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イベントレポート

大反発からスタートした変革!組織の状態に合わせて変化するリーダーシップのあり方(介護リーダーの仕事術#01イベントレポート)

介護リーダーイベント

あなたはリーダーになりたいですか?

対談

介護職に対するリーダーに関する意識調査では、チームリーダー等の役職に「就きたい」と回答した方は32%に留まり、「就きたくない」は38%、「わからない」は29.9%でした。

「もっといいケアがしたい」
そう思った時にリーダーになり、権限を持って現場をリードするのは1つの手段。
しかし、リーダーになる自信がなかったり、大変そうな印象が強かったりと、リーダーになることに前向きになれない人も多いです。

新たにはじまった「介護リーダーの仕事術」では、介護現場で活躍するリーダーなどをお招きし、介護リーダーの仕事に触れていきます。

2022年9月2日(金)に開催された第1回のゲストは、総合ケアセンター駒場苑 施設長の坂野悠己さん。

坂野さんは、最期まで気持ち良く主体的でその人らしい生活を支えるための環境作りとして、おむつゼロ、機械浴ゼロ、拘束ゼロなどの『7つのゼロ』を掲げ、日々現場の改革に取り組まれています。そんな坂野さんより、介護リーダーとしての仕事術や明日から実践できるリーダーのあり方について教えていただきました。

イベントは、KAIGO LEADERS発起人の秋本可愛との対談形式で実施しました。

駒場苑が掲げる『7つのゼロ』とは

「7つのゼロ」
「7つのゼロ」

秋本可愛

今回坂野さんをゲストにお呼びしたのは、坂野さんのTwitterをフォローさせてもらっていて、介護現場のお話、リーダーのあり方等の日々の発信がとても勉強になると思ったからです。施設長を務められている駒場苑の取り組みはとても注目されていますね。

ありがとうございます。駒場苑では、特別養護老人ホーム、ショートステイ、デイサービス、グループホーム、訪問介護、居宅介護支援事業所 6つの事業を統括して経営しています。
注目されているのは『7つのゼロ』です。その7つとは、寝かせきり、オムツ、機械浴、脱水、誤嚥性肺炎、拘束、下剤ゼロです。この7つの項目は、利用者さんにとって基本的に不快な要素しかないので、それをできるだけ少なくしていく取り組みができればと考えています。
結構勘違いされるんですけど、無理矢理ゼロにしているわけでも無いんです。『7つのゼロ』は、あくまで方向性であり、チェックツールです。これがあることで、「この方はオムツを使用して良いのか、トイレに行けるんじゃないのか」「機械浴じゃなくて、普通のお風呂に入れるんじゃないか」等を定期的に考える仕組みづくりをしていきたいと思いました。

秋本可愛

オムツゼロとか、私は無理そうなんですが……

そうですよね。正確にはオムツ自体を否定しているわけではなく、その方にとってオムツがベストであれば、もちろんオムツを使うことは駒場苑でもあります。ただ、やっぱりオムツってしていて良いものではないですよね。利用者さんは、「オムツの中に排泄して、若い人に交換してもらうようになるんだったら、死んだ方が良いわ」と言われたりします。そのくらいオムツをすることは、本人にとってはかなり精神的なダメージが大きかったり、ネガティブになっていく要素だったりするんですよね。
だからこそ、適切なトイレ誘導とか、パッド交換をしたり、アウターは綿パンツでパッドだけ使用していただくことを通してオムツゼロを目指しています。

秋本可愛

そういう方法もあるんですね。

オムツ交換する度にアウターのオムツとかリハビリパンツまでびっしょり濡れている人ってあんまりいない。パッドだけ交換することが多いですよね。それは、パッドだけで済んでいるということです。実は、アウターは綿パンツでも良かったりする人って結構いるんですよね。

秋本可愛

確かに。

結果的に、現在55名の利用者さんが入所されているんですけど、テープ式オムツを使用しているのは2人しかいなくて、綿パンツにパッドだけ使用している方が残りの7割。あとの2、3割の方はリハビリパンツとパッドを使用されています。
「適切なトイレ誘導とパッド交換によってアウターが濡れていないんだったら、アウターは綿パンツで良い」という発想があれば、綿パンツを使用される方は意外と増えると思います。介助はされているけど、オムツは使用していないということは、本人にとってはすごく自尊心を守れるもので、「ここに行きたい」「これをしたい」とかポジティブな発言が増えてきたりすることにつながるのですごく良かったなと思っています。それだけでもやる価値はあるんじゃないかと。

変革を求められ入職し、大反発!

