MAGAZINE 読みもの

click me!
インタビュー

高齢者だけを集めても、地域課題は解決しない。「つながり」と「助け合い」でよりよい地域を描くケアメイトの挑戦。

学生の目線で、介護の可能性を“もっと”を探るand more project

まずは自分たちが、介護のことをもっと知ろう。
そんな想いで、介護サービスの様々な形を探ることにしました。

サービス付き高齢者向け住宅『銀木犀』では、日々の暮らしを支えると共に、人生の最期の時に向き合う、看取りケアについて学びました。(銀木犀取材の記事はこちら

訪問介護サービスを手掛ける『でぃぐにてぃ』では、地域に根ざして ご利用者さま一人ひとりに向き合いながら、お一人おひとりの「自宅での暮らし」を支える熱い想いを伺いました。(でぃぐにてぃ取材記事はこちら

そして、これから更に高齢化が進むにつれ、地域での繋がり、助け合いが大切になっていくという思いから、 「地域に根ざして介護事業を展開されている事業所の方にもっとお話を伺いたい!」との思いで、東京、品川エリアを中心に訪問介護や小規模多機能居宅介護などを展開する株式会社ケアメイトの皆さんにお話を伺うことになりました。
学生の目線で、地域の様々な世代・立場の方の暮らしを支える福祉サービスをもっと知り、その可能性を探っていきたいと思います。

ケアメイトについて

ケアメイト理念:ケアメイト理念:『ずっと、我が家で。明日も、この街で。』

ケアメイトは、
・在宅サービスに特化
・城南エリアに特化
・真の地域密着の追求を通じた社会的企業

の3つのビジョンを掲げ、東京・城南エリアで在宅介護サービス、配食サービス、地域保育サービスを提供している会社です。

これらの思いをさらに推進していくべく、2017年8月には「配食事業」をスタート、2018年1月にはこれまでの在宅介護サービスに加え、事業所内保育所が一体となった在宅ケア&多世代交流拠点「けめともの家・西大井」を開所。乳児から高齢者まで多世代にわたってお互いさまの地域づくりを進めています。

お話を伺った人:板井 佑介さん 株式会社ケアメイト代表取締役

早稲田大学商学部卒。安田生命を経て、父の死を受け、在宅介護会社を継承。小規模多機能事業や新卒採用を開始する等業容拡大。社会福祉士の勉強をきっかけに地域福祉に強い関心を抱き、多世代交流プロジェクト「けめカフェ」を開始。町会役員や国勢調査員等、地域密着な生き方を模索中。

異分野から飛び込んで見えた「地域」の課題。

ひびき
ひびき
本日はよろしくお願いいたします!
こちらこそ、お願いします。
板井さん
板井さん
ひびき
ひびき
ケアメイトは、かなり歴史が古い事業所だとお聞きしました。

そうなんです。ケアメイトは元々、看護師であった私の祖母が60年前くらいに立てた会社で家政婦紹介所でした。祖母の死後は、父が引き継いで運営をしていました。
板井さん
板井さん

ひびき
ひびき
板井さんはもともと大学で介護を専門に勉強されていたわけではないんですよね?

 

そうなんです。僕はもともと大学の商学部を卒業して、保険会社に入ったんです。仕事への不満などは特になく、そのまま頑張っていこうと思っていましたが、父親が他界して、後を継ぐ人もいなかったんです。そこで長男だった僕が継ぐことになりました。
板井さん
板井さん

ひびき
ひびき
全くの異分野から、介護の業界に入られたのですね。当時は、介護・福祉に関心を持っていらっしゃった訳ではなかったのですか?

正直、入り口の段階では福祉の志のようなものはなかったです。

右も左もわからない状態だったので、最初は現場を経験しながら、社会福祉士の資格を取りました。勉強をする過程で、「地域福祉」という科目があることを知ったのですが、地域福祉という考えとの出会いが、その後の僕の介護への向き合い方を大きく変えました。

板井さん
板井さん

ひびき
ひびき
「地域福祉」が、どのように板井さんの介護・福祉の考えを変化させたのですか?

