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イベントレポート

「ケアラーの心を置き去りにしたくない」家族介護を経験したIT職が立ち上げる“傾聴サービス”

「家族介護の経験ってどうしても1人の中に閉じがちなんですよね。結構すごい経験を積んでいくんだと思うんですけれど、あまり社会には理解してもらえなくて孤立してしまいがちだなと」

そう語るのはKAIGO MY PROJECT 21期に参加した佐藤継助さん。ご自身の家族介護の経験から、その孤立感に大きな課題を感じたと仰います。2021年11月20日にオンラインで開催されたKAIGO MY PROJECTのOBOGによるマイプロトークイベントでは、社会に理解してもらえない悩みを解消するために佐藤さんが立ち上げたサービス「ケアラー・コール」についてお話いただきました。

突然始まった家族介護

佐藤さんがKAIGO MY PROJECTの課題として掲げたのは介護者支援サービスの構築。IT企業で働くご自身の経験を生かしたテーマです。取り組みのきっかけは2015年に突如始まった家族介護でした。

仕事中に近所の人から「家族が倒れた」っていう連絡が来たんですね。本人がもう全然電話もできない状態で病院に担ぎ込まれたと。倒れた家族というのが、祖母の面倒をみていた私の母でした。祖母の世話をする担い手がいなくなったので、私が介護離職して面倒をみることになりました。

介護離職されていた期間は2年間。短くない年月の間、佐藤さんは孤立感に苛まれていたと仰います。

完全に社会的に孤立したような状態で、かなり苦しい思いをしていました。祖母も認知症が始まって、幻覚が見えて外を歩く人に「助けて」と、声をかけちゃったりとか。いろんなことがあって、自宅介護の限界を感じていました。

それでも「施設で最期を迎えたくない」というお祖母様の気持ちを想い、自宅で看取られたそうです。

多くのケアラーが感じる「孤立」

最期まで自宅介護を続けた佐藤さんは、自身が感じた「孤立」に大きな課題感を持たれたそうです。

家族介護の経験ってどうしても1人の中に閉じがちなんですよね。結構すごい経験を積んでいくんだと思うんですけれど、あまり社会には理解してもらえなくて、孤立しちゃいがちだなと。「同じような思いをしている人がたくさんいるんじゃないのか?」「このことをもっと社会に理解してもらえれば状況も変わっていくのではないか?」と思って、いろいろ調査を始めました。でも、具体的にそれどうやって世の中に出していけばいいのか悩んでいました。

調査を初めて2年経つ頃に出会ったのがKAIGO MY PROJECTだったそうです。家族介護の孤立感について、多くの方が関心を寄せて問題視していることに気がついたとのこと。

調べた内容について少し紹介をさせていただきます。家庭介護をしている人、最近だとケアラーと言われてますけれど、以下の円グラフに示すようにだいたい日本の世帯数の4分の1〜3分の1くらいがケアラー家庭。かなりの数ですよね、これって。

自宅の周辺3軒のうち1軒はケアラーのいる家庭の可能性が高いという現状。高齢化が加速する社会の中で、ケアラーの方々は共通の悩みを抱えていると佐藤さんは仰います。

ケアラーの皆さんは、主に3つの悩みを持っています。

①自身の心身の健康 ②将来への見通しが持てない ③介護の家族依存への問題

自分自身の健康への不安を抱えていたり、介護に先が見えないのでかなり絶望的な気持ちになって孤立していたり。あと、自分しか介護ができないって状況に陥っているというのがケアラーの現状です。あと、お話しづらいんですが、少なからず虐待事案も見受けられます。その24%くらいが面倒をみている近親者によるもので、介護疲れが主な原因なんですよね。

調査を通して浮き彫りになったのは、ケアラーの不安や悩みはどれも精神的ストレスに関わるということ。実態調査を進める中で佐藤さんが感じたのは、現状の支援への課題感でした。

現状のケアラー支援、地域包括やケアマネさんの活動っていうのは、物理的支援が中心なんですね。これはこれでありがたいんですけれど、家庭で終わりが見えない介護をしている人間としては、「何か足りない」、「何か違うんじゃないのかな」っていう違和感がありました。ケアラーの心が置き去りにされているような気がしたんです。

