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イベントレポート

「動物×介護」が超高齢社会をどう変える?〜人と動物の幸せな関係を築くために〜

皆さんは可愛い動物に触れたり、動画を観て癒された経験はありませんか?

一般的に「アニマルセラピー」と呼ばれる動物介在療法や動物介在活動は、国内外問わず医療、介護、リハビリ施設などで取り入れられてきています。

動物介在療法の効果は、認知症や鬱病などの症状が改善されるという論文も発表されていたりします。動物介在活動では、幸せホルモンとして注目されている「オキシトシン」が分泌されることでストレス軽減も期待されています。

皆さんに、「動物×介護」のお話をさせていただく場をいただいてとても嬉しいです。大学で学んだ事、働き方や「動物×介護」を取り入れている事例等をお話したいなと思っています。

2023年3月29日に開催されたかいスぺミート(※)。今回は帝京科学大学アニマルサイエンス科出身で、現在はモルモットのチーノと暮らしながら、特別養護老人ホームでケアワーカーとして活躍している津田祐子さん(以下、ゆうこさん)をゲストにお招きし、動物について学ばれた事、「動物×介護」の未来の可能性についてお話しいただきました。

※『かいスぺミート』とは、KAIGO LEADERSのオンラインコミュニティ「SPACE」(通称:かいスペ)で開催している月に1回の定例会です。かいスぺメンバーの実践例をみんなにシェアする会やゲストを招いたゲスト会などを開催しています。

人と動物の「幸せ」が今回のお話しの1つの重要なキーワードだと思っています

そう語るゆうこさんから、人と動物が幸せに暮らし、優しさ溢れる社会を目指すため、今回は「介護」に焦点を当てつつ、過去から現在、未来の可能性についてお話していただきました。

動物介在教育での学びは介護の仕事にも活かせる!

大学在学中、「小学校へのふれあい動物教室」(動物介在教育)を主に運営されていたゆうこさん。大きく分けて3つのスキルを学ばれたそうです。

①時間に合わせる技術

小学校はチャイムで時間管理がされています。限られた時間でタイムスケジュールを立て、それに合わせて話す内容を変えたりすることは、介護の現場でも役に立っています。

スムーズに進めるために「どう伝えるか」という事も重要なポイント。
どのような児童や先生がいるかは小学校ごとに異なるように、介護の現場でもそれぞれ違いがあります。

②トレーニング技術

動物行動学では「褒めて伸ばす」という事を学びました。やはり褒めてもらえると嬉しいですよね。

例えば、介護施設ではトイレ介助の際、頑張って立ってくださったら「凄いですね!」とお伝えしています。

③観察力

飼育管理の分野では、話すことのできない動物の行動を見て気持ちを読み取っていくことで観察力が磨かれたそうです。

利用者がトイレに何度も向かっている姿を見かけると「お通じが出そうなのかな。5分おきだとなかなか大変だけど、「本人が行きたいなら見守ろう」と気持ちを汲み取りつつ考えることなどにも役立っています。

「幸せとは何か」その問いを抱き、介護の世界へ

哲学的な問いになってしまいますが、幸せとは何かということを強く学ばせていただきました。

動物園の動物たちは、いつも同じ場所で同じような生活リズムで過ごしています。入居型の介護施設でも、利用者は、トイレ、食事、就寝……と、1日の流れが均一になりがちです。

動物園では遊び道具が設置されていたり、入居型施設ではレクリエーションがあります。しかし、それで充分なのか、幸せとはどう感じられるものなのかと日々考えているそうです。

そのような学びを経験し、「動物×介護」を広めるために現場を知りたいと、介護の世界に飛び込んだゆうこさん。

「そもそも介護施設の利用者は動物を求めているのか」
「どのように過ごされているのか」
「アニマルセラピーをしても、現場を理解し配慮していなければ満足してもらえないのでは」
といった様々な不安を入職前は抱いていました。

実際に介護現場で働いてみると、大学で学ばれたことをしっかり活かすことができているそうです。

また、動物を飼っていた経験を話される方や、テレビに映る動物達を「可愛い!」と仰る方を見て、「動物×介護」の需要はあると感じたとのこと。

しかし、介護現場の人手不足による障壁を痛感させられたと言います。

人手不足だと疲れが溜まって、やる気が起きず新しいことをする気力もなくなってしまうように感じます。「動物×介護」の実現にとって、それが一番の大きな壁だと思いながら日々働いています。

動物園・水族館の経営

動物園や水族館は行政が運営するところがあります。

例えば東京都の上野動物園や、〇〇市立〇〇動物園といった名前の園もそれにあたります。

介護業界は、介護保険法で配置基準や利用料金が定められており、なかなか収入を得にくい状況があります。動物園や水族館も同じように、収入が増えず、採用できないことによる人手不足を課題としています。

収入が増えないため人を採用できず人手不足になったり、働く人たちの収入がなかなか増えない現状で、動物園・水族園と介護施設で類似しているなと感じています。動物園や水族館が同じ課題をいかに解決しようとしているかを知ることは、介護業界が改善策を考えるうえで参考になるのではないでしょうか。

