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インタビュー

「はっぴーの家ろっけん」が映画に!きっかけは、KAIGO LEADERS?!(インタビュー記事:映画「30(さんまる)」監督の鈴木七沖さん)

「違和感は3つ以上、重なるとどーでも良くなる」

この名言を残したのは、(株)Happy代表取締役、カオスクリエイターの首藤義敬さん。兵庫県神戸市長田区にある「多世代型介護付きシェアハウス はっぴーの家ろっけん」を運営しています。

首藤さんは2019年4月28日(日)に開催されたKAIGO LEADERS FORUM2019に登壇されました。その首藤さんのお話をまとめたイベントレポート 週に200人以上集まる多世代型介護付きシェアハウス「はっぴーの家ろっけん」が面白すぎる! は、KAIGO LEADERSが今まで公開した記事のなかでも一番多くの方に読んでいただきました。

なんと!このイベントレポートをきっかけに、映画を制作されたというメッセージがKAIGO LEADERS事務局まで届いたのです。

企画・撮影・監督は、鈴木七沖さん。構成・編集を担当されたのは息子さんである鈴木経生さん。

映画のタイトルは、「30(さんまる)」。

タイトルには2つの想いが込められています。

「30代」の可能性
はっぴーの家ろっけんを運営するのは30代の方々。人口減少、超高齢化、食糧不足、労働力減少など、日本の様々な諸問題が取り上げられるなか、20年後に社会の中核となる現代の30代が何を感じ、どう生きていくのかが、この国の未来の大きな可能性につながると思えてなりません。

「あなた」「わたし」「わたしたち」の可能性
それぞれが、それぞれでありながら、時に複数形にもなって活動する。そんなコミュニケーションのあり方や新しい兆しに、未来への明るい希望を感じています。

この映画は、観るための映画ではなく、つながるための映画「コミュニティムービー」。

監督の鈴木七沖さんに、「30(さんまる)」の制作に至った背景や込められた想いについて、インタビューさせていただきました。

きっかけは1本のKAIGO LEADERSのレポート

鈴木さんのメインの仕事は本の編集者。そんな本づくりとは別に、もっと「編集」を極める一貫として「映像の力を使ってリアルな場所をつくる」という活動を2011年からしているそうです。

僕のつくった本の読者の顔が全然見えず、どういった方が読んでくれているのかがすごく気になっていたんですね。最初は著者の講演会を主催したりもしたのですが、講演会だと講師の身体が1つなので、1箇所でしか出来ない。そこで、昔から映画が好きだったことから、自分で映画をつくれば、様々な場所で同時に上映会を開催していただけると考えたんです。「大人の紙芝居」と呼んでいます。10年以上、本をつくり、映像・映画をつくって、それを鑑賞できるリアルな場もつくるという活動を続けてきました。

そんな鈴木さんがなぜ、「はっぴーの家ろっけん」(以下、はっぴーの家)を題材に映画を制作しようと思ったのでしょうか?

もともとは、KAIGO LEADERSのイベントレポートを、知り合いがFacebookでシェアしていて、2020年の1月にたまたま読んだのがきっかけです。それが、めちゃめちゃ良いレポートだったので、すぐ僕も自分のタイムラインでもシェアしました。するとその記事を100人くらいの方がさらにシェアしてくれて。これはみんなも興味があるんだな!と感じました。そのシェアした投稿のコメント欄に、「首藤さんに会いたいなぁ」と書いたところ、神戸在住の女性が「おつなぎしましょうか?」とメッセージをくれたんです。レポートをシェアして、1週間後には、はっぴーの家に行くことになって……。実際に足を運ぶと、想像以上の場でしたね。

「新しい家族のあり方」を考えたい

鈴木さんは、見学をきっかけに「映画化したい」という気持ちを抱かれましたが、実現までの道のりは平坦ではありませんでした。

映画化したいと思いつつも、新型コロナウイルスが流行し、世の中は自粛の流れになってしまいました。
しばらくたって、2020年4月に、再びはっぴーの家に行き、首藤さんに映画化の相談をすることに。いろいろなところから映画化や映像化のお話をいただいていたらしいのですが、全て断っていたそうなんです。首藤さんはたくさんのアイディアが湧く方なので、「いつも、違う事を言っている自分で在りたい。過去の失敗も成功体験も全部忘れて、いつも0で居たいから映像に残るのは好きじゃない。」とおっしゃったんです。

そんな首藤さんが、なぜ今回の映画化を引き受けてくださったのでしょうか?