テクノロジーを駆使した「傾聴サービス」

ケアラーの孤立を解消したいと考えた佐藤さんは、ご自身のIT職の経験を生かした支援サービスを立ち上げました。

ご家族の介護に疲れた方の介護のお話を聞く傾聴サービスです。何を話しても構いません。申し込みしていただくと、24時間365日体制の電話とチャットを利用できます。いつでも我々は待ってますので、連絡してきてください。愚痴でもいいですし、怒ってもいいし、泣いてもいいです。もう何でもぶちまけてください。
心の中にたまったものを吐き出していただいて、介護に立ち向かっていただければという趣旨のサービスです。

ただお話を聞くに止まらず、ケアラーの問題解決に繋がるフィードバックも可能だといいます。

このサービスにはクラウドとAIが搭載されています。ケアラーの方と相談員の会話内容がクラウドストレージにリアルタイムにアップロードされます。加えてリアルタイムでAIで分析して、心の危機を察知したり介護へのアドバイスを出す仕組みです。ケアラーの方へのフィードバックに役立てばいいな、と考えています。

また、ケアラーの精神的負担を軽減するだけではなく、いただいた声をケアラーに対する社会の理解促進に役立てたいと仰います。

社会に対してのフィードバックにも活用していきたいです。クラウドに蓄積された皆さんの愚痴や問題意識、苦しみを、解析可能なデータとして、介護の研究している大学や介護政策を決定する場に提供していければと思っています。

一歩踏み出すために必要な心の整理整頓

最後に、KAIGO MY PROJECTを通してサービス立ち上げを決めた佐藤さんがご自身の気づきを共有してくださいました。

何かに対して課題を感じている場合に、まず大切なのは心の整理整頓。自分にとって重要なことってなんだろう、そしてそれが社会とどう関わっていくのか、実現するために残り時間はどれくらいなんだろうなど、検討してみてはいかがでしょうか。

加えて、アクションを起こすにあたって現実的な問題からも目を背けてはいけないと仰います。

実現するのに何ができるのかを具体的に考えていただくのも重要なのではないかと。そこではやっぱり金銭面について避けては通れないので、お金のこともちょっと真面目に考えてみてください。しっかり事業計画を立てて本当にやりたいことを突き詰めていくと、意外と行政や銀行はお話を聞いてくれます。味方になってくれます。今の私が正しくこの状態です。これまで何もしてなかった人でも起こりうることとしてご紹介いたしました。

ご自身の経験から感じた課題、実際のアクション、さらには今後新たな一歩を踏み出したい方に向けてのアドバイスまで、丁寧にお話してくださいました。佐藤さん、ありがとうございました!

質疑応答

 

Q:ケアラーの声を拾うという仕組みですか?今一度佐藤さんが行なっているサービスの内容の補足をお願いしたいです。

A:基本的に、自分がケアしているって結構辛い作業だと思うんですよ。苦しい思いを外に吐き出す場がないっていうのが大きな問題だと考えていて、その場を作るっていうのがまず第一。さらに、こういう声って拾われないまんま捨てられてしまう、あるいは非常に短くなった状態で統計情報にされることが多いと思うんですが、生の声としてデータ化していく、再利用していくという仕組みです。先ほど申し上げたように、行政の政策決定の場に基礎データとして寄与できるんじゃないのかなってを考えてます。

Q:マネタイズについてどうされているのでしょうか?

A:マネタイズの部分につきましては、課金という形で進めようと思ってます。マネタイズも検討したんですけれど、無料で提供してマネタイズするっていうのも非常に難しい。あまり現実的ではないのかなと思い、有料サービスも展開したいと考えています。有料だけではなく、無料枠を用意したりそのキャッシュポイントとしてデータを提供しようと検討しています。

開催概要

日時:2021年11月21日(日) 19:30~21:30
場所:オンライン(Zoom配信)

KAIGO MY PROJECTとは?

KAIGO MY PROJECTは、自分自身の想いや問題意識をもとに、何か新しいことを始めてみたい人、あるいは既にはじめている人を応援する連続ワークショップ。
https://heisei-kaigo-leaders.com/projects/kmp/

この記事を書いた人

モモみ

モモみMomomi

ライターKAIGO LEADERS PR team