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インタビュー

旅行を通じて、要支援の方に今出来ていることを実感してもらいたい。(KAIGO MY PROJECT OB/OG インタビューvol.13)

要支援の方は出来ないことが少ないのにもかかわらず、少し不自由があると諦めてしまい、今出来ていることに目を向けることが難しい人が多いように感じます

 KAIGO MY PROJECT17期に参加した、髙橋海聖さんは、こんな課題感を持っていました。

課題に対してどのように取り組んでいるのか・KAIGO MY PROJECTに参加して変化したことについて、お聞きました。

(聞き手:矢尾真理子)

 髙橋海聖(たかはし かいせい)さん

高校生の時にバレーボール部で怪我をし、理学療法士に「肩のこの部分が悪いのではないか」と教えてもらう。その後実際に病院に行き検査をしたら、言われていたことが当たっていた。

MRI画像を見なくても、外から見てわかることがあるんだ!すごい!と感動したことがきっかけで、身体のことを知っていたら、今後怪我をした時や、身の回りの人が不調の時にアドバイスできるのも良いと感じ、理学療法士を目指す。

現在は圏央所沢病院をはじめとする社会医療法人至仁会のデイサービスで、理学療法士として要支援1、2の方を中心にマシンリハビリテーションと集団リハビリテーションを提供している。

 

苦手なことに挑戦したら、変われるかもしれない。

———KAIGO MY PROJECTに参加したきっかけを教えてください。

職場の部長に誘われたことがきっかけです。人と話をするプログラムだと聞いたので、自分からは行こうとしないものだと感じました。

 同年代と話をすることも大好きですし、年代が上の人と話すとおもしろい人生経験も聞けるので学生時代は高齢の先生と話をする時間も好きでした。今も利用者さんと雑談をすることは楽しく、趣味のようなものになっています。

ですが理学療法士としてアドバイスしなくてはいけない場面になると、どう伝えたらいいのか悩むことや、職員同士のコミュニケーションにはとても気を使ってしまい、苦手意識がありました。

 だからこそ勧められたこの機会を活かして、苦手なことに挑戦したら変われるのではないか、一度経験することで次も参加できるようになるかもしれないと思い、参加を決めました。


「マイプロジェクト」という教育手法を用いながら、「こんな課題を解決したい」「こんなことをやってみたい」という一人ひとりの想いを形にしていくプログラム、KAIGO MY PROJECT。

3カ月間全6回のプログラムを通して、自身と向き合い、その想い(ビジョン)をプロジェクトとして形にしていきます。

KAIGO MY PROJECTの詳細はこちら

モチベーションを引き出すための手段としての旅行。

———高橋さんの最初のプロジェクトは「利用者さんの旅行の実現」でしたね。

これはたまたまですが、ちょうどKAIGO MY PROJECTを勧められた時、要支援の利用者さんが、どんなことに興味があるのか調べるためにアンケートを取り、集計結果をまとめ終えたところでした。

アンケート結果から、「旅行に行きたい」利用者さんが多いと分かっていたので、これをプロジェクトとしました。

———アンケートで分かった利用者さんの希望である旅行を、高橋さんが自身のマイプロジェクトとして実現しようと思ったのはどうしてですか?

「良くなった。ありがとう」、「今日楽しかったよ!」って言ってもらうと嬉しいし、今日も良かったなと思えます。そんな利用者さんを喜ばせてあげたい!と思ったのがきっかけです。

社会との繋がりや健康維持になるなど理学療法士としての理由は後から出てきました。



要介護度が高い方は出来たことに目が向いて頑張れるのに対して、要支援の方は、ちょっと不自由だと諦めてしまう人が多い印象があります。 要支援の方は、少しずつ増えるできなくなることにばかり意識がいってしまい、できていることに目を向けるのが難しいようです。

中には精力的な利用者さんもいるので、モチベーションが下がっている利用者さんのことを引っ張っていってもらったり、僕から自主トレーニングを指導し、効果をうまく実感してもらえるような働きかけをしたり、少しでも痛みを減らしたり、痛みが変わらなくてもうまく出来るようになったり。

自分でも出来るのだと気づきを得てもらい、運動などをしていけば、高齢者でも身体や気持ちに変化を起こせると気づいてもらえるアプローチをしています。

それでも介護予防へのモチベーションをあげるのは難しいので、手芸やカラオケなど日常感があることではなく、特別感のある旅行であれば、モチベーションを引き出せると考えました。

———旅行に行くことを手段として、要支援になりちょっと不自由が生まれたことで諦めてしまっている方のモチベーションを取り戻してもらう、自分でも出来る気持ちを実感してもらうことを目指しているのですね。

身体機能回復も大切ですが、高齢者が「自分で気づくこと」、「良くなる実感を持つこと」など気持ちの変化に目を向ける高橋さんの視点は大切ですね。

自分がするのではなく、利用者さん主体の考え方。

———KAIGO MY PROJECTでは、参加者やメンターとの対話を通して、自身のプロジェクトと向き合っていきますが、影響を受けたことはありましたか?

