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イベントレポート

介護施設内にホテルやシェアハウス?!自分が入りたいと胸を張って言える介護施設とは?(株式会社ゆず)

皆さんは介護施設にどのようなイメージがありますか?

安全に生活するためのサポートを受ける代わりに、自由に外出できなかったり、娯楽や好きな食べ物を制限されてしまう場所だと思う方も多くいらっしゃると思います。

そのような一般的な介護施設とは違い、利用者の生活に極力ルールを設けず、お酒やタバコも楽しめ、自宅で過ごすように生活できる介護施設があると聞くと驚かれませんか?

全国介護・福祉事業所オンラインツアー」では、これまで福祉の実践、地域を盛り上げる全国の介護・福祉事業所や高齢者活躍の場などの創出事業を手掛ける15の事業所に登壇いただき、地域での暮らしを豊かにする実践の可能性に触れてきました。

2022年12月10日に広島県の会場とオンライン中継のハイブリッドにて開催された「全国介護・福祉事業所オンラインツアーVol.5」では、「介護を超える。人と人との関わりを生む、新たな地域づくり」をテーマに、2つの事業所にお話を伺いました。

株式会社ゆずは、介護施設に小さなホテルや学生のシェアハウスを併設したり、地域と介護施設がもっと身近に感じられるような場づくりをしています。

株式会社ゆず代表取締役の川原奨二さん(以下、川原さん)の合言葉は、「いつまでも、どこまでもフリースタイル」。

そんな川原さんより、どういった経緯で株式会社ゆずを立ち上げられたのか?その前代未聞な事業内容についてお話を伺いました。

なんとなく踏み入れた介護の世界

川原さんが福祉の専門学校を卒業されてから医療法人に勤務された頃は、福祉の仕事の給料は公務員とほぼ同じで、これからもっと良くなるという「ゴールドプラン世代」と呼ばれていました。

「なんとなく」という気持ちで資格を取り卒業しました。
ここで皆さんに一番伝えたいことは、私には目標がなかったことです。

卒業後、1年間フリーターとして過ごしたのは、
「就職したら最後まで勤めあげたい」
「中途半端な気持ちで福祉の仕事に就いて迷惑をかけるのは嫌だ」
という気持ちから、自分は本当に何をしたいのかを考えるためでした。

そう考えているうちに子供ができて、「このままフリーターでは良くない!」と思いました。

「せっかく資格を取得したんだから、一度チャレンジしてみよう」と、福祉の世界に入ることにしました。

「喜んでもらいたい!」気持ちが先走ってしまった初めての職場

 

紹介してもらった先輩の顔に泥を塗りたくないという思いで、最初の目標は「辞めないこと」に決めました。

まずは2、3年頑張って、合わなければ違う業界で働こうと思っていましたが、それからどんどん福祉の仕事に魅了されていきました。

「おじいちゃん、おばあちゃんを喜ばせたい!」という気持ちは同期の中で一番強かったそうです。

今振り返ると、すごく悪いことをしてしまったと思うのですが、タバコやお酒が制限されたり、食べたい物を食べられなくなって辛いと利用者から聞き、こっそり渡したりしていました。上司にすごく怒られましたね。

他にも、40年間女性の裸を見ていないという利用者にDVDを観せてあげたり、温泉に行きたいという方を温泉に連れて行って怪我をさせてしまったりした経験もあるそうです。

「利用者に喜んでもらいたい!」という気持ちだけで行動してしまい、その度に上司に怒られていました。そんな経験をふまえ、おじいちゃん、おばあちゃん達にもっと良く過ごしてもらえるように、もっと知識をつけていかなければいけない!」と考えるようになりました。しっかりと勉強することで利用者に楽しく過ごしてもらえるようになると思い、社会人になってから人生で初めて本気で勉強しました。

その後、介護主任に任命されました。目標が、当初の「2、3年は辞めない」から「この施設のマネジメントを担う人材になりたい」へと変わっていきました。

地域と介護がもっと身近に

川原さんが勤めていた老人保健施設は、精神科が母体で作られた施設ということもあり山の上にありました。

15年ほど前、このような施設は天界と呼ばれていました。天界でリハビリを受け、利用者を元気にして下界に戻すという取り組みがなされていました。しかし、現実はそうなりませんでした。

半年ほど自宅で過ごすと、多くの利用者が悪くなった状態でまた施設に戻ってくるんです。

そこで、法人内で話し合った結果、「在宅サービスを充実させる必要がある」という意見にまとまり、地域密着型サービスを作ることになりました。

ここで、川原さんは法人から初めて、そのマネジメントを任されることになります。

今までは大きな組織の中の介護職のリーダーでしたが、地域密着型サービスをマネジメントすることになり、私より上の立場の人がおらず、決定権を持つようになりました。

以前の職場では、要介護状態になったAさん、Bさんと捉えていたのそうですが、一緒に町内活動をしたおじいちゃんが脳梗塞になったとか、町内会の会長だった人が認知症になったとか利用者がもっと身近に感じられました。

