ITのチカラで介護をアップデートする。 ITと介護の新しい関係性。(PRESENT_08 鹿野佑介 松瀬啓祐 レポート)
2016年7月30日、第8回目の「PRESENT」は、「『介護』の選択を変える。社会情報のプラットフォームが作る未来とは?」をテーマに、株式会社ウェルモ代表鹿野佑介氏と、株式会社カカクコムで「たすケア」を立ち上げた松瀬啓祐氏をゲストにお迎えし、開催致しました。
武内和久氏をお迎えした第7回より「介護×テクノロジー」をテーマに、新たな技術やシステムが、介護領域にもたらす変化を考えていきます。
今回、スポットを当てるのは、「情報テクノロジー」。
介護の世界ではまだ、利用者が様々なサービスの情報へ、自由に、気軽にアクセスできる環境が整っているとは言えません。でも、介護は誰もが通る道だからこそ、もっと自由にもっと自分らしく選択できるようになってほしい。
そのためにどのような視点・取組が必要なのだろうか。
そのヒントを探るため、「IT×介護」という切り口から地域の介護サービスの在り方を模索するお二人をお迎えし、お話を伺いました。
PRESENTでは、毎回レポートを作成しておりますので、宜しければ最後までご覧ください。多くの介護に志ある人へ、学びを共有できますように。
地域で自分らしく生きていけるための情報プラットフォームを。
株式会社カカクコム 松瀬氏の取り組み
私は、「たすケア」というWEBサービスを行っております。
「たすケア」では、介護などのサービスを本人や家族が選べるように、地域のサービスや事業所の情報を掲載することと、サービスの選び方を知るための記事メディア(体験談、疾患、コミュニケーション方法など)の発信をしています。
「たすケア」開発のきっかけは自分の介護体験です。私は祖父母と同居しており、介護に触れる機会を得ました。祖父は脳卒中で認知症になり、症状悪化し、最期は階段から転落。祖母はアルツハイマーになり老衰し、最期は病院で逝去しました。その間、ショートステイから帰ってくると認知症が大きく進行しているといったことも経験しました。
小中学校の頃のこれらの経験をもとに、次第に「人生の後半に至って、自分の意思で動けない、話も聞いてもらえない、死に方も選べないってどうなの」と思うようになりました。身体・認知などの機能が落ちても自分らしく、地域で主体的に生きられるようにするため、今は介護の情報が中心ですが、介護、医療、障害、福祉…と分けるのではなく、地域という広いくくりで情報を届けていきたいと思っています。
2015年10月にリリースしてから、初めは参入期として情報掲載数を増やし、自治体とも連携し地域資源の情報を集約・メンテンナンスを行い、地域包括支援センターがサービスを探し、紹介しやすい形を作っています。ユーザーが自分で選ぶ、というところまではまだ行けていないですが、リアルの流れの中で使ってもらうことができています。
それと合わせて、ケアマネを選択できる機能の導入を検討しています。介護サービスを受ける最初の入口となるケアマネを選べるということが大事だと思っています。
2015年10月にリリースしてから、初めは参入期として情報掲載数を増やし、自治体とも連携し地域資源の情報を集約・メンテンナンスを行い、地域包括支援センターがサービスを探し、紹介しやすい形を作っています。ユーザーが自分で選ぶ、というところまではまだ行けてないですが、リアルの流れの中で使ってもらうことができています。
それと合わせて、ケアマネを選択できる機能の導入を検討しています。介護サービスを受ける最初の入口となるケアマネを選べるということが大事だと思っています。
将来的には、福祉サービスのみでなく、地域で生きていくための情報プラットフォームにしていきたい。介護保険法の制定で、福祉の産業化が起き、色々なサービスが参入してきました。これはいい傾向だと思っています。一方で、小規模デイなどは縮小の波があるんですね。今後は産業ごと福祉化しなきゃいけないと思っています。
介護が必要な高齢者や家族が、必要としているものは、福祉サービス以外にも、介護ベッドのある旅館や、認知症でも対応してくれる美容室、スローレーンのあるスーパーとか色々あると思います。そういった地域の情報を見つけられるように、複数のモノや人が連携していくために、プラットフォームを作りたいと思っています。それに加えて、例えばフリーで付き添ってくれる介護士がいれば、ある程度地域での暮らしをまかなえるのではないかと考えています。
