
今、ケア職が学びたい!高齢者の孤立を防ぐ社会的処方の実践(KAIGO LEADERS FORUM 2022レポート)

「100年に1度の危機」とも言われる新型コロナウイルス感染症は私たちの仕事・生活などさまざまなところに影響を及ぼし続け、早いもので2年が経とうとしています。
新たな変異株の登場等で収束が見えない中、新型コロナウイルスはどのように推移し、社会へ影響を及ぼしていくのでしょうか。
2022年2月18日と19日に2日間連続で開催したKAIGO LEADERS FORUM2022では、コロナウイルスと向き合うケアの現場の最前線に立つゲストと共に、これからの介護について考えていく時間をお届けしました。
本フォーラムの「孤立解消のキーは社会的処方!今、ケア職に求められる支援とは?」というテーマでのセッションには、西智弘さんと濱野将行さんがゲストとして、それぞれの視点から社会的処方についてお話をいただきました。このレポートでは、本イベントの概要とイベント後半に行われた質疑応答の内容をお届けします。
医師の立場から語る社会的処方|西智弘さん
ゲストの1人目は、川崎市立井田病院で腫瘍内科と緩和ケアの医師を務める傍ら、社会的処方研究所を運営されている西智弘さん。
西先生からは、医師としてなぜ孤立や孤独の課題に取り組むようになったのか、そしてその孤立への処方箋としての社会的処方とはどういったものなのかについて、事例を交えながらわかりやすくお話しいただきました。
薬で人を健康にするのではなく、人と人とのつながりや地域とのつながりを利用して人を元気にする仕組み。これが社会的処方であり、社会的処方を日本社会で実現していくために私たちができることについてもお話をいただいています。
孤立や孤独について課題感を抱いている方や、自分に何ができるのかと考えている方は、西先生のお話からたくさんのヒントが得られるかもしれません。
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作業療法士の視点から実践する社会的処方|濱野将行さん
もう1人のゲストは、一般社団法人えんがおの代表理事を務める濱野将行さん。えんがおは誰もが人とのつながりを感じられる社会を目指し、2017年5月に設立され、社会的処方を土台とした地域づくりに取り組まれています。
えんがおの事業や活動を具体的な事例とともにご紹介いただきながら、経験から得た社会的処方の実践において大切なポイントやこだわりをお話しいただきました。
ポイントをいくつかご紹介します。
・「困っても誰かに頼れる」安心感をつくる
・日常的に多世代が交流できる場所へ
・孤立した人が「地域のプレイヤー」に
・カテゴリで分断しない、ごちゃまぜのまちづくり
えんがおの活動には、これらを実践するための様々な工夫や仕掛けがあります。
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コロナ禍の2年間を振り返って
ここからは、お2人を交え、参加者からの質問にお応えしたトークセッションの内容をお届けします。
西さん:コロナ禍で活動の場所が減ってしまったことで、これまで役割を果たせていた人たちの役割が奪われていきました。そのせいで家に引きこもってしまって、心や体の調子を崩す人が増え、足が動かなくなった、認知症が悪化したという人が医療の方に流れてきています。ただ、それは川の下流に流れてきたものをとにかくすくっているような感覚で、本当の問題は川の上流にある話だな……というところでもどかしく感じています。
濱野さん:西先生が仰った通りで、週に1回のゲートボールが生きがいだったおじいちゃんからは、コロナでそれがなくなって「2週間誰とも喋っていない、すごく孤独を感じて自分が怖いんです」といった電話がかかってくることもあった。高齢の方を孤立させない社会の仕組みとして重要だった、サークル、育成会や自治会などが行う地域のイベントが、軒並みなくなったというのはかなり心配な状況。それによっていろんな健康リスクが爆発的に増えていると感じています。
特に、70代80代の運営側にまわって統治や会計をやっていた地域のプレイヤーたちも、役割がなくなった喪失感があります。これらが相まって、元気に活動していた人も一気にレベルダウンするようなところをこの2年見ていて、本当に怖くて、これに対して何ができるだろうと常に悩んでいた時間でした。
つながりのつくり方
濱野さん:僕たちの場合は、地域のNPOや地域団体などの行政機関としっかりつながることです。おじいちゃんおばあちゃんが困ったときに最初に電話するのが市役所やそこからつながれた地域包括支援センターなどになる。行政と地域の市民団体がつながっていないと、その先にもつながっていきません。だからこそ、行政とのつながりから困っている人とつながっていくことが、まず1つ重要だと思います。
他にもポスティングや、地域の人や民生委員さんなどに私たちの活動を説明し、「何か必要なときは私たちを紹介してください」と言って回ることを地道にやっています。例えば、「実は隣の人が奥さん亡くなってからずっと家から出てない」といった話をしてもらえたら、私たちから訪問することができるようになります。
西さん:イベントなど何かをやるときに①人を呼ぶ②コミュニティに入っていく③在るだけでいい、この3つに分けられます。
例えば②の場合、支援したい人たちがいるコミュニティに入って一緒にやっていきましょうというスタイルでやれば、そもそも人が来ないなんてことはないわけです。仮に人が来なかったとしても、③のようにそこに在り続けるやり方も良いと思います。毎週やっているという風にしておくと、ポツポツと人が来てくれることもある。こういう場所は、その人にとってはすごくありがたいし、もし自分が困ったことがあったときに「ちょっと行ってみよう」という場所になる。だからあまり人を集めようとしなくても、ゆるくコミュニティに関わっていくことでも十分だと思っています。
濱野さん:子どもが集まるには、ママさんとのつながりが一番強いと思います。ママさんは1度つながると友達と一緒に来てくれるからです。
僕たちの場所にも、子どもが来始めるまでは時間がかかりました。むしろ「おじいちゃんおばあちゃんが集まっている場所だから行っちゃダメ」というような遠慮があったんですよね。だから、「お子さんも来ていいですよ」と発信したり、イベントの度に「お子様連れの方は無料」といった子どもの歓迎感を常に出したりすることで、最近になってやっと効果が出てきました。
先ほどお話しがあった「コミュニティの中で高齢者の場所を作ってもなかなか来ない」ということは、僕たちも相談として多く受けます。とはいえ、そういう場所が地域にあるってだけでものすごく重要。数じゃないし規模じゃないから在り続けることが重要だと考えています。
ただし、「全然来ないな〜」というときは、高齢者をお客さんにしてしまっている場合がありますが、それだとどうしても常連にはなりません。居場所とは役割のことで、役割を創出することが土台として大事なことです。存在にも役割があるという大前提があって、さらにできる方には役割を何か提供する。それが居場所になるという点は常に大事にしています。
地域による取り組み方の違い
西先生のお話しだと、私は「サウナコミュニティワーカーだったらなれるのか?」と思いながら聞いていました。よく銭湯やサウナに行くんですけど、みんな帰るときには化粧をしない分、深く帽子を被って、誰だかわからないような感じにして帰っていく風景がある。そういう中で関係性を作っていくための、東京ならではのいい事例はありますか?
