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イベントレポート

コロナ禍における、高齢者・家族・介護職員それぞれが抱える不安。その可視化を起点として広がる実践とは? (KAIGO LEADERS FORUM 2022レポート)

堀田聰子さん

「100年に1度の危機」とも言われる新型コロナウイルス感染症は私たちの仕事・生活などさまざまなところに影響を及ぼし続け、早いもので2年が経とうとしています。

2022年8月現在、第7波が猛威を振るう中、新型コロナウイルスはどのように推移し、社会へ影響を及ぼしていくのでしょうか。

2022年2月18日と19日に2日間連続で開催したKAIGO LEADERS FORUM2022。メインテーマは「感染拡大から2年。これまでを振り返り、これからの介護を考えよう」でした。

慶応義塾大学大学院教授の堀田聰子先生が代表理事を務められている一般社団法人 人とまちづくり研究所(ひとまちラボ)は、コロナ禍での介護福祉現場の困りごとを手がかりに、全国各地の介護・福祉、医療従事者、行政、さまざまな関係者が取り組んできた実践、蓄積された知見や施策等を、テーマ別に収集・整理しました。(内容が気になる方はみんコロラボをチェックしてみましょう。)

本イベントにて、堀田先生からは、コロナ禍における介護現場の変化やこれからコロナと向き合っていくうえで必要な視点について教えていただきました。

コロナ禍における高齢者の社会参加の変化とその影響

まず、要介護認定を受けていない高齢者の社会参加の状況の変化についてお話いただきました。

千葉大学の近藤克則先生が多くの研究者等とともに進めているJAGES(日本老年学的評価研究)というプロジェクトで、全国11の自治体の要介護認定を受けていない65歳以上高齢者を対象に調査を実施しました。(調査期間は、2020年12月〜2021年2月)

その結果、「ほとんどの社会参加・交流が減少」という結果が出たのです。

この調査は、「コロナ流行以前から活動頻度が月1回以上ある人」を対象にしています。細かく見ていくと、「自宅内での趣味」や「外出」を継続している方は9割以上なのですが、「通いの場」、「学習・教養サークル」、「趣味」、「スポーツ」、「ボランティア」や「友人・知人と対面」等は軒並み減っているそうです。

このような活動頻度が減少した人と、維持できていた人とではどのような違いが生じたのでしょうか。

活動頻度が減少した人は、維持した人に比べて要支援・要介護相対リスクが1.2-2.0倍高い。また、フレイルである相対リスクは1.2-1.5倍高く、うつである相対リスクは1.3-1.5倍高いという結果が出ています。

社会参加、交流が減少すると、様々なリスクが高まることがわかりました。では、直接その場へ行ったり、対面で人とかかわったりしないと、そのようなリスクを軽減することはできないのでしょうか。

インターネットを用いたコミュニケーションツールの利用が増えた人は、増えていない人に比べて、うつである相対リスクや孤立を感じる相対リスクが低いことも明らかになっています。特に、顔が見えるビデオ通話の場合は、うつである相対リスクが45%低くなっていて、孤立を感じる相対リスクは30%低くなっていることがわかりました。

コロナ禍といえば、様々なオンラインツールの活用を考えがちですが、意外にも昔からあるツールも有効なことが判明したそうです。

手紙やはがきのやりとりをしている場合、うつである相対リスクが35%下がるとも言われています。

どんな形であれ、“人とつながりを持つ”ということは、様々なリスクを減らすことができるのですね。

また、オンラインツールを高齢者に普及していくにあたって、若者と高齢者の接点をつくるチャンスがあると堀田先生は仰っていました。

新型コロナによる学生生活への影響に関する各地の大学の調査では、早くから学生の孤独・孤立感、うつ傾向が明らかになっていました。こうしたなか、学生が高齢者にアプリをインストールするお手伝いをして、人生の先輩と出会い、交流するといった試みも生まれています。

介護サービスを利用している高齢者に起こった変化

人とまちづくり研究所は、新型コロナウイルスが流行しはじめた早い段階である2020年5月に、介護保険サービス事業所管理者等を対象としたオンラインアンケート調査を実施し、コロナが介護・高齢者支援に及ぼす影響の実態等の把握を目指しました。

