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インタビュー

まちのリビング?無人駅×カフェ? 職員、地域住民やいろんな人の悩みを解消し、得意をいかしあう場づくり(社会福祉法人ながよ光彩会)

 

地域住民の「こんな場があったらいいな!」
働く職員の「こんな働き方をしてみたい!」
といった想いを形にした、社会福祉法人ながよ光彩会の2つの取り組みを紹介します。

ながよ光彩会は、長崎県長与町を中心に高齢者介護、障害者福祉や公益事業などを展開しています。

1つめに紹介する取り組みは、「まちのリビング」をコンセプトとした、みんなのまなびば み館
2つめの取り組みは、無人駅となったJR長与駅構内につくられた、カフェ・ショップスペース機能を備えたGOOOOOOOD STATION(グッドステーション)です。

ながよ光彩会のGOOOOOOOD STATIONの取り組みは、地域再生大賞の準大賞を受賞しました。

それぞれの取り組みがスタートするまでの過程、取り組みに込められた想いを、ながよ光彩会の理事長の貞松徹さんにお伺いしました。

誰もが先生になれる、みんなのまなびば み館

長崎県西彼杵郡長与町(にしそのぎぐんながよちょう)の中心に、「グループホーム ながよ」があります。その建物の一階部分をリノベーションし、「みんなのまなびば み館」(以下、み館)として、2020年7月から地域の方々に開いています。

周りに小学校、児童館、公民館や役場があり日常的に、さまざまな年代の人たちが行き交っています。そんな、子どもから高齢者、誰もが先生にもなれて、生徒にもなれる“まなびば”です。

Qみ館の運営をはじめた経緯を教えてください 

貞松さん:ながよ光彩会がどのような公益事業に取り組むべきかを考える際に、「他の社会福祉法人はどんな活動をしているんだろう?」と調べました。多くは、経済的に困窮している家庭に対しての無料相談や安価で使える施設を運営したり、祭りを開催していました。既に地域にあることは、うちの法人がやる必要はない。
「だったら何ができるか?」を考えました。
そして、「ながよ光彩会が持ってい福祉の知恵や知識を地域住民に“おすそわけ”していきたい」という考えに至ったんです。

Qみ館では、どのような人が先生になるのでしょうか?

貞松さん:まず、法人で勤める介護職員に先生になってもらいました。最初は、職員に「どんなことをやりたい?」って聞いても、何にも意見があがってこなかった。そこで、「介護じゃなかったら何をしてる?」という問いに変えたら、どんどん意見が出るようになったんです。介護とは別の夢を叶えることができるのなら、その職員は辞めなくて済む可能性があります。職員の副業も認めています。
例えば、バーバリウム、糸掛かけ曼荼羅、コーヒー焙煎やラッピングなどの教室が展開されました。
「私は何もできない」って言う人が多いけど、絶対できることがあるから。
一生懸命、それを見つける、見出す、拾い上げることを続けています。
また、介護職員が先生になることで、それが福祉の入り口になるんです。「このお姉さんのようになりたい」という福祉の入り口があると思います。このようにして、未来の福祉人材を獲得していきたいです。

介護職員が先生のバーバリウム教室 の様子

貞松さん:ある職員は、「私はできないけど、息子ならできる」と、お子さんを先生にして、『魚の3枚おろしきょうしつ』を実現させました。その子は魚マニアで、「こざかなクン」の愛称で親しまれています。高齢者施設の入居者の前で、魚の解体ショーをしてくれたこともあるんですよ。

かつて華道の先生をされていた入居者様による生け花教室も開催しています。

Qみ館の利用料はいくらですか?

貞松さん:み館の空間利用料は無料です。介護職員が先生になることで、人材確保につながると考えています。ながよ光彩会には、採用担当の職員がいません。介護職員がもう1つの夢を叶える機会をつくることで、離職率の低下にも結びついています。採用担当職員の人件費や求人広告にかける費用をみ館の運営費にまわすという考え方です。
また、掃除等のお手伝いをして、そのお手伝いポイントが貯まった方にはお菓子を提供しています。お菓子は、実はパチンコ屋から提供されたものです。
パチンコ屋の余り玉はお菓子と交換できますが、それを持って帰ると、例えば奥さんからバレてしまうので持って帰れない、なんてことがあるんですよ。そんな方のためにパチンコ屋がお菓子回収BOXを設置しています。そのBOXには毎日大量のお菓子が入っているそうで、パチンコ屋もそのお菓子をどうするかに困っている状況です。み館は、そんなパチンコ屋と提携して、お菓子を譲り受け、活用しています。

Qみ館を運営するにあたって、課題はありますか?

貞松さん:メディアに取り上げてもらったことで、人が来すぎて、一人ひとりに丁寧に向き合うことが難しくなったり、うちの職員の仕事が捗らないことです。

Q“まちのリビング”とはどのようなイメージですか?

貞松さん:家庭のリビングでは、食事をしながら、親子で会話して、子どもの学校の困りごととか、部活のこととか聞くじゃないですか。そのリビングの機能をみ館は備えています。みんなで何かをしながら何気ない会話に出てくる困りごとを集めていきます。
まちの声を聞かないまま事業を組み立てしまうと、独りよがりになってしまいます。
会話のなかで頻繁に出てくる話だったら、ニーズはあり、まちに足りないサービスだとわかります。
こんな会話によるリサーチからスタートしたのが、
次に紹介するGOOOOOOOD STATION(グッドステーション)の取り組みです。

無人駅を賑わせたGOOOOOOOD STATION

2023年9月1日、ながよ光彩会はJR九州・長与町と協働し、午後12時より無人の時間規制駅となるJR長与駅構内のコミュニティホールにカフェ&ショップ機能などを持つGOOOOOOOD STATION(グッドステーション)を開設しました。JR長与駅における改集札、清掃、乗降介助の業務委託を担っています。カフェでは自家焙煎のコーヒーを販売・提供するほか、地域の製材所などで生まれた端材を活用したプロダクトの販売、コミュニティホールではイベントを開催し、地域の賑わいづくりに取り組んでいます。

Q どのようなまちの声を聞いて、GOOOOOOOD STATIONを始めようと思ったのでしょうか?

