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多世代共生で実現する「ありがとう」の循環ー“はたらく”が生きがいにつながる(看護小規模多機能むく)

オンラインツアー REPORT 全国 オンライン

大半の人が最も多くの時間を過ごすであろう”はたらく”場。
その場所が「誰かの役に立ち、喜んでもらえる一番心地の良い居場所」だとしたら、どんなに素晴らしいことでしょうか。

7/17・18に開催した「全国介護・福祉事業所オンラインツアー」では、“はたらく”をテーマに4つの事業所にお話をうかがいました。

2日目に登壇いただいたのは、合同会社MUKUの代表・佐伯美智子さん。佐賀県唐津市で「看護小規模多機能むく」を運営されています。

お年寄りから赤ちゃんが一緒に過ごす多世代共生を実現し、1人ひとりが役割を持っていきいき生活できる場所です。一般的な介護施設のイメージとは一線を画す「むく」設立・運営の背景にある想いと、そこから見えてくる“はたらく”意味を佐伯さんにお話いただきました。

“暮らし”を大事にしたいと思ったルーツ ー代表・佐伯さんのご紹介

佐伯さんは、自らを“自由人”と称する、明るくバイタリティ溢れる3児のお母さん。そのパワフルさは作業療法士として働いていた頃から顕在だったそうで、職場で「壁破りOT(作業療法士)」と呼ばれていたのだとか。

「お年寄りの暮らしに近い仕事をしたい」と思って老人保健施設で働き始めたのですが、お年寄りたちがご飯食べる以外何もしていなかったんですよね。
「とりあえず外に出よう!」と思って、施設の裏に畑を作りました。その畑の向こうに大きなコンクリートの壁があって、越えた先に広いスペースがあったんです。「なんでこの場所使わないの?もったいない!」と思って、事務長に「壁破っていいですか?お年寄りももっと外に出たいと思う!」と話して、壁をぶち破りました!

当たり前のように建つ壁に対して「何で?」と疑問を抱くだけでなく、物理的に壊したという、「壁破りOT」の二つ名は伊達ではありません。その後、駐車場を含めたスペースを使って夏祭りを開催するなど、どんどん外に出るイベントを開催したそうです。

次に勤めた老人保健施設でも、佐伯さんのパワーが発揮されます。

別の老人保健施設でも働いたんですが、やっぱりお年寄りが何もしていなかったんです。「人生の最後、これでいいのかな」と感じ、ここでも「とにかく外に出よう!」と、おじいちゃんと一緒に畑仕事したり巣箱作ったり、おばあちゃんと喫茶店に行ったりしました。「暮らしをつくること」を意識していましたね。

何もしないし、することがない日々を送っていたら、誰だって元気をなくし「暮らしていること」の実感が薄れてしまうでしょう。「自分の人生も、お年寄りの人生も楽しく!」をモットーにする佐伯さんにとっては、どうにかして打破したい状況だったのかもしれません。

どんな時も前向きかつ積極的に挑戦する姿勢を崩さない佐伯さん。そのチャレンジ精神が「むく」の設立にも繋がったといいます。

「趣味のカイトサーフィンができるから」という理由で佐賀県の唐津に引っ越して病院で働いていたんですけど、たまたま看護小規模多機能の開業の公募があったんです。実は昔から、「赤ちゃんとお年寄りが一緒に過ごせる場所づくりをしたい」って思いがあったので、「やりたい!」って手を挙げました。それが「むく」ができたきっかけですね。

人生には逃してはならないタイミングがあると言いますが、佐伯さんにとってはこの公募がその時機だったのかもしれません。そしてこの「むく」が唐津市に住む人々の暮らしの場となっていきます。

お年寄りも子どもも一緒に過ごす場所「むく」とは?

2016年、佐伯さんは合同会社MUKUを設立し、翌年、佐賀県唐津市に「看護小規模多機能むく」をオープンしました。通い、泊まり、訪問、3つの介護サービスを展開し、現在は60代から100歳までの約20名の方が利用されています。近所の方と一緒にイベントを開催するなど、地域に根ざした活動を続けています。

佐伯さんは「壁破りOT」だった時代と同様、ここでも「暮らしをつくること」を大事にされているのだとか。

「普通の暮らし」って何でしょう?好きなことをしたり、遊んだり、笑ったり、泣いたり、怒ったり、仕事したり、誰かとお話したり……ただただ寝て起きて過ごすだけじゃないのが“暮らし”だと考えています。私たち介護職員は、お年寄りたちの暮らしにとっての黒子だと思っています。

