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インタビュー

「銀木犀のやり方も、もしかしたら間違っているかもしれない」 〜所長として、介護福祉士として、銀木犀を支える大下さんの想い〜

学生の目線で、介護の可能性を“もっと”探るand more project

介護の様々な形を知りたいと、サービス付き高齢者向け住宅「銀木犀」に伺いました。

過去2回は、下河原忠道さん(シルバーウッド・代表取締役)から終末期などについてお話を伺った私たち。

今回は、銀木犀<船橋夏見>の所長、下誠人さにお話しを伺います。

銀木犀で働くのはどんな人?

銀木犀にインタビューさせていただくことが決まったとき、下河原さんと同じくらいお話を伺ってみたい方がいました。それは、現場のスタッフの方

なぜなら、銀木犀について調べてみても、出てくるのは下河原さんのインタビューばかりだったから。これだけ注目されている方のもとで働いている人たちは、どんな人なんだろう。介護職としてベテラン、プロ的な人が多いんだろうか。どんな思いで働かれているんだろうか。

そんなことが気になって、銀木犀<船橋夏見>で所長として働かれている、大下さんにインタビューをさせていただきました。

大下誠人さん(銀木犀<船橋夏見>所長 介護福祉士)

介護の現場に、理論上失敗はない

ひびき
ひびき
本日はよろしくお願いします!まずは簡単に自己紹介をお願いできますでしょうか?

よろしくお願いします。銀木犀<船橋夏見>で所長をやっております、大下と申します。
所長と言っても、偉そうに座ってるだけじゃなくて、介護福祉士として現場に出たりすることも多いです。銀木犀に入社してから今年で8年目になります。
大下さん
大下さん

ひびき
ひびき
ありがとうございます!
8年目ということは、銀木犀の立ち上げから携わっていたということですね。もともと介護業界に興味を持っていたのでしょうか?

正直なところ、介護には全くといっていいほど興味はなかったんです。(笑) 
もともと最初のキャリアは建設業界だし。
大下さん
大下さん

さてぃー
さてぃー
そうだったんですか。介護のキャリアが長かったので、最初から興味があったのかと思ってました。

ただ、シルバーウッドに入社するより前の、2006年ごろからシルバーウッド代表の下河原のことは知っていました。
で、ある時下河原から「これから高齢者住宅事業に参入していきたいんだけど、興味あるか?」というお話をいただいて、なぜかそこで「あります!」と即答してしまいました。(笑)
大下さん
大下さん

ささっきー
ささっきー
どうして飛び込めたのでしょうか?

元々、「明確なキャリアプランを描いてても、変わるときは変わる」と思ってたんですよね。あとは、大学に行ってもやりたいことがないと思ったので、高校卒業してすぐに就職しました。私の判断基準では、「何」をするというより、「誰」とするかのほうが大事だった。
大下さん
大下さん

下河原のことは、面白い考えをする人だと前々から思っていて、それで、介護について全然知らなかったけど、「興味あります」といいました。その後、1年ほどして銀木犀の鎌ヶ谷ができてという感じですね。
大下さん
大下さん

明確なキャリアプランを立てていても、変わるときは変わる。
これからの長い人生の中で、無限にも思える選択肢の前で右往左往していた私たちにとって、なんだか救われる言葉でした。どうしてもたった一つの正解を求めてしまいがちですが、もっと楽に考えてもいいのかもしれませんね。

あくまで “家” だから…

りく
りく
ありきたりな質問ですが、銀木犀で働く中で印象に残ったエピソードはありますか?

うーん…。
たくさんあるけど、強いて挙げるとすれば、最近看取らせてもらった入居者さんのお部屋で、入居者さんのお孫さんと夜中の3時までビールを飲んだことですかね。(笑)
大下さん
大下さん

りく
りく
銀木犀の中でですか?

そうです。たしか100歳、101歳くらいだったかな。「もうそろそろかも」という状況だったので、頻繁にご家族さんが来られていました。その日は、1回家に帰って夜に担当者から「もう呼吸が確認できない」と連絡があって、現場に行きました。 
大下さん
大下さん

ささっきー
ささっきー
そうだったんですね。

わたしたちが何か特別なことができるというわけではなかったのですが、自然な形で最期を迎えることができました。それで、お孫さんが「ビール買ってきたので飲みましょう」とおっしゃられて、一緒に3時間ぐらい飲んでました。(笑)
過ごされていた部屋で、ベッドに本人がいる中で。
大下さん
大下さん

ひびき
ひびき
ご本人がベッドにいたんですか。想像したら、なかなかすごいですね。

さてぃー
さてぃー
そんな経験はなかなかできないですよね。その方の自然な流れの死というのはどのような感じだったのですか?

