おばあちゃんを少女に!島に移住した訪問看護師の新たな支援
「笑顔だったりとか、やりたいことをやってるとか、大人になっても少年みたいって言われるように生き生きしている。そんな生きがいに対して、サポートしたり一緒にやったりすることが今できることなのかな。って自分自身の中で思い始めて、少しずつ行動してみようと思うようになりました。」
そう語るのはKAIGO MY PROJECT 21期に参加した長谷川晶規さん(以下、はせさん)。はせさんは人口の約70%が高齢者という島に移住して訪問看護の仕事をしながら、コミュニケーションを通じて生きがいに関わる支援をされています。
2021年11月20日にオンラインで開催されたKAIGO MY PROJECTのOBOGによるマイプロトークイベントでは、「おばあちゃんを少女にするお花畑」というプロジェクトについてお話いただきました。このプロジェクトに取り組んだきっかけや、これまでの経緯、そしてその結果をはせさんの視点で振り返りました。
「本音と建前が違う」という違和感
はせさんがKAIGO MY PROJECTに参加したきっかけは、訪問看護師としておじいちゃんおばあちゃんに話を聞く中で抱いた違和感でした。
いろんな島でおじいちゃんおばあちゃんに、訪問看護師として、また島の住民、若者としてお話を聞いています。その家族とお話をしていると、すごくいろんな想いがあって、元気に暮らして欲しいし住み慣れた島で暮らして欲しいって気持ちもみなさん持っている。けれども最終的にはもう年だから死んでもいいみたいなことを言われるんですね。それでも、電話をしてちょっとお茶しに来なよとか、訪問看護師として呼ばれることがあります。呼ぶんだったらいつ死んでもいいっていうのは違うのかなっていう気持ちがあって、そんな中から、「本音と建前が違うんだな」ってことを感じ始めました。
この違和感の解決方法として、「お花畑」を選んだのは、移住したからこそ気づいた発見があったからです。
僕自身、島に移住するまで畑仕事をすることがありませんでした。でも土を触っていると、自分自身が植物に癒されているなということに気づきました。島に来て1番の発見ですね。
島の高齢者の方々との交流、さらに島に移住しての自身の発見を組み合わせることで、何かできるんじゃないか。このように思ったことが、はせさんがマイプロに参加したきっかけになりました。
畑に入ることを家族から止められているおじいちゃんおばあちゃんもいるので、そういう方達と一緒にお花畑が畑でできたらいいんじゃないかって思いました。
そのお花畑を作ってどういうことをしたいのでしょうか。
「別にもう外出したいと思わない」という方が、お花畑に行くためにリハビリを頑張るとか、ご主人と昔みたいにちょっとデートをするとか、孫とちょっと歩くとか……。そんな外出の動機づけになれば良いなと考えました。お花畑に人が集まることによってコミュニケーションが生まれるんじゃないかなって思ったんです。
「お花畑をつくれば解決なのか?」という疑問
2021年1月から3月で「お花畑をつくります!」と宣言をしたはせさん。しかし、プロジェクトを進めるうちに、はせさんの中で疑問が浮かんできたと言います。
マリーゴールドや野菜の種を苗から育てたので、種や花がすごく多くできました。じゃあこの種や花を植えて「場所を作れば解決なのか?」という自分の中での問いが、マイプロを実施している中で出てきました。
場所ができたからといって、「そこに来れない人はどうなのか?」と考えることもありました。広島県にあるお花畑の見学に行くと、やっぱり壮大で綺麗ですが、なかなか歩くのが難しいような土地だったりします。高齢者の人にとってはやっぱり行くことがしんどいんじゃないかなって思い始めました。
この疑問に対して、はせさんが出した答えは、「お花畑をつくることだけに執着せず『おばあちゃんを少女にする』という想いのもと、少しずつ実行していく」ことでした。
おばあちゃんを少女にするというのは、笑顔だったりとか、やりたいことをやってるとか、大人になってもおっさんが少年みたいって言われるように生き生きしているといった感じです。このような生きがいに対してサポートしたり一緒にやったりっていうことが、今できることなのかなって自分自身の中で思い始めて、少しずつ行動してみようと思うようになりました。
さまざまな葛藤の中で、最終的にはせさんが選んだ行動は、お花畑や野菜畑にするために作った苗を乳母車に乗せて島の人たちに運び、コミュニケーションを取るということでした。
植物、スイーツを通してコミュニケーションが生まれる
自分が作った苗を乳母車に乗せて運ぶという、はせさんの取り組みを通じて、実際にさまざまなコミュニケーションが生まれました。
会ったことがない人たちも色々喋りかけてくれるようにもなりました。さらに渡したトマトの苗をおじいちゃんが育ててくれていて「トマトができたら僕があげるね」って言ってもらったり。
野菜を通してコミュニケーションが取れるようになりました。高齢者の人だけでなく、地域の郵便局の人ともお花や野菜をお渡ししてコミュニケーションを取り始めました。農業をされてて忙しく直接会えない方には、手紙と一緒に苗を渡すこともしています。その後、会ったときにお話をしたり、手紙が返って来たりというような関わりをしています。
さらには、パティシエの友人と協力して、植物だけでなくスイーツを通して「少女にする」ということも。
パティシエの友達が島に来てくれて作ったスイーツや共同制作したものを配ったこともありました。「スイーツを通して少女にする」みたいな。楽しい時間を届けました。
コミュニケーションが信頼・繋がりへ
生み出されたコミュニケーションは、島の方々との信頼関係、そしてさまざまな繋がりへと発展しています。
たまねぎは保存がきくので、いっぱい作りすぎてもあんまりもらえないものなんです。でも信頼関係ができてくると保存がきくような野菜もおばあちゃんがくれるようになって。今移住して2年になるんですけど、信頼関係が築けたなって感じることがあります。
ひまわりも種で育てたものをおばあちゃんに配ったら、すごい立派に育ててくれてて、会う度に「花が大きくなったよ」と言ってもらえます。実際に花を見に行かせてもらうと、ご主人が体調が悪くなってきたというお話が出てくることもありました。「じゃあ病院に相談してみようか」、「地域の行政の人、ケアマネージャーさんにつないでみようか」というコミュニケーションが取れて、今も元気に過ごされています。
少しずつ少しずつ関係性が作れたおかげで、急激に体調が悪くなって介護が必要になる状態の前に、訪問看護を始める前のような状態を保って暮らしてもらえている。スイーツや植物を配った中でのコミュニケーションで、すごいいろんな繋がりができたなと思ってます。
最後に、はせさんがプロジェクトを通しての気づきとして、このように話されています。
お花畑って壮大なものを作ろうって最初は思ってたんですけど、コツコツ小さな関わりをすることの方がすごい大事なんだなって。
地域の方々に寄り添うこと、小さな関わりでも時間をかけて積み重ねることで、信頼や繋がりへと発展していく。とても素敵な、そして学びの多いお話を聞かせていただきました。はせさん、ありがとうございました!
質疑応答
開催概要
日時:11月21日(日) 19:30~21:30
場所:オンライン(Zoom配信)
KAIGO MY PROJECTとは?
KAIGO MY PROJECTは、自分自身の想いや問題意識をもとに、何か新しいことを始めてみたい人、あるいは既にはじめている人を応援する連続ワークショップ。
https://heisei-kaigo-leaders.com/projects/kmp/
KAIGO MY PROJECT体験イベント参加者募集中です!
https://heisei-kaigo-leaders.com/activity/kmp-taiken