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イベントレポート

当事者が主役、現場の仲間を増やす感染症対策支援の仕組みとは(KAIGO LEADERS FORUM 2022レポート)

「100年に1度の危機」とも言われる新型コロナウイルス感染症は私たちの仕事・生活などさまざまなところに影響を及ぼし続け、早いもので2年が経とうとしています。

2022年8月現在、第7波が猛威を振るう中、新型コロナウイルスはどのように推移し、社会へ影響を及ぼしていくのでしょうか。

2022年2月18日と19日に2日間連続で開催したKAIGO LEADERS FORUM 2022。メインテーマは「感染拡大から2年。これまでを振り返り、これからの介護を考えよう」でした。厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部・参与であり、沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科で現場にも関わっておられる高山義浩先生は、ケアの現場における工夫や対策、私たち介護従事者が持っておくべき心構えや視点についてお話してくださいました。その内容をレポートします。

当事者も含めてみんなで話し合って決める

私の病院のすぐ近くにある高齢者施設は1階に駄菓子屋さんがあるんですが、子どもたちの下校時間になると、駄菓子屋さんもオープンして、子どもたちも集まって来るんですね。そこの施設の職員さんは、新型コロナウイルス発生前のインフルエンザの流行期に「子どもたちがインフルエンザを持ち込むんじゃないか」「この駄菓子屋は閉じた方が良いのか」と悩まれ、私にレクチャーを依頼したんです。


高山先生は、このような場合に何を大事にするべきかを教えてくださいました。

ここで大事なことは、みんなで話し合って決めなきゃいけないということです。私は高齢者施設から感染症予防のレクチャーを求められることがあるんですが、基本的に「利用者さんたちに話をさせてください」とお願いをしています。よく職員さんたちが椅子をずらっと並べて話を聞く、というレクチャーがあるんですけど、そうじゃない。主人公は利用者さんたちですから、その人たちを最前列に座ってもらってくださいね、と。

インフルエンザに関するレクチャーは具体的にどのようにされたのでしょうか。

入所されている方にインフルエンザのことを説明してから、議題について話し合いました。そうすると職員さんたちも、高齢者の方々にどんなふうにインフルエンザのことを説明したらいいのか、一緒に学んでいただけます。その結果、皆さんからは、「子どもの来訪は制限をしたほうがいい」という意見が多く上がってきました。話し合い中に寝ている方がいても、自分のいるところで決めたということは覚えています。このプロセスが大事なんです。

入所者自身の暮らしに関わることは、施策を職員が一方的に決めるのではなく、きちんと話し合うことが大切なのですね。どうしても抜けてしまいがちな視点です。

私たち医療者は、得てして本人の理解能力やアウトカムが適正かといった点を気にするんですが、こういうことってプロセスが大切なんですね。つまり、話しあう姿勢を持つということなんです。そうすることで当事者に説明がつかないことは、私たちはしなくなっていきます。
つまり、急性期の医療であれば合意形成よりも命を救うことが最優先ですが、コロナ対策も長期戦に入っているなかで、「コロナをいまの暮らしの中にどう落とし込んでいくのか」という話し合いをすることが大事になってきています。

他にも次のような例があるそうです。

1月に成人式を「中止したほうがいいのか」、「延期したほうがいいのか」と多くの市町村が高山先生に相談の電話をかけてきました。そこで、高山先生は、毎回「新成人の皆さんはなんて言ってますか?」と聞きます。すると「新成人に聞いてない」「専門家に聞いてるんです」と答えが返ってきます。

しかし、まず大事なのは「当事者がどうしたいと思っているか」だと高山先生は語ります。コロナが感染拡大しているなかでも本人たちがやりたいと思っていれば、「成人式の前に検査を受けて陰性を確認してからやろうか」「成人式はやるんだけど、夜の宴会はなしでお願いしますね」と、そういう話し合いができます。しかし、一方的に大人が延期・中止と決めると、結局、夜に新成人たちが集まって宴会をやってしまうことになりかねません。

暮らしの中での感染症対策は、当事者が主人公だということを常に忘れてはならない、ということを改めて思い知らされました。

2022年2月時点のコロナの感染状況の概要

沖縄県はご存知のように大きな流行があって、そして今横ばいになってきているところです。今は東京・大阪など大都市圏が大変だと聞いています。これは、死亡者数の推移ですけれど赤い太線が沖縄です。なんとか横ばいで推移していますが、大阪・兵庫・奈良あたりが死亡者が増えてきていて、やはり高齢者施設などの集団感染が増えるのでは、と少し心配をしています。

高齢者であっても致死率は今回のオミクロン株ではかなり低く抑えられているそうです。なぜでしょうか。

よくオミクロン株の病原性が低いからではないかと言われますが、やっぱり医療と介護の連携の賜物だと私は思っています。ワクチン接種が推進されたことや、人工抗体薬が早期に投与されるようになったこと、循環診療による施設支援などの効果も考えられます。総合的に組み合わせてやってきたことで、今回の致死率は比較的低く抑えられているのでしょう。

沖縄県内での入院患者さんの数が、縦の棒グラフです。加えてこの点線の部分、高齢者施設で療養されている方がこれだけいます。例えば1月末だと入院患者さんで450人くらいなんですが、その頃280人くらい施設で療養されている方がいらっしゃいました。この皆さん、全員入院させていると沖縄県の医療崩壊が起きかねない、そういうギリギリの状態だったと振り返っています。
本当に介護現場の皆さんに地域医療が救われました。コロナ医療だけじゃないんです。
コロナの入院患者さんだけじゃなく、1月~2月って本当に高齢者が体調を崩しやすい時期なので、心筋梗塞・脳梗塞の患者さんの受け入れも含め、施設との連携・協力によってなんとか乗り切ってきたというのが、沖縄の経験です。

