「私は介護職です」と自信を持って言える社会をつくる。上智大学院卒の彼女は、今なぜ介護に情熱を燃やすのか。~早大生まっきーの高学歴介護職インタビュー~
今は本当に何でも屋さんで…。ちょっと職業がなんだか言えないくらい色んなことをやっています。(笑)
私が介護職を選ぶ理由~早大生まっきーの高学歴介護職インタビュー~、第2回目にお話を伺ったのは、文京区で在宅介護を中心に展開する株式会社ケアワーク弥生で働く森近 恵梨子さん。上智大学総合人間科学部社会福祉学科から大学院へ進学。卒業後は介護職としての勤務だけでなく、研修講師や、専門学校の講師、ライターなど様々な分野で活躍されています。
私が死ぬまでには、世の中の介護職が、自信を持って「介護の仕事をしています」って言えるような社会にしたい。
そんな思いを抱きながら、ご自身が働く事業所だけでなく、介護業界全体をよりよくしていくため、精力的に行動されている森近さん。
森近さんのお話からは私自身が知りたいと思っている「これまでの経験や学びをどう活かせるのか?」「介護の仕事を通して目指すものは何か?」といった問いへの答えを探す1つのヒントが見えてきた気がしました。
そもそも、なぜ森近さんは介護の領域に興味を持ったのでしょうか?
その入り口からお話を伺っていきました。
介護の現場は楽しくて、自分のイメージはどんどん変わっていった。
高校生の時は、なんとなく「社会を良くしたい」という思いから、「政治家になろう!だから法学部に行こう!」と考えていました。色々な大学の法学部を調べる中で、たまたま上智大学の総合人間科学部社会福祉学科が、福祉政策も勉強できるということを知りました。学科の案内に書いてあった“福祉社会のデザインを描ける人を育成します”という文章に魅かれたんです。
でも、私も家族も「福祉の学科に行っても、介護の現場で働くことはしないぞ」と思っていました。
「介護の現場=おむつ替えの仕事」というイメージもあったし、「なんであんな大変な仕事やるんだろうな?」とか正直思っていました。「社会福祉学科に行くけれども、絶対私は現場では働かないぞ!福祉の政策を勉強して将来は政治家か公務員になるぞ!」と考えながら大学に入学し、福祉の勉強を始めました。
でも、いざ福祉の勉強を始めたらすごく面白くて、「もっと勉強したい!現場も見てみたい!」と思うようになり、ボランティアや実習を通して現場を見始めました。そうしたら、介護の現場は楽しくて、自分が抱いていたイメージは間違っていたんだな、ということに気づき、どんどん介護に興味を持って行きました。
その一方で、私自身が福祉や介護に対するイメージが変わってから、ふと周りを見ると、以前の私と同じように福祉とか介護に悪いイメージを抱いている人が多いのだなと気がつきました。
将来、福祉や介護は誰もが避けて通れない道なので、このまま世の中の人が介護について悪いイメージだけを持ち続けたままというのは恐ろしいことだなと思いはじめました。
そこで、「もっとこの気づきを世の中の人に知ってもらいたいな」と考え、大学2年生の時に「福祉をおしゃれに発信するフリーペーパー”Wel-bee”」の製作を始めました。フリーペーパーだったら福祉に興味のない人も手に取ってみて、面白いと思ってもらえるきっかけになるかもと考えたからです。
そしてフリーペーパーを配る中で今働いているユアハウス弥生の所長と知り合い、そのご縁で私はここでアルバイトをすることになりました。
森近さんが大学時代に発行していた「福祉をおしゃれに発信するフリーペーパー”Wel-bee”
福祉の勉強を始めた頃は、「絶対私は介護の現場で働かないぞ」と考えていた森近さん。大学での学びを通して介護の魅力・面白さを感じ、現場でのアルバイトを始めることになります。アルバイト先での経験は、さらに森近さんの介護への認識を大きく変えることとなりました。
森近さんに介護現場で印象に残ったエピソードを伺いました。
鳥肌が立つほど感動した、認知症の方の記憶
一番心に残っている出来事は、認知症の進行されている利用者さんと一緒に高尾山に登ったことです。その方はさっき食べたもの、やっていたことなどをすぐに忘れてしまう方で、口癖のように「高尾山に行きたい、高尾山に行きたい、今日は天気が良いから高尾山に行きたい」と仰っていました。認知症の人は行きたいと思った時に行かないと、その感情を忘れてしまう可能性があります。私の職場では、認知症の人が「行きたい」と言ったら「すぐにでも行っておいで」と上司が後押ししてくれるところでした。そのため、その利用者さんと高尾山に一緒に出かけたのです。
