
約800名の市民表現者たちで織りなす村祭り〜想いをかたちにするための巻き込む力とは〜(CONA_06大原智レポート)

「職場でやってみたいことはあるけど、皆がなかなか協力してくれない」
「地域の人を巻き込みたいけど、なかなか難しい」
そんな悩みを抱えている方はいませんか?
大阪の伝統ある“粉もん”のように、人々の幸せな暮らしに関するあらゆるものをつなぎ、混ぜ合わせ、新たな可能性を探求していく場所“CONA”。
2021年2月20日に開催されたCONA_06のゲストにお招きした大原智さんは兵庫県伊丹市で「ITAMI GREENJAM」という参加費無料の関西最大級野外音楽フェスを運営されています。
フェスの雰囲気は、こちらの動画でチェックできます。
もともと、「地元で無料フェスをしたい!」という大原さんと仲間の想いからスタートしました。
今年で8年目とのことですが、なんと来場者数は2万人以上も!
大原さんは、ITAMI GREENJAMのことを「約800名もの市民表現者たちで織りなす関西最大級の村祭り」と表します。
どうしてそこまで多くの人を巻き込めるようになったのでしょうか?
大原さんから、“巻き込む力”を身につけるために大切なこと を学びました。
その大原さんのお話の一部をレポートします。
じぶん達の手でじぶん達の街をおもしろくしよう
ITAMI GREENJAMの開催風景の写真や動画を見ると、「大きくて楽しそうな音楽フェスだなぁ」という印象を抱きます。
実際、メディアにも「関西最大級の無料ローカルフェス」等と報じられることが多いです。
しかし、大原さんはそのキャッチフレーズは本質を捉えられていないと感じているそう。
イベントを織りなす必要なものの90%が市民の手でつくられていることこそが最大のコンセプト。かかわる市民全員が表現者となります。プロの力がほとんど入っていないんです。なので、“フェス“というより、“自治会祭”や“村祭”といった要素に近いと思います。
例えば、市内の幼稚園の子供たちが会場のデコレーションを事前に作ってくれたり、「グリーンジャムこども実行委員会」のメンバーが広報物を作って宣伝したり、現役のママさんが「こども専用エリアKIDs JAM」で子どもたちのケアをしたり……
約800名の市民の皆さんがそれぞれの得意なことや、やりたいことに沿って役割を担い、1つのフェスを作り上げています。
「すべての人間は芸術家である」
ITAMI GREENJAMの価値に通ずる1つの概念が紹介されました。
1986年に亡くなったドイツの美術家 ヨーゼフ・ボイスという方がいらっしゃいます。“社会彫刻”という概念を唱えた方です。
彼は、「すべての人間は芸術家である」と言いました。
ここで言う芸術っていうのは、絵画、音楽、彫刻や詩といった一般的に芸術と言われるものだけを指すのではありません。生活、教育、環境保護、政治や福祉等、拡張された意味での芸術活動を皆がしているということです。「当事者意識を持ってやっていることは、みんな芸術なんだ。だからこそ、自らの創造性によって社会の幸福に寄与しうる未来への彫刻をしていこう!」という考えです。僕がITAMI GREENJAMをやっていて感じたことは正にこれだったのです。
「自分たちの手で、当事者意識を持って自分たちの街を面白くしよう」というITAMI GREENJAMが大切にしていることに通じます。
巻き込み筋力をいかに強化するか?
約800名の市民表現者が集まって作るITAMI GREENJAM。
それだけの大人数をいかに巻き込んでいるのでしょうか。
誰かに想いを届ける力(巻き込み筋力)を、「花にホースで水を届ける力」に置き換えて大原さんは説明してくださいました。
花にホースで水を届ける際に重要な要素は3つあります。
その3つは、以下の通りです。
①蛇口の水圧
あなたのやりたいことの情熱量
②ホースの太さ
伝える相手との関係性や人脈
③ホースの長さ
広報手段(ネット、SNS等)
この中で一番大事なのは、何だと思いますか?
