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インタビュー

たった一人のために場を作ったら、私のやりたいことが見えてきた。(KAIGO MY PROJECT OB/OG インタビューVol.12)

理学療法士として、担当した一人の利用者さん。

歩く練習をして、少しずつ歩けるようになったけれども、出かける場所がなくて引きこもってしまえば、また歩けなくなってしまうかもしれない。

だったら、その方が気軽に出かけられる場所をつくろう。

それが、今回お話を伺った理学療法士の黒田悠子さんの「マイプロジェクト」のきっかけだったそうです。

黒田さんは、参加者同士が自分の得意や強みを活かし、励まし合える場「笑顔♡元気会」を定期的に開催しています。

活動を初めてみたものの、「このまま進めていいのだろうか?」と不安を感じ、より活動を広げるためにKAIGO MY PROJECTに参加されたそうです。

黒田さんにとって、KAIGO MY PROJECTの3ヶ月は、どのような意味があったのか。

「笑顔♡元気会」の取組や、活動を通して感じている思い、今後の展望と合わせてお話を伺ってみました。

(聞き手:矢尾眞理子)

思い浮かんだ人に向けて場をつくる。

———まずはこの活動をしているきっかけを教えてください。

訪問看護ステーションの理学療法士として、担当したある1人の聴覚障害がある利用者さんがきっかけでした。

歩けない状態だったその利用者さんを担当し、歩く練習をして、少しずつ歩けるようになったのですが、一度歩けるようになっても、出掛ける場所がないと、また同じ引きこもりの状態に戻り、歩けなくなる。その繰り返しだと感じました。

その方には、デイサービスと手話サークルだけが外出の選択肢であり、そのどちらも合わなかったために、他に出掛ける場所がなかった。選択肢が少ないことで外出の機会がなくなってしまうんです。

市役所を通して探してみても、その方に合う場所は見当たらなかったので、「合う場所がないのであれば自分がつくろう!」と思いました。

きっかけはこの方でしたが、思い返すと他の利用者さんでも同じような状況がありました。

「ADL(※)が上がってきているので、今度は社会とのつながりを作っていきましょう」と提案した時に、麻痺がある、透析をしている、血糖値が安定しない…、などといった様々な理由があり、社会とつながる場所が見つからない。あと一歩なのに、そのあと一歩が踏み出せない。そんな方たちが集える場所をつくりたいと思いました。

そんな状況を知り合いに話をしたら、場所を貸してくれる人とも知り合い、すぐに環境が整っていきました。

自分でもあっという間で2ヶ月後には、第一回「笑顔♡元気会」を開いていました。

※ADL:日常生活動作。食事・更衣・移動・排泄・整容・入浴など生活を営む上で不可欠な基本的行動のこと。

“助けてもらいながら一緒にやる”相互の関係性を作る

———「笑顔♡元気会」とはどんな場所ですか?

私は専門職ですが、自分自身も参加者の一人でいたいと思っています。様々な人たちが集まった時、元気な人にも悩み事はあるだろうし、障害のある人でも障害はあるけれど問題はない人もいる。

様々な人たちの悩みを、一緒に「支援し合える場」があったらいいのにという思いで、参加者同士が自分の得意や強みを活かし励まし合える場「笑顔♡元気会」を開きました。


ぎっくり腰になった黒田さんに利用者の方がマッサージをしているところ。

私は一人っ子の初孫で周りから甘やかされて育ったんです。小さい頃から「私がやりたいから一緒にやろう。仲間になろう。」と周りを巻き込んできたように思います。

「笑顔♡元気会」を開く時も同じで、「やりたいことがないから外に出ない」と話す利用者さんに、「じゃあ、私がこんな場所を作ってみたいから、一緒にどうかな?」と声をかけました。

仕事があるから外に出たり、誰かにお遣いを頼まれたり、やらなくちゃいけないから“仕方なく”出かけることってあると思うんです。その“仕方ない”に私がなったらいいのかなと。

今参加してくれている方も「黒田がなんかやり始めているから、よくわかんないけれど、協力してやるか。」くらいの気持ちかもしれません。

———利用者さんのやりたいことを実現するだけではなく、自分の協力者になってもらう。“助けてもらいながら一緒にやる”相互の関係性を作ることも私たちの役割ですよね。
私たち専門職は、利用者さんに力があることを知っているからこそ、その力をちゃんと頼りにすることが大切。そう考えると黒田さんの取り組みはしっくりきます。

迷いながらだけれど、進んでいいんだ。

———実際に「笑顔♡元気会」を開催してみていかがでしたか?