佐伯さんから見せていただいた、「むく」のご利用者さんの表情はどれもこれも素晴らしい笑顔。暮らしによって人生が色づくということが伝わってくるようでした。では、どのようにして1人ひとりの暮らしを作っているのでしょうか。

私たちが仕掛けているのは、多世代共生。「みんなで暮らすこと」です。おじいちゃん、おばあちゃん、大人、子ども、赤ちゃん、杖をついてる人、車椅子の人……。むくにはいろんな人がやってきます。
子連れ出勤OKなので職員が子どもを連れてきたり、赤ちゃんボランティア(※後述)をやっていたり、子どもたちの習字教室に場所を貸していたり、小学生の帰宅場所にもなっていたり。学童とは違いますが、学校帰りに子どもたちがむくにやってきて、お年寄りに宿題をみてもらったりしていますね。

小学生が宿題に取り掛かる横でお年寄りが脳トレのドリルに励む。「むく」ではそんな光景が日常的に見受けられるようです。ちなみに、子連れだけではなく動物連れ出勤もOKで、猫やうさぎを連れたきた職員の方もいるのだとか。大家族の日常を思わせるような賑やかさです。

あと心掛けているのは、ノースケジュール。決まった時間になったら全員でお茶する、などのルールを設けていません。やりたい時に好きなことをする。つい先日も、職員が近所にひまわり畑を見つけたので、翌日すぐにご利用者さんたちと遊びに行きました。行事に関しても、職員だけが動くのではなくご利用者さんも一緒に何をするか考えています。

「〜するべき」が嫌い、と語る佐伯さんらしい取り組みです。自由にやりたいことをやる、簡単なようで大変難しいですが、自分の時間を得ることが“暮らし”の実現につながるのは間違いないでしょう。

お年寄りに役割を与える「赤ちゃんボランティア」

多世代共生実現のための取り組み「赤ちゃんボランティア」についても詳しくお話いただきました。

先ほどもお話した通り、初めは子連れ出勤からスタートしました。ただ、当然ながら子どもたちはどんどん成長していくんですよね。「赤ちゃんがいなくて寂しいな」と思って、外部から来てもらえるようにと始めたのが「赤ちゃんボランティア」です。交通費1,000円と昼食付きで、子連れのお母さんに来てもらいました。

職員の子どもたちが「むく」に来なくなってもなお赤ちゃんを呼び続けたのは、介護現場における子どもの必要性を感じていたからだといいます。

例えばこの写真。重度の認知症の方で、凄い怒って机を叩いたりしていたんですが、赤ちゃんを前にしたら表情が変わって穏やかになったんです。「守るべき存在だ」と認識したんだと思います。母の顔が垣間見えた瞬間でした。

赤ちゃんがいると、お年寄りたちに“子守をする”という役割ができるんです。抱っこしたり、歌を歌ってあげたり。介護現場だと、お年寄りは“サービスを受ける側”になりがちですが、“与える側”になれるんですよね。

介護サービスを受けるなかで「世話をしてもらってばかりで申し訳ない」と落ち込むお年寄りは少なくありません。何かをもらうばかりでは生きがいを感じにくいです。「自分が誰かの役に立っている」という実感は生きていくうえで大変重要です。そのため、子守をするという役割・仕事は、ご利用者さんの実りある暮らしの実現に大きな影響を与えているのではないでしょうか。

さらに、赤ちゃんはご利用者さんに“あること”を教えてくれているそうです。

赤ちゃんは、時の流れを教えてくれます。子どもが日々成長する様子を間近で見ると、何となく過ぎていく毎日のなかで、時間の流れを感じられるんですよね。生後2ヶ月の頃から赤ちゃんを連れてきてくれてるお母さんがいるんですけど、その子が1歳になった時には事業所のみんなで「こんなに大きくなったね」ってお祝いしました。

お年寄り側にも“子どもたちに命を受け継ぐ”という役割ができます。人生の最期を子どもたちに伝えられるんです。97歳まで生きたおじいちゃんがいたんですが、亡くなる間際まで子どもたちが関わってくれていました。「命はこうやって終わるんだよ」ってことを感じられたんじゃないかと思います。

