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イベントレポート

感染対策と高齢者の暮らしの質は両立できるのか? (KAIGO LEADERS FORUM 2020 イベントレポート④)

KAIGO LEADERS FORUMとは、介護や高齢者支援・まちづくりの分野で様々な実践を進める若きリーダーたちが集い、参加者の皆さんと一緒に、これからの超高齢社会のあり方を考えるイベントです。

今年のテーマは、「WITHコロナ時代の介護を考えよう。

WITHコロナ時代の「介護」のあり方に悩んでいる方も多いと思います。

KAIGO LEADERS FORUM2020は、ゲストのお話から共に考え、これからの社会を生き抜くヒントをつかむ時間を4週連続オンラインでお送りしました。

4回目は、7月23日に開催された『感染対策と高齢者の暮らしの質は両立できるのか?』

その模様をレポートします!

登壇者は、株式会社シルバーウッド 代表取締役 下河原忠道さんと、沖縄県立中部病院 感染症内科 高山義浩さんです。

新型コロナウイルスの影響で感染対策が最優先され、制限ばかりの暮らしを強いられる状況下において介護施設での高齢者の暮らしのかかわり方に戸惑う介護職も少なくありません。

感染対策のため、入居者とのかかわりや行動を制限することは命を守る上で重要なことだと思いますが、生活の彩りが失われているようにも感じられます。限られた時間に寄り添う介護職だからこそ、感染対策とその人らしい暮らしを支えることの両立について下河原さん、高山先生と考えていきました。

お二人は、なんと石垣島のゲストハウスより配信してくださいました!

過去にお二方に登壇していただいた際のイベントレポートも是非ともチェックしてみてください。

株式会社シルバーウッド 代表取締役 下河原忠道さん
※KAIGO LEADERSの学びのプログラム【PRESENT】

その体験が、私たちの“当たり前”を壊す。「VR×認知症」で探るこれからの社会のカタチ。(PRESENT_10 下河原 忠道レポート)

沖縄県立中部病院 感染症内科 高山義浩さん
※KAIGO LEADERSの学びのプログラム【PRESENT】

2030年、約160万人が亡くなる「多死社会」をどう描く?命と向き合い、自己満足の看取りケアから脱却する。(PRESENT_17 高山 義浩 前編)

“制度を超えた創意工夫”の先に、新たなニーズと制度が生まれる。ー台湾とタイに学ぶ、福祉人材の「量の確保」の方策ー(PRESENT_17 高山 義浩 後編)

ファシリテーターは、KAIGO LEADERS発起人の秋本可愛でお送りしました。

秋本:「新型コロナウイルスの感染対策と高齢者の暮らしの質は両立できるのか?」というとても大切なテーマについてゲストの下河原さん、高山先生とお話していきたいと思います。先日、現場の専門職のお話をたくさん聞かせてもらいましたが、利用者の生活について制限や管理することを強いられる状況下で、葛藤している声もたくさん聞こえてきました。今日、正解が出てくるというわけではないと思うんですけど、今後の皆さんのヒントをお届けできたらと思っておりますので、どうぞよろしくお願いします。

まず、高山先生より、感染症専門医の視点から、新型コロナウイルスとは何か、そして日本の現状についてお話いただきたいと思います。

新型コロナウイルス感染症の基本

高山:まず、新型コロナウイルス 感染症の基本事項を確認していきましょう。

臨床経過は大きく分けると3つあります。
❶無症候(症状のない人)
❷軽症(上気道炎)
❸重症化(ウイルス性肺炎)

ダイアモンドプリンス号の事例をみると、診断時に無症状者が約半数であったというデータがあります。その後、発症しないままの方は18%とされています。感染しても症状がでない人は、結構いるんですよ。

軽症の人は風邪の症状が出ます。しかし、普通の風邪と異なるのが、長引くということです。治るのに一週間くらいかかるのです。免疫が無いので、克服するのに時間がかかるわけです。

そして、症状が出る人のなかでも2割が重症化しているというデータがあります。多くの重症化する方の経過をみると1週間くらいは風邪と一緒ですが、ここから大きく枝分かれします。息苦しさ、脳梗塞や心筋梗塞となるケースもあります。そして集中治療に入ります。高度医療につながるのが遅れると数時間で死亡します。

