これからの時代に求められるリーダーとは? フィードバックで学ぶ、チームを活かす“リーダー力”(PRESENT_12中原淳 レポート)
HEISEI KAIGO LEADERSがつくる学びの場「PRESENT」。 第12回目となる本イベントは、この「PRESENT」のベースともなる大人のための学び場「ラーニングバー」の生みの親、東京大学 大学総合教育研究センター 准教授 中原 淳先生をお迎えしました。 リーダーとしてどのように仲間と向き合うべきなのか? 日々奮闘中のリーダーのみなさんも、これからリーダーとしての活躍が期待をされる若手の皆さんにとっても、自身のチームで活かせる様々な視点を、企業・組織における人材開発の第一人者である中原先生から学んでいきます。
はじめてのチームリーダー入門
講演は、中原氏の“大人の学び”についての考えのお話から始まりました。PRESENTでも重視をしている「対話」「実践」がなぜ重要かを参加者全員で改めて考えます。 今日は、初めてのチームリーダー入門ということで、「初めてリーダーや上司になった人がどんなことを意識すればよいか」というテーマでお話しできればと思います。 前置きとなりますが、僕自身は介護とか医療の現場をよく知りません。ですので、今日の話も一般的な企業組織についての話をさせてもらいます。一般的な企業と介護の現場は全く別の組織だと思っていますが、人にまつわる課題、「人がなかなか動かない、育たない」という共通の課題はあると思います。今日皆さんには、自分の現場の状況に翻訳しながら聞いてもらえればと思います。
聞くだけ(1way)の講義は、7割の人は忘れてしまう
今日は、「聞いて・聞いて・聞いて・帰る」会にはしたくないと思っています。なぜなら、そういった講義はあまり効果がないからです。 ただ聞くだけの講義をした場合、半年後、聴講生の中で講義のあらすじを思い出せる人はどれくらいいるでしょうか。その講義内容のあらすじを思い出せる人が2%、キーワードだけ思い出せる人が29%という調査結果が出ています。つまり、残り70%の人は、半年後には講義の内容を忘れてしまうということですね。 仕事に必要な学習の場合、単に記憶するだけでなく、【記憶】⇒【理解】⇒【行動】⇒【成果】とつながっていかないといけません。 だから、忘れられてしまうワンウェイ=一方的な講義ではダメです。人材開発の専門家は絶対そういうことをしない。「人が育たないな」「セミナー、研修で言いたいことが伝わらないな」と思ったら、聞くだけの形式じゃなくて、聞いて考えてもらって行動してもらうことが必要です。 ですので、今日のプログラムでも対話やワークなど色々やっていきたいです。 本題に入る前に、少しだけ対話の練習。近くの人たちでグループになり、自己紹介や簡単な意見交換を行います。様々な世代・立場の人たちが同じ目線で意見を交わし、交流できるのもPRESENTの魅力の一つです。
リーダーが直面する5つの難しさ
いよいよ、本題! 「初めてのチームリーダー入門」ということで、新人リーダー/マネジャーが陥りやすい課題や、抱えやすい悩みについて、中原氏の研究結果を交えて、解説いただきます。 1.突然化 ある日突然リーダーになる
「主任」や「係長補佐」など、昔はたくさんの職位があり、リーダーや管理職になる手前で段階的に必要なスキルを学ぶことができました。しかし、90年代以降「無駄な中間管理職を廃止しよう」という傾向になり、組織のフラット化が進みます。結果として、現場のプレーヤーから準備期間がなく、いきなり管理職・リーダーになる人が増えています。
2.二重化 プレイヤーであり、マネジャーでもある
マネジャーの多くが「プレイングマネジャー」として、自らも目標を達成することが求められています。マネジメントに専念しているマネジャーは、15%しかいない。自分でも成果出さないといけないし、管理もしないといけない、というのは難しいところです。
3.多様化 多様な雇用形態・働き方・キャリア意識
国籍、性別だけでなく、雇用形態も臨時職員や派遣スタッフ、時短勤務など多様な働き方が出てきました。これはよいことだと思いますけど、管理する側としては大変です。
4. 煩雑化 責任説明を果たすためのペーパーワークの増大
以前と比べて情報管理が厳しくなったり、リスクを防止するために「予防線をはる」ためのペーパーワークが増えて、マネジャーの仕事を以前にもまして煩雑化させています。
5. 若年化 経験の浅いマネジャーの増加
リーダーやマネジャーに昇進する速度が以前よりも早くなってきています。経験がないなかで管理職の立場になると、年上で経験のある人を部下として管理しないといけない、などといった難しさを抱えます。
“優秀なプレーヤー”から“初心者リーダー”に「生まれ変わる」。