「むく」の取り組みについて「大家族の日常を思わせる」と先述しましたが、この命のリレーもまさしく多世代で暮らす大家族のようです。赤ちゃんが生まれて成長し、いつしか年長者のお別れがやってくる。昭和の時代では珍しくありませんでしたが、少子化の進む近年では、家庭内で命の受け継ぎを感じる機会は少ないでしょう。しかし、人生の最期を目の当たりにすると、命の尊さやいつか必ず終わりを迎えることを実感できるはずです。お年寄りに子守という役割を与える以外にも、「赤ちゃんボランティア」は、時の流れを感じ命の重さを理解するという重要な意味を持っています。

また、赤ちゃんのお母さんにも良い影響を与えていると佐伯さんは語ります。

お年寄りたちのためにと始めたボランティアですが、お母さんの社会参加のきっかけにもなっています。孤立してしまうお母さんって結構多いんですよね。実際に来てくれている方に「誰かの役に立てることが嬉しい。家に1人でいるより楽しい」と言ってもらえました。

お年寄り、赤ちゃん、そしてお母さんにも喜ばれている「赤ちゃんボランティア」ですが、一方で感染症の心配や物品の管理など、気をつけなければならない点も。

感染症対策は徹底しなければならないですし、物の管理にも気をつけています。特に危険物とか薬は、置き場所に試行錯誤していますね。あとは、子どもたちが大勢いて賑やかなのはいいけれど、「うるさい」と感じる方もいるので。利用開始の際には必ず説明しています。

※新型コロナウイルスの影響で、現在は「赤ちゃんボランティア」は休止中です。

「はよ死んだがまし」が「まだ死なれんね」に変わるまで ーサチコさんの事例

介護する・されるではなく、ご利用者さんも一緒に何かをやる「みんなで暮らすこと」を大事にしている佐伯さん。お年寄りが役割を持つことの重要性を、サチコさんという1人のご利用者さんの事例を通してお話してくださいました。

初めてご自宅にうかがった時、サチコさんは寝たきり状態で、食事もできなくて脱水症状も出ていました。薄い布団の上に寝たままだったので、お尻に大きな床ずれもあって。ご家族も、もうどう対応していいかわらなくなっていたんですよね。当時のサチコさんの口癖は「はよ死んだがまし」「はよ迎えが来てほしか」でした。

サチコさんはただ寝ているだけで満足に食事もできず、酷く気分が落ち込んでいたのでしょう。佐伯さんは「まずは命が大事」と判断し、医療機関と連携して床ずれの治療を始めました。あわせて、ご家族に介助方法を説明したり、食事や入浴・排泄のケアをするなど、サチコさんの生きる環境を整えたそうです。

生きるベースを整備した後、サチコさんの“暮らし”を取り戻すためにさまざまな働きかけを始めました。

サチコさんの好きなことを探ろうと、いろんな場所に出かけました。パフェを食べに行ったり、プロレスを観に行ったり!だんだん元気になられて、ご自分から動くことも増えていったんです。当時、「むく」で駄菓子屋をやっていたんですけど、お菓子の値段付けを「私がやるよ!」って率先して引き受けてくれました。時には駄菓子屋の店番もやってもらって、子どもたちともたくさんお話するようになりました。
「はよ死んだがマシ」って言ってた時とまるで別人のように表情が変わりましたね。本人が楽しみながら「誰かの役に立っている」ということを感じたから、いきいきし始めたんだと思います。

「むく」という場所で、人生の喜びを見つけたサチコさん。写真の表情からも、楽しそうな様子を感じられます。ついには、外のイベントで活躍するまでになったのだとか。

地域のイベントで駄菓子屋を出店した時に、サチコさんが売り子をやってくれました。ステージでじゃんけん大会もやったんですけど「じゃんけんする役やってみる?」って聞いたら、「やる!」って言ってくれて。実は、サチコさん歩くのがまだ少し難しくて、ステージに上がれるのか心配したんですが、自力で階段を上って、じゃんけん大会での大役を務めたんです!子どもたちもたくさん集まって楽しんでいて、一気に注目の的になっていました。最高の役割を果たした瞬間でしたね。

多くの事業者が参加する大きなイベントでのじゃんけん役。子どもたちの笑顔に囲まれながらの「最初はグー!じゃんけんぽん!」の掛け声は、サチコさんにとって最高に気持ちの良いものだったのではないでしょうか。

この日を境に、サチコさんの口癖が変わりました。

「まだまだ死なれんね。冥土の土産を100個作らないかん!」

役割がある、仕事があるって素晴らしいなと、サチコさんから教わりました。

「むく」での取り組みが、お年寄りの“暮らし”を実現させた素敵なエピソードです。誰かの役に立つ喜びを、佐伯さんのお話とサチコさんの笑顔から教えていただきました。

“はたらく”ってどういうこと?

