MAGAZINE 読みもの

click me!
イベントレポート

一人ひとりが納得できる医療を !“移動式屋台”で地域と医療をつなぐ  医学生 守本陽一の学生最後の本気のプレゼン。(KAIGO MYPROJECT体験イベントVol.53 レポート)

2018年3月15日に行われたKAIGO MY PROJECTの体験イベントでは、自治医科大学6年生(2018年3月時点)で、地元の兵庫県豊岡市での“モバイル(移動式)屋台De健康カフェ”や、 “学生による地域診断”などの様々な活動をされてきた、守本陽一さん(KAIGO MY PROJECT9期)に、これまでの活動と、学生最後に今後の展望について、お話しを伺いました。

 

医療の役割ってなんですか?

守本さんは真剣な表情で、こんな問いかけからプレゼンテーションを始めました。

医療の役割ってなんですか?

この質問をされるまで、多くの人にとって医療の役割とは「人々の心身の不調を診断しそれを治すこと」であり、そこに改めて考える余地はないのではないでしょうか。
しかし、この質問をする守本さんの表情は真剣で、会場では一瞬、参加者の皆さんが考えているような時間がありました。

もちろん、必要な診断や治療を施すことによって救える命を救うことが、医療にとって何より重要な役割であることは、言うまでもありません。しかし、「治療」だけではなく、様々な要素があって初めて、本人そして家族や周りの人の命を「救える」のではないか、ということに守本さんは注目していました。

“ソーシャル・キャピタル” (社会関係・資本)の意味

守本さんの行っている活動として有名なのは、豊岡での“モバイル(移動式)屋台De健康カフェ”です。
元々、地域住民の日常からの健康づくりなどにも関心のあった守本さんは、学生仲間と地域の「健康講座」を開くことを思いつきます。 内容を考え、チラシを作成し、人の集まるところで配り、宣伝し…。様々な準備を重ねて集まったのは、たったの「一人」でした。

そのような集まりに出て来られる人の多くは、ある程度の健康意識があり、ほんとうに人との関わりや助けを必要としている人は、情報を得ることができなかったり、健康知識の必要性の認識さえなかったりする、という重大な盲点があったのです。
この経験を通して守本さんは、健康が「大事」だからと言ってそれを一方的に伝えるのでは、「健康の押し売り」になってしまい、「その人の日常の中で」「楽しく」、「自然に」健康へと導くことはできないということを認識しました。

そんなとき、守本さんが出会ったのが、“モバイル(移動式)屋台”でした。

守本さんは“モバイル(移動式)屋台De健康カフェ”の活動中、街を歩いていて、地域住民の方と出会ったとき、はじめは医学生であることは伝えません。
それは、「健康の押し売りをする」のではなく、「屋台を引いてコーヒーを配って立ち話をする」「一人の人としての守本くん」として、「一人の人としての地域住民」の方と対等に、楽しくお話しをするためです。
“屋台でコーヒーをくばり歩く”という、人と向き合う窓口があることで、関係性そのものが全く異なるものになる。
それがこの活動の重要な意味の一つなのです。

地元兵庫県豊岡市での“学生による地域診断”などの活動もしている守本さんは、「ソーシャルキャピタル(社会関係・資本)」(人々の間にある信頼関係やネットワーク)の存在が、人々の健康に良い影響を与えているという論文に基づいて、実際にそのような関係性がある場所をフィールドワークしたり、自ら創りだしたりすることも大切にしてきました。

今回守本さんにお話ししていただいたKAIGOMY PROJECT体験イベントの参加者には、

・地域医療に関心のある医学生、薬学部生、看護学生、医師、看護師
・守本さんの地元と同じ兵庫県の別の地域で、地域おこしをしていきたい学生
・家族として、医療者と一般人との間の溝に疑問を感じていた家族介護者の方

など、様々な方が来て下さっていました。

そんな参加者のおひとりから、守本さんに質問が投げかけられました。

なんで 『ある一つの地域』 でそんなに頑張れるんですか?

それに対して守本さんは、「所属しているコミュニティや場に愛着を持ちやすい」性格であること、また、「自分の故郷だという責任感」があること、そして自分がそこで活動をしていることを「楽しい」と思えていることが何より大きいということを教えてくださいました。

守本さんの原動力とは?

「守本さんが地域活動を『楽しい』『わくわくする』と語っているとき思い描いている誰かがいたり、どんな光景があったりしますか?」

そんな参加者からの問いかけに、守本さんは、

実際にはまだ、本格的な活動はこれから医師として働き始めてからが本番なので、『地域住民のこの人たちに!』などの対象者の具体的なイメージは出来ていません。

でも、「こんな活動をしたい」、「こういう活動に意味があると思う」という自分の想いを聴いてくれて、何があっても支えてくれる、家族のような関係の友人や仲間がいて、その人たちが自分のやりたいことをどこにいても応援してくれているイメージが、自分の原動力になっていると思います。

と答えてくださいました。

その言葉を聴いて、私たちKAIGO MY PROJECT体験イベント運営チームは、守本さんと一緒にイベントを運営してきた「同志」でもあるので、「仲間」の一人としてお互いに応援し続けられる関係で居られるといいな、と思いました。


 

「あなた」の「想い」をカタチにする。KAIGO MY PROJECT。

KAIGO MY PROJECTは、慶應義塾大学 総合政策学部の井上英之先生が考案した「マイプロジェクト」という手法を用い、介護や医療に関わる問題に関心を持つ人が、自分自身に向き合い、目指すものを実現していくための3か月間のプログラムです。
KAIGO MY PROJECTでは、夢や目標を実現するためには「特別な地位」や「経験」がなければいけないのではなく、一人ひとりが過ごしてきた固有の人生背景や考え方、その人自身の気づきに意味があると考えます。

そのため、ゲストの方のお話しを伺う時も、その方の人生のストーリーや、そこから生まれた人生哲学、価値観などをお話ししていただく時間にしています。参加者の方からの質問を受けて、受け答えしていただく中で生まれる気づきの時間を大切にしています。興味のある実践者のお話しをきっかけに、自分のプロジェクトに取り組む時の一つの事例として、参考にして頂ければと思っています。

この記事を書いた人

八嶋 美恵子

八嶋 美恵子Mieko Yashima

KAIGO MY PROJECTチーム ファシリテーター

上智大学大学院 博士前期課程 社会福祉学専攻に所属、自身の家族の経験を通して、家族介護について研究中。
「聴く」ことで生まれる、人とその場に起こることの可能性に魅力を感じ、KAIGO MY PROJECT体験イベントのファシリテーターをしている。