介護に向きあい抱いた違和感を出発点に!政治の世界からみた介護業界とは?(KAIGO LEADERS FORUM 2019イベントレポート⑧)
イベントレポート⑧
「介護に向きあい抱いた違和感を出発点に!政治の世界からみた介護業界とは?」
登壇:後藤 奈美
KAIGO LEADERS FORUM 2019イベントレポート第8弾は、前回に引きつづき、新しい時代をつくるU35のKAIGO LEADERSのピッチを1人ずつ紹介します。6人めは、東京都議会議員の後藤奈美さんです。KAIGO LEADERS FORUM 2019イベントレポート最終回となります。
はじめに
後藤 奈美さん とは?
東京都議会議員(足立区選出1期目)
1986年7月18日生まれ、東京都足立区出身。
1児の子を育てるママ議員。前職のリクルートでは、介護業界の雇用創出をミッションとしたHELPMAN JAPAN!の事業立ち上げに参画し、介護業界における人材の課題に向き合う。
これまで1,000を超える介護現場を訪問し、その問題意識から政治を志す。都議会議員では厚生委員会に所属し、介護の人材確保・定着・ICTを活用した生産性向上の取り組みなどを中心に政策提言を行っている。
2025年 東京はどうなっていますか。
団塊の世代が後期高齢者となる2025年まであと6年をきっています。オリンピックが終わり人口減少社会に突入すると言われています。
そして、2025年までの10年間で増える高齢者の数は30万人を超えると予測されています。
このグラフは、東京が日本で最も高齢者が多い都市になるということを表しています。
その高齢者のうち約5人に1人が認知症を抱え、共に生きる時代に変わっていきます。認知症がある方をどう社会で見守り、生活を支えていくかということがこれからの大きな社会テーマとなっていきます。
2025年に向けて社会全体で議論すべきテーマは山積しています。例えば、つい先日豊島区で起こった事件のような、いわゆる高齢者ドライバーのあり方等も含まれます。
今後、高齢化社会に向けての課題解決、社会や仕組みの整備ということも含めて多く議論が必要になってくると思っています。
そして、今後爆発的に増えていく高齢者を支える、介護士の方々の数について。
東京都では2025年に向けて約1万人が不足すると言われています。
東京都において、現場の介護職の採用求人倍率は6倍を越えておりまして、まさに日本で一番採用が難しいと言われています。この介護人材の課題に対してこれから私たちはどのような答えを見出して解決に向けて動いていくべきなのでしょうか。
様々な課題が山積するなかで2025年に向けて、ここ東京に希望はあるのでしょうか。そして2025年に向けて私たちは一体何ができるのでしょうか。
私はこの高齢化社会をもっとポジティブなものにしていくために政治の世界からこの社会の仕組みをつくるルールを変えていくことを選び、挑戦しています。
意思ある一歩の積み重ねで未来は変わる
本日は、そんな私から「一歩踏み出す勇気」というテーマでお話させていただきたいと思います。意思ある一歩の積み重ねで未来は変えることができると、私自身の経験からお伝えします。
私は、東京都議会議員の1期生です。今は政治の世界で介護業界の変革に向き合っています。元々、介護現場の経験があったわけではありませんでした。
大学を卒業し、リクルートに就職をしました。20代半ばの頃は、千葉県で中小企業の採用支援の仕事をしておりました。仕事の飲み込みが遅く、日々怒られていたのですが、1つ私には他の人に負けない特徴がありました。それは、「課題があるものに向き合っているときほどエンジンが入る」ことでした。そのような私が次のキャリアを考えた時に思ったのが、日本で一番難しい雇用の課題に向き合いたいということでした。
その時に出会ったのが、『ヘルプマン!』という漫画でした。リクルートが、『ヘルプマン!』という漫画とタイアップして、介護業界の雇用問題に向き合う「HELP MAN JAPAN!」というプロジェクトを立ち上げたばかりでした。
私自身このプロジェクトに非常に強い共感をして、自分で手を挙げてこのプロジェクトに参画をすることを決めました。私に与えられたミッションは、「介護業界の定着」でした。
当時、私は、介護職の方々が、どうしたら辞めずに、この業界でいきいきと働いていけるかということを日々考える仕事をしてきました。
介護業界は、毎年29万人もの方々が入職する一方で、22万人の方々が辞めて行きます。
さらに、離職する方の6割が介護業界以外の業界に転職すると、言われています。これでは、いくら人材確保に大きな予算をかけてプロモーションしたとしても、穴の空いたバケツに水を入れるようなものだと感じておりました。
まさにこの難題に向き合うなかで、私自身多くの介護現場の声を聞いてきました。平日は毎週介護施設に訪問し、休日はデイサービスでボランティアをし、その合間で介護に関する勉強会にも参加していました。
寝ても覚めても介護のことばかり考えていました。
その甲斐あって、業界向けの定着支援パッケージを開発できまして、導入後の定着率が95%を超えるといった着実な成果をあげられるようになりました。
介護業界のルールを作る人が、介護現場のことを知らない
徐々に介護業界の方々より依頼を受け、講演をしたり、行政の有識者会議に、介護業界の雇用問題のプロとして呼んでいただいたりと、向き合う業界の課題のレイヤーが少しずつ上がっていくなかで違和感を抱くようになりました。
それは、「介護業界のルールを作る人たちが、介護の現場を知らない。」という事実です。
介護業界は制度ビジネスであり、施設形態やサービス内容まで事細かに介護保険法で定義されています。だからこそ、その制度自体が「現場のニーズに合っているか」、「運用しやすいものになっているか」ということは重要になってくるわけです。しかし、結構ずれていることが多いと感じました。