社会福祉士の資格を取るために、高齢者、障害者、児童など、それぞれの対象(人)に合わせた福祉の科目を学ぶ必要があるけれども、地域はその対象になかったんです。そこに強烈な違和感を覚えました。

当たり前ですけど、高齢者だけ、障害者だけの町なんてものはなく、いろんな人が一緒の街に住んでいる。それが地域です。でも実際はつながりが薄い。そんなことが気になり始めたんです。

板井さん
板井さん

ひびき
ひびき
なるほど。大学などで福祉を専門的に学んだ場合、専門領域に特化するのが当たり前になって、特に疑問を持たずにスルーしてしまうこともあると思います。
板井さんは一度他業界で経験を積んでいるからこそ、福祉の領域が分断されていることに違和感を持たれたのかもしれませんね。

 

遠くを見れば見るほど、足元が見えなくなる。経営の危機とそこから得た教訓。

ひびき
ひびき
お父様から経営を引き継いだ後は、ケアメイトの事業運営は順調だったのでしょうか?

引継ぎ当初、3~4年くらいは特に問題はありませんでした。職員も定着し、業績も伸びていましたから。ただ、段々と歯車が噛み合わなくなっていきました。当時の私の右腕とも言える人がやめてしまったり…。

今振り返ると、自分の至らなさがあったと思います。自分を高めようと思っていなかったんですね。今だから言えるけど、当時は本当に厳しかったです。一生懸命やっているけど、誰にも分かってもらえないというか。

板井さん
板井さん

ひびき
ひびき
そこから、どのように立ち直ったのでしょうか?

うーん…。立ち直りの鍵となったのは、やはり 「地域福祉」への帰還だったと思います。今から振り返ると、当時の私は事業を拡大することばかりを念頭に置いて経営をしていたように思います。
板井さん
板井さん

ひびき
ひびき
ケアメイトは主に東京の城南エリア(品川区、目黒区、大田区あたり)に特化して事業展開をしていますよね。都内の別の地域へ進出しないのも、そこで出会った地域福祉の観点が頭にあったからでしょうか?

そのとおりです。遠くを見れば見るほど、足元が見えなくなるんですね。
板井さん
板井さん

法人の存在意義は、「地域の人の暮らしを支える」ということだからこそ、徹底的にその地域を見る。もし事業を多エリアに展開していくと、地域への愛着が薄れていってしまうと思うんです。

これはもちろん全国やグローバルで展開されている事業のことを否定しているものではないです。どちらが良い悪い、ということではなく、両者それぞれに役割があるということだと思います。

板井さん
板井さん

ひびき
ひびき
たしかにそうですね。高度経済成長の観点からは、ひたすらビジネスを拡大していくことが目的の一つとしてあったかもしれませんが、高齢化が進展し、成熟化した日本では、様々な局面で拡大が是となるとは限らないですよね。

 

『無駄』のある介護が、人を「活かす」。

ひびき
ひびき
様々な課題が累積している介護業界ですが、板井さんが最も課題だと感じていることってなんでしょうか?

そうですね…。やはり人手不足でしょうか。ただこれは介護業界だけの課題ではなく、社会全体の問題とも言えると思います。
板井さん
板井さん

先ほどひびきさんが指摘してくれたように、成熟化した日本社会では、これから人口がどんどん減少していきます。その中で、ロボットなどテクノロジーが解決策になると期待されていますよね。
板井さん
板井さん

ひびき
ひびき
そうですね。

たしかにそれが解決手段の一つになるかもしれないし、ゆくゆくはそうせざるを得ないでしょう。日々の業務の無駄が省かれ、自動化が進んで効率化すること自体には私も賛成です。でも、介護にそれを適用するのは、ちょっとどうなのだろうと思うんですよ。
板井さん
板井さん

介護は高齢者の方の日常の「生活」を支えるのが仕事の大きな部分を占めますよね。生活という字は「生きる」と「活かす」という漢字が組み合わさってできています。
「生きる」だけを支えるなら、ロボットでも効率的にできるのかもしれないけど、「活かす」の方は、やはり人でしかできないのかなと思うんです。
板井さん
板井さん

ひびき
ひびき
なるほど。「活かす」を考える上で何が大切になるのでしょうか?

一言でいうと、「無駄」だと思います。
板井さん
板井さん

ひびき
ひびき
「無駄」、ですか。

ひびきさんも、例えば友達と話すときに、一切の無駄もなく、すごいテンポよく効率的に話され続けられたら、どのように感じますか?
板井さん
板井さん

ひびき
ひびき
「うっ…! 」ってなっちゃいますね(笑)

 

いい表現ですね(笑) 言葉では表しづらいけど、なんだか息が詰まっちゃうんですよね。
板井さん
板井さん

ひびき
ひびき
おっしゃることは理解できました。なるほど、「無駄」のある介護をするには余裕のある人員の配置が不可欠、その観点から人手不足を一番の課題に挙げられたということですね。

そのとおりです。
板井さん
板井さん

ひびき
ひびき
政府も介護分野を喫緊の課題と捉え、介護人材不足の状況を発信してはいますが、その数はあくまで高齢者の「生」を支える数字で、「活」を支えるためには更に多くのサポートが必要ということですね。

そうなんです。
板井さん
板井さん

ひびき
ひびき
改めて、状況は深刻ですね…。この状況の中で、私達一人ひとりが考えるべきは何になるのでしょうか?