だんだん食べることができなくなっていって、意思の疎通や意識もだんだん緩やかに薄れていって、最期は、すーっと息を引き取られる感じでした。
大下さん
大下さん

りく
りく
そうなんですね。そうやって最期をむかえられた後は、スタッフやご家族の方はどういう過ごし方をされるのですか?

それは入居者さんによりますね。銀木犀は、あくまで「家」なので、入居者さんとその家族に寄り添うという感じです。
大下さん
大下さん

なるほど。

恋する豚研究所(銀木犀に併設されているレストラン)で働いてくださっている入居者の方がいらっしゃるんですよ。週3回、5~6時間くらいのペースかな。
「介護をする、される」という以前に「一緒に生活をする家族」のような感覚を持てるのは単純に嬉しいです。小さな嬉しさは、それこそ毎日のようにあります。
大下さん
大下さん

『あの方、昨日のことをかなり鮮明に覚えてたね』みたいな。
仕事で成果を出した、成績が良かった、という類のものとはちょっと違う、どちらかといえばプライベートで感じる嬉しさと似ている気がします。
大下さん
大下さん

 


(レストランの様子)

 


(インタビュー前に、ご好意でご馳走していただきました〜!本当にありがとうございました!)

介護の現場は、失敗だらけ。でも、必ず次の糧になる。

もう一つ、少し違った意味で印象に残ったことを思い出しました。
もうだいぶ前のことになるのですが、「銀木犀で最期を迎えたい」という考えを持って入居された方がいらっしゃったんです。
大下さん
大下さん
ささっきー
ささっきー
はい。

ある日、その方がデイサービスに行かれた時、たまたまそこで具合が悪くなってしまったようで、救急車で病院に運ばれたきり、戻ってこれなくなってしまったことがありました。
その方、病院が大嫌いだったから、ご家族とも何度も何度も話し合いをして、「戻ってきて大丈夫だ」って話をしていたんですが…。ご本人の容態も常に変わってしまうので、結局最終的にご家族も銀木犀に戻ってくることを諦めてしまった。
大下さん
大下さん

ひびき
ひびき
そんなことがあったんですね。

その時は心が折れかけましたね。どこまで関わったらいいのか、常にその葛藤みたいなものがあったり、急にわからなくなったりします。
大下さん
大下さん
さてぃー
さてぃー
なかなか難しいところですよね。

でも、最近はあんまり失敗を「失敗」と捉えないようにしてます。人と人との関わり合いは失敗が当たり前ですし、なにより答えがないですし。
大下さん
大下さん

だから、うまくまとめると『理論上失敗はない』ってことになるんですよ。(笑)
例え思うような状況にならなかったとしても、絶対に次への糧にはなります。
大下さん
大下さん

当たり前を疑う。相手の立場に立ってみる。

ひびき
ひびき
私、今介護施設でアルバイトしてるんですけど、勤め先の施設で大下さんのような柔軟な考えを持たれてる方はなかなかいらっしゃらないんですよね…。
大下さんは、どうしてそんな考えを持てるようになったのでしょうか?

うーん、そうですね…。
1つ言えるとすれば、私がたまたま全くの異業種からこの業界に入って、しかもそれがいきなり銀木犀だったことが良かったのかもしれません。他の施設で働いていたら、おそらく今のような価値観には育たなかったでしょうね。
大下さん
大下さん

ひびき
ひびき
なるほど。

この業界で働き始めてしばらくしてから、他の介護現場のこと、また介護業界全体の厳しい実態がわかってきました。
そんな中でも自分たちの大切にしたい想いからブレないするため、ずっと大切にしてきた考えが2つほどあります。
大下さん
大下さん

まず一つ目が、「当たり前を疑う」ということ。
大下さん
大下さん

ささっきー
ささっきー
当たり前を疑う。

あともう1つは、「自分が同じことを言われたら、どう思うかを考えて接する」ということ。
大下さん
大下さん

りく
りく
自分が同じことを言われたら…?

うーん…。
例えば、君たちが足を骨折したとして、片足でトイレに行こうとしたと想像してみて。
大下さん
大下さん

ささっきー
ささっきー
はい。

そのときに家族から、
「さっき行ったばっかじゃん!」
「転んだら危ないから、まだ座ってて!洗い物が終わったら一緒に行ってあげるから!」
と言われたらどう思う?
大下さん
大下さん

ささっきー
ささっきー
正直、イラッとしますね。

さてぃー
さてぃー
「放っておいて」って思っちゃいます。(笑)

そうだよね。でも、それと同じことが介護現場では横行してしまっている。もちろん全ての施設ではないけどね。
大下さん
大下さん

りく
りく
職員の方も、その方のことを思って言ってくれていると思うのですが、その人が本来自分でできることまで取り上げてしまったら、それは尊厳を踏みにじることに他ならないと思います。