当然ながら一番大事なのは、あなたの情熱量です。いくらホースが長くても、いくらホースが太くても、蛇口の水圧が低ければ届かないのです。だからこそ、自分と向き合って、自分の情熱のポイントがどこにあるのかを掘り下げることが大切だと僕は思っています。
団体、会社や行政機関を活性化させるために必要なことについてもお話がありました。
団体を活性化させたい時は、まずはメンバー1人ひとりの活性化から始めるしかないと思っています。
「私がやりたいこと」よりも団体の理念のフレームワークのなかで「私たちができること」を探してしまいがちです。しかし、それが地域にとって本当に良いことなのかは疑問です。メンバーである1個人がまずは活性化していく、つまり、あなた自身の熱量を上げていかないといけないのです。
知らない人をいかに巻き込むか
参加者から「知らない人がかかわってくれない」という意見がありました。
それに対して、大原さんはこのように語ります。
深く知らない人を巻き込むコツは、「自分のやりたいことのために人を巻き込む」という考え方ではなく、「この人にとってどういうプラットフォームになるのか」を考えることが大事です。そのためには、知らない人の得意なこと、嫌なこと、熱量、長所、短所などをまずは知る必要があります。
大原さんは、毎年、イベントの制作スタッフの応募者20〜30名、1人ひとりと1、2時間直接会って話をする時間を取るそうです。
徹底的にその人を知りたいんですよ。知った上で適したかかわり方をしてもらわないと楽しくないですし。
「まずはその人を知ることから」
これは、介護の仕事にも通じる考えですね。
大枠として「自分はこんなことをしたい」というビジョンは持ちつつも、その細部において様々な人がかかわれる設計をするのも、巻き込むコツとのことです。
かかわり方の温度差もあると思うので、それぞれの温度に合った様々な“かかわりしろ”を用意しておくことも必要です。「それ、本当にかかわっているの?」と感じてしまうようなかかわりでも良いんです。
他にも参加者から「興味のない人にかかわってもらうためにはどうすればいいのか」という話がありました。
大原さんはこう答えます。
多くの人に興味を持ってもらえるコンテンツを先に走らせて、その後から“かかわりしろ”となる余白の設計をしていくという方法があります。
業界を激震させた福祉エンターテイメントSHUWACHAN
ここからは、実際にどのように多くの人を巻き込んだのか、事例を交えて教えてくださいました。
3年前、伊丹市の社会福祉協議会からある相談がありました。「手話言語条例が制定されたが、一般の方に知られていない。一般の方に知ってもらえる方法は無いか?」という内容でした。
3日間考える時間をもらい、「シュワ」って頭の中で1000回唱えたら、アーノルド・シュワルツェネッガーしか出てこなくなって(笑)、ターミネーターのパロディ映画を作ることにしました。
思い立った大原さんは、「映画好きなカメラマン」を思い出し、その人にオファーし、引き受けてもらいます。普段からあらゆる人の好きなことや得意なこと等を知るために対話をしている大原さんだからこそ、すぐに適任者を見つけ出せるのです。
また、実際にろう者の方に監修してもらいたく、「手話を広げたいという活動をしている方」にアポを取って協力を得ました。
完成した結果、バズって、新聞やNHKでも取り上げられました。
映画とか、ターミネーターとか、多くの人が興味を持っているコンテンツを先に走らせて成功したパターンです。
興味のある方は、是非チェックしてみてください。
『SHUWACHAN BARRIER CRASH』
他には、さびしん坊だが友達がいない方をとびっきり祝うために公園を貸し切って結婚式をした事例の紹介がありました。
また、90年代ミュージックが大好きな方が、盆踊りで小室哲哉メドレーを流してしまって、怒られると思ったが、みんながその曲で踊り出し、あまり参加していなかった20~30代の若者も一緒に踊り出したという奇跡も紹介してくれました。
巻き込む力の源には、人の“情熱”、“癖”や“短所”があるんです。
いかに、人を巻き込むのか。
それを考える時、どうしても方法論を調べてしまいがちです。
そうではなく、まずは自分の情熱と向き合うこと、そして、巻き込む人と向き合うことの大切さを学びました。
介護職員は、今後、様々な人や機関をつなぎ、巻き込んでいく力もより一層求められていくでしょう。
その力を鍛える上で、基盤となる“大切な考え方”を身につけられるお話でした。
ゲスト紹介
大原 智(おおはら・さとし)
一般社団法人 GREENJAM 代表理事
1984年福島県生れ、兵庫県伊丹市育ち。バンド活動を経て、2011年に音楽スクール「music&culture neonM」を設立。その後2014年には関西最大級の無料ローカルフェスティバル「ITAMI GREENJAM」を立ち上げる。2016年2月には一般社団法人GREENJAMを設立し代表理事に就任。関西を中心に音楽・ダンス・イベント・デザイン・ファッション・アートなどの文化価値を用いた「コミュニティ活性の仕組み作り」を手掛ける。
イベント概要
【日時】2021年2月20日(土)19:00~21:30(Zoom開場18:50)
CONAについて
CONAの由来は、大阪の伝統ある粉物から。いろんな食材をまぜこぜにして、食材と食材をつなぎ、美味しさを引き出す粉のように、人の幸せな暮らしに関わるあらゆるものをつなぎ、掛け合わせることにより生まれる可能性を探求していく場です。