状況をもっとマクロ的に捉えることだと思います。少子高齢化社会が自分の生活・将来にとってどういう影響を及ぼすのかということを考えている人は、ほとんどいないと思います。
板井さん
板井さん

例えば、人手不足を理由に、介護施設への入居を拒否されてしまったらどうするか。それが自分の親や家族に起こると考えれば、大変なことだと思いますよね。でもそれを介護業界だけの問題と捉えてしまうと、「私はそこで働いていないから」、「まだ元気だから」と、関係ないと考える人が大量に生まれてしまう。
板井さん
板井さん

ひびき
ひびき
頭では高齢化の状況をわかっていても、どこか他人事になってしまいますよね…。
私の周りでも、「動けなくなったら施設に行けばよい」と言っている高齢者の方がいらっしゃいましたが、その空気感を変えていかないといけないんですね。

そうなんです。メディアでここまで高齢化が叫ばれているので、みんな課題意識は持っていると思うんです。でも、大変だ大変だと煽るばかりで、建設的な議論が行われなかった結果、今があるわけです。
ただ当たり前ですけど、みんないつかは高齢者になります。だから、 高齢化の問題を考えることは、自分のことを考えることと同じなんですよね。
板井さん
板井さん

 


おじいちゃん・おばあちゃんだけを集めても、助け合いは生まれない。

ひびき
ひびき
インタビューに伺う前、ケアメイトがなぜ東京の城南エリアという都市部で、地域やコミュニティを大きな柱においているのかピンときていませんでした。私のイメージだと、地域に根ざした介護をおこなっているのはどちらかというと地方に多いと思っていたんです。ですが、ここまで色々とお話を伺ってきて、その理由がわかりました。ここからは「地域×福祉」の観点から、色々と伺っていきたいと思います。

ひびき
ひびき
「地域✕福祉」で、現在動いているプロジェクトはありますか?

地域の人との接点を広げるために、品川で子ども食堂をはじめました。

地域のたまり場をつくることで、色々な人がいることを知ることができました。何か自分の興味のある事であれば手伝ってくれる人がいる。そういった関係性ができていくことが、大きな一歩につながると思います。

板井さん
板井さん

あと、国勢調査員もはじめたんです。その過程で、いろいろな地域住民と話すのですが、そこで若者世代から高齢者世代までの要望や悩みが見えてくるんです。
そういった情報は、介護事業をやっているだけではどうしても見落としてしまいがちなのですが、生活の地べたで感じつつ、地域の高齢者が困っていることがどんなものか、気づくことができます。
板井さん
板井さん

ひびき
ひびき
なるほど。

あとは、”けめカフェ”っていうのもやっています。
板井さん
板井さん

ひびき
ひびき
カフェ、ですか?

そう。ただ、カフェといっても、これも地域の人の接点をつなげることが最終的な目標です。例えば、家で一人スポーツ中継を見てもつまらないからと、おじいちゃんが来たり、子供のいない夫婦がふらっと着て、子育てしている人がきて、子供と遊んだり、とか。

その中で、自然と会話が生まれるんですよ。こういう 地域の方々の自然な会話が積み重なっていった先に、何かが生まれるのではないかなと思うんです。

板井さん
板井さん

ひびき
ひびき
介護のコミュニティというと、高齢者に着目しているのかと考えていましたが、かなり多世代の交流を重視していらっしゃいますね。多世代交流に着目した理由を聞かせてください。

地域福祉を学ぶ中で、地域でのつながりが少なく困っている高齢者も多いと知りました。ですが、 繋がりの希薄化は高齢者に限らず、日常のあらゆるところで見られます。
板井さん
板井さん

例えば、子どもへの虐待や貧困問題など。子どもへの虐待のうち、閉じ込められた世界でエスカレートしてしまうものも多いと思います。虐待をしている親も、子供が憎い訳ではなく、子育てをしていてイラっとする瞬間が積み重なったときについ手が出てしまうことがあるんだと思います。
板井さん
板井さん