年齢別でみると高齢者のなかでも80歳以上の場合、2割近くが死亡しています。高齢者にとっては、脅威のウイルスです。

一方、若者たちのなかでは、亡くなる人はほとんど出ません。
ですが、「だったら、大丈夫だよね!」とはなりません。
イタリアのデータですが、179人の患者を追跡したところ、60日後、87.4%の方が何らかの後遺症を抱えていることがわかりました。具体的には、倦怠感・呼吸苦・関節痛や胸痛等です。

私自身の経験では、2割くらいの方が、2週間後でも何らかの体調不良を訴えています。「1ヶ月たっても嗅覚が戻ってこない」、「呼吸が苦しい」等。実は若者でもそういう方がいます。

「感染者数ゼロ」ではなく、「死亡者数ゼロ」を目標に

それぞれの地域で、それぞれの闘い方をしていると思います。
沖縄を例に挙げると、2つの目標と5つの基本戦略を持っています。

1つめの目標は、「医療体制を維持し、死亡者数を減らす」ということです。
私たちは、実は感染者数を減らすとは言っていません。あくまで、「死亡者数を減らす」ことを目標として掲げています。

感染者数0を目指すと経済が死んでしまうことは理解しているので、「県民生活に及ぼす影響を最小にとどめる対策をとっていきましょう」ということを、2つめの目標として掲げています。

4月の流行が終わった時、私は言いました。
「訓練が終わりましたね」と。冬に大きな流行がくるかもしれない。そのための訓練をしたのです。小さな流行、大きな流行を経て、ワクチンが接種できるようになって、私たちは克服できるようになっていくのです。

日本において致死率が低い理由とは!?

各国における致命率を比較すると、差がとても大きいことが分かります。フランスやイギリスでは致命率が15%に近いです。一方で、ドイツや日本は5%弱にとどめています。どうして日本が先進諸国と比べてこれだけ良い成績が出ているのか。それは、「高齢者施設でのアウトブレイクがほとんど出ていないから」です。

日本は、高齢者を守ることの基本ができているからです。

封じ込め政策をとっている韓国やオーストラリアは、より致命率が低いです。「一番低い致命率を達成する」ためには、「感染者数0を目指す」ことになりますが、「経済との折り合いをつけながら、それでも致命率を下げたい」場合は、「いかに高齢者を守るのか」ということが重要になります。

 

高齢者施設を守る体制をいかに地域でつくっていくか

「高齢者施設をいかに守るか」がすごく重要になるということを気付いているので、私たちは専門チームを立ち上げて地域ごとに高齢者施設の相談に対応する体制を作っています。また、高齢者施設に行って、視察したり、ミーティングしたりしています。視察後、オンライン研修会も開催しました。

今後は、高齢者施設を支える体制をつくっていきたいと思っています。まだ議論が進んでいないのは、「予防」とか「ケア」の部分です。感染管理看護師が感染予防担当として、日頃の相談に対応できるように体制を整えていきたいと思います。そして、発生した時に訪問看護が応援に入ります。

患者だけ、感染者だけ見ていては不十分で、施設全体を支える必要があります
感染者は医療が対応するべきです。

濃厚接触者は、訪問看護を中心とした外からの応援チームが対応します。ケアマネジャーは濃厚接触者に対するプランを作らないといけません。

そして、感染していると考えにくい施設の担当者は、これまで通りのケアを進めていきます。
このように役割分担していく必要があると考えます。

コロナの対応において、今まで培ってきた地域連携の実力を示したいです。

単に伝達するだけでなく、みんなで共有するし、みんなの課題として一体となって取り組み、みんなで支えて乗り越える。
そういった地域連携をコロナ禍において実現させていきたいです。

秋本:高山先生ありがとうございました。高齢者を守れている日本の高齢者施設は素晴らしいということですね。次は、高齢者施設のなかで実施していくべき対応について下河原さんよりお話いただきたいと思います。よろしくお願いします。

 

