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イベントレポート

“制度を超えた創意工夫”の先に、新たなニーズと制度が生まれる。ー台湾とタイに学ぶ、福祉人材の「量の確保」の方策ー(PRESENT_17 高山 義浩 後編)

これからの超高齢社会では社会保障費が増大していく一方で、国家財政が限界に来ることが目に見えている。医療・介護を受けられない人が増えていく可能性が高い。だから、本当に改革を急がないといけない。

PRESENT_17のゲストで登壇いただいた沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科 医長 高山 義浩さんは、医療・介護現場の改革の重要性を力説されます。

これから日本社会が迎える“多死社会”において、地域の医療・介護に何が望まれるのでしょうか。レポート後半では、街づくり、介護保険制度など、より大きな視点から、「多死社会」のあり方を考察していきます。

人口減少・経済縮減の社会、せまる国家財政の限界。

2025年には、団塊の世代が一斉に後期高齢者となり、超高齢社会を迎えていくとともに、少子化も進み、労働者人口が減少していきます。高齢者を支えるはずの若い世代の人口が減少していくので、介護の担い手が不足するという問題に直面します。

さらにお金の問題もあります。社会保障費を負担する現役世代(労働者人口)の減少は、社会保障制度そのものが、持続可能なのかという懸念も生みます。

社会保障費については、“出ていくお金”が増えるのに、“入ってくるお金”は減っていきます。高齢者が増えるので、医療や介護にお金がかかる一方で、現役世代が減ってしまうため、税金や保険料は減少していくためです。

2017年に年間120兆円の社会保障給付費(患者や高齢者などの医療や介護に使われる公共のお金)が、2025年には年間148兆円にになると推計されています。28兆円増加するということです。

2019年10月から消費税が10%になり、税収が約5兆円増えると見込まれていますが、増額した5兆円から借金の返済や子育て支援にも使われるため、社会保障に充てられる増額分は1兆円に過ぎません。社会保障給付費が28兆円増えるのに対して、消費税による税収は1兆円しか増えない訳ですから、全く足りません。

では公共事業を削減すればいいのか。日本の公共事業は年間6兆円。文科省の年間予算は5兆円。外務省は6千億円ぐらい。どこを削っても、社会保障給付費を補うには足りないのです。

まずは皆さんにも、このままでは無理なんだということに気づいて欲しいんです。

これからの介護は“質より量”?

国家財政が限界を迎える前に、高山さんは、医療・介護のあり方を変えていくべきと主張されます。

医療・介護業界は圧倒的に増えるニーズに対して、どうやって対処していくのか。

これからは、サービスの質以上に、量の確保がとても重要なんです。 人口減少・高齢化でマンパワーが足りなくなるので、AI・ロボットの活用に加え、外国人労働者を多く受け入れることも選択肢です。2016年に日本人の人口は31万人減少していますが、日本に在住する外国人は17万6千人増えています。外国人労働者受入の議論がされていますが、実はすでに、日本は人口減少の補填を、外国人を入れることで行っているんです。コンビニなどでは、既に外国人労働者が多く入ってるのを感じている方も多いと思います。

「量の確保」のための事例①:台湾の外国人人材の受入

事例として、外国人介護人材の受入を進めてきた台湾のケースを紹介して下さいました。

台湾は深刻な人材不足の問題に直面し、1989年から外国人労働者の登用を進めてきました。最近はやはり高齢化の問題があり、介護分野の人材登用を加速させており、9割がインドネシア人だそうです。インドネシア人は勉強熱心で、もちろん台湾語は話せないまま台湾に来るのですが、2年もすると台湾語を話せるようになるので、重宝されているようです。

ただ、台湾の介護の現場では、雇入先の家庭で外国人労働者が差別されたり、ひどい扱いを受けたりする人権問題もあったようです。そこで、台湾では、彼らを保護するため、外国人介護者が離職後3か月は、その家庭は外国人介護者を入れることができないような制度をつくりました。このような仕組みを作ることで、迎える側が、外国人介護人材を大切にするように仕向けたのです。

日本でもこういった問題が起きる危険性があります。医療介護に携わる人の中には、残念ながらまだ “人をコントロールする”ということを当たり前とする認識を持っていたり、医者>看護>介護のような上下関係的な感覚を持っている人もいます。そのような中で、「ヒエラルキーの最下層」として、外国人人材がひどい扱いを受けてしまわないか心配でもあります。

高山さんのお話になった台湾のケース、外国人介護人材を迎えていく大きなヒントになりそうです。これから医療・介護の現場は、しっかりと「量の確保」を進めていくためにも、外国人人材を丁寧に受け入れていく仕組みをつくることが求められています。

「量の確保」のための事例②:タイのケース

外国人人材の受け入れを進めている台湾のほかにも、「量の確保」について参考となるケースとして、タイの地域医療の取組を紹介いただきました。

タイにナーン県という山岳地帯の県があります。

ここの地域医療がとても面白いんです。 “家庭的な雰囲気が必要だ”という方針のもと、病院の職員は一緒に食事を取り、当直はなんと家族連れです。子供たちはお義父さんもお母さんもいて、優しい看護師さんが一緒に遊んでくれる当直を楽しみにしています。

また、病院以外に地域に近い医療介護の施設としてヘルスセンターというものがあり、「ヘルスボランティア」という人たちが介護業務にあたっていて、日常の介護や看護、さらに看取りも行います。タイの地域医療、介護を支えているのは、ヘルスボランティアであり、タイではヘルスボランティアの希望者がとても多いのです。