貞松さん:み館に集まるまちの人たちは、長与駅が一部の時間無人駅になった時、「電光掲示板が消えてしまい、電車を乗り間違えてしまった」等の困りごとを話していました。その他、駅員がいないことでの不便さに関する声が集まっていました。
また、改札を出たところに長与町が管理している広い空間があり、以前は地域の方の展示会等が催されていましたが、コロナの影響で全く活用されなくなりました。無人駅の課題を解決するためには、この広い空間を使ってビジネスをしながら駅員の仕事も任せてもらえないかな と考えたんです。 

Q まず、どのようなアクションをされましたか?

貞松さん:JR九州が、駅を有効活用し、地域の賑わい創りをすすめる「九州 DREAM STATION」という取り組みをしています。その取り組みを共におこなう、“にぎわいパートナー”の公募をおこなっていました。もともと、完全に駅員がいない無人駅を対象にしていました。午後12時より無人の時間規制駅となるJR長与駅でも応募ができるのかをJR九州に出向き確認し、また、プレゼンもおこなったんです。担当の方に、「面白い」と仰っていただき、その後、“にぎわいパートナー”に認定されました。
次に、長与駅改札前の広い空間を活用したいという内容のプレゼンを長与町にプレゼンしました。JR九州の担当の方も同席してくださったので、スムーズに話が進みました。

Q なぜ、GOOOOOOOD STATIONという名前なんでしょうか?7つのOにはどのような想いが込められているのでしょう?

貞松さん:そのような質問が、コミュニケーションのきっかけとなるように「問のデザイン」を意識しました。後々のプロダクトデザイン展開を考えると列車の形に見えなくもないかな、と。
皆さんが、考える理由、どれもが正解です。
個人的には、「個性の集合体」だと捉えています。職員、入居者、就労支援に通うメンバー、まちの人々……Oがずっと繋がって、大きくなって、広がって、長くなっていくイメージです。みんなの力をいかしてGOOOOOOODな社会を育てていきたいです。GOOOOOOOD STATIONを訪ねて、うちの職員にも同じ質問をしてみてください。どんな応えが返ってくるのか、私自身も知りたいです。 

Q GOOOOOOOD STATIONはどんな機能がありますか?

貞松さん:主な機能は、駅員業務とカフェの営業です。そのカフェを就労支援というスキームを使って運営しています。長与駅は、1日1,500人が利用していて、こちらから一生懸命売りに行かなくても会いにきてくれる。
そして、知らず知らずのうちに福祉の入り口にきてくれます。
ショップでは、就労支援の制作物や、エンガードという、離水しないという特性から誤嚥を予防しているバランス株式会社が作っているゼリーを販売していたり……自然に福祉とかかわるような導線をデザインしています。

Q GOOOOOOOD STATIONができたことで、どんな変化が起こりましたか?

貞松さん:変化の1つめは、社会福祉法人が駅を運営するという新しさが注目され、メディアが訪れるようになり、電光掲示板が復活しました。それは、大きな変化ですね。
2つめは、2024年3月16日よりJR長与駅に「ふたつ星4047」という観光列車が特別停車することになったことです。

長与町は観光地があるわけでもないのに、賑わいをみせてるので、JR九州が停車してくれる決断をしてくれた。停車している13分間はどんどん物が売れるんですよ。

コロナ禍に、JR九州がみどりの窓口で活用していた飛沫防止のアクリルパネルを回収させてもらって、それをカットしたものに、UVプリンターでうちの職員が描いたイラストを印刷し、チェーンをつけた「ふたつ星アップサイクルキーホルダー」も、とても売れています。
将来的には、「長与町の就労支援の平均工賃はどうしてこんなに高いの?」と言われる未来を作り出したいですね。

まちの人々の声に耳を傾け、さまざまな人の得意なことをいかして、多くの悩みを解決するワクワクする取り組みですね。そして、自然と福祉に触れられるたくさんの仕掛けが散りばめられています。

今後の取り組みにも注目ですね!

プロフィール

社会福祉法人ながよ光彩会理事長
貞松 徹 (さだまつ とおる)さん

沖縄で理学療法士として勤務後、地元・長崎県にUターン。2014年に社会福祉法人ながよ光彩会の設立に携わり理事に就任。「みんなのまなびば み館」や、公共交通×福祉のプロジェクト「GOOOOOOOD STATION」の開設を行うなど、長崎県における福祉の”拠り所”としての活動を展開している。2022年4月にながよ光彩会の理事長に就任。NPO法人Ubdobeの理事も務めている。

この記事を書いた人

森近 恵梨子

森近 恵梨子Eriko Morichika

株式会社Blanketライター/プロジェクトマネージャー/社会福祉士/介護福祉士/介護支援専門員

介護深堀り工事現場監督(自称)。正真正銘の介護オタク。温泉が湧き出るまで、介護を深く掘り続けます。
フリーランス 介護職員&ライター&講師。