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イベントレポート

排泄予測デバイスDFreeで全ての人をハッピーに!「介護×テクノロジー」の可能性を探る。(PRESENT_09 中西 敦士レポート)

 

2016年10 月21日、9回目の「PRESENT」は、「排泄ケアを問い直す!テクノロジーが生み出す介護の次なるスタンダード」をテーマに、トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社より中西氏、草西氏をゲストに迎え開催致しました。

PRESENTでは、07・08と「介護×テクノロジー」をテーマに、テクノロジーの進化が介護・高齢社会を変える可能性を探ってまいりました。
今回、ゲストでお迎えしたトリプル・ダブリュー・ジャパンのお二人は、テクノロジーによりケアの現場の大きな悩みでもある「排泄」に向き合っています。

テクノロジーと介護領域はどのように向き合い、活用していくのか。
そのヒントを探ります。

画期的な排泄予測ウェアラブルデバイス DFree

「トイレの準備に時間がかかる」「尿意がいつ来るかわからなくて怖い」といった排泄についてお困りの方のために開発された排泄予測ウェアラブルデバイス、それがDFreeです。
下腹部に装着をするだけで、内蔵された超音波センサーで排尿のタイミングを予測し、スマートフォンのアプリで排泄タイミングの通知をしてくれます。
排泄でお困りの多くの人が、排泄・トイレの心配から解放された自由な生活を送ることを応援したいと考えています。

開発のきっかけは、「うんこを漏らしたこと」

中西:なぜ、DFreeを開発しようと思ったか。それは自分がうんこを漏らしたからです。
アメリカ留学中の引っ越しの最中で…。(会場笑)

当然ですが、排泄に失敗することは、とても嫌なことです。
しかし、失敗をしてしまうことは、誰にでもいずれ何かしらのタイミングで起こりうることかもしれません。
であれば、せめて排泄に関する負担や困りごとを減らしたい、と思いました。そこで、予測できればいいのだと考えたのです。

私たちがまず行ったのは、体内のどこに排泄物があるのかということを調べました。
排泄物の移動スピードと、ゴール地点までの距離を計測すれば時間が判るはずと考えたからです。
使う技術としては、1センチの胎児でもよく見ることのできる超音波を選びました。

色々なデータを探したのですが、排泄物が体内のどこにあったら、何分後に排泄されるのかというデータはありませんでした。
そこで、データがないなら自分たちで取ろうと考え、自分たちの体を張り、施策と実験を繰り返しました。非常に大変な日々でした。(笑)

 

予想外!介護業界からの大きな反響

その上で、クラウドファンディングを利用して、誰がDFreeをほしいのか?と調べてみました。
すると、介護事業者の方からの反響が非常に多くありました。調べてみると、要介護者が600万人もいて、大人用おむつの45%は介護施設で使われていることを知りました。

それまで介護現場での活用という気持ちはなかったのですが、ニーズが多かったので介護という領域で使ってもらうことにシフトしていくことにました。

介護事業所でDFreeが使われると、様々なメリットがあると考えています。排泄のタイミングをお伝えすることができるので、最適なタイミングでおむつを交換し、業務効率も改善できますし、介護を受ける人も快適に生活することができます。
ゆくゆくは在宅にも導入して、自立介護につなげていくのが理想です。

今現在は、国内5施設で排尿を感知・予測する形の仕組みづくりのトライアルをしています。今のところ、スキントラブルや不快感による取り外しは、ほぼありません。今後の予定としては国内外30法人、20万床での導入です。そして次はヨーロッパに展開していき、2020年までに、1,000万人に提供を目指しています。(※2016年10月時点)

2018年3月現在、国内約150の介護施設にてDFreeをご利用いただいており、18年夏には個人向け販売を開始予定です。
また2017年7月にはパリ支社を開設し、18年度より本格的にヨーロッパ及び北米での販売開始に向けて準備しております。

介護現場との二人三脚 ―DFree開発ストーリー―

草西:私の仕事は、開発とユーザの間を結ぶ、マーケターです。
実際に介護施設で試作品を使ってもらって感想を聞いたり、有識者から意見を聞いたりして、その声をエンジニア・デザイナーまで伝えることをしています。
徹底したユーザ目線で、皆様によい製品をお届けすべく頑張っています。

実際にリアルな声を頂くために何度も介護施設に通い、介護士さんに付き添って、データをとるようにしました。介護を理解するために介護職員初任者研修の資格も取りました。
介護士の皆さんとご一緒する中で、信頼関係を作ってから、実際に利用者の方に装着するトライアルもさせてもらいました。
若い人や、体に排泄のトラブルを抱えていない方の膀胱は割と見やすく、データも安定しているのですが、高齢・要介護状態になるとなかなか正確なデータが取りづらいことも分かりました。
そういった実戦での気づきをもとに、開発を進めています。

開発者と介護現場が二人三脚でやらなければ、よい製品の開発は実現できません。私たち開発側も現場に入らないと見えてこないことも多いと思います。

トライアルを行った施設では、利用者さんの排尿を検知した時に、介護士さんと一緒にパッド交換でお部屋に行ってみると、利用者さんは「なんでわかったんだ?」という感じの驚いた顔をされていました。(笑)

でも、「すっきりした」とも思っていただけたようで、役に立てたようでよかったなと感じています。

DFreeは、まだ量産はできていないですが、各界から注目してもらって、様々な展示会にご招待いただくことも増えてきましたし、海外からのお話もいただきます。
アメリカ、台湾、中国、韓国、オーストラリア、スイス、フランス、ドイツ…。
排泄に関する悩み・困りごとは全世界共通なんだなと感じています。※2016年10月時点

DFreeは2017年春より量産を開始し、法人向けサービスをスタートさせました。
海外からの問い合わせも非常に多く、既に世界60か国以上から商品に関する問い合わせが届いています。
2018年1月にはラスベガスで毎年開催される世界最大級の家電ショー、Consumer Electronics Show(CES)に参加し反響を呼びました。

DFreeが、全ての人をハッピーにする!

