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イベントレポート

タブノキ流 共に暮らせる居場所づくり -本人中心支援ではなく、“用事中心主義”で生み出す面白いサイクル-

皆さんには、フラッと立ち寄りたくなる場所はありますか?
つい最近行ったばかりなのに、またすぐ行きたくなる場所はありますか?

居心地の良い場所とは、どのような場所なのでしょうか?

6月22日のかいスペミート※でゲストにお迎えしたのは、長野県小諸市で高齢者対象デイサービスや共生型障害福祉サービス事業を展開する「みんなの家タブノキ」代表の深山直樹さんです。

赤ちゃんからお年寄りまで、障害のあるなしにかかわらず地域で共に暮らせる「居場所」をつくる

そんなモットーを掲げ、2019年6月に株式会社タブノキを設立し、2020年3月に「みんなの家タブノキ」を開業。
開業からわずか1年強にもかかわらず、大勢が集い、笑いあい、お互いがお互いを助け合っています。
是非、「みんなの家タブノキ」のTwitterアカウントでその様子をチェックしてください。

なぜ、「みんなの家タブノキ」は地域の人が集まり、かかわりがどんどん生まれるのか。
イベントでは、深山さんにその仕組みについて教えていただき、参加者同士で学びを深めました。
その様子の一部をレポートします。

※かいスペミートとは、KAIGO LEADERSのオンラインコミュニティ「SPACE」の定例会です。SPACEは会員限定のクローズドのコミュニティですが、今回は一般の方も参加していただき、SPACEについて知ることができるイベントという意味合いも兼ねて、かいスペミートを開催しました。

「お互いさまの関係」をいかに、つくるのか?

まず、「みんなの家タブノキ」で、持ちつ持たれつのお互いさまの関係をいかに作っているかについて深山さんが教えてくださいました。紹介されたポイントは3点です。

①古民家を自分達の手で改修。常に現在進行形。

「みんなの家タブノキ」は、古民家の床、壁、天井を全部剥がし、セルフリノベーションして作られました。

改修は、現在進行形で、タブノキに通う方や、地域の方々がサポートしています。

2021年8月に、風呂増設のための穴掘りを様々な方が手伝っている様子がTwitterでアップされていました。完成していないからこそ、そこに“かかわりしろ”があるわけですね。

②子供からお年寄りまで、障害の有無にかかわらず常時開放

これは、僕の好きな先生達がいっぱいやっていることです。僕は、オリジナルで全然やっていないです。大好きな先生がいっぱいいて、パクらせてもらっています。皆さんいっぱいパクり合って良いと思います。

③赤ちゃんボランティアはじめました。

これは、佐賀県の唐津にある「看護小規模多機能むく」の佐伯さんのアイディアです。

サービス過多の現代に起こる、「ありがとう」の不均衡

「ここからが僕が1番伝えたいところです」
そう言葉を発され、話を進めました。

基本的には、僕らがやっている福祉の仕事というのは、3、40年の歴史があります。その3、40年の歴史の“福祉”という部分だけを切り取るのではなく、時代全体が変わってきています。高度経済成長期の後で、サービスというものが物凄く重きを置かれる時代が長くありすぎてしまったために、サービスは供給過多です。それは、お店に行ってもそうだし、友達同士でもそうだし、学校や会社でも、あらゆる場面でサービスし過ぎじゃないかなと思う。

「サービス過多」は一体何を招くのでしょうか?
深山さんは、「ありがとう」の不均衡が起こると主張します。

例えば、介護職員が「ありがとう」をやりがいに仕事を取り組むということ。よくあるシーンな気がしています。「ありがとう」を報酬代わりにしてしまうと、いつのまにか「ありがとう」の搾取が生まれちゃう。一方的に「ありがとう」を言われる側が固定されてしまって「ありがとう」と本当に言われたい人に、それが供給されなくなってしまうんです。