秋本可愛

『7つのゼロ』を掲げて実践され、今結果が出ているのは本当にすごいことだと思いますが、坂野さんの入職当時、駒場苑はそのような良い実践をしている施設ではなかったとお聞きしました。

最初はヤバい施設でしたね。私が入ってきた時は、オムツは当たり前ですし、スピード重視の食事介助でお風呂も機械浴しかありませんでした。「仕事が早い人が良い介護職」という文化が根付いていましたし、拘束も普通におこなわれていました。職員がイライラして殴った穴が壁に空いていたことも。この状態はヤバいということに当時の施設長は気付いていたんですね。それで、今の『7つのゼロ』のような取り組みをスタートさせていました。例えば、「できるだけトイレで排泄できるように」とか「機械浴ではなく普通に入浴できるようにお風呂の改修をしよう」とかを掲げていたそうです。それに対して、現場は大反発になっちゃったんです。「現場を知らない施設長が何言ってるんだ、業務も増えるし」といった意見が出ました。
当時、私は横浜の特別養護老人ホームで働いていて、そこで『7つのゼロ』のような改革をしていて、講演活動で呼ばれていました。その後の懇親会でたまたま駒場苑の職員さんが来ていて、私がやっているような取り組みを施設長はやりたいのに揉めているという相談を受け、「じゃあ行きますよ」と言って転職することになりました。横浜の施設は落ち着いていたので。

秋本可愛

なるほど。でも、そこからどうやって変えていったのかが気になります。

面接の時に、流石に何か権限がないと組織を動かせないので、「ある程度のポジションでやらせてください」ってお願いしました。結果として、介護職としてのトップの主任という立場でスタートしました。最初は元々働いていた方のネガティブキャンペーンがありました。「性格がすごく悪くて、気に食わない奴を嫌がらせして、どんどん辞めさせていくらしい」といった噂を流され、初日から、挨拶しても大半の人が挨拶を返してくれなかったんです。3日目には、個人のレターケースに、新聞の切り抜きでつくられた「やめろ」という文字が書かれた紙が入っていました。それを見た時に初めて嫌われていることに気付いたんです。でも、結構私はドMなところがあるので……

秋本可愛

その施設に入っていこうとする時点でドMですよね。

そうですね。そういう刺激を求める自分がいたんでしょうね。この状態から変えられたらすごいなと思って、逆に燃えた感はあります。

まずは、仲間探しから

秋本可愛

そんななかでリーダーをやっていくのは本当にすごいと思います。まずは具体的に何から始めたんですか?

とにかく、どこに仲間がいるのかを探しました。21名の介護職がいたんですが、そのなかでも挨拶を返してくれる人のなかで共感者を探ると、3名だけいました。その3名と飲みに行って、内部事情、勢力図や派閥について情報収集し、実際どういう風にアプローチしていこうかを考えはじめたのがきっかけなんです。

仲間探し

秋本可愛

仲間を探してもまだ3人だったわけですよね。そこからはどうされたんですか?

施設長に、人事を動かすことを提案しました。特養に3フロアあったので、仲間になった3人にそれぞれのリーダーになってもらいました。施設でやろうとしていることに対して、「やりたくない」と言う人にリーダーを任せるわけにはいかないですからね。

他の職員も巻き込むための委員会活動

秋本可愛

その後はどう動かれたのでしょうか。

そこからは、他の人も巻き込み、施設長が掲げるビジョンを実行に移すために食事委員会、排泄委員会、入浴委員会という3つの委員会をつくりました。例えば排泄委員会だったら、月に1人だけ「オムツじゃなくても大丈夫なんじゃないかなと思える人」をピックアップしてもらいました。その次はトイレ誘導です。食後のトイレ誘導だけでも、チャレンジしてみて、実際どうだったのか、喜んでもらえたのか、喜んでもらえなかったのか、排泄したのか等をモニタリングし、オムツを減らしていく活動をしました。

入浴委員会は、そもそも機械浴しかなかったので、そもそも改修にむけて、どういうお風呂がいいのかのプランを立てたり、実際改修した後に入浴介助がスムーズにできるように介護技術演習を企画しました。

改修した入浴の現場
改修した入浴の現場

食事委員会は、好きな食べ物や飲み物を尊重できるようにとか、スピード重視の食事介助を減らすには、どうしたらいいかとかを考えたんです。

各フロアから各委員会への参加者を1名ずつ出してもらいました。できるだけ共感してくれそうな人を選んで進めた感じですね。「説得して、説得してもらってからはじめる」というよりは、「実際にやり始めて感じてもらえたら」と考えました。

まずは、やってみることで得られる納得感

秋本可愛

委員会によって現場に何か変化は起きましたか?