コロナの影響による利用者の状態悪化やそのリスクとして気になるものを選んでもらった結果、全体では「外出や交流機会の減少」を選んだ方が約7割でした。状態悪化の内容としては、「ADLの低下」、「認知機能の低下」、また「生活満足度の低下」について気になっている状況であることがわかりました。施設系では、面会の制限により交流機会が減少し、それによって生活満足度が低下している状況。その一方で訪問系では、「家族の介護負担の増加」の割合が高かったのが特徴的です。

参考:新型コロナウイルス感染症が介護・高齢者支援に及ぼす影響と現場での取組み・工夫に関する緊急調査

介護サービスを利用している認知症のある方に起こった変化

では、介護サービスを利用している方にはどのような変化があったのでしょうか?

広島大学の石井伸弥先生は、日本老年医学会・広島大学公衆衛生学講座と共同で、高齢者医療・介護施設に入院もしくは入所中の認知症のある方や、在宅で介護保険の居宅サービスを利用している認知症のある方、ご家族にどのような影響がみられたのか、またそれに対してどのような取組みが行われたのか調べました。その結果、在宅で暮らしている認知症のある方の8割近くが少なくとも一部のサービスを使えなくなった、もしくは本人や家族が使わなくなったという状況が見えてきました。これにより、他の方とふれあう時間が減ってしまったり、身体を動かす時間が減っている方も8割くらいいらっしゃるのです。

加えて、認知症のある方に、「行動心理症状の出現・悪化」、「認知機能の低下」、「身体活動量の低下」等の影響が出ていることもわかりました。

介護サービスを使わないことで、自立と尊厳が損なわれてしまう可能性もあるにもかかわらず、感染リスクを下げようとして、虚弱化するリスクを高めてしまっているのです。

参考:新型コロナウイルス感染症の拡大により、認知症の人の症状悪化と家族の介護負担増の実態が明らかに〜全国945施設・介護支援専門員751人のオンライン調査結果〜

介護職員がコロナ禍で抱いた不安

一方、介護現場で働く介護職員にはどのような変化が起こっているのでしょうか。

『民間事業者の質を高める』全国介護事業者協議会が2021年11月~12月にかけて訪問介護員を対象に行ったアンケート調査では、「自身が原因となり自身の家族や利用者へ新型コロナを感染させてしまうことに対する不安」「自身の新型コロナへの感染に対する不安」を抱えながら仕事をしている方々が9割以上にのぼることがわかりました。

同じ調査で、コロナ禍での円滑な訪問介護サービス提供のために身に付けている知識・スキルを尋ねたところ、「スタンダードプリコーション(標準予防策)を適切に実践するスキル」を選択した訪問介護員は、6割程度だったそうです。新型コロナウイルス感染症の基本的な知識は持っていても、第5波を経ても全ての介護職員が実践できていない状況があるのです。

利用者、家族、そして一人ひとりの介護職員にとって、何が不安なのか、本当は何をしたいと思っているのか、つぶやきに耳を傾けられるかどうかが鍵になると思います。こういった不安を棚卸しすることから、活動をひろげている取組みは色々とみられました。

参考:民介協 令和3年度老人保健健康増進等事業 成果報告資料の公開

不安を見つめて行動の手がかりをつかむー実践事例

具体的にはどのような取組みがおこなわれているのでしょうか?