今までの暮らしの先に、福祉や介護があると改めて実感したのです。役割とか生きがいをプラスしていくことで利用者がもっと元気になることを肌で感じました。

元気になる利用者と、職員たち皆でワイワイしながら働くことがとても楽しく、さらに介護の世界に魅了されていったそうです。

自分の力を試したい!起業への挑戦

小規模グループホームを展開する法人のプロジェクトリーダーとして活躍していましたが、ある日グループホーム起業の公募を知りました。

私の両親は自営業なのですが、大変な時期も見てきました。

本当は安定したサラリーマン生活を送りたいと思っていたのですが、地域密着型サービスの楽しさを知り、自分で施設を作ってみたいというワクワクした気持ちで応募しました。

そこで見事受かり、2014年にグループホームを起業することになりました。

ここからが本当のスタートだと思いました。一番最初のグループホームは、知識もお金もなくがむしゃらに作りました。

「どんな人にもきちんとケアできる仕組みを作ろう」という想いで実践されたとのこと。

大規模施設と勝負して同じことをするのではなく、川原さんだからこそできることを模索されました。

物忘れをしてしまう笑顔のおじいちゃん、おばあちゃんと楽しく過ごす場を作ろうと取り組みました。

一つ失敗したかなと思うことは、建物の中に“かまど”を作ったことです。

細い煙突を設置してしまい、炊く度に利用者が蒸されてしまいました 笑

利用者と和気あいあいとしながら過ごしていました。

人それぞれが違う「普通のケア」の認識

川原さんがグループホームを建てられてから、隣町のグループホームから「元気のある若者に引き継ぎたい」と持ちかけられ、事業継承をすることになりました。

内部を見てみると、とても衝撃を受けました。

日頃から「普通のケアを大切にしよう」と私たちは言っていたのですが、この施設では利用者の手足を縛ってお風呂に入れたり、薬をご飯の中に混ぜて食べさせたりしていました。

しかし、職員に問うと、「普通のケアをしている」と答えるのです。
これは完全にマインドコントロールですよね。

川原さんの掲げる「普通のケア」とは、そのような行為はせずに利用者と信頼関係を築くこと

川原さんが介入して方針を変えていく段階で、2ヶ月で18人中10人の職員が去って行きましたが、残った職員とどのようなケアが大切なのか話し合いました。

すると、地域からの評価も上がりすぐ満室になりました。

介護が必要なのは何歳から?

ここで皆さんに質問なのですが
介護は何歳から必要になると思いますか?
自分がいつか利用したい施設は見つかっていますか?
頭が痛くなったり、お腹が痛くなるとかかりつけの病院はあっても、もし介護を受けないといけないとなった時に利用する施設は見つかっていますか?

川原さんは、「介護をする側は、この点に無関心である」と感じているそうです。

一方で、「自分がいつか利用したい施設」について考えることが、ターニングポイントになるとのこと。「自分が勤務する施設を利用したくない」と答える介護職員も少なくないと思います。

自信を持ってサービス提供しているのに、その施設を自分自身は利用したくないと感じてしまうのは凄く悔しく、それはサービス業として致命的であると言えます。

大部分の人がピンピンコロリと年を取り元気なうちに亡くなると勘違いしているのですが、実際は平均10年間ほど介護が必要なのです。そして親の介護も含めたら、2、30年。人生の4分の1以上は介護に関わることになります。

介護を必要とする期間は長いのに、暮らしと介護・福祉の接点が少なすぎて、介護が必要になった時、どうすればいいか何もわからないといったことは介護の課題といえます。

地域と介護のつなぎ合わせ

特別養護老人ホームと同じ入り口の建物の中に地域交流室を作っても、一般の人が使えるわけないじゃないですか。介護施設に入るのはただでさえハードルが高いです。「地域交流室を開放しているので使ってください」と言われても私としては難しい話なのです。

介護業界の人は、“介護”とは、物理的に近くにいるけれども、実際、一般の人とは遠く離れているということが課題です。

地域の代表者から「ゆずの地域交流室を私設公民館にしませんか」と提案され、地域の多くの人に自由に使ってもらえるよう、作る段階から地域の人と一緒に話し合いを重ねました。

これから生まれる子供のために「ベビーシャワー」をしてみたり、職員や利用者の結婚式をしたりしました。

この公民館を作った時、やっぱり環境ってすごく大事だなと痛感しました。

「自分が入りたい」と胸を張って言える施設

川原さんの友人から「介護が必要になった時、お前の施設にお願いしたいから頼むな」と言われた時、それまで働いていた施設では自信を持って紹介できないと正直感じていました。