地域の店舗や事業者側にもメリットがあると考えています。少子高齢社会でお客さんが減る。若者は、感度が高いからすぐにアクセスはしてくるけど、離れていくのも早い。高齢者は地域にいるからリピーターになる可能性も高いです。そういう意味で高齢者がよいターゲットになることをいかに事業者側にも伝えていくかが重要だと思います。そのやり方として、お店の人が認知症を知らない、怖いと感じているのであれば、地域デイの時に、実際にお店に来てもらって使ってもらうように働きかけてみる。そうやって少しずつ交流の機会を持っていくのがいいかと思います。
ただ、今のサービスの現状から見ると、個人的な印象としては、紹介したいサービスが少ない。ユーザー側もITに不慣れなことも多く、自分から見つけるというところまで行っていない印象です。まずは、既に今あるサービス・事業者から、明らかに必要なものを選んでもらう、そのうえで、連携して街づくりをする、仲間を増やす、というのをやりたいと思っています。より良いサービスをしているところが選ばれるという状況にしていきたいですね。
最後に、私が結構重視しているのがレイエキスパートという考え方です。いわゆるエキスパートではなく、素人専門家という、例えば何かの病気にかかったことがあって、その治療方法はわからないけれど、痛みの和らげ方など、当事者として生活の知恵を持っている方々。このような人たちの知見やケースが集まってくれば活用できるものもあるのではと思っています。介護事業者と家族会、ケアマネ、地域の高齢者のコミュニティ、商店街…、色々なコミュニティ同士がつながり、情報を共有・連携していけるとよいと思っています。
福祉ビックデータを作り、全ての人が良い選択をできる社会へ。
株式会社ウェルモ 鹿野氏の取り組み
現在の介護を取り巻く環境は、その膨大な情報量のために軸となるケアマネをはじめ、介護事業所、行政間でのスムーズな情報伝達が困難になっています。そのため、何より利用者にとって最適な介護見つけることが難しい現状があります。そこで私たちウェルモは、介護の情報を見える化し、それぞれの立場で必要な情報を効率よく得ることで、利用者にピッタリな介護サービスを利用できることができるサービス「ミルモ」の運営を始めました。
□サービス概要
ミルモプラス:介護サービス事業者向けのBtoB情報をつなげる情報サイト
ミルモタブレット:タブレット端末を利用したケアマネ向けの介護事業所検索サービス
ミルモプロ:介護事業者向け経営管理・営業支援ツール
(事業所の情報を必要なタイミングで編集して、周囲のケアマネのタブレットに発信)
「ミルモ」が可能にすることは、介護情報の見える化だけではなく、すべての介護に関わる人々のつながりを深め、情報の共有を活性化させることで、利用者にピッタリな介護を実現するプラットフォームとしての役割を担います。私たちは、福祉ビッグデータを蓄積し、活用することによって、オープンで持続可能な介護の実現を目指しています。
そして、弊社のビジョンとして掲げているのが、「福祉分野の情報活用を次世代の水準へ」という文言です。今はなかなかアナログ・紙中心の文化が多いので、情報活用をIT化していくことによって、現場が楽になるのではないかなという思いがあります。
もう一つは、「利用者本位の実現」ということです。これは介護保険法のなかでも1番初めにうたわれているのですが、利用者本位でサービスの選択ができているかというと、現実的になかなか難しいと思います。そこで、ITの力で人間の頭の限界を超えるような仕組みをうまく使っていこうとしています。
次は、軽く私の自己紹介も兼ねて、なぜこのようなサービスをやるに至ったかというところをお話できればと思います。
元々は、IT企業で人事部向けのシステムをずっと担当しており、人事部門の業務をシステム化して効率化するという仕事をやっていました。
「人」「労働問題」「組織」といったものに、ずっと興味があったので、そういう人事部門の課題やニーズを、ITを使って効率化できたら、という思いでやっていました。
その後は、従業員数1万5千人くらいの会社の人事部に転職し、人事戦略の策定や、給与の規定変更などをしていました。