コロナ禍の銀木犀〜理念との矛盾と葛藤を超えて〜

下河原:新型コロナウイルス 感染症感染拡大にともなって、まず実施したことは、研修会でした。

福祉学団の飯田さんと一緒にスタンダードプリコーションを高齢者施設の職員が理解するための研修会を定期的に繰り返し実施しました。研修内容は、手洗いの方法、ディスポグローブの外し方や「マスクをしていても、手で触ってしまうと菌がついてしまうこと」等です。

次に、「銀木犀に立ち入るすべての方へのお願い」という文書を作成し、周知しました。

そして、銀木犀に立ち入る方に対して、必ずアンケートをとるようにしました。内容は、「体温」、「くしゃみ・咳が出ていないか」等。職員に対しても、同様にチェックしました。

さらに、ルールを厳格化していき、入居者のデイサービス利用の自粛を要請することになりました。(当イベント当日には、自粛解除をしていますが、また感染者数が増えているのでいかに対応しようか検討中とのことです)銀木犀の理念に抵触してしまい、大変心苦しい決断でした。

ご家族面会も自粛していただき、しばらく経過してから場所を限定して再開しました。看取りのケースを除き、お部屋までの面会は自粛していただいております。

日本で、たくさんの方が亡くなっていないという現状を考えると、現場の介護職員の頑張りが寄与していると思います。自信を持っていいですよ。全員が自分が「陽性者である」と思い、徹底的に手洗いすることを続けて、今までの生活を取り戻していくことが重要でしょう。

高山:そうですね。生活を取り戻すことも、とても大事です。4月の流行の際、高齢者の生活を犠牲にして守っていた部分もあったと思います。今後の新型コロナウイルス感染症対策は、生活を取り戻しつつも、いかに守るのか が重要なテーマになるでしょう。

 

外出の規制緩和をいかに進めていくべきか〜ケアアラートが必要〜

秋本:まさに、新型コロナウイルス感染症が長期戦である場合、高齢者の生活を犠牲にし続けてしまっている現状に、とまどいや葛藤を抱いている専門職が多いです。ある施設では、利用者を外に出さず、専門職だけが出入りしているような状況とのこと。そのような、制限や管理という方向性に進んでしまうなかで、どのように高齢者の生活の質の向上と両立していけばよいのでしょうか。さきほど、「理念やいままで大事にしてきたことに反して…」というお話も下河原さんから出ていましたが、銀木犀がこれから取り戻していく際に考えている順番、方針等はありますか?

下河原:「外出の自粛」というニュアンスも出ていましたが、「それはやめておこう」ということで、入居者の散歩や買い物を止めることはしませんでした。お出かけの際は必ずマスク着用、手洗いや体温測定の実施は徹底しています。デイサービスも、行きたいのなら行っても良いです。ただし、そのデイサービスがどのような対策をしているか所長がしっかりと見て、足りない部分は口を出して来るように伝えています。

秋本:外出については、どのように規制緩和していけばよいのでしょうか?高山先生いかがでしょうか?

高山:地域的な流行が起きているかの見極めが必要ですね。1つの目安は、人口10万人あたりの新型コロナウイルス の新たな患者者数が直近1週間で2.5人以上を超えてくると(政府は「基準日」と呼んでいます)流行が始まろうとしていると見た方が良いです。あとは、感染経路不明者がどれくらいいるのかという点も注目しましょう。

また、ある小学校でまとまって感染者が出たりするケースが増えていると、地域的流行が始まっていると捉えられます。

秋本:「地域の状況を見て、外出についてどれくらい規制緩和していくか判断していくべき」ということですね。

高山:そういうことを介護現場の方が悩むのではなく、県や県の専門家会議が、「外出をしても良いのか」についてメッセージを出すべきだと思います。そして、「そういうメッセージを出してほしい」と専門家会議に求めていくのは、介護職員の役割であると考えます。

秋本:求めていくスタンスが大事ですね。

高山:流行に備えて病床を確保するためのメディカルアラートを出すことになっています。そのような、「ケアアラート」も必要ではないでしょうか?例えば、高齢者を守るために、「今はスーパーへ行くのを避けて!」「デイサービスの運営方法を見直して!」…等。

下河原:銀木犀ではケアアラート的なものを入居者、家族に発信しています。選択の自由や、生活の自由は担保されているという矛盾はありますが、アラートが出ているという情報発信はしています。

秋本:判断できる材料がもともと無かったり、そのようなことができる人材がいないという問題もありますね。その点では、方針がしっかり出ていると良いですね。

ここからは、参加者の質問にお答えしていきたいと思います。

 

日本において、感染対策がうまくいっている理由とは?

