「仕方ない」で済ませない! 介護職員を悩ませるハラスメント問題について考えよう
学生の目線で、介護の可能性を“もっと”探るand more project。
介護現場でアルバイトをしている学生メンバーのひとりが、
「介護の仕事って家族関係やプライベートなことに踏み込むのに、LGBTについて配慮されていないのでは?」「セクハラにあたる言動が冗談として受け流されているのでは?」
と疑問を持ち、東京・八王子で訪問介護事業所を展開し、自身もLGBT当事者である佐藤さんにお話を伺いました。
前回の記事では、LGBT✕介護の側面から、様々なお話を伺いました。
記事はこちら→ 「介護現場には、LGBTへの想像力がもっと必要。」今、考えたい介護とLGBT。
後半は、 利用者からのハラスメントについて、問題点や佐藤さんの体験をお聞きしました。
お話を伺った人: 佐藤悠佑さん 訪問介護事業所SAISON代表
1991年、東京都生まれ。幼少期から吹奏楽部に所属し、高校では全国大会に出場。介護専門学校を経て介護福祉士の資格を取得後、現在はサービス提供責任者として訪問介護に従事する。また、NPO団体Startline.netを設立し、福祉・介護業界にてLGBTの認識を広める活動も行う。
訪問介護事業所SAISON
価値観を受け入れることも時には重要
トランスジェンダー当事者として、介護に携わる佐藤さん。
まず、佐藤さんに介護をする中で傷ついた言葉やハラスメントはあったかお聞きしました。
※トランスジェンダーとは、自分が認識している性と生まれたときの身体的な性が一致していない方の総称です。
ただ、僕は、僕がおにいちゃんかおねえちゃんかで争っているおばあちゃんたちを見るのが好きなんですよね(笑)。
そういう価値観の中で生きてきた人なんだと、その価値観を受け入れないと、というふうに思うこともあります。今のおじいちゃんおばあちゃんにみんなにスマホを使えるようになれっていっても、苦しいじゃないですか。
暴力・ハラスメントが起きたら、施設側の対応が大事
続いて、佐藤さんが行ったアンケートの結果についてお聞きしました。
アンケート内容は、2020年9月25日から10月29日まで集計していた、「医療福祉職員に対する患者からのハラスメントについて」です。
73件の回答があり、セクハラや暴力の被害が関係して仕事を辞めたことのある人が30%、暴力を受けたことがある人は84%とのことです。
こうした暴力・ハラスメントの被害について、佐藤さんは、起こってしまったあとの施設側の対応が大事だと言います。
暴力の被害が起きてしまった後の施設側の対応が大事かなと思います。1回その事例が起きたときに、ちゃんと話し合いをして、「こういう対策をしよう」とみんなで決めているかどうか重要です。
暴力を受けたことを報告したときに、上司や同僚に「あなたがよくないですよ」「避けるのも介護士の力量」と言われたという経験のある人が多いようです。そういう対応をされると、だんだん言わなくなるんですよね。我慢するしかなくなってしまう。措置から契約の時代に介護が移り変わって、 「利用者さん」が「 お客様」になりました。
高齢者、利用者さんのほうが立場が弱いから、向こうから手を出されたことも、「あなたが悪い」と言われてしまうし、職員が止めようとしたり身を守ろうとしたりしたことで、相手を傷つけてしまったとしても、「あなたが悪い」と言われてしまいます。
今の事業所では「ヘルパーに暴力行為をしたら、利用中止になります」という契約で了承をもらっているので、一回でもそのような行為があれば訪問中止にしています。
※補足
介護保険制度が制定される前は、行政が指定する老人ホームに入所する「措置制度」が主流でした。
アンケートの中で、セクハラ・暴力が原因で離職したと回答した人は3割
アンケートによると、セクハラを受けた人は80%を超えます。
僕がヘルパーさんから相談受けたのが、利用者さんの息子さんが精神的な疾患をもち、いつも部屋の中にいるはずなのに、ヘルパーさんがいると、部屋から出てこられて何度も話しかけてきたり、近づいてきたりするという事例です。
それが原因で行くのが怖いという話だったので、そのヘルパーさんを担当から外したことはあります。
あとは男性利用者さんの言葉でのセクハラのケースが多いですね。また、職場の飲み会の3次会がラブホテルだったというのもあります。
上司に報告・相談した人の割合は、パワハラよりセクハラのほうが低かったです。
女性も、どこからがセクハラなのか判断できないということもありますし、「上司に報告したけれど、特に何の対応もしてくれなかった」といった形で諦めてしまっているケースもあります。