ウェルビーイング

ウェルビーイングとは「心身ともに健康で、社会的に満たされた状態のこと」をいいます。

「動物×介護」の目的は利用者のウェルビーイングの向上に限ると思います。

ウェルビーイングは5つの要素を意識すると向上すると言われています。

①Positive Emotion→嬉しい、楽しいという気持ち

②Engagement→時間を忘れて打ち込む

③Relationship→他者との関わり

④Meaning and Purpose→人生の目的、価値観

⑤Achievement→目標

例えば、動物と会えたら嬉しいとか楽しいって感情が現れますよね。この5つの要素は動物とうまくマッチすると思うんです。

ゆうこさんは、動物との関わりが利用者のウェルビーイングの向上に一役買い、少しでも幸せに感じられるのではと考えられているそうです。

動物に会いに行く?それとも施設で飼う?

実際に「動物×介護」の方法は大きく二つあります。

①移動動物園方式

介護施設と動物がいる施設は別々で、どちらかがどちらかに訪問する方式です。

アメリカでは隣接する大学の獣医学部と連携し、動物が人へ与えるプラスの効果について研究している施設もあります。

メリット
訪問をする際に人手が必要だが、事前にその日だけボランティアを集めることもできるため実現しやすい。

デメリット
移動する利用者や動物に負担が掛かることも。

近隣に動物施設がないと実現できないため、全国に動物のいる施設を整備する必要がある。

②介護施設の中で動物を管理

自由に犬や猫が過ごせている施設もあったり、動物NGの方々の為にフロアを限定している施設もあります。

メリット
ペットと入居できる施設も含め、24時間動物といることが可能。

デメリット
動物を飼育するための人手を確保しないといけない。

ペットが亡くなることでのペットロスの可能性。

介護施設の中で動物を管理できれば、施設ごとの格差が生じずに実現できそうですが、飼育のためには人手が必要だと思います。

動物達が突然噛みついてしまったり、利用者が動物の機嫌を損ねてしまうかもしれないため、常に職員の立ち会いが必要になります。

ゆうこさんが思い描く動物×介護とは?

私が「動物×介護」について特に重要視していることをいくつかお話します。

①動物にストレスの少ない方法で行う

利用者に喜んでもらうことを重視するあまり、無理やり触らせたり、動物の逃げ場所をつくらないといったことによるストレスを与えない。
→動物の専門家と協力し、ストレスのない方法を模索する。

②眺めるだけでも癒されることもある

触ることが絶対ではなく、眺めるだけでも楽しんでもらう工夫を考えることも大切である。

③動物ロボット

生身の動物のような温かみや触り心地はないが、「そばにいてほしい」、「抱っこしたい」という要望に応えやすい。

「動物×介護」以外での分野

ここまでは、「動物×介護」のお話でしたが、別の分野でも動物の力を活かす事例があります。

若者支援×動物

保護犬を若者達にトレーニングしてもらうことにより、若者の社会復帰支援につなげる。

就労支援×動物

ゆうこさんが実際にボランティアとして関わったことのある茨城県のNPO法人では、保護犬のトレーニングから譲渡に出すまでの業務に取り組む就労支援を実施。

裁判×動物

裁判法廷に向かう不安な気持ちを、付き添い犬が一緒に来てくれることにより緩和。

病院×動物

ファシリティドッグや動物介在療法。

その他にも居場所支援、リハビリ施設や学習支援など様々な場所で動物とのコラボレーションがあります。

最後に…「目指せ 幸せクリエイター」

今まで1つひとつの命と向き合ってきましたが、今後もどうすればその動物や人が幸せでいられるかを考えていきたいです。

ゆうこさんが目標としている「幸せクリエイター」とは、人の福祉・動物の福祉に関わっている方々や利用者の幸せをクリエイトする人たちのこと。

「動物×介護」もその幸せのクリエイトの1つになればいいなと思っています。

と締めくくられたゆうこさんですが、

「動物といることや関わることは健康に良いから…と、大した証拠もなく言っているのではないか」
「動物は利用されているのではないか」

と疑問が芽生え始めました。

その疑問を解消する為、また「動物×介護」の実現のために、今年から専門職大学院へ入学されました。

大学院の公衆衛生学研究科で人の健康について学んだ上で、動物が人の健康にどう貢献するかを科学的根拠に基づき納得したいのです。それを説明することや、社会全体に広めることは社会を変える力の一つになるのではないかと考えています。

まだ課題が多く、「動物×介護」のプログラムを取り入れている施設は少ない現状ですが、幸せの追求のために動物を求める方は多くいらっしゃると思います。

大学院で更に学ばれ、より一層ご活躍されるゆうこさんを期待しています!

 

開催概要 

日時:3月29日(水)20:00~22:00
場所:オンライン(Zoom配信)

 

 

この記事を書いた人

鈴木 奈々子

鈴木 奈々子Nanako Suzuki

エステティシャン/アロマセラピスト/キャンドルアーティストKAIGO LEADERS PR team

海外でアロマタッチングボランティア活動中。帰国後、介護施設/ケアする人のケア/児童養護施設等で活動することを目指しています。

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