僕は20年前に妻を病気で亡くし、ずっと息子と2人暮らしだったんです。息子は不登校になったり、僕と仲が良くなかったりした時期がありました。その後、独学で映像制作の勉強をし、現在は映像クリエーターとして活動しながら映像制作の仕事をしています。そんな僕たちにとって、「家族って何だろうな」と、お互いどこか悶々としている部分があった。

首藤さんに、その息子と二人三脚で映画をつくりたいという話をしました。それを聞いた首藤さんは、「そんな2人がつくるなら面白い!」と言ってもらえて今に至るという感じです。

鈴木さんはこの機会を通して、「新しい家族のあり方」を考えたいと思ったそうです。

これからの社会では、血のつながっていない同士が一緒に住むことも増えますし、介護をすることもあると思います。いろいろな方がいろいろな方のお世話をしていくことで、家族のあり方も変わってくるんじゃないかなと。そういうことが思いの根幹にもあって、はっぴーの家とのお付き合いが始まりました。

そして、2020年5月からほぼ毎月、当時の住まいがあった神奈川県茅ヶ崎市のご自宅から神戸のはっぴーの家ろっけんまで、片道約550キロの距離を軽自動車で移動し、訪問されました。

それほどに、「通いたい」という気持ちにさせるインパクトがあったんでしょうね。

ドキュメンタリー映画ではなく、「コミュニティムービー」な理由

2020年の5月から訪問しはじめ、今年(2022年)の10月上旬に撮影が終わったそうです。2年半の間、毎月訪問して撮影していたので膨大な量の映像素材が撮れていたのですが、足りない部分がいくつも出てきたので、追加で何度も撮りに行ったとのこと。

最初は、ドキュメンタリー映画として、その人の生き方、あり方をインタビュー中心に撮影していたのですが、やっているうちに違和感が出てきました。はっぴーの家は、違和感がたくさんあるところなので、自分も違和感に敏感になっていったんでしょうね。

どのような違和感だったのでしょうか。

新型コロナウイルスの流行で閉鎖的になっていき、いろいろな世界のニュースが入ってくる。そういう現実を見ていると、自分が“監督”という枠組みで、撮りたいものを撮って、切って貼って90分の映画を作成し、「はい!これがドキュメンタリー映画です!」と言ったところで、現実の方がよっぽどドキュメンタリーなんですよね。例えば、コロナの時代、信じられないことがたくさん起きています。みんながマスクをするようになったとか、働き方がリモートになったとか、いろいろな価値観も変わっていった。こんな時代にドキュメンタリーを撮っていても面白くないなと感じ、2020年の暮れには、つくり方を変えました。

鈴木さんは新しい映画の形を考えます。

人口が減少していく日本における諸問題も作品の中で取り上げ、これからゆくゆく日本を引っ張っていく今の日本の30代がつながってほしいという想いを込めることにしたんです。と同時に、僕と同世代の50〜60代が人生の残りの時間を生きていく中で、もっと次世代のことを想いながら行動してほしいなと。自戒を込めてね。いろいろな人たちにもつながっていただきたい。ただ映画を上映するだけじゃなくて、必ず上映後に話し合ったり、おしゃべりをしたりする時間も設けてほしい。それをひっくるめて、ドキュメンタリー映画ではなく、つながるための映画「コミュニティムービー」です。

ないないづくしになってしまう日本の希望とは

今の30代にはどのような特徴があると、鈴木さんは考えているのでしょうか。

金子みすずさんの詩の一節に「みんなちがって、みんないい」という言葉があります。みんなそれぞれ無駄な人などいなくて、みんなそれぞれでOK。ちゃんと自分を持ちながらもみんなで力を合わせていけばいい。そんな教育を受けてきた世代なんじゃないかと思います。これが影響して新しいコミュニケーションがひろがっている。今までのように、ただ十把一絡げ的に一丸となればいい、というものじゃないのが特徴だと感じます。

はっぴーの家では、それを強く感じ取れます。

そういう目ではっぴーの家を見ていると、あそこはカオスなので、みんなそれぞれなんですよ。おじいちゃんおばあちゃんがいて、勉強を教えている母親がいて、ゲームをしている小学生がいて、アフリカ出身のダンサーが踊っていて……。でも絶妙な安心感で成り立っているんですよね。それぞれ関心はないけれど、暮らしの中ではちゃんとつながっている。