Q 日本において、感染対策がうまくいっているのはなぜだと思いますか?

高山:介護職員の皆さんがよく勉強して、高齢者を守るための対策を全力で行われているからだと思います。高齢者の生活を犠牲にしている部分があるし、介護職員の生活を犠牲にしている部分もあります。
緊張感を高めた状態を1年や2年も続けられないので、ピンポイントにどこを緩めて良いのかどこは緊張感を高めたほうが良いのかを分析していく必要があります。感染症の専門家と介護職員の皆さんとの間で“折り合いのつけ方“という議論を、もっとしていきたいです。

秋本:ウイルスの媒介者にならないために、介護職員は外出制限をしているという話をよく聞きます。銀木犀ではどのような対応をされていますか?

下河原:介護職員は自分の生活を犠牲にしているよね。自分が感染源になりたくないという思いで、完全に自粛モードに入ってるし、責任感の強い人たちが多いです。銀木犀では、そんな職員たちに向けて、“ヒーローボーナス”という臨時ボーナスを、「頑張って!」という思いを込めたお手紙を添えて支給しました。とても喜んでくれたね。

秋本:そういう風に言ってもらえて、しかも形として示してもらえると違うところがありますよね。
いつまで、外出を我慢する必要があるのでしょうか…

高山:それはわからないです!見通しが立ちません。さまざまなシナリオがあって、1つに決め打ちしないことが新型コロナウイルスとの闘いにおいて重要です。ワクチンと治療薬が重要なファクターなのですが、どちらも見通しが明らかではないことを受け入れつつ、様々なシナリオに対応できるように、対策を進めていく必要があります。

個人ではなく、チームで解決していくことが大事

秋本:生活について制限が強いられたなかで、高齢者のADLやモチベーションが低下しているケースが増えているかと思います。そのような場合、どのように対応していけば良いのでしょうか。

下河原:全てを介護職員だけで解決しようとすることが、既に無理があります。ご家族、入居者、他職種の人たちとともに、みんなで解決方法を考える必要があると思います。どうしても介護職員の人たちは自分たちで何とかしなくちゃという風になるので、疲れてしまいます。みんなで乗り越えていくという一体感を大切にしましょう。

秋本:入居者のご家族とはどのようにコミュニケーションを取っていますか?

下河原:もともと銀木犀の家族と職員は関係性が密で良好な関係ができています。情報やスタンスの共有をしつつ、家族のフォローをしていますね。今までの延長線上にコロナが入ってきただけです。

秋本:職員の意識統一、正確な感染症の知識を浸透させることであったり、極度な恐れからメンタルが崩れてしまう職員のメンタルフォロー等、職員にむけて働きかけていることは何かありますか。

下河原:確かに、退職する方もいました…

高山:コロナの問題を個人だけで闘うのは難しく、チームをつくることがとても大事。そして、チームをつくる上でとても重要なのが、目標を与え、行動指針を作っていくことです。

下河原:何のためにこの感染症対策をしているのか、その目的をはっきりさせないと、それをやる意味が無いので、そこを理解してもらうことが重要ですね。

高山:高齢者施設において、「感染者を1人も出さない」という目標を掲げていくと、ある意味で偏りが生じてくると思います。「高齢者の暮らしの豊かさを支え続ける」とか、もうひとつの目標もきっとあると思うんですよ。その目標も併せて示していくことが大切ではないでしょうか?