そうやって、人の問題についてずっとフォーカスしていたところ、介護において労働問題の大変な話題やニュースが多いことに気が付きました。離職率の高さや、現場が大変そうだという話を聞いて、「これは何とかならないのか」というのをずっと思っていました。
そのとき、あるケアマネのお話を伺う機会があったのですが、びっくりするくらいITとはかけ離れていることを知りました。付箋がメインで使われているとか、「20~30年くらいズレているぞ」と現場で思いました。
そこで、介護現場をITの力でサポートできないかと、会社を辞めて、まず現場に入って勉強しようと思い、介護施設でボランティアをしたり、引っ越しの手伝いをしたりしながら、色々な現場を見させてもらいました。そんな中で、ご縁のあった福岡市から「ウチでやってみる?」と話をいただいて、福岡で会社を始めました。
私が一番したいことは、介護サービスの選択肢を広げること。
ご本人の心身や疾病・障害の状況だけでなく、家族構成や状況・サービスを使う際の予算等、様々なことを鑑みた上で、その人にとってベストな事業所を組み合わせるというのは、すごく難しいことだと思っています。この選択ができないことには、本人のQOL向上にはつながらず、最期の生活がなかなか良くならないと思います。
実際に福岡市内で介護事業所は約2100、東京都内だと1万1千を超えてきます。
この数は、人間の頭で覚える限界を越えています。私自身もこの3年間で介護事業所を450ヶ所くらい見てきましたが、450ヶ所見てもベストな選択を自分もできないなと感じています。色々な可能性が眠っている介護事業所や、様々な取り組みをされている面白い介護事業所がいっぱいあるので、一人ひとりのニーズに合った、よい事業所に出会ってほしいなということで、これを見つけられるようなシステムを目指しています。
介護市場の拡大スピードはとても速く、 予算的にも2013年から2025年にかけて11.6兆円も増えています。そのうち約10兆円近くが介護事業所にまわっています。今や介護事業所は他の産業と比べても増加率ナンバー1、事業所数がずっと増えている状況です。
そうなると競合他社も増え、営業活動が活発になります。でも、営業力だけで選べる事業所が決まるというのはおかしいな、とも思っていて、利用者目線でサービスを選べるような世界に変えたいと考えています。そこで、中長期的に利用者数が増加していくこの業界に対して、公平なデータを提供することを目指しています。
今は、事業所の情報整理に取り組んでいます。
お金のある事業所だと、カメラマンやデザイナーを使って、情報を出されていますが、小さな事業所だと、なかなか情報を出せていない。そうなると、結局比較が難しくなってしまうので、同一基準・同一機材による撮影・取材をして、同じ条件で比較ができるようにしています。
情報を受け取り、選択するケアマネ側も、情報の整理はまだ不十分なことも多くて、ケアマネの事業所にいくと、たまに凄まじい量のチラシが挟まっていて、古いものと新しいものもごっちゃ…という環境もありました。これですと、なかなか必要な情報にアクセスすることも難しいと思います。
情報を整理し、ITでアクセスしやすい環境を整えることで、事業所選択の際に、みんながモヤっとしながら決めることを減らしたい。利用者のニーズをくみ取りながら、ケアマネが最適なサービスを選択でき、利用者さんや家族も納得できる。そんな形を目指したいと考えています。
行政サービスについても、介護サービス情報の整理・見える化でサポートしていきたいと考えています。前述のとおり、介護事業者もケアマネも増え、行政側から見ると、情報が多すぎて集約しきれないという現状があります。そこで、私たちは ケアマネ、サービス利用者、高齢者住宅の仲介事業者等から、欲しい情報をヒアリングし、それぞれの欲しい情報をまとめて、オールインワンのデータベース化をしています。
例えば、デイサービスで言うと140分類×小項目で、1000項目近くの情報を集めていて、現在の空き状況や、提供する食事が施設調理なのかといったことから、夜間のおむつ交換は有料化、ウォーターベッドがあるか、温泉があるか…など、マニアックな情報も一個一個集めています。