行って見るとすごく楽しんでもらえた上に、戻ってきてからも「楽しかったね」と言ってくれました。次の日、その利用者さんがいらっしゃったとき、もう高尾山に行ったことを忘れているかなと思っていたら、「昨日は楽しかったね~」って、私の顔を見た瞬間に言ってくれたんです。そのあと何日経っても何週間経っても、何ヶ月経っても私の顔を見るたびに、「ああ、この前は高尾山楽しかったね」と言ってくれるようになりました。認知症の人って何もわからなくなっちゃうのかなとか、楽しいことがあっても忘れちゃうのかなと思っていたけれど、本当に楽しかったことはしっかり覚えてくれるんだということがすごく嬉しかったです。介護職を実際にやってみると、鳥肌立つくらい感動する出来事とか、泣きそうになることとか色々あって改めて「この仕事すごいな」って思いました。
また、この仕事をしていると、昨日まで元気だった方が突然亡くなるということもあります。死をリアルに感じるからこそ、生きるということに一生懸命になり、いつ最期の時を迎えるか分からないからこそ、今をもっと頑張らないと、より早く目標を達成するにはどうしたらよいかなどと、考えるようになったことも良かったなと思っています。
現場での仕事を通して様々な経験や学びをされた森近さんは、アルバイト先の法人への就職を選んだ後、現在は介護の世界をよりよくしようと多方面で活動されています。そんな森近さんの夢や目標は何なのか伺いました。
世の中の介護職が自信を持って「介護の仕事をしています」と言えるような社会を目指して
介護は世の中的にはまだ認められていない。ましてやすごく身近な人にも理解してもらえていない。介護職ということに私は誇りを持っているけど、同時に劣等感も感じています。
もちろん介護は大変な部分もたくさんあるけれど、反対にすごく魅力もあります。大変なところだけをみんなが知って、悪いイメージを持っている状態を悔しく思います。
だから、私は介護業界を自分の手でより魅力的にし、それを発信する活動を通して、私が死ぬまでには世の中の介護職が、自信を持って「介護しています!」と言えるような社会にしたいなと思っています。
また、高校時代に持っていた「政策に関わりたい」という想いは消えていません。例えば自分の働く事業所を利用している利用者さんと職員が楽しければそれでいいということではなく、きちんとした仕組みができ、もっと日本中の人が幸せで、楽しくなるとよいなと考えています。利用者さんにとってよいサービスを提供できる事業所が増えたり、もっとやりがいを持って働ける人が増えたりするためには、今の制度では問題点がたくさんあるということは、大学院で研究していた時も感じていたので、みんなが幸せになれる環境を実現させたいです。
「介護の魅力を発信し、世の中の介護職がもっと自信を持てる社会にしたい。」「目の前の人たちだけでなく、みんなが幸せになる環境を実現させたい。」そんな森近さんのお話から、私自身が知りたいと思っていた「自分のこれまでの経験や学びをどう活かせるのか?」「介護の仕事を通して目指すべきものは何か?」ということのヒントが見えてきました。
自分の現場だけより良くなればいいではなく、社会全体を良くするために、影響を与えるにはどうしたらいいかという視点で働く
私の職場には京都大学出身のとても尊敬している職員がいます。その人と一緒に働いていると、「今の現場のままでいいよね」という発想にはなりません。もっと良くするためにはどうしたらよいかを考え、2人で「アクティブ福祉」という介護の現場の職員が研究して発表する場に行き、発表したりもしました。高学歴で、これまで勉強を頑張ってきていた人は、積極的学習者が多いのではないかなと思います。一緒に高め合えるような職場に身を置けていることはとても幸せなことだと思います。
また、大学院の修士課程を修了すると、いままで無かった仕事の依頼(専門学校講師、調査委員や教科書の執筆等)が増えました。様々なことにチャレンジできるようになりました。
「現場をよりよくしていくには自分がどのような行動をするべきか」とか、「自分の職場だけでなく、社会全体をよくするためにはどうしたらよいのか」という視点を持って働いていけば、これまでの経験も生かしていけるのではないでしょうか。
終始介護に対してとても熱を帯びたお話を聞かせてもらい、私も「わかる!」「確かに!」と共感し、話に引き込まれていきました。
現状や一つのことに満足せず、常に向上心を持ってどうしたらより良くなるのかを考えながら働いていて、「とても素敵だ」な、「私もそのような人になりたいな」と思いました。
森近さんのお話を聞くまで、自分のこれまでの経験や学びをどう活かせるのかモヤモヤしていたのですが「社会全体をよくするために考える。」「現場に入ってからも勉強を続ける」という話を聞いて、そういう働き方があるんだなと思うと同時に私も何かしら貢献できるような働き方をしていきたいと感じました。