ひびき
ひびき
なるほど、たしかに狭い関係に閉じ込めてしまうと、いくら家族とはいえ煮詰まってしまいますよね…。

そうなんですよ。繋がりの希薄化を、多世代に渡ってつなげることで、解決につながるのではないかと思ったのが「多世代」を考える始まりでした。

おじいちゃん・おばあちゃんだけを集めても助け合いは生まれないんですよ。なぜなら、同じ環境の人は同じことで困っているから。 でも、全然違う人がいると、「ここは困っているけど、これは助けられる」という助け合いにつながる。出来ることが見えると役割認識ができる。それが大切なんだと思います。

板井さん
板井さん

 

役に立とうとしなくてよい。人とのつながりが、新しい何かがはじまるスイッチになる。

ひびき
ひびき
板井さんのお話を聞いていて、板井さんやケアメイト側から行動を起こすというよりは、地域の方が行動を起こすことを、“そっと見つめる”という立ち位置にいるように感じます。これは意図的に決めているのでしょうか?

ゴールはあえておいていないですね。なぜかというと、ゴールを決めてしまうと、結果的にそのゴールへ誘導してしまうような形になってしまいがちですが、そうはしたくないんです。

「多世代交流をしたい」という想いはあるけど、ここに集まる地域の人たちは、多世代交流をしたくて来るわけでないんです。誰かと話したかったり、スポーツ観戦をしたかったりとか。そういった普遍性が大事で、 「多世代交流をしましょう」とか「地域社会の高齢化がどうこう」なんて、専門性を振りかざしてやっても、人は集まらないんです。

何か「いいな」と思うものがあり、人が集まってきて仲良くなって、そのうちちょっとずつそんなテーマについても、みんなで一緒に考えられるとよいなと思います。そのなにげないスイッチ、入り口を作ることが僕らの役目だと思います。

板井さん
板井さん

ひびき
ひびき
なるほど。実は私の住む地域にも多世代が交流する場はあるのですが、なんというか、参加するまでのハードルが高いように感じてしまうんですよね。
オンラインのゆるいつながりに慣れすぎてしまったからかもしれませんが…。

そうなんですか?僕からしたら、今の学生のコミュニケーション能力ってすごいなと思うんですよ。フラットに交流ができるのに、自分たちと同じ感覚で関わってよいのかわからず、怖気づいてしまうんでしょうね。
板井さん
板井さん

ひびき
ひびき
お互いがモジモジ状態なんですよね。

多分話し始めればスムーズに交流はできるんじゃないかなと思います。
例えば、ケアメイトに学生さんが遊びに来てくれた時、ぼくは「できること」より、「やったことがないこと」をやってみて欲しいといつも思っています。例えば赤ちゃんを抱っこしてみるとか、認知症の人を目の前に佇んでみるとか。

今の学生はとっても優しい人が多く、「自分にも役に立てることはないか」と考えてしまうと思うんです。その姿勢は素晴らしいと思いますが、いきなり来てできることなんて、もともとなくて当たり前なんです。

そう、 ただそこにいるだけで、それだけで十分なんです。
「何かしよう」と「役立とう」と思うよりも、ただそこにいて、やったことないことを体験してもらうことで、新しい何かが見えてくるのではないですかね。

板井さん
板井さん


編集後記

『無駄』のある介護が、人を「活かす」という言葉が印象的でした。

来る大介護時代への危機感から、政府やメディアは「◯年後には◯万人の介護人材が不足する」、と声高に叫びます。ですが、その人が尊厳を持って最期の瞬間を生きるために、無駄・余裕のある介護をするためには、今公表されている数字で本当に十分なのでしょうか。

そう考えると、人手不足の深刻さはより一層喫緊の課題であると思います。そして、この課題を考える一つのヒントが”地域”であると、板井さんのお話から強く感じました。理想の介護を実現するために、私たちは何をするべきなのか。ずっと考え続けていきたいと思います。

最後になりましたが、お忙しいところお時間をいただきまして、本当にありがとうございました!

 

————————————–————————————–——
取材記①:高齢者だけを集めても、地域課題は解決しない。「つながり」と「助け合い」でよりよい地域を描くケアメイトの挑戦。
取材記②:介護が必要な人、介護する人を自宅で支える。在宅介護ってどんな仕事?

 

 


この記事を書いた人・取材をした人

記事を書いた人:
佐々木 涼悟 Ryogo Sasaki

KAIGO LEADERS学生チーム/株式会社Blanket インターンメンバー
祖母との同居を通して、介護に興味を持ちました。

お話を伺った人:
吉田 響 Hibiki Yoshida

この記事のタグ