孤立を「仕方がないこと」にしない。若手起業家が目指す“優しい繋がりがある社会”
「社会的孤立」、「孤独死」……
こんな言葉が日常的に使われるようになった現在、一人暮らしの高齢者は、他人とどのくらい言葉を交わす機会があるのか、ご存知ですか?
一人暮らしをしている高齢者全体の4割にあたる、約240万人は、2〜3日に1回程度しか人と会話をしていないんです。僕はこの現状を“仕方がないこと”で片付けず、“優しい繋がり”で解決していきたいと思っています。
衝撃的な事実とともに、自身の想いを語るのは、KAIGO MY PROJECTの8期に参加していた萩原涼平さん。
2021年11月20日にオンラインで開催されたKAIGO MY PROJECTのOBOGによるマイプロトークイベントでは、「高齢者の社会的孤立」を解決するために萩原さんが立ち上げたサービス「Tayory(タヨリー)」についてお話いただきました。
一人暮らしの祖母をみて感じた「やるせなさ」
萩原さんが着目した社会課題は、「高齢者の社会的孤立」。きっかけとなったのは、萩原さんのおばあさんがご主人を亡くしたことでした。
僕の祖父は、会社の経営者でした。祖母は、その会社をずっとサポートしていたんです。祖父が亡くなった後、会社も閉じ、祖母は一人暮らしになりました。
配偶者と会社を支える役割の喪失。この喪失感からか、おばあさんは活力が無くなっていき、寂しそうだったと萩原さんは言います。
祖母をみていて、やるせない気持ちになりました。さらにその当時、「高齢者の社会的孤立」が世論的にも大きく取り上げられ始めていました。祖母のように役割を失ったり、家に閉じこもりがちになってしまっている人がいることを知って、そこにアクションを起こしていきたいと思うようになりました。
自身が感じた課題意識から事業の立ち上げをしたいと考えるようになった萩原さん。
「課題解決を事業にする」ために、専門学校でビジネスについて学びました。さらに、NPOやベンチャーへのインターンを通して、経験を積んでいきました。
「おばあちゃんを笑顔にしたい」
その想いを胸に奔走していた萩原さんに、ある助言が入ります。
福祉系の会社を経営している従兄弟から、「自分の想いだけでは自己満足な事業にしかならないよ」って、すごく怒られたんです。それを機に、もっといろんな人の話を聞いたり、独居高齢者の現状について知っていこうと思いました。
助言から始まった「Tayory」立ち上げまでの修行
ー1.地域に住む人の声を聞く
地域における高齢者の孤立について現状を知るために、萩原さんは群馬県甘楽町で地域おこし協力隊に就任。そこに住む高齢者と関わることで、リアルな声を聞けたと言います。
地域おこし協力隊になってからは、役場の健康課の方と一緒に介護保険制度に関係のある仕事をさせてもらったり、自治会長さんやグランドゴルフなどのコミュニティの方と関わらせてもらいました。それを通して、祖母のように「繋がりたいけれど繋がれない」人たちがたくさんいる現状を痛感しました。
特に、趣味のコミュニティに参加している方から聞いた「ここに来れなくなると家にこもって弱っちゃうんだよ」という言葉が印象的でしたね。
萩原さんが実際に地域に住む高齢者と関わる上で痛感したのは、「参加しているコミュニティがあることの大切さ」でした。コミュニティに属して趣味を継続することが、同時に自身の健康づくりや、生きがいづくりといった生きる上で大切なことにも繋がっていると感じたそうです。
この気づきから、萩原さんはNPO法人ソンリッサを設立。事業の一環として、高齢者が集まれる場づくりを開始しました。
助言から始まった「Tayory」立ち上げまでの修行
ー2.事業として継続する方法を学ぶ
萩原さんがまず始めたのは、高齢者向けのスマホ教室。150名ほどの高齢者が参加し、スマホの操作を一緒に学ぶことを通して、一緒に外出する関係が生まれるなど、参加者同士の繋がりが生まれていきました。
さらに萩原さんは、「家にこもりがちな高齢者」にもアプローチをかけていき、外へ出なくても気軽に人と繋がれる方法を模索。ビデオ通話を通して地域の同年代と関われるサービス、「EMOTOMO」を開始しました。
萩原さんの取り組みは各方面から評価を得ていきました。