私自身も助けてもらいながら一緒に「支援し合える場」を作るという思いが揺らぐことはなかったですが、第一回開催後は「こんなことを始めてしまったけれど大丈夫だったのかな?」と迷いが出てきてしまいました。

それは周りに協力者がいなかったからです。職場の勤務内でやっていることなので、始める時に上司や担当ケアマネージャーに趣旨を説明しています。否定はされなかったですが、協力体制も特にない状況で、孤独感を持っていました。

———そんな悩みが出てきた頃、KAIGO MY PROJECTに参加されましたね。

KAIGO MY PROJECTに参加したら、「笑顔♡元気会」のことをみんなに相談して、みんなで一緒に考えてくれたり、たくさんのアイデアをもらえたりするのだろうと期待をしていました。甘い考えでしたね。

※KAIGO MY PROJECTとは?

KAIGO MY PROJECTとは、「マイプロジェクト」という教育手法を用いながら、「こんな課題を解決したい」「こんなことをやってみたい」という一人ひとりの想いを形にしていくプログラム。3カ月間全6回のプログラムを通して、自身と向き合い、その想い(ビジョン)をプロジェクトとして形にしていきます。

KAIGO MY PROJECTの詳細はこちら

———実際に参加してみたら、そんなプログラムでは全然なかったんですね。

「笑顔♡元気会」の内容を一緒に考えてくれる訳ではなかったですね。(笑)

メンタリングプログラムで、運営メンバー・メンターのみなさんから「とってもいいね!頑張ってやりなよ!」「もっと広げちゃいなよ!」と言ってもらえ、勇気をもらえて、「迷いながらだけれど、進んでいいんだ」と後押しをしてもらいました。

また、同期のみんなもそれぞれのプロジェクトに向かって頑張っていたので、「悩んでいるのはわたしだけじゃない」「悩んでいてもいいんだ」とも思えました。

“自分がなぜやるのか”に徹底的に向き合う。

———メンタリングで力強く応援されたことで、前向きになり進めていけたのですね。他に大きく影響を受けたプログラムはありますか?

KAIGO MY PROJECTは、「自分がなぜやるのか」に徹底的に向き合うプログラムだったなと感じています。

どの回でも明確な問いかけがあり、その明確な問いかけに対して、自分の考えを深めていく。どこに進んだらいいのか線路を引いてもらったようなプログラムでした。

もしわたしが想像していたように、みんながアドバイスをしてくれるプログラムだったとしたら、「笑顔♡元気会」は進化せず、今の状態は作れなかったです。

特に発表をする機会も多く、発表するための「準備」が、「笑顔♡元気会」の目的や背景の思いを整理整頓できる大切な時間でした。

目的や背景にある思いについて深く考えないと、人に伝わる発表にはならない。

活動をしている時は、目的や背景にある思いが埋もれてしまうことも多く、「果たして何のため?誰のため?」となってしまう。

発表をするために、自分の考えを整理整頓し、まとめることで、何が違和感だったのかに気付け、その違和感を変えたかったから、「笑顔♡元気会」を始めたのかと、自分に対する理由づけが出来ました。

暮らしの中で自分が関わっている人にとって、もっといい環境が作れるはず。

———発表の準備をする中で気づいた違和感とは何ですか?

