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イベントレポート

全ての人に“家に帰る”選択肢を。 “複業”で看護を越境する落合実さんの働き方。

「わたし」の中にある現状への課題認識や、「こんなことをやってみたい!」という想い。

そんな想いをもとに、社会によりよいアクションを「マイプロジェクト(以下、マイプロ)」という手法を通じて、仲間と一緒に考え生み出していくKAIGO MY PROJECT

より多くの人にその活動を知ってもらおうと、定期的に体験イベントを開催しています。今回は、臨床の現場で仕事をしながら、会社経営・コンサルタントなど様々な“複業”の顔を持つ、看護師の落合 実さん(KAIGO MY PROJECT4期生) をゲストにお迎えした際のレポートをお届けします。

“複業”で看護を越境する落合実さんの働き方。

介護職の私は「看護師」に、病院などの施設や自宅訪問の巡回などで「医療的なケアに特化する」イメージを抱いていました。
しかし、「看護師として現場に入りながら、コンサルも、採用も、ウェブも…いろいろやっている看護師がいる」と聞き、驚きました。
一体、どのような考えのもとで働き方を実践されているのか。

今回は、落合さんがなぜ「全ての人に、“家に帰る”選択肢を」作ろうと考え、そのために既存の「看護」という枠を超えた働き方をしているのかをお話いただきました。

「看護×○○」で「すべての人に家に帰る選択肢を」

多くの方が、最期を住み慣れた家で迎える選択ができる社会になっていない。

看護師として人生の最期を全うする人に寄り添うために必要なのは「住み慣れた家に帰る」という選択肢を増やしていくための「訪問看護」でした。

「訪問看護」を選んだ理由を、落合さんはそう話します。

高校生の時に母が若年性アルツハイマーになり、「よい人生ってなんだろう」と考えながら母の人生に触れた落合さん。
その頃から人生の最期まで寄り添える看護に興味を持ち、この道を選択したそうです。
看護師の夢を叶えてからも、診療所、病院と場所を変えながら、人の最期にずっと関わっています。

しかし、看護師の仕事をする中で、ある事実に気付きました。
それは、病気がありながら「最期は住み慣れた家に帰りたい」の願う人の多くは、自宅に帰れないということ。

この現実を改善すべく「訪問看護」の会社、WyL(ウィル)株式会社を立ち上げます。

WyL株式会社が立ち上げたウィル訪問看護ステーションでは、「家に帰れたらいいのに」という思いを実現するため、24時間356日対応の訪問看護、小児から終末期まで全てに対応。
システムの活用なども積極的に行いながら、看護師や患者を取り巻く環境を変えています。

さらには、「自分の会社だけではすべての人に『家に帰る選択肢』を作るには足りない」と落合さんは考え、採用・育成に携わるサービスやコンサルタント、講演、新規立ち上げをサポートし、他の会社とも共同しながら、訪問看護の市場全体をよくしていくことにも取り組まれています。

そんな落合さんは、どのように看護師として「人の生きる」に向き合い、従来の「看護師」の枠にとらわれない働き方を実践しているのでしょうか。

「自分の楽しさ・興味」と「社会によいこと」を両立して働く。

働いていて楽しいですか?
私は楽しいです。

自分がわくわく感じられることを、誰かのために使って働けているから。

落合さんのその言葉に、会場はしんと静まり返ります。
同時に「自分はどうだろうか」と各々が考える様子がうかがえました。

私はよく、「内発的動機(わくわくすること、楽しいこと)」「利他的動機(社会から必要とされること)」という言葉を使います。
この二つが重なるところが長く続けられる、長くモチベーションを持ち続けられると言われています。

内発的動機は、興味や関心から達成感や充実感のために「やろう」とすること。
対義語に外発的動機があり、評価や報酬、罰則などから「やろう」とすることと定義されています。

利他的動機は他の誰か、社会の利益のためにすることで、対義語は利己的動機、自分自身の利益のためにすることです。

私は、自分がわくわくすること、楽しいと思えること(内発的動機)を、社会の課題解決にどうやったら役立てることができるのかを考えてきました。

私にとって、「終末期に寄り添う」ということは、やりたいと思えることであり、それが「家で最期を迎えたい」と願う人に必要とされる(利他的動機)のが、訪問看護というフィールドでした。

落合さんは、楽しく働くためには「外発的・利己的」ではなく「内発的・利他的」動機に基づいて働くのがいいと強調します。

私自身が仕事を通して大切にしたいことは、「人の感情に触れることや、人の感情を動かすこと」です。

訪問看護で、人生の最期を全うしようとする方に関わる時、「家に帰りたいという人の役に立っている」という実感が持てるから、楽しく働くことができているのだと思います。

採用・育成に携わるサービスやコンサルタント、講演、新規立ち上げも根っこは同じです。
人を引っ張っていくという点で「人の感情に触れる、動かすもの」であるので、同じような感覚で「楽しく働く」ということを実現できています。