介護職不足が問題になっている日本では考えられない状況です。どのような秘密があるのでしょうか。

ヘルスボランティアは、交通費程度しか出ないですが有償です。また、ヘルスボランティアを一定期間やると、公務員になれるのです。教育のない方にとって、公務員への登竜門なんですね。そしてタイではヘルスボランティアの支援・育成にもとても力を入れています。

ヘルスボランティアになる相応のメリットを設けることで人が集まるのですね。そして彼らを支える支援も充実しているから、介護の担い手の“量の確保”に成功しているようです。日本でも介護士になることにもっとメリットがあれば、希望者が増えるのでしょうか。

自らニーズを掘り起こし、“財源”は自分たちでつくる。

もう一つタイの事例を紹介します。

タイでは虫よけにタバコを吸いながら農作業をする人が多く、そのために呼吸器に問題を抱える人が増えました。そうなると100台もの在宅酸素の機械が必要になった。しかし機械の購入・維持には莫大な費用がかかります。

そこで、透析バッグをリサイクルしてトートバッグを作り、その売り上げを購入資金にするというアイディアが生まれ、病院だけでなく、地域住民も協力しながら行ったそうです。このバックが純収益600万円相当となる大ヒットになりました。そしてこの収益で在宅酸素の機械や喀痰吸引機を調達し、地域住民に配布したのです。この関係性が素晴らしいと思います。

介護や医療はニーズのあるところに生まれるのであり、診療報酬、介護報酬のつく所に生まれるものではありません。制度というのは後から付いてくるのです。

「介護報酬や診療報酬が出ないからできない」と考えているだけでは、何も変わりません。自分たちで地域のニーズを掘り起こしていき、ニーズが明らかになれば、国や自治体、厚生労働省もニーズに対して報酬もつけてくれる。そうして新たな制度ができていく。地域の介護や医療とはそういうものではないでしょうか。

「制度がないからできない」と嘆くだけではななく、地域の中で“本当に求められているニーズ”を引き出し、地域住民と一緒になって創意工夫をすること。それが、これからの医療・介護に関わる私たちが考えていくべきことなのかもしれません。

高齢者自身が“どうしたいのか、なにが必要なのか”これに真摯に向き合い続け、“自分たちに何ができるのか、“自分たち以外にもそれを助けてくれる人がいるのか”を模索し、高齢者に応えていくこと。納得のいく最期を迎えていただくには、これを続けるしかないのだと思います。

“制度を超えた創意工夫”の先に、新たなニーズと制度が生まれる。そのような良い循環が産まれるようにしていかないと、これからの日本の「多死社会」は乗り越えていけないと思います。

高山さんから、とても多くの学びをプレゼントしていただける機会となりました。ここで得た気づきや学びを、私も介護の現場や教育の場で活かしていきたいと思います。


ゲストプロフィール

高山 義浩(Yoshihiro Takayama)

沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科 医長
群馬大学医学部非常勤講師、神戸大学医学部非常勤講師
琉球大学医学部非常勤講師、日本医師会総合政策研究機構非常勤研究員、
沖縄県地域包括ケアシステム推進会議医療介護連携部会長、うるま市高齢者福祉計画策定委員会委員。

沖縄県立中部病院に地域ケア科を立ち上げ、退院患者のフォローアップ訪問や在宅緩和ケアを開始。その後、厚生労働省医政局地域医療計画課において高齢化を含めた日本の社会構造の変化に対応する地域医療構想の策定支援に取り組む。現在は、ふたたび沖縄県立中部病院に戻り、在宅緩和ケアと地域包括ケアシステムの連携推進に取り組んでいる。

開催概要

日時:2018年11月23日(金・祝)

会場:神楽坂Human Capital Studio

PRESENTについて

2025年に向け、私たちは何を学び、どんな力を身につけ、どんな姿で迎えたいか。そんな問いから生まれた”欲張りな学びの場”「PRESENT」。

「live in the present(今を生きる)」という私たちの意志のもと、私たちが私たちなりに日本の未来を考え、学びたいテーマをもとに素敵な講師をお招きし、一緒に考え対話し繋がるご褒美(プレゼント)のような学びの場です。

次回開催概要

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PRESENT_21 馬場拓也
福祉の解放を目指して。従来型の特養が変わり始めた小さな革命とは?
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日時:2019年9月 29日(日)18:30~21:30(開場18:00)

会場:株式会社リジョブ 本社オフィス

住所:東京都豊島区東池袋三丁目1番1号 サンシャイン60 47階

アクセス:東池袋駅(東京メトロ有楽町線) 徒歩約3分
池袋駅(JR・東京メトロ・西武線・東武線) 徒歩約8分
東池袋四丁目停留所(都電荒川線) 徒歩約4分

定員:80名

参加費:
一般:4000円(飲食代込み)
学割:3000円(10代‐20代の学生の方限定)

お申込み方法:Peatixよりお願い致します。


写真撮影


近藤 浩紀/Hiroki Kondo
HIROKI KONDO PHOTOGRAPHY

この記事を書いた人

前川 武嗣

前川 武嗣Takeshi Maekawa

訪問介護、介護老人保健施設、有料老人ホームなどで高齢者介護に関わってきた。介護職、介護リーダー、サービス提供責任者、施設管理マネージャー、生活相談員、初任者研修講師を経験。今後の高齢者介護に幅広く関わりたくKAIGO LEADERSに参加。

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