当社のシステムでは、厚労省が用意してくださっている住所や事業所番号といった基盤の事業所データをオープンデータとして活用しています。この正確な情報に、うちのマニアックな細かい情報を足すことによって、公平性を担保しながら一番市民にとって価値のある情報にして、行政と連携したいと思っています。
「どこによい事業所があるかわからない」という事は色々な人にとって、不幸せだなと思っています。ご本人にとっても、1番ぴったりの場所、もしかしたら最後の棲家を選べたかもしれない。特に認知症の方であれば、環境によって落ち着かれ方が違うので、ケアする方にとってもやりやすいと思います。あとは、事業所で働く人のモチベーションにも影響すると思います。ちょっとした気持ちでやっているところと、人生かけてやっている事業所とではやはり全然違うので、頑張っている事業所にスポットライトを当ててちゃんと評価される仕組みを作る。そうすると働いている方もやる気が出ると思います。
介護サービスの事業所情報を整理し、一元化をさせていくことで、福祉ビックデータを産み出すということが、よいサービスを利用者が自ら選べ、頑張っているケアマネ・介護事業者・介護士の人たちにとってもよい世界になるんじゃないかなと夢見て頑張っています。
松瀬氏×鹿野氏対談
お二人の活動の背景や、これからの介護業界でのIT・テクノロジーの活用について、対談ベースでお話を伺いました。
※進行:秋本可愛(HEISEI KAIGO LEADERS)
なぜ、いま介護領域でプラットフォームが重要なのか?
秋本:お二人は現在の介護業界の課題の解決法として、なぜ社会情報プラットフォームに着目されたのでしょうか?
鹿野:プラットフォームを選んだ理由は、先ほどお伝えしたように、介護事業所の情報が多すぎ、整理されていないことです。また、情報量が多いだけでなく介護保険内のサービス、保険外のサービス、介護事業者以外…と情報の保持者が多いことです。プラットフォームとは、いろんな人が参加して、みんなが情報を入力し、みんなで作っていくことだと思っているのですが、膨大な情報量・保持者がいるからこそ、その形で進めた方が、誰かが集めるより早いのではないかと思いました。
僕はもともと、食べログのようなサービスが大好きでして、様々なユーザーが提供する口コミ情報を見るのが好きなんですが、それを介護でやりたいな、と。
松瀬:「なぜプラットフォーム?」という質問への答えは、端的には自分が使いたいからです。自分の祖母が介護を必要とするようになった時に情報がなかったというのがきっかけですね。
今介護の領域でITというと、ロボットとかセンサーの領域が多いですが、今後のことを考えるとプラットフォームって絶対必要だなと思っています。
今後、要介護者は増えていく一方で、財政難から介護保険を切り詰められてくるという話題が出ている中で、医療や介護やその他の地域資源が連携できておらず、バラバラだったりすると、もはやどうにもならないかなと思っています。プラットフォームを通して、地域の情報が整理され、連携していくことで、新たな地域サービスが生まれていく。いわば、地域資源を作る材料としてプラットフォームをやっていくというつもりでサービスを進めていかないといけないと考えています。
IT・テクノロジー×介護の可能性
お二人は介護現場のニーズに、使う人に寄り添いながら新たな仕組みを作っている真っ最中だと思います。その中で、ITやテクノロジーでどういう動きに期待し、注目していらっしゃるのかをお聞かせ頂けますか。
私はAI(人工知能)に注目していて、AIが介護サービスの選び方を大きく変えるのではないかと期待しています。例えば、身近な場所でもAIが使われています。通販サイトで自分の好きなものを何種類か選んでいくと、ふいにサイト上に自分の好きそうな商品が段々表示されてくるようになりますよね。これは実は裏側でAIが活躍しています。画像解析をした上で、商品の絞り込みをして、その商品に近そうなものを2個目から近づけていくっていうのを、実は画像からは言語化しにくい空気感や雰囲気、趣味みたいなものを当てていくところを行っているのです。
私たちは今、通販サイトと同じような形で、自分の好きな雰囲気の事業所やサービスをAIがレコメンドしてくれるようなサービスを作ろうと考えています。老人ホームとかデイサービスとか、毎日行くようなところは、自分が今まで住み慣れた環境と近い方が良いと思っています。例えば和風の雰囲気がある場所がよいとか、海外旅行が好きだから洋風なヨーロピアンのような所がよいとか、自分の好きな雰囲気の写真を選んでいくと、だんだんそれに近しい事業所が表示されてくるというイメージです。