私にとって意外だったのは、看護と採用・コンサルティングという一見全く違う仕事でも、「人の感情に触れる・動かす」という落合さん自身の内発的動機に基づいているということでした。
自分自身の内発的動機を明確に持っているからこそ、落合さんは様々な領域の仕事に、やりがいや充実感を持ちながら仕事ができているのだと思いました。

「人の感情に触れる・動かす」という内発的動機と、「家に帰りたい」と思う病気を抱えた人たちの力になるという利他的動機を大切にしながら働く落合さんの姿勢は、私たちに「あなたの内発的動機・利他的動機は何ですか?」と問いかけるようでした。

私自身も、お話を聞きながら、「自分の場合はどうなのだろう?」という考えが頭をめぐりました。

では、落合さんは自身の内発的動機や利他的動機を、どのように深めてきたのでしょうか。

自分自身の内発的動機と利他的動機は何か?

それを考え、理解の精度を上げるにはまず、知ることです。
「自分を知る」「社会を知る」。
その双方が重要です。

そして行動します。
「今より一歩踏み出す」「共に歩む仲間を作る」。
そうすることで見えてきます。

かつて落合さんもマイプロの4期に参加しながら自分自身の内発的動機・利他的動機は何かということを見つめ直した一人。
だからこそ、今、楽しく「働く」ことができているといいます。

ただ「楽しい」ことをしていても「必要」とされなければ共感されずに継続は難しく、「必要」とされていて懸命にやっていても「楽しい」と思えなければ、しんどくなってしまいます。

自分にとっての「内発的動機・利他的動機」はなにか。二つの重なるところはどこなのか。落合さんの「働く」姿は、それらを考えるきっかけになりました。

複雑な社会問題を考える時は、複数の軸をもつことが大切。

落合さんは取締役、緩和ケア認定看護師、アドバイザー、コンサルタント、非常勤講師と、複数の場所で様々な関わり方をしています。

たくさんの仕事をしているけど、それは「副業」ではなく「複業」。
たくさん稼ぐのではなく、複次的経験を積んで、それぞれの経験がつながっていくんです。

落合さんの働き方はたくさん働いてたくさん稼ぐという一般的な「副業」ではなく、複数の軸を持って、そのキャリアを相互につなげあって成り立っています。
すべての仕事は何かしらの形でつながっていく、だからこそ「複業」と呼んでいるそうです。

社会問題は複雑で複合的です。
だから、より「利他的」に、社会のために働くには複数の軸を持つのがいい。

何か解決したい社会問題があったとしても、その問題は見えている以上に複雑なことが多いもの。
「看護師」というひとつの軸だけでは解決できないことがたくさんあるといいます。
社会のために働きたいという人ほど、複数の軸を持って、横断的にキャリアを積んでいくことが重要だと落合さんは考えています。

「やりたい」を続けるのに必要なのは“希少性”

働く上での「軸」って何ですか?
私は「希少性」だと思っています。

「希少性」…?
会場は予想外の言葉だったのか少しどよめきました。

私自身の想いとして、終末期看護に関わり続けたい。
でも、一看護師として現場に居続ける限界も感じていた。
だから、自分のやりたいことを継続して実現していくためにも、自分自身の「希少性」を上げていく必要があると考えました。

人生の最期に寄り添うことをしていきたい。
しかし、それをし続けるには患者さんに選ばれなければならなりません。
「落合さんにお願いしたい」と思ってもらえるような、他の人にはない専門性や経験を持つことが重要と、落合さんは語ります。

例えば、看護師として1/10000の「希少性」がある存在になるということは、すごく大変なことです。
でも、1/100にはなれる要素を二つもつことができれば「1/100×1/100=1/10000」の「希少性」のある看護師になれると、落合さんは、訪問看護師がなかなか持っていない緩和ケア認定看護師の資格を取得します。

緩和ケア認定看護師の資格(看護師の中での1/100)、WEBを通じたマネタイズのスキル(ネットの無料サービスから利益を得ること。それができるのが約1/100)、この二つを掛け合わせることで、落合さんは1/10000の「希少性」のある看護師になっています。
そうやって、仕事を通じて「希少性」を高めてきたそうです。