一番結果が出たのは排泄委員会だったんですよね。もともとオムツを使わなくても良い人までオムツを使っている状況だったので、トイレ誘導をしようと思えば割と簡単にできるんです。トイレに座ることで自然と尿意や便意がある際に言ってくれる人が出てきました。言ってくれれば、その時に連れていけば良いので、その人は失禁がなくなり、結果的に職員側の業務負担軽減にもつながりました。あとは、ベッド上での排便よりも、トイレに座った方が一気に出るのでその後出にくくなります。オムツに便が出て、それを交換する負担に比べたら、車いすからトイレに利用者さんを移乗する一手間と、あとはトイレの水を流すだけなので楽なんです。それに職員も気が付くようになりました。意識が高い職員は、利用者さんの状態が良くなったことで共感し、意識がちょっと低い職員も「こっちの方が楽だよね」ということで賛成する人が増えていきました

秋本可愛

なるほど。これは確かに実際にやってみるからこそ気付けることもすごくあるなって思いました。ありがとうございます。

職員の想いを聞き取ることで、巻き込む

秋本可愛

その後、『7つのゼロ』についてはどのように決めたのでしょうか。崇高なビジョンはあるけど、現場の目標は具体的には無いことが多いかと思いますが……

施設の目標は全然覚えてくれないので、脳裏に焼きつくような過激なものを考えました。それを考えたとき『◯◯ゼロ』が良いなと思ったんです。
具体的な内容を決めるために、職員に「自分が駒場苑に入った時にされたくないことを書いてください」というアンケートをとりました。その結果、今の7つが上位に挙がったんです。私自身もこの7つかなと考えていたのですが、職員の意見を聞くことで巻き込むこともできました。

秋本可愛

それは、どのようなタイミングで進めたのですか?

強引に進め、実践し、職員みんなが「あっ、この取り組み割と良いかも」って思い始めたところで進めました
組織は、段階があると思っています。ここはもうぐいぐいやんなきゃいけないっていう時期と、それが軌道に乗ったら、働いている職員の意見を聞きながら進めた方が良いなという時期がやってきます

わかりあえないなら仕組みをつくる

秋本可愛

実際にチームづくりをしていく際、わかってもらえず辞めていった方もいるのでしょうか?

実はあんまり辞めていないんですよ。

秋本可愛

すごいですね。

今でもわかりあえない人もいるんですけど、その人たちに向けては「仕組みをつくる」というのをやっています。共感しなくても、同じことをしてもらいます。例えば、食事介助をとにかく早く終わらせようという考えがある人に対して、ゆっくり介助してほしいと思った時に、スプーンの大きさは実はすごく大事です。大きなスプーンで大盛りで介助してしまうと、誤嚥性肺炎や窒息のリスクがあります。そこで、介助に使用するスプーンを小さいスプーンに統一することにしたんです。小スプーンに統一すると、そこまですくえないので、意識の高い職員の食事介助の一時量と似通ってくるのです。

小さいスプーンで食事介助
小さいスプーンに統一

秋本可愛

すごいですね。そういう感じで、標準化できるための仕組みを作っていくというのは、すごく面白いなと思います。一方で、スキルに紐づくところもあると思うのですが、駒場苑では、スキルアップの機会をつくっていますか?また、指導する上で意識していることはありますか?

そうですね。オムツから紙パンツとパッドへの変更や、機械浴から個浴へ変えるタイミングでは、介護技術を一新する必要があったので、介護技術研修は多くやりました。ある程度スキルが身に付いたら、実践していくなかで困難なケース等の個別ケースへの対応を考えていく研修に切り替えていったりと、その時の状態に合わせて研修の仕方を変えていきました。

組織の段階に合わせてリーダーシップのあり方を変える

秋本可愛

坂野さんは、“段階”を意識して、それに合ったリーダーシップのあり方を考えていますが、どのような段階に分けて考えているのでしょうか。

私のなかで組織を3つの段階に分けています

1つ目の段階は、方針もなく、職員がバラバラな介護をやり、混沌としている状態。この時期には、ある程度強引だけど、ぐいぐいと引っ張るリーダーが必要です。反対に、“任せるリーダーシップ”は不向きです。何をしていいかわかっていない職員が多いし、ビジョンも出していないのに任せちゃうと、「このリーダーは丸投げする」と言われたりするわけです。また、職員の意見を傾聴するようなリーダーシップも不向きです。ただ意見を聞くだけで終わってしまうので。
だからといって、ずっとぐいぐい引っ張るリーダーを続けて良いわけではありません。