これまでの体制や方針に対する違和感です。

私が「笑顔♡元気会」を開いたのは、「もっとこうあってほしい」という思いを形にするためだったのかもしれません。

この場をやり始めたことがきっかけで、「市役所の方とのやりとりがうまくいかなくて…」といった相談を何件か受け、「それならば私のところに来てください」と答えたこともあります。

———たった一人のためを思って始めた活動は、「暮らしの中で自分が関わっている人にとって、もっといい環境が作れるはずだ」という思いがあり、そのための最初の一歩だったのだと、大きな気づきを得たのですね。

 

本当にそうですね。KAIGO MY PROJECTのおかげだと思っています。プログラムを通して考えを整理した時、「聴覚障害や他の障害、それ全部関係ないじゃん」と気づきました。

ある一人の聴覚障害の方のための場をつくりたかったのはきっかけであって、聴覚障害や他の障害があってもなくても何でもよくて、様々な人が関われる場をつくりたかったんだと、気づかされました。

参加者のための、参加者でつくる場。

———様々な人が集まる場をつくるときの難しさに、ごちゃ混ぜになって、「結局なんのための場?」となったり、10人の参加者がいたら10通りの居心地の良い場所があったりしますよね。
黒田さんには、“助けてもらいながら一緒にやる”相互の関係性を作る場所という揺るがない軸があったから、目的や背景の思いを見失うことなく続けていけるのだなと感じました。
「笑顔♡元気会」は定期的に開催し、現在までに12回を迎えたそうですが、参加者に変化はありましたか?

場所代としての参加費500円を払ってもらっているのですが、「本当はただ迷惑をかけているだけかもしれない…」と不安に思うこともありました。でも、参加者にインタビューをした時、「当事者同士が集まる場は必要だと思うよ」と言ってもらい、始めたのだから続けなくてはいけないなと勇気になりました。

また、新しい人や見学者が来ると、「ここはこういう場だからね」と参加者のおじちゃんが説明してくれるようになりました。私はその日喋らなくて良くなるんです。これこそ私がやっていてよかったと感じたタイミングでした。

人数がもっと集まれば、参加者同士の関係性が生まれてくると考えています。

いつまでもわたしが中心ではなくて、例えば、参加者同士で助け合ってどこかに出かけたりする。

「黒田がなんかやっているけど、あれは俺のおかげだぜ」って、ほくそ笑んでいるおじちゃんがいっぱい出たりしたらいいな。

1年後には、わたしが何も考えなくても、一人歩きしてくれている場にしたいです。

私はただの一参加者で「今日何やるの?」と行ける場に出来たらいいなと思います。

 

KAIGO MY PROJECTは「笑顔♡元気会」の原点。

———KAIGO MY PROJECTプログラム終了後の活動はいかがですか?

プログラム中は明確な問いかけがありましたが、終了後は自分で問いかけから考えないといけなくなりました。急に一人になった気がしてしまった時もありましたが、今では少しずつ関わってくださる方が増えました。

病院のスタッフから、「外来で来ている患者さんを紹介したい」と言われたり、市役所や社会福祉協議会ではチラシを置いてくれたり。先日はKAIGO MY PROJECTの同期が「笑顔♡元気会」に見学に来てくれました。

他に場づくりをしている方の話を聞いたり、実際に見学したりして、自分のやりたいことへの違和感は少なくなってきました。

今は何について考えていけばいいのか少し分かるようになってきたかなと思います。

———自分自身で内省し本質を問う姿勢は大切ですね。一方で、とりあえずやってみることで見える世界が変わるかもしれません。最後になりましたが、KAIGO MY PROJECTへの参加を迷っている方に一言お願いします。

何かやりたいことを持っている人は壁にぶつかることがあるかと思います。

KAIGO MY PROJECTに参加しても、その自分の壁を誰かが一緒に打ち破ってくれる訳ではなく、壁を打ち破るのはあくまでも自分自身です。

しかし、一緒に別の場所の壁を打ち破ろうとしている仲間がいて、壁を打ち破る勇気や破り方のヒントをくれる人がいると、自分の壁を自分で打ち破れるようになります。

———貴重なお話をありがとうございました。最後に黒田さんにとってKAIGO MY PROJECTとは?

「笑顔♡元気会」の原点かな。

KAIGO MY PROJECTがなかったら、すぐに挫折してこの場を辞めてしまったかもしれません。ここまで目的を持って続けていられるのは、KAIGO MY PROJECTのおかげです。

この記事を書いた人

叶世 美奈

叶世 美奈Mina Kanase

障害者支援施設スタッフ 社会福祉士 精神保健福祉士KAIGO LEADERS Tokyo/KAIGO MY PROJECTチーム

大好きな障害福祉の仕事をしている日々がとても幸せです。
甘くて柔らかくて優しく包み込んでくれる“わたがし”のようになりたい。