次にこそは、そんな友人や地域の人に自信を持って、「入ってもらいたい」と思える施設を作りたいと考えました。

その想いで立ち上げたのが、『看多機ホームみなりっこ』です。

これまで作った事業所では医療的ケアが弱かったため、最後は病院で亡くなる利用者がいらっしゃいました。

ターミナル期を迎えた際、「ここでは安心できない」と利用者の家族からご意見をいただいたこともあります。そこを改善をし、医療的ケアを強化しました。

お洒落な施設を作りたいという訳ではないのですが、「自分が入りたい施設」ということにこだわりました。

室内からすぐに行ける中庭を作ったり、ホテルを併設してみたりと工夫をされました。


ホテルを併設したのは、川原さんのご友人が末期ガンになったことがきっかけでした。

そんな川原さんのご友人のような方々でも泊まれるようにと、3室だけですが介護施設内にホテルが作られました。

介護施設の利用者にホテルのゲスト用のパジャマを縫ってもらったり、ホテルのお客さんに介護施設の取り組みを一緒に楽しんでいただいたりしているそうです。

ホテルに泊まりに来たお客さんが、洗濯している利用者の姿を見かけたり、職員と利用者が散歩している姿を見かけた時に「介護って素敵じゃん」と思ってもらいたかったのです。また、全国の福祉の仲間が集まって熱く議論し、語り合う場ができればという想いで作りました。

自然に向かっていた“まちづくり”

僕たちが一生懸命福祉を良くしようとしているうちに、“まちづくり”も自然にしていることに気付きました。地域の人と地域の課題を解決していこうという中で、僕たちの“福祉”があると思いました。

若者達に「福祉って素敵だな」と思ってもらいたく、大学の多い東広島に看護小規模多機能グループホームと学生のシェアハウスを作りました。

学生が何気なく利用者とご飯を一緒に食べたり、施設内でアルバイトができたり、福祉を身近に感じてもらいたいという想いから作られました。

福祉の大学生ではなく、一般の大学生に来てもらいたくて。大学を卒業した時に「福祉ってすごいよ」と言ってくれる子を育てたいなと。今後もそのような活動をしたいと考えています。

川原さんが初めて働いた施設では、利用者は自由でなく、我慢していると感じました。

「良いケアをする」ことは多くの施設が掲げていることですが、介護の業界をもっと楽しく、面白く、身近に感じてもらうために「自分が入りたい」と思える、「ここで死にたい」と向き合える施設を作っていきたいと思っています。

ゆずの理念「いつまでもどこまでもフリースタイル」

認知症になろうがどんな病気になろうが、いつもの暮らしができる社会の実現が目標です。

ゆずのスタッフにはここで働いて楽しく感じてもらいたいですし、自由な気持ちでいられる人材を育てていきたいという思いを込め、「いつでもどこまでもフリースタイル」を理念として掲げています。

と締めくくられました。

2023年5月、第11回 Asia Pacific Elder Innovation Award(アジア太平洋高齢者ケアイノベーションアワード)がシンガポールで開催されました。

「高齢者介護業界のオスカー賞」と呼ばれるこの祭典で、15か国200以上の施設から株式会社ゆずは最優秀賞を受賞。

中東やオーストラリアなどの施設では、総事業費が2、3桁も違う施設がノミネートされています。そんななかでも、ゆずのケアは世界からも大変注目されています。

現在は保育施設も創設し、保育園児と介護施設の利用者が一緒に野菜を採りに行ったりなど様々な交流会もされているそうです。

介護サービスの目的は自立支援。

その方が在宅生活をしながら社会で暮らしていけるようサポートを行っています。

地域と介護が近くなることで会話も生まれますし、思いやりの心も生まれ、老若男女問わず良い関係が築けると思います。

介護が必要になった時に何をしていいのか分からず、慌ててしまったり誤った判断をしてしまわないためにも、今から交流の場に出向いてみるのも良いですね。

ゲストプロフィール

川原 奨二(かわはらしょうじ)
株式会社ゆず 代表取締役

広島県尾道市出身で現在福山市在住
現在は孫が一人いるおじいちゃん

1999年より介護福祉士、介護支援専門員、認知症指導者などで介護従事者として勤務
2014年 株式会社ゆず設立し、尾道にグループホームみなりっこを開所
2016年 グループホームゆずっこ高西(株式会社ハートランド事業継承)
2018年 グループホームゆずっこ向島&小規模ゆずっこむかい島
2019年 FREE HOUSEゆずの輪&デイサービスゆずっこ高西
2020年 看多機ホームみなりっこ&訪問看護ステーション
2021年 企業主導型保育施設ゆずっこ高西・シェアハウスゆずの輪
2022年 小規模ゆずっこホームみなり&尾道おばあちゃんとわたくしホテル
企業主導型保育施設ゆずっこ向島・居宅介護支援事業所ゆず一家その後東広島で自立支援型デイサービスSPROUTデイサービスゆずっこSHITAMIを開設
2023年4月 看多機ホームみそのっこ&グループホームみそのっこ&学生シェアハウス
2024年4月 地域密着型特別養護老人ホーム&ショートステイ&自立支援型デイサービス
https://yuzzuco.com/

開催概要

日時:2022年12月10日(土)15:00〜17:00
場所:東広島イノベーションラボ ミライノ
※広島会場とオンラインの同時開催
開催協力:東広島

この記事を書いた人

鈴木 奈々子

鈴木 奈々子Nanako Suzuki

エステティシャン/アロマセラピスト/キャンドルアーティストKAIGO LEADERS PR team

海外でアロマタッチングボランティア活動中。帰国後、介護施設/ケアする人のケア/児童養護施設等で活動することを目指しています。