いろんな賞をいただいた一方で、「ビジネスとして継続していく」ことに対して、難しいと感じていました。修行をしないといけないなと思ったんです。
地域おこし協力隊の任期を終えた萩原さんは、「修行」として、ソーシャルスタートアップの企業で働きながら、ビジネスを継続するためのノウハウを学びました。
そしてその傍らで萩原さんと同じ課題感を抱く人たちと勉強会を開催。その時に出会った仲間とともに、現在萩原さんが運営するサービス、「Tayory(以下、タヨリー)」を立ち上げました。
「Tyory」が目指す繋がりの再構築
タヨリーが目指すのは、社会的孤立や望まぬ孤立を感じている高齢者が、それぞれの意思や尊厳が尊重された形で地域やコミュニティとの繋がりを再構築することです。
この目標を達成するために、「まごマネージャー」と呼ばれるスタッフを中心とした事業を展開。この内容について、お話ししてくださいました。
「まごマネージャー」は、独自の研修を受けたスタッフのことです。彼らが高齢者の方の家を訪問して、気さくに会話をさせていただく中から困りごとを聞いたり、その場で解決をしたりします。さらに現在の思いを会話から汲み取って、地域コミュニティに繋げていく役割も担っています。
また、離れて暮らすその方のご家族とのハブになり、「訪問レポート」と呼んでいる、その方の近況が記されたレポートの共有をすることで、家族との繋がりも希薄にならない仕組みになっています。
さらに萩原さんは、タヨリーの最大の特徴は、事業の目的が「孤立の防止」である点だと教えてくださいました。
他の民間企業でも、類似したサービスはありますが、孤立防止を目的としたサービスを展開しているのはタヨリーだけなんです。「高齢者の方が何を求めているのか」を中心に考え、僕たちが家族や地域といった、その方に必要なコミュニティとのハブになることで、高齢者の孤立という問題の解決を目指しています。
広がる「Tayory」のニーズとこれからの展望
望まぬ孤立の防止、解決を目指すタヨリーは、介護保険制度の中ではなかなか提供できないサービスのひとつ。そのため、ケアマネジャーの支援が難しいところに役立てると、萩原さんは語ります。
「私たちが支援しにくいところに手を伸ばしてくれているからありがたい」と、ケアマネジャーさんから声をかけていただいたこともありました。介護認定を受ける必要がない人でも、孤立を感じている方はいますからね。
さらに、コロナ禍によるニーズが出てきていると、萩原さんはエピソードを交えてお話ししてくださいました。
最近関わらせていただいた方で、カラオケが好きな男性がいます。その方は、コロナ禍によって思うように外出できなくなって、こもりがちになってしまったんです。
その方とタヨリーを通じてお話しをさせていただくうちに、どんどん元気になっていきました。コミュニケーションを重ねていくうちに「運動不足でね……」という言葉が聞けて新たなニーズも知ることができました。そこから、私たちが開催している地域サロンにお誘いして、そこへ参加してくださったんです。その後はサロンを通じて、横の繋がりが生まれています。
「孤立」は、喫煙や飲酒よりも死亡率が上がると言われるほど問題視されていることのひとつ。さらに内閣には「孤独・孤立対策担当大臣」が置かれるようになりました。
社会全体で解決に向けて動き出した「孤立」に対してアプローチし続けている萩原さん。
最後に、今後の展望についてお話ししてくださいました。
私たちは、ひとりで抱えずに優しいつながりが溢れる社会をつくりたいと思っています。それを実現するために、群馬県内、そして隣県にも事業を拡大していきたいと考えています。さらに、国で掲げた「孤立・孤独対策」のロールモデルになりつつ、事業を展開できたらと思っています。ご静聴ありがとうございました。
質疑応答
開催概要
日時:11月21日(日) 19:30~21:30
場所:オンライン(Zoom配信)
KAIGO MY PROJECTとは?
KAIGO MY PROJECTは、自分自身の想いや問題意識をもとに、何か新しいことを始めてみたい人、あるいは既にはじめている人を応援する連続ワークショップ。
https://heisei-kaigo-leaders.com/projects/kmp/