「ありがとう」の圧倒的な不均衡の状態は何をもたらすのでしょうか。

あの人、「ありがとう」と言ってくれなかったという不満や、自分が「ありがとう」と言われたかったのに、あの人に「ありがとう」を持っていかれたみたいな感覚が生まれてくるんじゃないかという危機感を抱きました。

自分が「ありがとう」と言われるような仕事をしていてはいけない

危機感を持った深山さんはどうしたのでしょうか。

なんでこういうことが起こるんだろうと考えた時に、自分が「ありがとう」と言われるような仕事をしていてはいけないんじゃないかってある日思ったんです。こっちから「ありがとう」と言える状況を作り出せる方が面白いことが起こるんじゃない?そうすると、「一気に色んな物事がまわるんじゃないか」と思いました。

職員のなかには、「してあげる」ことについて物凄く執着している方がいます。でも、「してもらう」のがあんまり上手じゃなかったりします。「ちょっと手を貸してもらえる?」とか、「困っているんだけど、あそこに行って話を聞いてもらえるかな」とかを自分の方から伝えるのが大事です。福祉職や医療職の方にはとてもハードルが高いんでしょうね。「助けてほしいんだけど」って言っちゃうと楽になるのになぁ……というシーンはいっぱいあります。

「ありがとう」を相手に譲った結果、どうなったのでしょうか。

僕らの場合は、とても世界が開けたんです。「ありがとう」と、自分達が言い続けるだけではなく、相手に譲った瞬間に3、4倍になって返ってきたんです。その相手に限らず、回り回ってどこかから返ってきます。

“用事”は超便利な言葉

ここからは、タブノキが大事にしている“用事中心”の考え方について教えていただきました。
まずは、“用事”という言葉について、深山さんはこのように語ります。

“用事”って言ったら、トイレもそうだし、仕事の時や趣味でも「用事に行くわ」と使える。日本人ってこういう言葉好きですよね。曖昧な言葉なんですけれども、それはれっきとした大義明文になります。その人のニーズとか、何かパーソナリティに関係するようなことで無かったとしても、そういう用事があるんだったら「参加してもいいかな」と思ったり、自分がそこに加わることに対してのモチベーションになるのです。1人ではなく、みんなでやることによってモチベーションは上がります。

“用事“があれば、本人中心でなくても、輝ける

既存の福祉の基本的な考え方である、“本人中心支援”に対して、違和感を抱いているそうです。

福祉職は真ん中にその人やその人のニーズを置いて、そこに向かってみんなで目標を突き進もうとします。
それは、その人にとっては重すぎるのではないでしょうか。断れない状況とか、巻き込まれている感が出てしまう。その人が輪の一員に加われないまま置いていかれるケースもあるでしょう。もちろんそれでうまくいくケースもあるけれど、見ているとそうじゃない人がいっぱいいます。

一方で、“用事中心”のアプローチは、どうでしょうか。

 “用事”があったら、その人中心じゃなくてもその人が輝けます。そのアプローチが必ずしも正解というわけではなく、そういうアプローチがあっても良いんじゃないでしょうか。

この写真に写っている2人はすごく力持ちなんですね。要介護度がついている、ついていないは関係無いです。その人のパーソナリティはそんなものでは測れません。「こういう物を運んだり、切ったりするのが好き」というのがあって、そこに年齢も性別も関係無いかなと思っています。僕にとって、介護というのは“用事中心”の方が良いかなと思っています。

「やりたくないこと」を明確に表明する。

深山さんは、「やりたくないこと」を明確にし、はっきり表明することが大事だと言いました。
今回は、「やりたくないこと」のうちの3つを教えてくださいました。

時間割を作らない

デイサービスや施設は、時間割があるところがほとんどだと思います。なぜ時間割を作らないのでしょうか。

僕は時間割が嫌いです。時間割が好きな方もいますね。時間割が好きな方は、時間割があるところに行けば良いんですよ。

目黒区にある駒場苑という特別養護老人ホームの施設長である坂野さんは、「10時と15時のおやつの時間を無くすと特養の生活はすごく楽になる」と話されていたそうです。

施設だけでなくあらゆる生活のなかで、1回ルーティンだって決めたことを外すと、できる幅がひろがるんです。うちは、12時にお昼になりませんし、お風呂も、午後になっても最後の最後まで入る人もいます。色んなことの枠を外していくとやれることが一気にひろがっていきます

