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イベントレポート

KAIGO LEADERS SCHOOLが開校!作家・岸田奈美さんと考える、言葉で伝える介護・福祉の魅力

介護・福祉業界では今、採用・定着の課題を背景に、「現場で働く人自身が魅力を発信する」動きが注目を集めています。介護労働安定センターが今年7月に発表した令和6年度「介護労働実態調査」によれば、介護職員等の令和6年度離職率は12.4%と最も低い水準を記録しました。

一方で、同調査では採用活動の実施状況のなかで、「事業所ホームページで自事業所のアピールポイントを求職者へ発信」が37.2%、「SNSを活用して自事業所のアピールポイントを求職者へ発信」が14.8%に留まっており、介護・福祉の魅力発信には、まだ大きな可能性が残されていることがわかります。

そうした背景を受け、KAIGO LEADERSが主導となり、介護・福祉に特化したコミュニティ型オンラインスクール「KAIGO LEADERS SCHOOL」が開校しました。「介護の仕事の魅力発信」をテーマに、SNS・ライティング・場づくりという3つの講座に分かれ、介護・福祉現場のリアルや想いを届けるスキルを磨きます。

2025年10月5日(日)、開校初日にキックオフ講座が行われ、開校宣言とともに特別ゲストとして作家の岸田奈美さんを迎えた特別講演を実施。本記事では、当日のイベントレポートをお届けします。

「現場にある希望を、もっと届けたい」──KAIGO LEADERS SCHOOL開校への思い

10月5日(日)、都内の会場とオンラインには、これから約5ヶ月間にわたって学びを深める受講生たちが集まりました。受講生同士が初めて顔を合わせるこの日、会場には緊張感とともに、期待に満ちた空気が漂います。

まず、KAIGO LEADERS代表でKAIGO LEADERS SCHOOL校長の秋本より、開校宣言が行われました。

秋本:介護・福祉の現場には、やりがいや誇りがあふれているのに、それをまだまだ届けられていないのが実情です。そうした現場ならではの価値を知っているのは、この場にいるみなさん自身です。

秋本:今回KAIGO LEADERS SCHOOLとして、SNS、ライティング、場づくりの3講座を企画しました。KAIGO LEADERS SCHOOLには、全国から141名の受講生が集っています。各講座、素晴らしい講師陣をお迎えし、私自身が学びたいと思うぐらい最高の環境ができました。この機会を最大限に活用していただき、みなさん自身の可能性と、この仕事の可能性の花を、ともに咲かせていけたらと思います。

“嫌いじゃないこと”が、あなたの才能になる。作家・岸田奈美さんが語る「心を掴むストーリー」のつくり方

続いて、特別ゲストとして作家の岸田奈美さんが登壇。「『心を掴むストーリー』を紡ぐためのヒント」をテーマにした特別講演が行われました。

岸田さんは、車いすで生活する母、ダウン症の弟、認知症のある祖母と暮らし、家族との日々をメディアプラットフォームnoteで発信したことをきっかけに、現在は作家として活躍しています。著書にはドラマ化もされた『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』や『国道沿いで、だいじょうぶ100回』『もうあかんわ日記』『飽きっぽいから、愛っぽい』などがあります。

岸田さん:みなさんはじめまして。作家の岸田奈美です。今日は「『心を掴むストーリー』を紡ぐためのヒント」をお伝えするのですが、ふだんこうした講演をお受けすることがあまりなく……。私が発信するうえで心がけていることを散弾銃のようにお伝えするので(笑)、それぞれが「これは!」と感じたところを持ち帰っていただければと思います!

講演はまず、岸田さんが信頼する編集者さんから教わった言葉「才能は『好き』なことではなく、『嫌いではない』こと」との話から始まりました。

岸田さん:私も最初にこれを聞いたときは驚きました。だって、好きなことこそ才能だと思うじゃないですか。でも、好きなことは情熱を生む反面、好きゆえに傷ついたり、もどかしさを感じることもありますよね。だからこそ、好きではないけれど、自分がどんな状況であったとしてもできてしまうこと、つまり「嫌いではないこと」のほうが才能なんです。

岸田さんにとって「文章を書くこと」は、まさに「嫌いではない」こと。どんな状況でも書けてしまうからこそ、今の活動につながっていると言います。そのうえで、発信の目的は「感動を伝えること」だと話しました。

岸田さん:私は基本的に、自分が感動したことしか書かないようにしています。感動は、自分の心が動いたということです。自分が感動したことを伝えると、相手の感情も動くはずで、感情が動いたら行動も変わると思っていて。「人の感情を動かしたい」と思ったら、まずは自分自身が全身で感動することが大切なんですね。

では、感動したことをどう文章にするのか。岸田さんは「感情を書くこと」だと続けます。感情を書くとは、心が動いた瞬間を捉えること。いつ、どこで、何に、どうして心が動いたのかを具体的に書くことで、文章に深みが生まれます。

岸田さん:例えば映画を見たとき、どのシーンで、どの登場人物に何を思い、何を感じたのか、どうしてそう思ったのか。この「どうして」まで深ぼってほしいです。それはきっと、自分の過去や現在に呼応しているはずなんですよ。たとえば、初恋の人に似ていたからとか、自分も似たような経験があるからとか。「どうしてそう思ったのか」にそれぞれの個性が宿るので、結果として個性ある文章ができあがります。

講演の中では、言葉を書くうえでのヒントも紹介されました。とにかく人を観察し、観察できる場所に行くこと。誰かの代弁をせず、自分が感じた事実だけを書くこと。相手がどう思うか、周囲がどう思うかを気にせず自分が見たまま感じたままを書くこと。すると、文章に誠実さと個性が宿ると岸田さんは言います。