現在の紹介システムでは、ケアマネの頭の中(記憶)にある事業所から選ぶしかなく、結果として旧知の知っているところや営業力の強いところを毎回紹介するということになってしまうのですが、こういう技術ができれば、人間の記憶の限界を超えられるかなと思っています。
①データベースで情報を集める、②AIが選ぶ、という2つの組み合わせができたらいいなという感じですね。そのためにまずは事業者のデータを一生懸命集めています。
元々コンピューターは、一定のロジックに基づいて判断をすることも得意ですので、囲碁や将棋のようにロジックがある程度明確かつ限定されている分野では、AIがトッププロに勝利するくらい強くなってきています。
更に、まだ研究中の技術ではありますが、AIが情報やデータを駆使して、「この人には、この問題には、こんなものが必要だと思う。」と自律的に学習し、分析・判断ができるようになると言われています。このようなAIが生まれてくると、介護現場が現在抱えている課題解決のヒントもAIが導き出してくれるかもしれません。人間の脳内では処理しきれない部分や、IT・AIが得意な部分で力を借りることで、色々な可能性があると思います。
「AIが発達すると仕事がなくなってしまうんじゃないか」とよくいわれていますが、実は脅威には全然ならないようなレベルなので心配はないと思います。世界での認識としては、現在の業務が楽になる、サポートとして使える、という認識ですので、怖がらずに、まずは現場で使ってみるというのがいいんじゃないかと思います。介護の現場でAIがどう使えるかと色々発想してみると、いろんなアイディアが出るんじゃないかなと思います。自由な発想が現場から生まれて、IT企業とコラボすると結構面白いものができると思います。私はこの距離が縮まると嬉しいなという風に思って仕事をしています。
私は、「IoT(Internet of Things )」に興味があります。
代表的にはセンサーを使うものですね。例えば、喘息患者が多いことが課題のアメリカ・ケンタッキー州では、喘息の吸入器にセンサーを取り付け、吸入器がどこで使われたというデータを収集することで、原因の特定を目指しています。
これが家庭に入ってくると、例えば、冷蔵庫で、いつも入っているレタスが無いとセンサーで感知して「レタスが無いよ」とお知らせがあって、そのままECサイトで注文できるとか、パソコンが苦手かどうかとは関係なく、ITが身近に入ってくる形になります。
実際に、そういった技術は進んでいます。TOTOとかもトイレで排泄した時の臭いを基に、健康に異常があるかどうかをアラートでお知らせするという機能があったりします。このようなIoT技術がどんどんと進んで、身近になっていけば、ITを「使いこなせるor使えない」ということに関係なく、誰でもその人にとって最適なものやサービスが届くという世界ができていくんじゃないかと思います。そのあたりが1番注目しているところです。
他にも、私たちの身近にも既に様々な形でデジタル技術は増えてきています。CDや本が売れなくなったという話もありますが、音楽や書籍も電子データ化され使用されていますね。
身近な介護現場でのアイディアとしても、色々と考えられると思います。プロジェクションマッピングみたいに、その方が昔住んでいた家や街の風景を映し出すことによって、認知症の症状が少し治まる、とか。あるいは、微弱な電気信号を車いすに座っている人の体に通すことによって、体幹がずれているかどうか把握して、リハビリに反映するであったりとか。疾病の症状の進行をデータとして収集し、分析するとか…。
ITテクノロジーを使うことで、色々な可能性があるという風に私は思っています。私達としても、いろんなことを考えて、いろんなアイディアを頂きたいなと考えているので、介護現場の皆さんにもいろんな検討をして頂けたらなと思っております。
お二人のお話を受けての対話でも、様々なアイディアや交流が生まれていました。
「IT・テクノロジー×当事者の声・思い」が介護現場を進化させる
それでは最後に介護業界のIT化のために一介護職としてできることと、介護職ではない私たちにできることはありますか?