よく研究で言われるのは、リーダーになるということは、「生まれ変わり」が必要だということ。それまでは、「業務の達人」だった状態から「マネジメントの初心者」になる。今までは自分で頑張ればよかったのに、いきなり他人を動かして成果を得なければならないという、かなり段差の大きい変化なのです。 私の好きな例えは、「小学校6年生から中学校1年生になる」感じ。それまでの延長ではあるけど、いきなり部活が始まって、先輩とか敬語とか中学校のしきたりが始まる。実務担当者としては優秀であっても、管理者になるにあたり誰もが一度初心者にならないといけないのです。 企業組織では3割くらいがこの「生まれ変わり」で躓いてしまう。プレーヤーに固執して、リーダーシップをとることが出来ないんですね。僕はこの失敗を脱線(Derailment)すると言っています。 僕のプライベートな話をいうと、僕は20年くらい研究畑にいて、10年まえからスタッフを動かす役割を担うようになりました。僕は「ビジョン」や「戦略」構想し、それを明示しながら、新しい物事を立ち上げていくのは、比較的得意なんですが、スケジュールを組んだり、お金をどう使うか、という細かいことはあまり得意ではない。でも、そういう細かいことをやらないと人が動かない、物事が進まない、というのにびっくりしました。ビジョンや戦略を話せば勝手に人は動くと思っていたんですね。
リーダー・マネジャーが直面する7つの挑戦課題
ここまでお話したように、最初にリーダーになったときに、躓いてしまうことは多くあります。この躓きやすい課題のことを、僕は「挑戦課題」と呼んでいます。 【7つの挑戦課題】
- 「部下育成」:部下を成長させるために、思い切って仕事を任せること。
- 「政治交渉」:部署、部門の代表になって他部門と交渉すること。
- 「意思決定」:担当者より少ない知識・情報で、必要な判断・意思決定をしていくこと。
- 「目標咀嚼」:会社や組織が決めた目標を、上手くかみ砕いて、部下に説明し、理解と納得を得ること。
- 「多様性」:多様な雇用形態、年齢、国籍、性別の人をマネジメントすること。
- 「マインド維持」:自分自身の心が折れないようにすること。
- 「プレマネバランス」:プレイングとマネジメントのタイムバランスをとることです。
この7つのうち、特に新任マネジャーがはまりやすい課題が、①部下育成 ④目標咀嚼 ⑦プレマネバランスの3つです。まず「目標咀嚼」が上手くできないと、何故やるのかを上手く部下にも伝えられず、「部下育成」ができない。部下も上手く動けないため、「自分でやらなきゃ」となってその結果、「プレマネバランス」が崩れます。「目標咀嚼」と、「部下育成」は、「他人」を動かし、「職場の成果」を出させるマネジャーの仕事の根幹ともいえます。 7つの挑戦課題の中でも、新人マネジャーが躓きやすい「目標咀嚼」と「部下育成」。 本日は、特にこの2つの課題について、私たちが意識すべきことを考えていきます。
目標咀嚼:マネジャーは「翻訳機」
マネジャーに期待されているのは、「翻訳機」として部下に分かる言葉に翻訳して分かりやすく伝えることです。組織の目標や、仕事の意義を相手に伝えようとするときに、一番避けないと行けないのは、バケツリレー、糸電話をすることです。「会社の方針だから」、「社長がこう言っているから」と言っても伝わらない。そのまま伝えることはマネジャーの仕事ではありません。
①Why do なぜやるのか? ②Why me なぜ私がやるのか? ③How どうやってやるのか?いつまでに、どんなサポートがあるの?
上記の伝達が上手くいかず、「これ、なんでやるんですか?」「やるのはいいですけど、他の仕事どうするんですか?」「なぜ私なんですか、なぜ他の人じゃないんですか」部下から、次の言葉を言われたら要注意です。部下が目標に納得できずに思うように動いてくれず、最終的に自分でやるしかなくなってしまいます。
事例紹介:「目標って何だっけ?」 伝わっていると思っていたのに…。」
さて、介護の現場での事例はどうでしょう。ここで体験談を話してくれる、嶺さんの登場です。
部下育成:評価を伝え、立て直しを支援する「フィードバック」
2つ目は、部下育成です。部下の能力を伸ばすことを目的にフィードバックをすることがとても大切です。 フィードバックには、元々2つの意味があります。1つは、部下の状態をしっかりと伝えること。「あなたは、今こういう状態になっているように見えるよ、大丈夫?」と伝えて、納得を得ること。もちろん良いことも、耳の痛いことも伝えます。多くの人は、フィードバックというのは伝えるだけだと思っていますが、実はここから先が重要です。 2つ目は、耳の痛いことを伝えて成長を促すこと。良いところを継続してもらえるようにすること。情報の通知に加えて立て直しの手伝いをする。それがフィードバックです。 僕がフィードバックの説明をするときは、よくこのロケットの絵を出します。 スペースシャトル、ミサイルとか、この図のような飛翔体って、まっすぐ飛べないんです。必ず風とか空気の影響で曲がってしまう。エンジンだけではまっすぐ飛べないので、途中で傾きを検知してジェットの吹き出し口の角度を変えるといった修正をします。スペースシャトルがエンジンだけでまっすぐ飛べず、修正をして飛んでいるのと同様に、人間も自分だけでまっすぐ飛び続けることはできません。他の人に補正(フィードバック)されて初めてちゃんとまっすぐ飛んでいけるのです。
事例紹介:上司として、多様な部下にどうフィードバックする?
さて、では2つ目の事例を、中庭さんからお話しいただきましょう。
フィードバック入門:フィードバックの流れを掴もう!