あとは、 「病気だから仕方ない」とか、「 高齢者だから仕方ない」とか、セクハラを許す方向に話が進んでしまったり、もっとひどいところだと職員のせいにしたりしてくる。そういったセクハラを受けたあとに対応も悪いことが原因で離職する人が3割いるのが、問題だと思っています。
セクハラは最初から許さない
セクハラについて、佐藤さんが決めていることが一つあるといいます。
僕が決めていることが一つあります。
「セクハラは最初から絶対に許さない」というスタンスです。例えば、介助の際に、腕を指し出したときに、腕を握れるにも関わらず、別のところを触ってきたときは、明らかにセクハラだし、意志がありますよね。暴力もそうだし、セクハラも「次」が起こるから、一度話し合いをして収まらなかったら次は許さない方針を持っています。
優しいヘルパーさんによっては、「あれくらい良いよ」という風に思ったとしても次のヘルパーさんが同じことされて嫌がった時、「だって前のヘルパーさんはよかったのに」と言われてしまうといけないから、最初から絶対に許さないというスタンスです。
ヘルパーさんにできればその仕事を好きになっていて欲しい。だから僕たちもヘルパーさんたちを守らなければならない。
それが僕たちの仕事です。
福祉の現場で働くとき、自分の価値観を認識しておくことが大事
次に、暴力やセクハラに対する解決策について、お聞きしました。
「どこからがセクハラで、どこからが違うのか」という 共通の認識を事業所として持っておくことがまず重要だと思います。「お尻を少し触られたくらい気にするな」という認識の人がいたりすると、いざ被害にあった時に言い出しにくい環境になってしまいます。
プライベートゾーンに触れられたら我慢すべきではない、など、事前に浸透させておくことが必要です。
さらに、自分の価値観を知っておくのも、福祉の現場で働く上ではとても大切になります。例えば、うちの職場では入職したらすぐ、自己覚知の場を設けています。そこでは、自分がどういうことをされたら不快なのか、怒りを感じるのかをどんどん掘り下げるということをします。他人が不快に思うことについて相互理解を進めることもできるし、自分がかっとなったときにどう抑えるか考えることにもつながると思うんです。
認知症の人に対しても、工夫できることはある
ヘルパーが被害に遭っているなら怒りの感情を出しますね。
人と人が密接に関わる仕事だからこそ許せないことはあって、介護職を下に見られるのも許せません。認知症患者の方に対しては、しょうがないと思ってしまいがちだと思いますが、「どこから説明が必要なのか」ということに注意を向けるようにしています。介護を受けていること自体忘れてしまっていて、それが混乱や暴力につながるということがあります。なので、その人の認知能力を見極めて、「僕はヘルパーです、○○のお手伝いに来ました」と毎回伝えるといった声かけをするようにしています。どのような関わり方が適切なのか、研修や同行のときにもっとしっかり伝えるべきなのではないでしょうか。
介護業界は、他業界と比べ離職率の高い業界であると言われます。今回の佐藤さんのアンケート結果から分かるように、ハラスメントが一因となって離職している人は決して少なくありません。
既存の職員の方々や新たな介護職員の方々が長く、そして安心して働き続けるために、介護業界が今最も真剣に向かい合うべき問題の一つはないでしょうか。
貴重なお話をしてくださった佐藤さん、ありがとうございました!
佐藤さんからのお知らせ
佐藤さんの事業所では、現在ヘルパーを募集しているとのことです。興味のある方はぜひウェブサイトをチェックしてみてください!
弊社ではただいま訪問介護ヘルパー(社員・アルバイト共に)を募集しております!
10年間LGBT当事者の悩みや孤独感と向き合ってきた経験を生かし、地域の中で介護職ができることを最大限発揮できる事業所を目指しています。
詳しくはwww.startline-net.jimdo.comをご覧ください!
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取材記①:LGBTの当事者が介護で困ることは何か、介護職には何ができるのか?
取材記②:「仕方ない」で済ませない! 介護職員を悩ませるハラスメント問題について考えよう
この記事を書いた人・取材をした人
お話を伺った人:
杉浦 悠花 Haruka Sugiura
KAIGO LEADERS学生チーム/株式会社Blanket インターンメンバー・大学3年
私は、介護の仕事ってかっこいいなと思っています。
この「かっこよさ」を多くの人に発信していきたいです!