2つ目の段階は、施設としての方針が出て、それを実践できている人もいればできていない人もいるといった状況。この段階においては、職員の実践を統一するために「仕組みづくり」が必要です。そして、職員の意見を多く聞くようにした方が良いです。なので、駒場苑ではアンケートをとりました。

3つ目の段階は、施設が方針を出し、現場の実践もある程度進んでいる状態です。駒場苑は今この段階にあると思います。この時期は、“任せるリーダーシップ”に変えます。リーダーや主任に初めから考えてもらい、軌道から外れそうになった時だけ現場に出ていくようにしています。

このように、その時その時に合わせてリーダーシップを変えているので、ぐいぐいやっていた時の私の鬼のような顔を知っている職員は、「坂野さん丸くなったね」と言うんだけど、それは変えているだけなんです。

秋本可愛

最初の混沌とした段階から、今の駒場苑の状態になるまでにはどれくらいの時間がかかったんでしょうか。

駒場苑での様子
駒場苑での様子

私は駒場苑にトータルで10年間いるんですよ。その中で、混沌としていた期間は最初の約3年。その後、アンケートをとったり、『7つのゼロ』を実践しはじめたのが4〜5年間ですね。現場と距離を置けるようになったのは約3年前から。でも、どれくらいの時間がかかるのかは施設によるのかなと思います。

秋本可愛

お話を伺っていると、坂野さんは、振り返って学びにつなげる内省力がすごいと思ったのですが、意識的にやられていることはありますか?

そうですね。どちらかというと、「自分がどうだったか」を考えるよりも、「自分がやろうとしていた目的が果たせなかった理由はなんだろう」と考えるんです。「今日おかしかったな」と思った次の日にはやり方を変えたりもしました。それは、できるだけ早く最適解を自分のなかで出したいからです。

秋本可愛

そのスピードを上げていくという意識を持てるかどうかって、すごく大事だと思いました。ありがとうございました。

介護業界全体のサービスの質の向上を目指して

秋本可愛

最後に、坂野さんの今後の目標を教えてください。

地域とか法人とかを超えて、他の介護事業所の質の向上に貢献できる事業をするのが私の目標であり、だからこそ、それを駒場苑の中長期目標としています。駒場苑でできたことを、発信していくことで、「これやってみたいな」と他の事業所の職員さんが持ち帰って、その事業所の改善につなげ、結果的に少しでも質が上がっていけばいいなと考えています。
元々私は、初めに入職した特別養護老人ホームがとっても劣悪なところだったんです。それを見て、「介護業界のこの状態を変えたい!」という怒りを原動力に仕事をしているので、1つ良い事業所作ったからいいやというよりも、業界全体の役に立つようなことをしたいんですよね。
駒場苑はある程度任せられるようになったので、今後は外に出て行って伝えていきたいです。

ゲストプロフィール

坂野悠己(さかの ゆうき)

坂野悠己・駒場苑

総合ケアセンター駒場苑 施設長

1981年生まれ。20歳の頃から介護職として特養を中心に働き、横浜の特養では安易なおむつ、機械浴、スピード重視の食事介助、拘束等、当時の特養の現状に異を唱えてケア改革を行い、講演活動を開始。2010 年、施設改革の依頼を受け、特養駒場苑に転職。特養駒場苑では7つのゼロを掲げてケア改革を行う。現在は駒場苑グループ全6事業の施設長として在宅~施設で暮らす高齢者の「最期まで気持ち良く主体的でその人らしい生活」を支えるための環境作り、仕組み作りをSNS等を中心に発信。YouTubeチャンネル「かいご噺」運営。

開催概要

日時:2022年9月2日(金) 20:00〜
場所:オンライン(Zoom配信)

この記事を書いた人

森近 恵梨子

森近 恵梨子Eriko Morichika

株式会社Blanketライター/プロジェクトマネージャー/社会福祉士/介護福祉士/介護支援専門員

介護深堀り工事現場監督(自称)。正真正銘の介護オタク。温泉が湧き出るまで、介護を深く掘り続けます。
フリーランス 介護職員&ライター&講師。