それをふまえ、鈴木さんは映画にある希望を込められます。

日本は、これから高齢者がさらに増えて、若い世代の数が減少することで働き手が減っていき、もともとエネルギーも少なくて自給率も低い。ないないづくしの国になってしまいそうです。でも、無駄な人が1人もいない介護が必要な人だって、実は存在していることがありがたい。そんな国に日本はなるんじゃないかと考えています。ただ縮小されていくのではなく、小さいながらも中身が充実していくんじゃないかと。そういう希望も込めた映画なんです。

映画を観て、つながってほしい

鈴木さんは、「つながる」ことの意義や価値についてどのように考えているのでしょうか?実体験を元にお話してくださいました。

妻が早く亡くなったので、息子と僕という最小単位の家族でした。助けて欲しいことがいっぱいあったんですよね。お母さんしか出来ないことっていっぱいありますから。子どもに寂しい想いをさせてしまっているなというのも気がかりでした。その時、人は1人では生きていけないなと強く感じたんです。
今、孤独死する人が年間100万人くらいいて、誰にも知られずに1人で亡くなっていく人は増える一方だと思うんです。つながることで、1人じゃないよと感じてほしいですし、「助けて」ということを気軽に言えたらいいと思います。

「つながる」前に、必要なことをはっぴーの家は教えてくれます。

はっぴーの家には「日常の登場人物を増やす」というスローガンがあります。日常の登場人物を増やしたとしても、「みんなとかかわれ!」ということではないんですよ。登場人物を増やすことで、かかわる人の選択肢が増える。その人たちとかかわってもよいし、かかわらなくてもよい。でも、誰もいなかったら「かかわらない」という選択しかない。だからこそ、この作品を観てつながってほしいと思いますね。

鈴木さん、素敵なお話を聞かせてくださりありがとうございました。
映画に興味を持った方は、是非とも以下の情報をチェックしてください。

映画の予告編はこちら

コミュニティムービー「30(さんまる)」予告編1
https://youtu.be/it5OgFyQ2lE

コミュニティムービー「30(さんまる)」予告編2
https://youtu.be/220zKcPq9yo

【全国4都市お披露目上映会、決定!】

神戸
【開催日時】11月19日(土)
開場11:00 開演12:00 終演16:30
【会場】 ステージ・フェリシモホール
兵庫県神戸市中央区新港町7番1号 StageFelissimo 1F

東京
【開催日時】11月25日(金)
開場17:00 開演17:45 終演20:30
【会場】 東京ウィメンズプラザホール
東京都渋谷区神宮前5-53-67

名古屋
【開催日時】12月10日(土)
開場11:00 開演12:00 終演16:30
【会場】 ウィンクあいち 小ホール
愛知県名古屋市中村区名駅4丁目4−38

横浜
【開催日時】12月18日(日)
開場11:00 開演12:00 終演17:00
【会場】 横濱 中華学院 体育館
神奈川県横浜市中区山下町142

■4都市お披露目上映会 お申し込みはこちら↓
https://30sanmaru.com/product/30-ticket/

プロフィール


鈴木七沖 Suzuki Naoki
編集者・文筆家・映像作家。大学と服飾専門学校を卒業後、ファッションブランドのパタンナーとして活動。その後、いくつかの就業体験を経たのちの1997年、未経験のまま出版社に入社。2022年までに約160冊の書籍を編み、実売部数で300万部を超える実績を残す。在籍中にドキュメンタリー映画も制作。これまでの3作品の観客動員数は約13万人、国内外での上映回数が500回を超える。現在は、茅ヶ崎と京都に仕事場と住まいの拠点を置き、書籍、衣・食・住、組織づくり、地域づくりなど、さまざまな場面で「編集力」を生かした活動を続けている。
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この記事を書いた人

森近 恵梨子

森近 恵梨子Eriko Morichika

株式会社Blanketライター/プロジェクトマネージャー/社会福祉士/介護福祉士/介護支援専門員

介護深堀り工事現場監督(自称)。正真正銘の介護オタク。温泉が湧き出るまで、介護を深く掘り続けます。
フリーランス 介護職員&ライター&講師。

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