「むく」では、子守や駄菓子屋の店番、イベントでの大役など、お年寄りが自身の役割を担う環境を作っています。役割とは、任された役目を意味し「仕事」「働くこと」とも言い換えられます。今回のオンラインツアーのテーマ“はたらく”についてお話をうかがいました。

“はたらく”の語源は「はた(傍)を楽にする」だと言われているように、周りの方の役に立つことが“はたらく”だと思います。もちろん、仕事をして対価を得るのも大事ですが、誰かのために働いた結果自分も嬉しくなる。むくには「誰かお皿拭いてくれんかな」と言ったら「拭くよ!私んとこ持ってこんね!」と手を上げて手伝ってくれる100歳のおばあちゃんがいたり、山盛りになったみんなの洗濯物を率先して畳んでくれる方もいます。
誰かの役に立っていると実感すると「ここにいて良いんだ」と安心できて、それが生きる幸せにつながるんじゃないかと思います。

佐伯さんは「世代や環境によって働く目的は異なる」ともお話されており、定年退職後は生きがいや喜びを得るために仕事に取り組むことが大事だと考えているそうです。しかし、年々体力は落ち、自分が動くどころか誰かの手を借りて生活するお年寄りも少なくありません。だからこそ、“はたらく”ことが重要であると語ります。

人は生まれてからたくさんのことを受け取りながら育っていきます。赤ちゃんの時はオムツを替えてもらったり、ご飯を食べさせてもらったり。小学生になればランドセルを買ってもらったり、いろんな物事をもらいながら成長していきます。そしていつしか、自分が与える側になるんですよね。でも、歳を重ねれば重ねるほど、また受け取ることが増えて、与える機会が減ってしまう。「誰かの役に立っている」という実感がどんどん薄れてしまい、生きがいを感じられなくなってしまうんですよね。

そして、介護職のかかわり方も重要である、と佐伯さんは続けます。

お年寄りが与える側でいられる場面を増やすことが、私たち介護職にとって大事だと思っています。「できること、やりたいことってなんだろう?」と気にかけて、できる範囲での仕事をお任せする。

つまり、「ありがとうと言われる人になってもらおうよ」ってこと!ご利用者さんが「ありがとう」と言われるようなアプローチができれば良いですね。与える人は最期まで現役だよ!”

どんな人でも年齢を重ねれば、身体や感覚が衰えていきます。できることが少しずつ減って、人の手を借りる場面も増えるでしょう。しかし、生活のサポートが必要になるだけで、与えられる物事がゼロになるわけではありません。むしろ、長い人生で培った経験は、若い世代に多くの学びを届けてくれるでしょう。

最期までその人らしく生きるためには「仕事を通して役割を果たし生きがいを得る」ことが重要。ご利用者さんの暮らしをお手伝いする介護職にとって、大切なことを教えていただきました。

佐伯さん、貴重なお話をありがとうございました!

ゲストプロフィール

合同会社MUKU 代表 佐伯美智子

福岡生まれ。3男児の母。専門学校卒業後、作業療法士の資格を取得するが「世界中に友達を作る」という夢を叶えようと、ニュージーランドやオーストラリアで2年間放浪。その後、病院や老健で作業療法士として働いていたが「暮らしの場を創りたい!」と3男が生後3か月の時に独立。2017年4月、赤ちゃんがいる介護事業所「看護小規模多機能むく」を開設。高齢者と子どもが集う「あたり前の暮らし」を作るべく、多方面からの仕掛けづくりを続けている。現在、有料老人ホームと小規模多機能、放課後等デイサービスを合体させた複合施設を新しく準備中。

合同会社MUKU
http://muku-llc.com/

11/11よりクラウドファンディング挑戦中です!
https://www.kamofunding.com/projects/muku

イベント概要

2日連続オンラインにて開催しました。
❶7月17() 13:3016:1516:30〜交流会あり)
❷7月18() 13:3016:1516:30〜交流会あり)

2021年11月27日(土)第3回開催決定!

▼250名超にご参加いただいた「全国・介護福祉事業所オンラインツアー」第3回の開催が決定しました!全国3か所の取り組みをご紹介します。詳細はバナーをクリック!

 この記事を書いた人

モモみ
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