一方的な関係を作らない

一方的な関係を徹底的にやめると、どんどん人が集まってくるそうです。

ハウトゥーポイントは以下の2つです。

・お客さんが来たら絶対断らない。

・どんなお客さんもお客さん扱いしない。

失礼を承知で、「ちょっとこれお願いできませんか?手が足りないんですけど」と言った時に、「いいよ」と言わない方はそもそも来なくなっています。肩書きのある方、お偉いさんや近所のおばちゃんも「いいよ、やってあげる」と言ってくれます。それは、お願いするか、しないかだけのことだと思います。お願いごとをすると、なぜか皆さんが「今日も1日癒された」と、いっぱい働いて帰っていくので、あらゆる施設で応用が可能なんじゃないかなと思います。「その人はお客さんだから」という線を引かないと、誰がスタッフなのかわからない感じになるので、自分達にとっても、相手にとっても居心地の良い場になります。

自分達が楽しめないことはやらない

自分達が楽しめないことはやりません。そうは言っても、やりたくないこともやらないとダメじゃんって思うかもしれませんね。「そもそも時間足りないし、人手も足りないし無理だよ」と感じる方もいるかも。

しかし、そもそも利用されている方全員の手とか目、来てくれたお客さんの手とか目を数に入れてなかったりするんですよね。それで自分達が忙しいとか思ったりする。介護保険って絶対破綻する寸前で、制度の上でこんなん足りないに決まっているという数値設定なので、手や目の数を増やさないと、自分達が楽しめることなんて出来ません

どのようにして、手や目の数を増やすのでしょうか。

今まで話したことをやっていると自然と増えます。「ありがとう」を相手に譲ることと、来てもらった人たちにはお客さん扱いしないで、皆の仲間になってもらうこと。そうすると、楽しくなっています。数が増えても雑にならないように、1人ひとりの個性に合わせたことがやれるようにはしたいです。

勇気を持って「助けてほしい」と声に出すことから、まずはスタートさせたいですね。
それをきっかけに、かかわる人全てが心地良くなる面白い連鎖が生まれてくると良いです。
最後には、このやり方でも経営が成り立つ というお話しを、売り上げ推移のグラフを用いて説明されました。

後半は、かいスペメンバーである島影さんが深山さんにインタビューする形式の対談がおこなわれました。

つっこんだ深い質問が多くとても興味深い内容となっていました。
かいスペに入会すると、このイベントの全編を動画でご覧になれます。
興味を持たれた方は、是非ともチェックしてくださいね!
深山さんのnoteもオススメです!

ゲスト紹介


深山 直樹(みやま なおき)
1976年 東京都府中市生まれ
2019年6月株式会社タブノキ設立。https://tabunoki.space/
古民家をセルフリノベーション、たくさんの人に助けてもらいながら地域の居場所を作り始めました。
2020年4月長野県小諸市にて始動。

イベント概要

【日時】2021年6月22日(火)20:00~22:00
【場所】オンライン

オンラインコミュニティ「SPACE」について

KAIGO LEADERSのオンラインコミュニティ「SPACE」に参加(月額2,000円)すると、無料で希望するイベントをご覧いただけます(一部イベントを除く)毎月25日までにお申し込みいただくと、翌月1日からご参加可能です。

オンラインコミュニティ「SPACE」詳細はこちら
https://heisei-kaigo-leaders.com/projects/space/

この記事を書いた人

森近 恵梨子

森近 恵梨子Eriko Morichika

株式会社Blanketライター/プロジェクトマネージャー/社会福祉士/介護福祉士/介護支援専門員

介護深堀り工事現場監督(自称)。正真正銘の介護オタク。温泉が湧き出るまで、介護を深く掘り続けます。
フリーランス 介護職員&ライター&講師。