「500歳の手作り味噌」が繋げる絆 高齢化地域を盛り上げる取り組み(Happy Care Life株式会社)
高齢化率が高まる日本。既に住民のほとんどが高齢になり、活気を失っている地域も少なくありません。とはいえ、今から高齢化を食い止めるのは不可能です。
お年寄りが活躍する場所をどんどん増やす必要があるでしょう。
2020年12月12日と13日に、「全国介護・福祉事業所オンラインツアー」と題し、全6事業者の取り組みを紹介するイベントを開催いたしました。
その4つめのツアー先は、Happy Care Life株式会社です。
案内してくださったのは代表取締役の中林正太さんです。
中林さんも、地域の弱体化に危険を感じた1人。
Happy Care Lifeが築く「お年寄りと社会との繋がり」についてお話をうかがいました。
「人の繋がり」が会社設立のきっかけ
Happy Care Lifeは2013年8月、佐賀県嬉野市に設立されました。デイサービス宅老所「芽吹き」「分校Cafe haruhi」を運営し、地域に根ざした活動を続けています。
長崎県に隣接する嬉野市は、一次産業が盛んな歴史ある地域で、多くのお年寄りが暮らしています。
専門学校を辞めて地元の嬉野市に戻った後、看護師である母親の手伝いで介護の仕事を始めました。介護の経験や知識は無かったのですが、おじいちゃん、おばあちゃんが喜んでくれるので楽しかったですね。
地域のお年寄りとの交流を深めていく中で、中林さんは嬉野市のお祭りに参加します。これが、Happy Care Lifeを設立する大きなきっかけになったそうです。
お祭りに来ている人が少なくて、かなり閑散としていたんですよ。事実、嬉野市の人口は減少傾向にあって、2040年には住民が2万人を切るといわれています。「このままじゃいけない」と感じ、若い人を呼び戻すために農業体験イベントを開催しました。結果、全国各地からたくさんの人が来てくれて、「人と人との関わりはお金じゃない」って学びました。
人の繋がりの重要性を知った中林さんは、仕事でも「人同士の輪をもっと広げていきたい」と考えます。しかし、当時働く介護施設では反対の声が上がりました。
「外から色んな人を呼ぶなんてとんでもない」と、施設の上司から言われました。代表にも理解されませんでしたね。人と繋がるって幸せな空気感があるのに、介護施設は閉鎖的で何もできなかったんです。だから、開業することにしました。
味噌プロジェクト
「人の繋がりで地域を盛り上げたい」と決めて、Happy Care Lifeを設立した中林さん。具体的な事業内容についてもお話を伺いました。
Happy Care Lifeではさまざまな事業を展開していますが、特に注目されているのが「味噌プロジェクト」です。
「みそ製造業」の許可を取得し、デイサービスに訪れるお年寄りと一緒に味噌を作り、販売まで行っているそうです。作り手の年齢を合わせると500歳になることから「500歳の手作り味噌」と名付けて商品化しています。
お年寄りが関わっているのは製造だけではありません。イベントの売り子もお任せしているそうです。
味噌を作っている段階では「こんなもの売れるはずない」ってぼやく方もいました。でも、自分たちが作った物が目の前で売れると、おばあちゃん達がとても喜んでいて。中には感動して泣きながら購入してくれたお客さんもいて、施設にいる時よりおばあちゃん達が嬉しそうでしたね。イベント参加後、「もっと作らんといかん」って前向きになる方が増えました。一緒に出店したからこそ、得られた効果だと思います。
イベントでお客さんと触れ合い、味噌作りへのやる気が増したおばあちゃん。プロジェクトを通して人の繋がりが大切であることを再確認した中林さんは、「味噌作り体験会」と銘打った交流会も開催しています。地域の人たちがデイサービスのお年寄り達と一緒に味噌を作るイベントで、作った味噌は商品化し、販売しているそうです。
「デイサービスのお年寄り=何もできない」というイメージが強いけど、「元気なお年寄りがたくさんいるんだ」ってことを地域に伝えていきたいです。「もし、要介護状態になっても、今できることや知識・経験を通して社会と繋がることができるんだよ」って。それが、お年寄りの役割・生きがいになって「長生きして良かったな」と思ってもらえるように取り組んでいきたいです。
分校Cafe haruhi
味噌プロジェクトと肩を並べて注目されている事業が、分校Cafe haruhi。廃校になった分校を利用したカフェです。
明治8年に開校し平成13年に廃校した学校です。地域の人達が使っていたんですけど、荒れ始めてしまったんですね。140年以上もの歴史を持つ校舎で、その分積み上げられた想いも大きかった。どうにか活用できないかとオープンしたのが分校Cafe haruhiです。
「地域の想いが詰まった場所を守りたい」と開業したカフェですが、当初は風当たりも強かったそうです。どのようにして運営を続けてきたのでしょうか。
分校のある嬉野町吉田春日地区は山のてっぺんで、住民の半数近くが高齢者。「カフェなんかしてもお客さんなんか来るはずがない」と言われていたんです。でも、イベントやマスコミに取り上げられてから状況が変わりましたね。2019年には年間5,000名以上が来店しました。本当にやりたいことができるようになったのはそこからです。
以降、春日地区のおばあちゃん達をカフェに呼んでの食事会、料理教室やバス旅行など、地域の人同士の結びつきを強くするイベントを数多く実現させました。さらに、おばあちゃん達自ら「むかし美人の会」という会を発足。イベントへの出店やワークショップの開催をしています。
分校Cafe haruhi以外では、「年をとってもまだまだ働きたい!」と思う方に向けた施設・生涯現役の家「ねっこ」の運営や、2021年4月には、カフェ併設の就労つき小規模多機能ホーム「さとみち」を開業。さらに、耕作放棄された茶園からとった油を使って製造する石鹸の販売を控えています。ますます活動の幅を広げて地域を盛り上げていくHappy Care Lifeは、嬉野市にとってなくてならない存在といえるでしょう。
Q&A
事業に関するお話を伺った後、参加者を代表してファシリテーター・吉田より、中林さんに質問するお時間をいただきました。
グループダイアログ
イベント終盤では参加者がいくつかのグループに分かれて「自分の事業所で活かせそうなこと」「共感したこと・印象に残ったこと」を共有しました。感想の一部を紹介します。
まとめ
地域も社会も“人”無しでは始まりません。
当たり前のことですが“人の繋がり”に徹底的にこだわることで、さらなる可能性を見出せます。
介護・福祉に携わる中で、地域を巻き込んで盛り上げたいと感じる場面も多いでしょう。1人では実現が難しいかもしれませんが、仲間がいれば実現できるかもしれません。実際に、中林さんは、人の繋がりに可能性を見出し続けて、多くの事業を立ち上げ地域に貢献しています。
2020年以降、「ソーシャルディスタンス」が合言葉となりましたが、地域・社会を発展させるには人同士が密に連携していく必要がありそうですね。
ゲスト紹介
Happy Care Life 株式会社 代表取締役 中林正太
佐賀県嬉野(うれしの)市出身。福岡の専門学校で学んだ後に地元に帰り、介護職に就きながら地域活性化のイベントを開催する。現在はHappy Care Life株式会社 代表取締役として介護事業所を経営するほか、嬉野市の廃校を活用したカフェ経営や高齢者の就労支援などを手がける。
イベント概要
日時:2020年12月13日(日)17:00~18:15