MAGAZINE 読みもの

click me!
コラム

研修医から見た介護って?① -医療は非日常の救世主だけど、介護は?-

医療の立場から見る、介護という仕事

突然ですが、「医者」というと、皆さんは誰を思い浮かべますか?

事故現場にドクターヘリで颯爽と現れ、患者を救うコード・ブルーの藍沢医師でしょうか。どんな難病も治療してしまうブラックジャックでしょうか。地域住民が病気になった時に、離島の少ない設備でも手術を成功させるDr.コトーでしょうか。

医者は、病気という患者の人生最大のピンチを救ってくれるスーパーヒーローとして、フィクションではよく描かれます。最近は、家庭医療、在宅医療といった患者の日常生活に近い位置で、医療を届ける医者も増えてきました。

彼らも病気を治したり、例え治せなくても症状を軽減したりするために、薬や酸素、輸液などの医療を行い、住民を救います。どの医者も患者が健康な人生を歩めるように、医療を行い、患者を救う。

僕はそんな風に人の人生を救う医師になりたくて、多くの人に指導されながら、ときに怒られながら、研修医をしています。

僕は去年までHEISEI KAIGO LEADERSのKAIGO MY PROJECTの運営メンバーとして、プログラムのファシリテーターをしていました。その活動を通して、熱い想いを持った介護職の人たちに多く出会い、「介護はこれからもっと素敵になっていくんだろう」と、僕は想いました。

よかったら、HEISEI KAIGO LEADERSのサイトで連載してみない?

今年から研修医になり、東京を離れることとなって、KAIGO MY PROJECTでの活動への参加が難しくなった僕に、秋本さんがそんな言葉をかけてくれました。

嬉しかったと同時に、「どんなことを書けばいいんだろう?」と悩みました。
でも、医師である僕ができることは、一つしかないなと思いました。
日々、研修医生活を送る中で、「医療側から見た介護」について書くことです。

「こんな対応をしてくれた介護士が素敵だった!」という感動の共有から、「え?なんでそうなるの?」という医療側から見ると不思議に思ったことなどを話していければと思います。

医療の役割って?介護の役割って?

僕は今、日経メディカルで医師、医学生向けに「医療ってなんだっけ?」という連載を持っています。

医療の役割ってなんでしょうか。

ブラックジャックやDr.コトーのように患者を健康にし、患者の人生を救うこと。それが医療の役割だとすると、看取りはどう定義すればよいのでしょうか。
医療が役割を果たせず患者が亡くなった時、医療にできることはないのか。いや、ないはずがない。きっと薬剤や手術以外にも医療ができる役割はあるはずだ。

そういう想いと希望を持って、研修医生活の中で感じたことを書いています。

同じように、介護の役割を問うた時に、あなたは何と答えますか?

高齢者や病人を介抱し、お世話をすること?
でも、入浴介助、食事介助、排泄介助は看護師の仕事でもあります。介護の役割って何でしょうか…。

 

僕は、介護は日常の守護者だと思うのです。

医療は、家族がいて、趣味を満喫し、健康に人生を歩んでいる人が、病気になった時にその病気を治すこと。日常に降りかかった不幸を取り払う、非日常の救世主。だとすると、介護は、家族がいて、趣味を満喫し、健康に人生を歩むこと。日常、それそのものを支えることだと思うのです。
だから日常の守護者。

家での生活を医療者は知りません。何が好きで、どうしたいのか、医療者は病院の中で患者に聞くことしかできません。でも、介護は自宅や施設という日常の場で、一緒に伴走することができます。それは介護にしかできないのだと思います。

だから僕は、救急外来に介護をしている方が一緒に付いてきてくれると、本当に心強く思います。日常生活はどういう状態なのか、患者さんは何を望んでいるのか、患者さんの目標はどこなのか。それを一番よく知っているのは、日常を一緒に過ごしてきた介護に携わる人たちであり、医療者ではありません。

家族と一緒にいる幸せとか、趣味を満喫する喜びとか、人生の生きがいだとか…。
そして死ぬときもずっとそばにいるのは介護なんです。

それは医療から見ると羨ましくもあります。

きっと介護の専門性は、移乗の技術とか、介護技術とかではないはずです。
「日常を見ていること」。それ自体が専門性だと思うのです。

人生を救う医療、人生を支える介護

最近、日常を支える介護ならではの出来事がありました。

僕が産婦人科を回っていた時のこと。70代の卵巣癌再発の方が腹水と敗血症で食事が取れなくなって、救急搬送されてきました。血圧を維持しようと輸液を入れても、腹水へ漏れてしまいます。徐々に腎臓の機能も弱まり、もうダメかと思いましたが、主治医の努力もあり、なんとか自宅退院まで漕ぎ着けることがきました。

後日、産婦人科の病棟に一枚の写真が飾られていました。そこには自宅のベットに横たわりながら、ご主人と庭の木々を眺めている生き生きとした患者さんの姿でした。

それを見たとき、「人生を救う医者って、やっぱりいい仕事だな」と思うと同時に、「この写真が撮れるのは日常を支える人たちがいるからこそだな」と、感謝の気持ちが湧いてきました。

きっとその患者さんは数週間で亡くなるでしょう。でも慣れ親しんだ自宅で家族と一緒に日常を楽しむことができる数週間はその方にとって、きっと意義があることだと思います。それが写真から伝わってきました。

介護っていい仕事だな。

病院にいながらふとそう思った瞬間でした。

この記事を書いた人

守本 陽一

守本 陽一Yoichi Morimoto

公立豊岡病院初期研修医だいかい文庫 と YATAI CAFE

学生時代から「モバイル屋台de健康カフェ」や地域診断といった「医療×まちづくり」の活動を兵庫県但馬地域で行う。
現在は、(一社)ケアと暮らしの編集社代表理事 / YATAICAFE だいかい文庫。共著に「社会的処方」「ケアとまちづくり、ときどきアート」。

この記事のタグ