一般社団法人 人とまちづくり研究所が調査し、みんコロラボにてまとめている実践事例の1つを紹介してくださいました。

千葉県流山市にある流山市シルバーサービス事業者連絡会訪問介護事業部会(以下、訪問介護事業部会)による「訪問介護を軸とする地域づくりと緊急時の支援継続に向けた協力体制」の事例です。

訪問介護事業部会では、地域の現状を知るために、2020年4月にアンケートを実施し、利用者・スタッフ等が感染した場合の支援継続意向、感染に対する知識や技術への不安などの実態を明らかにし、市に協力を働きかけました。

そのアンケートの質問は、「現在不足している物品はありますか?」といった感染防御資材のことや、利用者や家族が発熱・感染、介護職員が感染した時にサービスを継続するか?等です。

当時は物品も手に入りにくく、介護職員の知識やスキルもありませんでした。利用者、家族や介護職員が発熱すると支援に入ることは難しいと考える事業所も多かったわけです。でも、サービスに入らなければ利用者さんの生活も、事業所の運営も難しくなっていきます。不安をみんなで確認することで、物品、感染対策に関する知識やスキル、支援継続に向けた体制づくり…と地域で取り組むべきことが見えるようになったんですね。

出所:流山市訪問介護事業部会アンケート結果 画像提供:ひとまちラボ

住民ボランティアによる使い捨てエプロン作製

まず、地域の訪問介護事業所にガウンが不足しているという現状を把握し、「足りていない」という声を上げました。

そして、市販の45リットルごみ袋から使い捨てエプロンを作ることを思い立ちました。地区の自治会や民生委員の方々等に声をかけ、住民ボランティアによる「ディスポ型エプロン応援団」が始動しました。

地域の皆さんが2020年4月から6月までの間に5,000枚くらいのエプロンを作ってくれたそうです。なかには、要介護認定を受けている高齢者も参加されていて、仲間たちとエプロンを作っていくうちにお元気になったということもあったとか。

学びと対話を積み重ねる

※画像提供:ひとまちラボ

流山市では、訪問介護事業部会を中心に他の部会との合同研修として感染予防対策研修会を企画しました。地域の介護関係者の方の他、エプロンを作ってくださった住民の方々や市役所からも参加がありました。

訪問介護では、実際の住まいに近い環境での学びが重要ということで、流山市で空き家となった民家を活用して高齢者等の交流拠点としている「高齢者ふれあいの家」で、多職種が合同で研修をすることもありました。

要介護5で感染疑いの方の利用者さんの役割を、住民ボランティアの方が演じて、身体介護の工夫やゾーニングを検討したり、自分たちができることを改めて具体的にディスカッションしたりという機会もあったそうです。

そして、2020年11月には、一連の研修に参加した事業所を中心に、「訪問介護事業所の緊急時における支援継続システム」の運用が開始されたのです。

平時から訪問介護を手段として利用者のいのちと生活を支え、安心して暮らせる地域づくりに取り組んできた方々が、コロナ禍で訪問介護の仲間たちのみならず、多職種の専門職、市役所、さらに地域住民の皆さんも一緒に問いと学びを積み重ねられたことが、この先も大きな財産になると思います。

訪問介護の窮状を知って、閉じこもりがちになっていた高齢者もなんとか役に立ちたいとエプロンづくりを始め、その後、地域住民と介護施設をオンラインでつないで交流したり、一緒に体操に励む等の広がりもみられました。事業継続計画(BCP)の策定にあたっても、各機関での検討から「地域BCP」へと展開が広がっています。

新型コロナとどう付き合うか、正解はありません。日頃から気になっていること、心配ごとや不安、やってみたいことを言い合える関係性、有事にも、まず現状を把握し、立場を越えて対話と行動を続ける必要性が強くあると学びました。

ゲストプロフィール

堀田聰子
慶應義塾大学大学院教授(認知症未来共創ハブ リーダー)
厚生労働省 社会保障審議会・介護給付費分科会及び福祉部会 委員
人とまちづくり研究所 代表理事 日本医療政策機構 理事 等
博士(国際公共政策) 訪問介護員

開催概要

日時:2022年2月19日(日) 19:30~21:30
場所:オンライン(Zoom配信)

この記事を書いた人

森近 恵梨子

森近 恵梨子Eriko Morichika

株式会社Blanketライター/プロジェクトマネージャー/社会福祉士/介護福祉士/介護支援専門員

介護深堀り工事現場監督(自称)。正真正銘の介護オタク。温泉が湧き出るまで、介護を深く掘り続けます。
フリーランス 介護職員&ライター&講師。

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