そうなんだよね。
年齢を重ねるごとに自分のことができなくなってしまった方だって、自分のできることは自分でやりたいんだよね。考えれば当然のことなんだけども。
大下さん
大下さん

ささっきー
ささっきー
挙げてくださった2つの考えは、介護に限らず、生きていく上で大切にすべき考えだと思います。

そうだね。
大下さん
大下さん

葛藤・苦しみを乗り越えると、介護は一気に面白くなる。

でもね、一方でそんな理想論ばっかり言っていられない気持ちも痛いほどわかる。
特に介護の分野に置いて「自由」を追求するのはとても難しいから。
大下さん
大下さん

例えば、ここの施設、日中は鍵が掛かってないんです。職員の付き添いなしで買い物に出かけるのも自由なんだよ。
大下さん
大下さん

さてぃー
さてぃー
え、反対に、日中鍵が締め切られた介護施設もあるってことですか?

ささっきー
ささっきー
僕が前働いていた施設は、日中も鍵は閉めっぱなしだったよ。

視察にきてくださった他の介護施設の方からも、「何かあったらどうするのか」と驚かれることがよくある。僕たちは、それがあるべき姿だと思っているから、今までその方針からブレずにやれてきた。
大下さん
大下さん

他にも、具体例をあげればキリがないけど、踏ん張らないといけないことはたくさんあるよ。
先進的な取り組みとして施設を取り上げてもらうことは多いけど、その裏ではちゃんとたくさん葛藤がある。
大下さん
大下さん

りく
りく
なるほど…

そんな感じで、大変なことも多々あるけど、希望もまたたくさんあるんだよ。
視察にきてくださる方々は、自分たちがやっている施設の運営、利用者との接し方を良い風に変えようと思ってくれていて、銀木犀のやり方を肯定的に捉えてくれる人がとても多い。
大下さん
大下さん

そしてもっと良いことに、その苦しさを一度乗り越えちゃうと、介護って一気に面白くなるんです。
うちの代表(下河原さん)はあんな感じだし、運営当初から根本の部分はブレずにやってきたから今があると思ってます。
大下さん
大下さん

「自由は難しい」。遠くからは、一見革新的なことを難なく実現されているように見えていましたが、インタビューをさせていただいて、その裏の苦労が垣間見えた瞬間でした。でも、それを乗り越えてこられた大下さんの表情はとても誇らしげに見えました。

 

 

介護に “絶対的な正しさ” なんてない。

ここまで好き勝手に話してきたけど、1つ誤解して欲しくないことがあるんです。
大下さん
大下さん

ひびき
ひびき
誤解して欲しくないこと…?

うん。それは、「銀木犀のやり方が絶対的に正しいとは限らない」ということ。

さっきも言ったけど、ありがたいことに銀木犀のやり方に賛同してくれる人、視察の申し入れをしてくれる団体はたくさんあって、君たちみたいに話を聞いてくれる。

大下さん
大下さん

でも、僕たちは、やり方云々の問題以前に、人手が足りなくてやりたい介護ができていない施設がたくさんあることも知っている。これは介護の仕組み上の問題でもあるんだけどね。

介護現場の皆さんは、自分の介護に誇りやプライドを持って、それぞれの持ち場で踏ん張っているんだよ。

大下さん
大下さん

ひびき
ひびき
そうですね。私も施設でアルバイトをする中で、それは痛いほど痛感します。

それが介護の面白さだったり、難しさだったりするんだけどね。例えば、これまで別の施設で長く働かれてきたんだけど、今まで自分がやってきた介護の仕方に疑問を持っていて、銀木犀で働いてきた方がいらっしゃって、今はのびのびと働いてくれている。
大下さん
大下さん

でもそれだって、前働いていた施設が全て悪い、ということではなくて、その施設でよかったこと、取り入れるべきこともたくさんある。
ただお褒めの言葉をもらうだけじゃなくて、適度に緊張感を持ちながら、他の施設の良い要素、銀木犀に足りない要素ももらいながら、一緒にレベルアップしていきたいなと思ってるよ。
大下さん
大下さん

「銀木犀だって間違ってるかもしれない。」
銀木犀の先進的な取り組みばかりに注目していた私たちにとって、目を覚ましてくれるような一言でした。そして、改めて介護の面白さを教えてくれる一言でした。

これから私たちも、介護の正解を求めず、たくさんの人たちの声を聞いていきたいと思います。
大下さん、お時間をとってお話をしてくださり、本当にありがとうございました!

次回予告

来週は、下河原さん、大下さんのお話を聞いて、今わたしたちが感じることをお届けします。
お楽しみに!

この記事を書いた人

佐々木 涼悟

佐々木 涼悟Ryogo Sasaki

中央大学法学部4年(休学中)KAIGO LEADERS TOKYO students team

祖母との同居をきっかけに、介護に興味を持ちました。

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