2025年に向けて社会は大きく変わろうとしています。そんななかで、「このままでいいのか。」と想いました。現場のことを誰よりも知っている私だからこそ、この問題を解決しなくてはならないのではないかと強く想いました。
1つの違和感から踏み出した一歩で、新しい世界へ
そこで、私は小さなアクションを起こしました。もっと政策のことを勉強しようと、政治塾に通いはじめ、社会保障などの政策について学びはじめました。そこで転機が訪れたのです。
政治塾に通う4000人のなかから、都議会議員の候補として抜擢され、介護政策の担当ということで、都議会議員の選挙に立候補することになりました。
昔から政治の道を志していたわけではないですし、当時、妊娠していた状況のなかで政治の世界、選挙にチャレンジするというのは私のなかで大きなリスクを伴うものでした。
それでもチャレンジしようと思うのは、「4年後ではもう間に合わないな。」と思ったからです。
結果、足立区最年少の都議会議員として、4万5千票を超える投票していただき、初当選させていただき、いよいよ議員生活をスタートさせることになりました。
政治の世界からみた、介護業界
しかし、改革の道のりはそう簡単にはいきませんでした。
小池都知事からも、介護政策のプロということで期待をされ、介護政策にかかわる部署に所属し、日々都庁の職員の方々と政策について議論をしたり、提案をしたり、自分の知っている介護現場の声を届けるためにがんばっているのですが、「やっぱりなかなか伝わらないなぁ。」と、壁に直面しています。
議員をしていると、1年で100を超える業界団体(例えば、医療、看護や建設等)の方々が都庁に足を運んできてくださり、要望を仰ってくださいます。
しかし、そのなかで、介護に関する要望をほとんど受けていないのです。
実態としては、ほとんどの現場の方々は、その政策を行政に届けるという術も知らないし、私たち政治家や行政も介護の業界の方々の声を聞いていないという事実がありました。
一方で、例に挙げた医療、看護や建設業界は、長い歴史のなかで、行政や政治に自分たちの要望を届けるルートが確立されています。その意見をもとに、行政も考慮しながら政策を立案しているような仕組みができています。
だからこそ、この2年間、政治の世界から介護業界をみて思うのは、もっと、介護業界は現場の意見を集約して、行政や政治に届けていくための在り方について議論をしていくべくだということです。
決して政治や行政と癒着をした方がいいというわけではありません。しかし、これだけ制度に依拠する部分が大きい介護業界においては、もっと皆さんの声が政策や政治に届いてもいいのではないかと思っています。
私が、現場と行政をつなぐハブになる。
そんな状況のもと、私に何ができるのかと考えました。
私は、これまで1,000事業所近くの介護の現場をまわりました。介護のイメージを変える取組みを現場でやっている実践者の人たちをたくさん知っています。
だから、私は、「行政とのつなぎ役になって介護業界の意見を届けていく。」というのが、今の私の役割だと思っています。いただいた提案を参考にして、実際に芽を出している政策もあります。
それだけではなく、「ICTを活用し、介護現場の生産性をあげるためにどんな施策が有効なのか」を検討したり、「医療と介護をもっと繋いで、一体的にサービスを提供するためにはどんな行政サービスのあり方が求められているのか」など、これから現場の皆さんともっと仕掛けていきたいテーマがたくさんあります。
それぞれの場で、違和感を出発点に一歩を踏み出そう
私はいま、政治の世界から一歩ずつ未来を変えるための取組みをしています。
2025年に向けて何ができるでしょうか。会社員時代に私が感じた小さな違和感というものを見過ごさずに、一歩を踏み出して、私を取り巻く世界は大きく変わりました。
私は、他の登壇者の皆さんのように何かサービスを持っているわけではありません。ただ、愚直に現場と向き合って声を届けてきただけです。
でも、きっと、介護の未来をつくるためには、色々なリーダーシップのあり方があってもいいのではないかと思っています。だから、今日お越しの皆さんもそれぞれの持ち場で感じている違和感を見過ごさずに一歩踏み込んでほしいなと思っています。
その積み重ねで未来を変えることはできていますし、私たちは皆さんと介護業界の未来を変えていきたいと思っています。
だからこそ、意思を持って、前向きに皆さんと一緒にアクションをしていきたいと思っています。
現場の皆さんとともに、介護業界の未来をもっと盛り上げていきたいと思います。
介護現場で働く介護職員は、制度に対する違和感を抱いているかもしれません。その声を集約して、行政に伝える術があることを知っていましたか。行動を起こせば、少しずつ未来が変えられるかもしれません。
KAIGO LEADERS FORUM2019の参加者には、介護職員だけでなく様々な働き方をしている方もいました。そのような方々には、後藤さんの「介護の未来をつくるためには、色々なリーダーシップのあり方があってもいい。」という言葉が響いたのではないでしょうか。
みなさんは、どんな違和感を抱いていますか?どのように一歩を踏み出しますか?
KAIGO LEADERSは、介護にかかわる皆さんの一歩を応援し続けます!
また、次回のKAIGO LEADERS FORUMを楽しみにしていてくださいね!
KAIGO LEADERS FORUM 2022開催決定!
毎年、様々なテーマで開催しているKAIGO LEADERS FORUMを今年も開催!
テーマは、「感染拡大から2年。これまでを振り返り、これからの介護を考えよう~」に決定しました。
収束が未だ見えない新型コロナウイルス。感染の最前線を2年間目の当たりにしてきたゲストの皆さんとともに、「“介護”はコロナ渦の2年間から何を学び、これからどこへ向かっていくのか」を2日間に渡って考えていきます。
お申し込みはこちらから。
KAIGO LEADERS FORUM 2019写真撮影
近藤 浩紀/Hiroki Kondo(Hiroki Kondo Photography)