フィードバックは、次の順番でやるとよいと言われています。 ①信頼感の確保
いつどういうときにやるか、ということが大事です。一番良いのは、ミスをした直後です。ただし、パニック状態の時はダメ。落ち着くまで待ちましょう。あとは、期初期末や、行き詰っているときがよいです。
次に、どこでやるか。大概公衆の面前ではやらないと思うので、2人だけでやることになると思います。そうなると、いわゆる「ブラックボックス」になり、いやでも緊張する。どう緩和するかを考えましょう。例えば、正面ではなく斜めに座るというのは効果的です。逆に、威圧感を与えてしまうので、絶対に腕を組まないでください。最初は雑談から始めて、リラックスした雰囲気を作るとよいでしょう。
②事実の通知
SBI-situation(状況),behavior(行動),Impact(結果)を使って話してください。出来る限り相手の鏡になって、事実をなるべく具体的に伝えてください。「●●さんは主体性がないんだよ!」っていう具体性がない伝達はNGです。型を覚えてしまいましょう。
●●さんの、~~の時の(状況)、~~という行動なんだけど(行動)、~~っていうふうに思えたんだよね。 結果的に~~という風になっていると思うんだけど(結果)、どう思う?
といった形で伝えるとよいです。
ポイントは、きめつけないで「思う、見える」を使うこと。そして最後に相手にボールを投げることです。日ごろからよく相手を観察して、相手のSBI情報をきちんと持っていることが重要です。「よき管理者はよき観察者である」という言葉もあるんですよ。
③ 腹落としの対話
耳の痛いことを言われると、部下は上司の言ったことをそのまま受け入れられないことが多いです。だから、対話が必要。相手のいうことを傾聴します。矛盾が出てきたらとことん聞く。対話する、というのは仲良くなることではなくて、違いをあぶりだすコミュニケーションのことです。そして最後に妥協点を決めていく。なんとなく80%くらい妥協できればよいのです。
④ 振り返りの支援
腹落としができたら、「結局、何が良くて何が悪いのか。これからどうするのか。」ということを最終的には相手の口から言ってもらいましょう。ここで、改善をできる感覚を持ってもらうことが必要です。フィードバックを行って、あまり強く言いすぎてしまうと、「理解はできたけどやる気にはならない」ということになってしまう場合があります。自分でやればできる状況を考えて作ることが重要です。
〔ミニワーク:フィードバックを体験!〕 「それでは実際にフィードバックをやってみましょう!」 フィードバックで重要なポイントを学んだ後、参加者同士で上司・部下に分かれ、用意されたシナリオを使ってフィードバックの練習をしました。
「部下の目線になると、こんな風に感じるのか。」 「自分の感じていることを伝えるのってなかなか難しい…!」
普段、リーダーやマネジャーとして、フィードバックを行っている人も、そうでない人もフィードバックする側/される側の双方を経験することで、多くの気づき・学びがあったようです。
Q&A:日本にフィードバック文化を根付かせていきたい。
最後に参加者の皆さんからいただいた「聞きたいこと・気になること」をまとめ、中原氏にお伺いしました。 (インタビュアー:秋本可愛)
耳の痛いことをしっかりと伝え、リーダー・部下がしっかりと課題と向き合い、共に解決の道を探っていく。 中原氏が根付かせようとしている「フィードバックの文化」は、介護現場に限らず、多くの組織で重要になるものだと感じました。私たち一人ひとりがそれぞれの現場で少しずつ、「フィードバックをする/される」といった文化が広がっていけば、人が成長し、課題解決のために前向きに動いていける社会に近づいていくのではないでしょうか。 この「PRESENT」での学び・対話が介護領域にフィードバック文化を広げる、参加してくださった方々の現場をよりよくする一歩になれば、嬉しく思います。
ゲストプロフィール
中原 淳 Jun Nakahara 東京大学 大学総合教育研究センター 准教授 東京大学大学院 学際情報学府 (兼任) 東京大学教養学部 学際情報科学科(兼任) 大阪大学博士(人間科学) 北海道旭川市生まれ。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院 人間科学研究科、メディア教育開発センター(現・放送大学)、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員等をへて、2006年より現職。 「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人々の学習・コミュニケーション・リーダーシップについて研究している。専門は人的資源開発論・経営学習論。 東京大学中原淳研究室(http://www.nakahara-lab.net/) ※最新著書『働く大人のための「学び」の教科書』発売中! (紹介ページ)
開催概要
日時:2017年6月10日(土) 会場:サイボウズ株式会社 オフィス
PRESENTについて
2025年に向け、私たちは何を学び、どんな力を身につけ、どんな姿で迎えたいか。そんな問いから生まれた”欲張りな学びの場”「PRESENT」。 「live in the present(今を生きる)」という私たちの意志のもと、私たちが私たちなりに日本の未来を考え、学びたいテーマをもとに素敵な講師をお招きし、一緒に考え対話し繋がるご褒美(プレゼント)のような学びの場です。
写真撮影
近藤 浩紀/Hiroki Kondo
HIROKI KONDO PHOTOGRAPHY