下河原:銀木犀の職員は、「マイナスをプラスに変えていくこと」を大切にしています。マスクをお部屋に忘れて取りに帰る入居者がいます。そんな時、「これも、ひとつのリハビリだよね」と、捉えていたりします。

秋本:感染対策をみんなで取り組むことがリハビリになる。これは、1つの新しい考え方かもしれませんね。

新型コロナウイルス で明らかになった課題と未来のあり方

高山:新型コロナウイルス は、都会の過密さの問題をあぶり出していると考えています。例えば、満員電車は異常なのに、それを日常としていた問題点をこのウイルスは指摘しています。

下河原:あと、本当に必要なものとそうでないものが明確になったような気がしています。それは、とても良い気付きだった。

秋本:参加者の方からこんなご質問もいただきました。

「東京在住です。コロナの影響で地元に行きつけの店が増えました。今、飲食店を中心に地域に目が向けられていて、住民も地元の店を応援しようという空気が出来てきています。コロナを逆手に地域づくりにおいて何かできるのでしょうか?」

高山:地域をもっと住みやすくしていこうという考えが必要ですね。広い舗道があって、緑豊かな公園があって、ある程度ソーシャルディスタンスが保てるようなコミュニティスペースがあって…それが、当たり前の地域になっていくと良いですね。

秋本:これまで「地域包括ケア」「地域共生社会」等、地域とのつながりをつくっていくことが介護事業所に求められ、地域にどんどん開いていく事例が増えてきました。コロナの影響で、地域の人との関係性のあり方について迷っている事業所も多いと思います。その点について、どのようにお考えでしょうか。

下河原:今すぐには結論は出せないですよね。

高山:新型コロナウイルスの感染症対策って、非常に取りにくいんですよね。理由としては、3つあります。

1つめは、エビデンスが無いということ。エアロゾル感染がどの程度起こるのかがわかっていませんし、どういう感染対策をとっていいのか明確な判断を答えることができません。

2つめは、時間や場所で刻々と取るべき対策が変わっていくということです。時間と場所によってムラが出ます。

3つめは、良い面もあるのですが、市民が過剰に恐れていることです。科学的な根拠ではなく、不安によって感染対策の強化が起き、混乱が生じています。

全国一律のガイドラインを作れないだけに、足を運んで、相談に乗って、その施設にとって一番良い感染対策を決めて、実践していくしかないのです。

コロナであっても、コロナじゃなくても大切なことは変わらない

秋本:下河原さんにご質問です。コロナ禍におけるACPで考えられていること、実施していることはありますか?

下河原:入居者が新型コロナウイルスに感染した場合、どうしていくか改めて確認を取っているところです。急速に悪化していくこともありますので。ACPを日々の生活のなかで聞き取りながら関係性をつくっているので、コロナであっても、コロナで無くても何も変わらないという考え方が圧倒的に多い。コロナに感染しても、延命や人工呼吸器を選択しない人が多いのです。

秋本:コロナによる自粛や生活への制限が続いている状況のなかで、余命3ヶ月や半年といった方もいらっしゃると思います。そのような方の生活や希望に関して、どのように考えていったら良いのでしょうか。

下河原:コロナに関係なく看取りについては、本人の希望が大事ですし、家族とのコンセンサスが重要です。それを前提として運用するなかでコロナが入ってきたとしても、今までやってきたことが何か変わるかというと何も変わらないと思っています。

高山:さまざまなリスクのなかで、「自分の人生の最期をどう迎えようか」ということを考えていきます。その際、コロナってそんなに大きな問題じゃないかもしれません。自分の夢を考えるのはある種の挑戦で、挫折する可能性もあります。挑戦の結果、コロナに感染するかもしれません。自覚している上での挑戦なら、リスクの最小化のお手伝いをしつつ、応援してあげたいですね。

リスクの高低を、根拠をもとに判断する

高山:「遠くへ行くことが心配」という問題については、リスクを場合分けする必要があります。
例えば、東京から出掛けたとしても、テントで宿泊するとリスクは低いです。東京の方が沖縄に来て、限られた人と会って、さっと帰るのであればOKです。一方で、結婚式等、複数地域から集まる懇親会はリスクが高いです。

リスクの高低があるので、それを見抜いてほしいですね。

秋本:このように示してもらえるとすごくわかりやすいですね。「自粛しましょう」というふわっとした方針を出されがちですが、リスクの低いものを具体的に提示されるとすごく救われた気持ちになります

最後に「WITHコロナ時代のリーダーに求められること」についてメッセージをいただけたらと思います。

WITHコロナ時代のリーダーに求められることとは?