さらに岸田さんは、発信がもたらす3つのケアにも触れました。

岸田さん:日常の出来事や気づきを言葉にすることは、まず利用者へのケアにつながります。文章で利用者さんのことを書くことを想定すると、相手を観察して、想像して、尊重して、寄り添うことができる。恐らくみなさん、常に日常のなかでやっていると思うので蛇足かもしれませんが、利用者さんのケアにつながるんですね。

次に、一緒に働く仲間にとってのケアにもなりますよ。良さを発見して伝えることができるから。実は意外と、頑張っていることや、一生懸命していることって周りから気づかれにくい。だけど「文章」は相手にも見える形になるので、相手の自信につなげることができます。
最後に、自分へのケア。自分の感情を認めて、「私ってこういうことを考えていたんだ」「考えていたことを言葉にして伝えることができるんだ」って、そのことが自分の自信になります。だから発信していくことは、自分へのケアにもなります。

岸田さんの語りに、受講生たちは笑いながらも真剣に頷き、メモを取る姿も見られました。

あなたの届けたい「介護・福祉の魅力」を言葉にしよう

岸田さんの講演を受け、ワークショップ「あなたの届けたい介護の仕事の魅力を言語化しよう!」がスタート。まずは、自分自身の中にある「介護・福祉の魅力」を3つ書き出すことから始めます。

小さな声でつぶやくように書く人、ペンを走らせる手が止まらない人。書くペースはそれぞれですが、全員が集中し、言葉と向き合います。

書き終わると、次はチーム内でどんな魅力を書き出したのかを共有。「クリエイティブな仕事」「本気で人と関わる」「成長できる」「利用者さんの笑顔を見ること」——言葉をシェアし合ううちに、最初は少し照れた表情だった受講生も、共感や頷きに励まされ、次第に表情が和らぎ、笑顔や笑いが生まれていきました。

「私が感じる魅力は、利用者さんの一日一日をともに考え、工夫することです」「成長ができる仕事だと思うんですよね。資格の取得もそうですし、一人の人間としても成長させてもらえると思っていて」。会場内にそれぞれの声が響き、話すことで言葉に熱がこもっていく様子が伝わってきます。

加えて、他の人の魅力を聞くことで新しい気づきや発見も生まれ、「なるほど、同じ仕事でも見方が違うとこんな魅力になるのか」と驚く声や、「自分も同じことを感じていた」と共感する声が広がりました。

アーカイブ講座も受付中。KAIGO LEADERS SCHOOLはここから始まる

ワークの後半では、「最も伝えたい介護の魅力」を全体に向けて発表する時間も設けられました。1人目の発表者は、介護・福祉の仕事の魅力を「クリエイティブ」と語ります。

介護・福祉は人対人のサービスゆえに、利用者さんをケアするなかで、自分自身も変わる瞬間があると発表。同じ瞬間は二度とない、その時々の時間、生活、人生を一緒に考えてつくっていくこと。その過程こそが「クリエイティブ」であり、この仕事の大きな魅力だと締めくくりました。

その言葉に、会場から自然と拍手が送られ、各々の現場での工夫や思いと重ね合わせながら、頷く姿が見られました。

別の受講生は、「排泄で健康やその人のことがわかる」という、少し踏み込んだ魅力を発表します。

排泄介助はネガティブなイメージを持たれがちですが、実は健康状態を把握する大切な指標の1つ。匂いや形状、色などを通して、その人の体調や日々の変化を感じ取ることができるのだと話しました。会場からは笑いが起こりつつも、「確かに」と納得する声が上がり、専門職だからこその視点に大きくうなずく参加者の姿も見られました。

介護・福祉の仕事には、数え切れないほどの魅力がありますが、その魅力は自分の中にある小さな気づきや感情から始まる。この日、受講生たちはまさに、自分の言葉で発信する一歩を踏み出しました。

現在、KAIGO LEADERS SCHOOLは、アーカイブコースを受付中です。講義動画を自分の好きなタイミングで視聴できるアーカイブコースでは、自分のペースで学びたい方におすすめです。

あなたも、自分の言葉で「介護・福祉の魅力」を発信してみませんか。その第一歩を、KAIGO LEADERS SCHOOLのアーカイブ講座から始めてみてください。

アーカイブコースのお申し込みはこちらから

ゲストプロフィール

岸田 奈美(きしだ なみ)
作家

1991年生まれ、兵庫県神戸市出身。関西学院大学人間福祉学部社会起業学科在学中に株式会社ミライロの創業メンバーとして加入、10年に渡り広報部長を務めたのち、作家として独立。テレビ出演、ポッドキャスト番組、脚本執筆など活躍の場を広げている。著書にドラマ化もされた『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』をはじめ、『国道沿いで、だいじょうぶ100回』(小学館)、『もうあかんわ日記』(ライツ社)、『飽きっぽいから、愛っぽい』(講談社)など。最新刊に『もうあかんわ日記』文庫版(小学館)。

開催概要

日時:2025年10月5日(日)13:00〜17:30
場所:都内会場・オンライン

写真撮影

近藤 浩紀/Hiroki Kondo
HP  HIROKI KONDO PHOTOGRAPHY

 

この記事を書いた人

田邉 なつほ

田邉 なつほ Tanabe Natsuho

新卒で建築業界の営業に従事し、ライターに転身。両親が介護福祉士であることをきっかけに、介護の世界に興味が湧く。株式会社Blanketが運営する「KAIGO HR」のメディア運営に携わり、インタビューやイベントレポートの執筆を担当。