今後は、新規事業などのその他の要素を高めることで、さらに自分自身の「希少性」も高めていきたいと言います。

ケアリングという言葉があります。
ケアをされる側だけでなく、ケアをしている人自身も学びや気づきを得て、ケアをしてる人、される人双方とも成長するという考えです。

「希少性」も同じで、複数の軸のキャリアが高まり、専門性が高まることは、自分自身の「希少性」が高まることでもあります。
そうすることで自分の「内発的動機・利他的動機」と重なる仕事を見出していく、作り出していくことができる。
そうすれば「働く」は楽しくなるはずです。

これまでの話から、「働くこと」で得られたキャリア、経験、専門性は、やがて「希少性」を高めることにつながるのだと落合さんの話を聞いて感じました。

では、私自身なら、どのようにして「希少性」を高められるのか。
話を聞きながら、実は、誰もがこの「希少性」をすでに持っているのではないかと思いました。

例えば、今回の体験会では、長年の福祉現場での経験と、趣味の得意料理を融合させる形で活かしながら、福祉のコミュニティづくりをされている方がいました。
他にも、過疎地域の活性化に取り組まれている看護学生の方は、看護学生としての視点と若者としての視点両方で自分自身の活動を考えていました。

一人ひとりがこれまでの様々な体験や活動から、様々なスキルや経験・学びを習得しています。
一見バラバラにも思えるスキルや経験を「誰かのために」「社会のために」と組み合わせていくことで、一人ひとりの「希少性」は高まっていくのではないでしょうか。

落合さんのお話の後に行われたKAIGO MY PROJECTの体験会では、参加者の皆さんが、課題意識を感じることや、その課題意識の奥にある自身の想い、その課題に対して自分が活かせる「希少性」は何かという点に焦点を当てながら、対話を深めていきました。

KAIGO MY PROJECTでは、3か月間のプログラムの中で、「わたしのやりたいこと」と「社会によいこと」を見つめ、対話を通して深めていきます。

落合さんが「人の感情に触れたい・動かしたい」という想いを軸に、訪問看護や複業にやりがいを持ちながら働けているように、私たち一人ひとりが自分の大切にしたい想いと向き合い、どう実現していくかを考える時間は、ますます働き方が多様化する今の社会において、より重要になってくるのかもしれません。

KAIGO MY PROJECTに参加してみませんか?

落合さんも参加されたKAIGO MY PROJECTは、ただいま2019年1月からスタートする15期の参加メンバーを募集中です。

新しい年の始まりに、仲間とともに自分の想いを見つめ、新しいアクションを形にしていきませんか?
ご参加お待ちしております!

KAIGO MY PROJECT15期の詳細はこちら

【イベント情報】12月26日KAIGO MY PROJECT紹介・体験イベント特別編開催!

KAIGO LEADERS発起人の秋本可愛が、自身のマイプロジェクトを語ります!

2015年1月にスタートしたこのプログラムは、全14期131名が参加、それぞれの想いから生まれたマイプロジェクトが動き出しています。

プログラムスタートから5年目、1月から開始予定の15期より、これまで以上に、一人ひとりのプロジェクトを加速させるため、プログラムを大幅にリニューアルすることになりました。

今回のKAIGO MY PROJECTの紹介・体験イベントでは、新しいプログラムの特徴をご紹介すると共に、KAIGO LEADERS発起人の秋本可愛が、自分自身のマイプロジェクトや、その背景の想いをお話させていただきます。

・KAIGO MY PROJECTについて、詳しく知りたい。

・新しい年に、何かをスタートさせたい。

・発起人秋本可愛の話を聞きたい。

そんなお気持ちの方は、ぜひご参加ください!

⇒体験イベントの詳細はこちら

 


ゲストプロフィール

落合 実(おちあい みのる)
Wyl(ウィル)株式会社 取締役 / 緩和ケア認定看護師

高校卒業後、勤労学生として福岡市内の有床診療所に勤務しながら看護学校へ進学。
准看護師、看護師の資格取得に合わせて有床診療所から大学病院、訪問看護ステーションと、施設の種類を変えながらも一貫して終末期患者の看護に従事。
上京後は看護師勤務と平行してWEBデザイン学校や日本政策学校に通学し修了。
現在は緩和ケア認定看護師として訪問看護に従事しながらウィル訪問看護ステーションの教育や広報、採用などの仕組み構築の一端を担う。

 

この記事を書いた人

清水 達人

清水 達人Tatsuhito Shimizu

介護職、介護予防運動指導員KAIGO LEADERS PRチーム

学生時代に防災関係の活動や海外ボランティアに従事。東日本大震災時にも、学生ボランティアとして東北でも救援活動を行う。
介護士の経験と防災への関心から、「介護×防災」を考える“防災介護士”としての活動をスタート。

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