高山:逃げないこと。挑戦する気持ちをリーダーは特に持っていただけたらなと思います。

例えば、不安だからといって殻にこもってしまうと、いつまでも乗り越えられません。ハンセン病から逃げていた時代、隔離して、社会から遠ざけて、見えないようにしていました。確かに問題を克服していたかのように見えていましたが、感染症に対する偏見や恐怖から目を背けて成長のチャンスを失っていたと思います。

エイズの場合、エイズを直視したことによって、「ジェンダーの問題」、「性の問題」や「差別・偏見」について人類は考えて乗り越えることができた。

エイズやハンセンは悲劇があったんだけど、それぞれの感染症がわたしたちの社会にあった弱点をあぶりだしてくれていました。そこを乗り越えて人類は成長できました。

コロナもそうだと思います。とても辛い状況ですが、逃げずに皆がチームを作り出して乗り越えた先には、人類のなかにあった弱点を克服し、よりスマートな人類社会に成長できるチャンスになると思います。それは、人類全体だけでなく、介護事業所においてもそうだし、 病院においてもそうです。

成長するチャンスに今、恵まれていると思ったほうがいいです。

下河原:逃げちゃいけないね。退路を断て!こういうときに新しいリーダーが生まれてくるのです。混沌とした時代だからこそ突き抜けたリーダーとイノベーションが出てきます。

秋本:色んな角度からの学びをいただきました。変化するタイミングに自分たちがいるんだなということを感じました。最後は「逃げない」、「退路を断て!」といった強いメッセージもいただきました!

現場で色んな悩みを抱えてる人も多いと思いますが、情報共有して新しい時代を作っていくリーダーとして一緒にやっていけたら嬉しいです。

新型コロナウイルスがあぶり出した社会の課題から、目を背けるのではなく、正しい情報を自ら求め、対応できるチームをつくって立ち向かっていくことの大切さを強く実感できる時間となりました。

そのために、今、現場で掲げている「目標」の見直しが必要だと考えます。

高齢者施設でアウトブレイクを出さずに、死亡者数を抑えられている日本。本当に素晴らしいことだと思います。
「高齢者の生活の質の向上との両立」という次のステージへいかに移行するべきか、それぞれの現場で、そして地域で考えていきたいですね。

ゲストプロフィール

下河原忠道 株式会社シルバーウッド 代表取締役
一般社団法人高齢者住宅協会理事.高齢者住まい事業者団体連合会(高住連)幹事.2000年株式会社シルバーウッド社設立.薄板軽量形鋼造構造躯体システム開発.特許取得に成功. 同構造の躯体パネル販売開始. 2011年直轄運営によるサービス付き高齢者向け住宅「銀木犀」を開設. 12棟の高齢者住宅の経営を行う. 2016年VR認知症体験会を開始.全国延べ65.000人を動員. 著書:「もう点滴はいらない」(ヒポサイエンス出版)

 

高山義浩
沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科 副部長
沖縄県保健医療部地域保健課 主幹
厚生労働省医政局地域医療計画課 技術参与
日本医師会総合政策研究機構 非常勤研究員
地域医療から国際保健、臨床から行政まで、まとまりなく活動。行政では、厚生労働省においてパンデミックに対応する医療体制の構築に取り組んだほか、少子高齢社会に対応する地域医療構想の策定支援などに従事してきた。臨床では、感染症を一応の専門としており、地域では、在宅医として地域包括ケアの連携推進にも取り組んでいる。著書に『アジアスケッチ 目撃される文明・宗教・民族』(白馬社、2001年)、『地域医療と暮らしのゆくえ 超高齢社会をともに生きる』(医学書院、2016年)、『高齢者の暮らしを守る 在宅・感染症診療』(日本医事新報社、2020年)など。

開催概要

日時:2020年7月23日(木) 19:00~21:00
場所:オンライン(Zoom配信)

一部の写真は、Yoshihiro Megaにご提供いただきました。

この記事を書いた人

森近 恵梨子

森近 恵梨子Eriko Morichika

株式会社Blanketライター/プロジェクトマネージャー/社会福祉士/介護福祉士/介護支援専門員

介護深堀り工事現場監督(自称)。正真正銘の介護オタク。温泉が湧き出るまで、介護を深く掘り続けます。
フリーランス 介護職員&ライター&講師。

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