コミュニティが生まれない銭湯もたくさんある中で、小杉湯さんは銭湯という生活の動線上でそれを作っているので、コミュニティのハブになっている。すごく上手な事例だと思います。
現場でモヤモヤを抱える支援職へ
濱野さん:まずは一歩踏み出すことが大事だと思います。例えばSNSでDMを送ってみる、またはこういう場に参加してみる。一歩踏み出して誰かとつながれば、何かの可能性が見えたり、ひらめきができたり、自分はこういうことがやりたかったという気づきになったりすると思います。
また孤立という課題の川の流れの中で、上流にはどんな問題があるのか、その結果として下流でどういう問題が起きているのか。大きな川の流れの中で自分はどこに乗っているのかというのを知るのも大事なことだと思います。
病院で働くリハ職や看護師がいないと成り立たない中で、全員が起業して僕みたいなことをやれば社会が良くなるかというとそうではない。大きな川の流れの中で、自分はどこにいて何ができるのかを考えることが大事だと思っています。
組織としてやるにしても、それぞれが窓口をもって外に手を伸ばして支える人たちともつながりをつくっていくこと、そしてそれを媒介するような橋渡し型リンクワーカーという人がいることも重要です。日本では活動も孤立してしまっているので「仲良くやりましょう」ということを言いたいです。
これからのビジョン
向こう2年で学童保育事業や託児事業をやって、子どもが集まれると同時に、障がいや高齢など関係なく、みんなが日常的に関われる場所をこれから作っていきたい。それがいろんな地域で少しでも真似できるようなものになるように、横のつながりを大切にして僕たちも頑張っていきたいと思います。
自分ができることを、まず一歩踏み出してみる
孤立や孤独という社会的課題に対して、お2人それぞれの立場から、向き合って取り組まれていることを教えていただきました。「私たち1人ひとりの一歩が大きな動きになっていくかもしれない」そんな一歩踏み出す勇気をいただけるセッションだったのではないでしょうか。西先生、濱野さん、ありがとうございました!
西先生のレポートはこちらの記事へ
濱野さんのレポートはこちらの記事へ
ゲストプロフィール
西智弘
川崎市立井田病院かわさき総合ケアセンター 腫瘍内科/ 緩和ケア内科医長
一般社団法人プラスケア代表理事
2005年北海道大学卒。室蘭日鋼記念病院で家庭医療を中心に初期研修後、2007年から川崎市立井田病院で総合内科/緩和ケアを研修。その後2009年から栃木県立がんセンターにて腫瘍内科を研修。2012年から現職。現在は抗がん剤治療を中心に、緩和ケアチームや在宅診療にも関わる。また一方で、一般社団法人プラスケアを2017年に立ち上げ代表理事に就任。「暮らしの保健室」「社会的処方研究所」の運営を中心に、地域での活動に取り組む。
日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医。
著書に『がんを抱えて、自分らしく生きたい〜がんと共に生きた人が緩和ケア医に伝えた10の言葉(PHP研究所)』『社会的処方 孤立という病を地域のつながりで治す方法(学芸出版2020年)』などがある。
濱野将行
一般社団法人えんがお 代表理事
栃木県矢板市出身、作業療法士。
大学卒業後、老人保健施設で勤務しながら「学生と地域高齢者のつながる場作り」を仕事と両立する中で、地域の高齢者の孤立という現実に直面。根本的な解決に届く地域の仕組みを作るため、2017年5月「一般社団法人えんがお」を設立し、作業療法士の視点を活かしながら、高齢者と若者をつなげるまちづくりに取り組む。
現在、年間延1000人以上の若者を巻き込みながら、徒歩2分圏内に6軒の空き家を活用し、高齢者サロンや子どもむけスペース、地域食堂・シェアハウス・障害者向けグループホームなどを運営。子供から高齢者まで、そして障がいの有無に関わらずすべての人が日常的に関われる「ごちゃまぜの地域づくり」を行っている。
好きなものはビールとアウトドア。
その他、大田原市第一層協議体委員、生涯活躍のまち推進協議会委員、栃木県協働アドバイザー、認定NPO法人宇都宮まちづくり市民工房理事など。
受賞歴 :ビジネスアイディアコンテスト「iDEA NEXT」第5回「グランプリ」、第2回次世代の力大賞「大賞」、第10回地域再生大賞「関東甲信越ブロック賞」
開催概要
日時:2022年2月19日(日) 19:30~21:30
場所:オンライン(Zoom配信)