排泄する人、ケアする人、その周りの環境、国、行政、地球…。
DFreeは、関わる人みんながハッピーになる珍しいデバイスです。

まずDFreeを必要としている当事者の人たちへのメリットとして事前に検知することで、トイレでの排泄の回数を増加することができます。
それにより、身体機能の維持や、QOL(生活の質)の向上につながります。
また、介護士などケアする人にとっても、失禁などの突発的な排泄トラブルが減少でき、心身の負担を減らせることになると思います。

またおむつやパッドなど排泄に関する消費財は、70~80名の施設で一年間に3000~4000万円ほどのコストがかかっているといわれています。
DFreeで排泄予測ができれば、必要最低限の使用で済み、コスト的にも・環境的にもよい効果が産まれると思います。

国や自治体の方にとっては、身体機能維持による社会保障費の抑制にもつながりますね。

排泄の悩みを改善することで、すべての人が、以前と同じ生活を続けたまま納得した人生を生き生きと楽しめる世界へ!
そんなことを目指しています。

今日、ここに来て下さった皆様は、「作業になりがちな排泄というものを、コミュニケーションにすることができる可能性のあるDFreeというものがあるんだよ」ということをわかってくれたのではないかと思います。

「排泄ってこうあるべきだよね」と思ってくれる仲間を増やしたいです。今日来てくれた人はもう仲間だと思っています。
「排泄に悩みを抱えている人がいる」ということは、そういう人が近くにいないと、なかなか伝わりません。
ぜひ明日、友達にDFreeについて、「こんなすごいものがあるよ」、と言ってみてください。皆さんの身近でも仲間を作っていってほしいです。

“あなたの身近な場所や生活シーンで、DFreeによって、どんな変化がおこりますか?”

“あなたが描く「介護×IT・テクノロジー」の未来の姿とは?“

講演の合間に、参加者同士で2回の対話を行いました。様々な立場・背景を持つ参加者の皆さんの間でも、熱量の高い対話が行われていました。

介護の世界に飛び込んで見えてきたこと

異分野から介護の領域に飛び込んだお二人に、介護の世界に入って感じたことをお伺いしました。

草西:DFreeの開発を通して、介護の世界に飛び込んでみて、僕自身は年を取るということや認知症になるということが、可哀想なことではなく、一つの個性だととらえられるようになりました。なので、母親に対して非常に優しくなりました。

 

中西:介護士の人についても、正直3Kとか言われて、陽と陰だと陰かなとか思っていたのですが、利用者さんのことを常に考えていて、本当にすごいなと思いました。
一緒に同じ目線でいいもの作りたいと思いました。

 

「介護×テクノロジー」で新たな価値を生み出していくためには、研究者・開発者と介護現場の第一線で働く介護士をはじめとした専門職が対話し、共に課題解決をしていこうと協力する姿勢が大切なのではないだろうか。

介護編場に飛び込んで、よりよい製品を作ろうと奮闘している中西氏・草西氏のお話を伺いながら、そんなことを感じました。

介護現場だけで解決できない課題があったとしても、様々なプレーヤーの力を借りることで、解決の糸口は見つかるかもしれません。
“他人任せ”にするのではなく、誰よりも現場のことを知る当事者として、介護領域の私たち一人ひとりが考え、様々な人たちと対話し、協力をしていけば、思いもよらない解決策が産まれるのかもしれない。
そんな期待が産まれる一夜でした。

DFreeが多くの人の手に届き、たくさんの笑顔や安心が産まれることを、私たちHEISEI KAIGO LEADERS運営チーム一同、応援しております!

※DFreeの最新動向について、2018年4月現在の情報を追記させていただいています。


 

ゲストプロフィール

中西 敦士 Atsushi Nakanishi(写真左)
トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社 代表取締役
会社員や青年海外協力隊を経て、2015年トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社設立。

草西 栄 Sakae Kusanishi(写真右)
トリプル・ダブリュー・ジャパン マーケター
2015年12月より同社に加わり、開発現場とユーザ(介護現場)を結ぶ役割を担う。

※プロフィールは、イベント開催時の情報となります。

開催概要

日時:2016年10月21日(金)
会場:株式会社ディスコ 神楽坂Human Capital Studio

PRESENTについて

2025年に向け、私たちは何を学び、どんな力を身につけ、どんな姿で迎えたいか。そんな問いから生まれた”欲張りな学びの場”「PRESENT」。
「live in the present(今を生きる)」という私たちの意志のもと、私たちが私たちなりに日本の未来を考え、学びたいテーマをもとに素敵な講師をお招きし、一緒に考え対話し繋がるご褒美(プレゼント)のような学びの場です。


写真撮影


近藤 浩紀/Hiroki Kondo
HIROKI KONDO PHOTOGRAPHY

この記事を書いた人

野沢 悠介

野沢 悠介Yusuke Nozawa

株式会社Blanket取締役|ワークショップデザイナー

大手介護事業会社の採用担当者・人事部門責任者として、新卒採用を中心とした介護人材確保に従事。
2017年より、Join for Kaigoに加入、介護領域の人材採用・定着・育成をよりよくするために活動中。
趣味は音楽鑑賞。好きなアーティストを見に、ライブハウスに入り浸る日々。