実地指導とオンラインの組み合わせで継続的な支援を

多い時は50施設くらいに対して私たちは支援で入っていました。
とにかく高齢者施設で感染者1人でも見つけたら、24時間以内にチームに入ることを目標にしています。とにかく行って話を聞いて、その場で感染対策の取り方、ゾーニングのアドバイスをします。

どのようなアドバイスをするのでしょうか。

例えば、介護職の方にガウンの脱ぎ着の方法を教えて差し上げます。実際にやってみせるということで、対面での支援・指導というのは少なくとも最初の1回目は大事だなと思っています。そしてそこにいる方々への集中的な検査を速やかに行っています。ただ検査をやっていれば自然に流行が収束するわけではなく、感染対策の指導をしっかりとやっていきます

支援・指導は1回のみでは、定着しません。継続的に支援する方法を教えていただきました。

感染対策の指導は1回行っただけでは、数日で形崩れしていきます。継続的な支援を行っていくということが必要です。最初の数日は感染管理の看護師が訪問しますが、どこかでオンラインに切り替えています。実地の指導とオンラインを組み合わせることで、継続的な支援ができるかなと思っています。

現場の介護職員を指摘するのではなく仲間を増やすこと

高山先生がこれまで高齢者施設の支援に入らせていただいてしみじみ痛感しているのは、介護現場に医師や看護師が大勢で押しかけて「集団感染が起きました、大変だ」と応援にいくと、介護職員の方たちが疲弊してしまうということだそうです。

介護現場の職員さんたちは、集団感染が起きていて精神的にも参りかけていることも少なくありません。その人たちに感染症医が、あちこち感染対策できてないとダメ出しをしてしまったり、医師や看護師がつめかけて注意喚起をすることは、ほどほどにしないといけない。誰もいかないのもダメですが、配慮も必要とのことでした。

高山先生は、東日本大震災の時も同じような状況が起きたことを話してくれました。

東日本大震災のとき、ある避難所の保健師さんの言葉で、「ああそうだろうな」と胸をつかれたことがあります。それは「避難所のトイレを掃除しろ」って言う人はいっぱいいる、だけど掃除してくれる人はいない、という言葉です。同じことが集団感染が起きた施設でも起きかねないのです。

高齢者施設で集団感染が起きた時のために仲間を増やす取り組みも、高山先生は紹介してくれました。

介護職の方々にとって必要なのはピア(※)の力であり、レッドゾーンの中で一緒に働いてくれる介護職の人たちが増えることだと思います。
私たちはこうした高齢者施設の集団感染が起きた時に、介護職員を派遣するという事業をやっています。

ピアとは、「対等」「同僚」「仲間」という意味をもちます。

この仕組みは、集団感染の起きた施設に別の事業所の職員を派遣するというものです。派遣する事業所職員は集団感染を起こしたことがある施設から募っています。今は25〜6ほどの施設が沖縄県で登録をしているそうです。
一度集団感染を起こすとだいたいゾーニングのことも理解し、ガウンの脱ぎ着等も慣れているため、「次起きたところに応援へいきましょう」と、登録した事業所はどんどん応援することができます。
事前研修もきちんとやりながら、コロナが発生した社会福祉施設に職員を派遣したり、あるいはケア提供者が感染した在宅高齢者世帯に職員を派遣したりと、事業所間で応援をしてもらうこの事業をもっと大きくしていきたいと、高山先生は語ってくださいました。

今後のコロナとの向き合い方

ある高齢者施設の写真を見せながら、高山先生はこう語ります。

集団感染が起きたこちらの施設では、みんなマスクをしてないし、向かい合わせでご飯食べています。これでいいんです。なぜかというとみんな感染者だから。みんな感染していると相互の感染対策が不要になってきます。

コロナへの向き合い方は、しっかりと考えることが必要ですね。

今回のオミクロン株でも、またデルタ株のときでも、要介護高齢者であっても感染して中等症以上になる人は半数以下。ほとんどの人、少なくとも半数の人は軽症か無症状でした。
今はワクチンの2回接種もかなり進んでいるので軽症で終わる人も多いし、オミクロンだと無症状が多いわけです。ただその中の一部の人が中等症になる。その重症化していく人たちをいかにピックアップしていくかということが、現在のコロナの向き合い方だと思います。
軽症・無症状の高齢者の方を私のいる中部病院に運んで隔離すると、ベッド上で寝たきりになってすぐに身体機能が低下していきます。率直に言って、ご本人さんたちにとっては、日常生活を続けられるレッドゾーンにいる方が幸せです。

今後ワクチン接種が進んでいけば、よりこうしたコロナとの向き合い方が重要になります。コロナの感染者であっても暮らし続けられ、場合によってはお看取りもできます、という施設が少しずつ増えていけるように、医療現場の支援を続けていきたいと思っています、と締めくくりの言葉を述べられました。

ゲストプロフィール

高山義浩

沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科 副部長
沖縄県 政策参与
厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部 参与
日本医師会総合政策研究機構 客員研究員
著書に『アジアスケッチ 目撃される文明・宗教・民族』(白馬社、2001年)、『地域医療と暮らしのゆくえ 超高齢社会をともに生きる』(医学書院、2016年)、『高齢者の暮らしを守る 在宅・感染症診療』(日本医事新報社、2020年)など。

開催概要

日時:2022年2月19日(日)  19:30~21:30
場所:オンライン(Zoom配信)

 

この記事を書いた人

太田祐輝

太田祐輝Yuki Ota

普段は認定NPO法人ノーベルで広報や採用のお仕事を担当。副業で、Webマーケター、ライターなどを行う。関心領域は「ケアする人のケア」。