ITはツールなんです。手段であって、電話やFAXと変わらないと思います。なので、「ITで何をするか」ということを考えるよりも、「こういうことをしたいんだ」とか「こういうことを変えていきたいんだ」という現場でのニーズや課題をみなさんも考えてほしいなと思っています。みなさんがどんなことに困っていて、どんなことを必要としているか、そこが分かれば、「ITをこう使えるんじゃないか?」というアイディアを一緒に考えることができると思います。
まだ ITと介護現場の距離が遠いと思っているので、まずは単純に知ってほしいなあと思っています。現場の方とディスカッションしていると、「こんなことってできるかわからないけど、言ってみていいですか」ということを色んな方が言ってくださいます。でも、その中では意外と既にできるようになっていますよ、というものも多いです。
アイディアさえ出してもらえれば、現在の技術で実現できることも多いので、色々とITに近い人と積極的にディスカッションしていただきたいなと思っています。「こんなことできるんだ!」って発見と可能性を広げてもらいたいなと思います。
そしてその感覚をなんとなくでいいので、例えば「LINEの技術って実はこんなところに転用できるんじゃないか」とか、もやもや妄想していただきたい。私自身が、現場でそういうアイディア・妄想を走り回りながら形にしていったからです。初めは一人でやっていたのですが、できることがとても限られていました。そして、みんなで考えながら、それぞれの視点だったり思いだったりを混ぜながら作ったら、本当にいいものができました。結局現場ありきなんです。
当社は、色々な人たちとオープンに提携して進めているので、何か思いついたことがあれば、ぜひ言っていただいて、これからもみんなで作れたらと思っています。
地域の中にある膨大な情報を見える化し、必要な人ところにわかりやすい形で届ける。
松瀬・鹿野両氏の挑戦は、高齢者やそれを支える家族、介護や医療サービス提供者、行政担当者に留まらず、地域の方々の暮らしをより良くよくし、持続可能な高齢化社会をつくっていく一つの鍵になるのではないかと感じました。
情報のプラットフォーム化のみならず、日進月歩で進化するテクノロジーの力が、介護現場や高齢者の暮らしをより良くよくしていく可能性は大いにあると思います。それを加速させていくためにも、私たち一人ひとりが「テクノロジーを私たちの暮らしに、仕事にどう活生かすか?」といった視点を持ち、業界や立場を超えて対話し、共に考えていく必要がある。そんな思いが産まれたPRESENTとなりました。
※株式会社カカクコムの「たすケア」は2017年5月にサービス終了となり、「たすケア」の地域ケアの情報サービスは、株式会社ウェルモに事業譲渡されております。
ゲストプロフィール
>
鹿野 佑介 Yusuke Kano
株式会社ウェルモ 代表取締役CEO
1984年生まれ、大阪府豊中市出身。
立命館APU卒業後、東京にて大企業向けの人事基幹システムを扱う会社でITコンサルタントとして勤務したのち、日本の将来や介護分野の労働問題に問題意識を持ち、介護事業所にてボランティアやインタビューを各地で8か月間行う。2013年、利用者にぴったりな介護福祉サービスを選べる世界を目指し、地域資源プラットフォーム開発、運営を行うウェルモを設立。福祉分野における自治体モデル事業の新規事業開発支援、社会福祉協議会研修講師などを務める。
松瀬 啓祐 Keisuke Matsuse
株式会社カカクコム 新規事業準備室 たすケア マネージャー
元・在宅介護家族。製薬企業向けマーケティング支援会社を経て、介護事業会社でケアマネ向けウェブポータルサイトの運営責任者に従事。2015年10月、高齢者ケア情報ポータル「たすケア」ベータ版をリリース。
※プロフィールは、イベント開催時の情報となります。
開催概要
日時:2016年7月30日(土)
会場:株式会社ディスコ オフィス神楽坂Human Capital Studio
PRESENTについて
2025年に向け、私たちは何を学び、どんな力を身につけ、どんな姿で迎えたいか。そんな問いから生まれた”欲張りな学びの場”「PRESENT」。
「live in the present(今を生きる)」という私たちの意志のもと、私たちが私たちなりに日本の未来を考え、学びたいテーマをもとに素敵な講師をお招きし、一緒に考え対話し繋がるご褒美(プレゼント)のような学びの場です。
写真撮影
近藤 浩紀/Hiroki Kondo
HIROKI KONDO PHOTOGRAPHY