最初は「僕が旅行を提供する」と考えていました。同期メンバーから、「利用者さんが旅行プランを考えて行くのはどうか」と言われたことがとても印象に残っています。

僕は自分が旅行の企画をすれば利用者さんは旅行に行けるだろうと考えていました。利用者さんの気持ちを考えずに自分で勝手に進めてしまっているのかもしれないと気づきました。 

———利用者さん同士で行う視点に気づいてから、アクションに変化はありましたか?

デイサービスの時間を使用して、何名かの利用者さんとグループワークをしました。

「旅行に行けない理由を、自分でどう思っているか」

「もし旅行に行くなら、何があれば行けると思うか」

このテーマで話し合い、出てきた意見をまとめてみると、利用者さん同士の助け合いがあれば旅行に行けると分かりました。

そんな考え方もあるのだと利用者さん自身に気づきを得ていただけました。

———その後はどう進めているのですか?

最初は、僕と利用者さんが半分ずつくらいで旅行の計画を立てるつもりでした。

まずは目的地と交通手段など、おおよそのプランは僕が用意し、誰が行くのか、集合場所までの行き方は何が良いか、など詳細は利用者さん同士で決めていただくなど。

僕は計画することも含めてリハビリテーションになると考えていましたが、いきなり計画もして旅行に行くのは利用者さんの負担も大きく、「疲れた」「嫌だな」という印象が強くなってしまい続かないのではないかと他スタッフから意見をもらいました。

初めての取り組みなので、まずはバスツアーのような形で、自宅までお迎えに行き、旅行に行くことへのハードルを低くして、実行することになりました。

そうすることで、「自分も出来る」と実感していただけ、旅行に行くことが当たり前になると考えたからです。旅行に行くことが当たり前になれば、次のステップとして利用者さん同士で計画して旅行に行くこともできるようになっていくことでしょう。 

———集団リハビリテーションの時間にワークショップをすることや旅行計画を採用するなど、職場の後押しが素晴らしいなと感じました。

僕がやりたいと言ったことを、やらせてくれる職場です。

集団リハビリテーションの時間の使い方も任せていただいたり、今回の旅行をデイサービスで継続させるための仕組み作りを一緒に考えてくれました。職場で実践出来る、ありがたい環境にいるのだと気づきました。

自分の受け止め方や相手に対する敬意、対話の仕方を学んだ。

———KAIGO MY PROJECTに参加したことで変化はありましたか?

1つ目は考え方です。

旅行に関してだけではなく、今後のアプローチとして、僕が先に立つのではなく利用者さんが主体になる視点をもらったことが大きな成長でした。

2つ目は対話の経験です。

グループワークの中で、同期メンバーとメンターとのやり取りを通して、話し方のお手本を見せてもらい、人との話し方・アドバイスの仕方などを学びました。

大学時代は、勉強内容が理学療法の専門に特化していたので、人への伝え方など基礎的な教養の勉強が甘くなっていたのかもしれません。

理学療法士の仕事は、人との関わりの中で治療提供するので、人と話をして相手の考えを汲み取る必要があります。

「こういう性格の人には、どんな伝え方をしたらいいのだろう。」、「こう言ってる人の本当の気持ちは、なんだろう。」など、人と話をすることの難しさに悩んでいました。 

そんな時期KAIGO MY PROJECTに参加したことで、こういう風に話し合いを進めるのか、こういう風に言ったら考えが変わっていくのか、と学べたことがとても大きな経験となりました。 

———KAIGO MY PROJECTで大切にしている対話と内省を学んでいただけたこと、とても嬉しく思います。本当にありがとうございました。

この記事を書いた人

叶世 美奈

叶世 美奈Mina Kanase

障害者支援施設スタッフ 社会福祉士 精神保健福祉士KAIGO LEADERS Tokyo/KAIGO MY PROJECTチーム

大好きな障害福祉の仕事をしている日々がとても幸せです。
甘くて柔らかくて優しく包み込んでくれる“わたがし”のようになりたい。

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