑張ってくれているので、新卒採用はここ最近すごく波に乗っていて、実は昨年のエントリー数は千葉県の介護業界、福祉系の会社で1番だったと聞きました。若い世代の活躍がこれから期待できます。
北村:若い世代が「ここで働くことが楽しい!」と思える職場だから「介護ってなんか大変そうだけど、できるかも、やってみよう」って気持ちが動くのかもしれません。
高橋愛さん:そうですね。介護はどうしても昔から「きつい汚い危険」の3Kと言われているようなお仕事ですが、私たちは、先ほどご説明した通り、身の回りのお世話だけでなく「自分らしさを叶えて、暮らしとか生活というものを良くしていく仕事」だと考えています。できなかったことができるようになったら、皆さんが笑顔になるのは当然かなと思うので、その笑顔を引き出せるような魅力があることをもっと発信していけたらいいかなと思っています。
フットサルコートという「開かれた空間」
北村:ありがとうございます。お話をちょっと変えて、テーマの方に寄せます。
今回、福祉×スポーツというテーマでのお話でしたが、実際に“スポーツ”を、フットサルコート併設という形で取り入れたことによって、この一年間で、ご高齢者、入居者の皆さんの生活リズムとか会話とか、どんな変化が生まれましたか?
高橋愛さん:まだ1年というところでは、入居される方の数もそんなに多くはない状況ではあります。ただ、ご見学に来てくださる方も含めて、フットサルコートがどこからでも見れるような環境になってますので、「開かれた空間である」という点を、ご好評いただいています。
入居されている方々も、定期的にお子さんのサッカースクールや若い世代のサッカーをしている様子が見える環境で、「また若い人たちが頑張ってるね」「雨降ってるけど寒くないのかな」とか、そういう会話の一つになっていて。そこから、入居者さんたちの会話が盛り上がって、「あの人すごい上手だね」「あの人ずっと走ってるね」なんていう会話も聞こえてきているので、みなさんの精神的な安定も含めて、良い効果が生まれているかなぁと感じています。
北村:ありがとうございます。あかね雲の職員のみなさんも休憩中にフットサルコートでのんびりしたりする、といった記事も見たのですが、実際にそんな場面があるんですか?
高橋愛さん:そうですね。毎日新聞さんに取り上げていただいたんですけれども、お昼休みを利用してフットサルコートでサッカーをしたりとか、バスケットをしたりとか、私たちも体を動かす機会を持つようにしています。私たちが動いているのを入居者さんたちが見てくださって、喜んでくれています。
北村:なるほど。入居者の方がフットサルコートに行く場面はありますか?
高橋愛さん:先ほどご紹介したイベントの時などは、しっかり足腰の動ける方にはお誘いして、近くまで来てご参加いただくこともあるんですが、どうしてもさんご高齢なのでいくら併設しているとはいえ、ちょっと距離のあるフットサルコートまで足を運んでいくというのは難しく、食堂から応援してくれているような感じになります。
北村:なるほど、ありがとうございます。参加者のチャットに「スポーツをきっかけとしての世代間交流、とても素晴らしいと思います」という声をたくさんいただいています。
今のお話のようにフットサルコートに行ける方、行って一緒に楽しめる方ばかりではないと思うのですけれど、なかなか外で体を動かす世代間交流を直接的に図ることが難しい方もいらっしゃる中で、事業所内での「楽しく暮らす」「幸せに暮らす」「自分らしく生活する」ということを実現していくために、心がけていることや実践していることがあれば教えていただきたいです。
高橋愛さん:フットサルコートに足を運ぶというのはどうしても皆さんができることではないので、食堂の横に、地域交流室を設けています。ただ現状はコロナ禍なので、地域の方に開放して入居されている方と交流していただくというのは難しくなっています。今後、コロナ禍が落ち着いたら、フットサルコートを利用しているお子さんたちにもこのスペースを開放して、交流していただきたいなというふうに考えています。
「スポーツ×福祉」で新しい福祉の形を作っているあかね雲さんの取り組み。「地域を元気に」というビジョンに向かってまず自分たちが「楽しく働く」ことを意識されて、若い世代が集まり、高齢の入居者さんの楽しみの1つにもなっている、という良い好循環が生まれていることがお話から伝わってきました。フットサルコートに目を奪われがちになりますが、こうした「楽しめる」仕掛けを用意して、地域や多世代の交流を生み出していることに福祉のクリエイティブな要素があり、価値があるのだと学びました。
高橋さん、貴重なお話をありがとうございました!
ゲストプロフィール
社会福祉法人信和会 サービス付き高齢者向け住宅 ファミリークラブあかね雲
施設長 高橋愛
山形県出身の 35 歳。現在は千葉県茂原市在住。
大学卒業後は児童養護施設での児童指導員などを経て、2012 年に信和会へ入職。入職後は、デイサービスセンターにて生活相談員を務める。
その後産休育休を経て、法人の資格取得支援制度を活用し、准看護師資格を取得。
卒業後は、看護業務の他、グループホーム利用者様の調整窓口として入居対応や連携医療機関とのやり取り、法人運営まで幅広い業務を担う。
ファミリークラブあかね雲開設に伴い、設計から携わり 2021 年 3 月に施設長へ就任。
開催概要
日時:3月12日(土)19:00~21:30