電動車いすでバンドマンな熱血社長が目指す「世界いち気持ちいい介護。」とは?
学生の目線で介護の持つ可能性を探るために、まずは自分たちが“もっと”介護に触れ、介護を学び、介護のことを知っていこう。
そんな想いでスタートしたand moreプロジェクト。
プロジェクトのスタートは、「いろいろな介護の仕事の現場を見に行き、お話を伺おう」ということになり、初回はサービス付き高齢者住宅、銀木犀・船橋夏見へお邪魔しました。(銀木犀取材記:① ② ③ ④ )
代表の下河原さんや現場で働く人にお話を聞くことで知見を深めることができ、「さらに知りたい」という思いも芽生えました。
そして今回、高田馬場に拠点を置く訪問介護事業所、「でぃぐにてぃ」へお話を伺いに行きました。
お話を伺ったのは、株式会社でぃぐにてぃ代表取締役の吉田真一さん。
不慮の事故から車椅子での生活を余儀なくされ、失意の日々を過ごしていた吉田さん。でぃぐにてぃを設立してからも、軌道に乗るまでは試行錯誤&苦労の連続だったそうです。
その葛藤と、今後の展望について伺いました。
吉田真一さん 株式会社でぃぐにてぃ代表取締役
19歳のときに頸髄損傷で四肢麻痺に。電動車椅子の介護福祉経営士。早稲田大学政治経済学部卒。
株式会社もしもしホットラインでマーケティング担当としてクライアントへの提案に携わった後、2014年12月に株式会社でぃぐにてぃを創業。毎日在宅で介護を受ける中で生まれた「こうだったらいいのに」を解決し、『世界いち気持ちいい介護。』の理念で、お客様と社員を幸せにすべく奮闘中。
でぃぐにてぃは、 「世界いち気持ちいい介護。」をコンセプトに、新宿・高田馬場で訪問介護サービスを行っています。
平均年齢55.5歳 (※)と言われる訪問介護の業界では珍しく、20代を中心とした若手メンバーが多数活躍しています。 そんなでぃぐにてぃの代表の吉田真一さんは、ご自身も四肢麻痺という障害を持ち、介護を受ける当事者の立場でもあります。
でぃぐにてぃの設立、そして 「あらゆる人に『自分らしく生きる』を解放しよう。」というビジョンに込められた思いは、ご自身のご経験が大きく影響していると、吉田さんは語ります。
※全国労働組合総連合「介護労働実態調査 報告書」より
バンドマンから車いす生活へ。失意のどん底から社会復帰までの道のり
吉田さんは、大学時代の事故で頸椎を損傷し、障害を抱えることになります。
当時の吉田さんはバンド活動に明け暮れるロックンローラー。「当時の自分に『将来お前は訪問介護事業所の代表をやってるぞ』なんて言っても、全く信じなかったでしょう」と笑います。
ただただ、呆然としましたね。それが19歳の時。
ケガをしてから5年くらいたった時だったかな。バンドの仲間が「歌わない?」と外に誘い出してくれたんです。ライブハウスのステージはそれなりに高いんですけど、みんなで車イスをステージに上げてくれて。ステージに上げるときに、車輪がぼきっと折れちゃったんですけどね(笑)
そんなこんなで、仲間にも助けられながら、社会復帰していくことになりました。
支えてくれた若いヘルパーの涙が、「世界いち気持ちいい介護」の出発点。
仲間のサポートもあり、介護サービスを受けながら、吉田さんは社会復帰の道を歩み始めます。
そんな中、介護の現場が直面する難しさとも向き合うことになります。
吉田さんは、日々の生活の支援をしてくれる同世代のヘルパー、Tさんと出会い、親しくなります。年齢も近く価値観も合うTさんのサポートも受けながら、楽しく生活をしていたそうなのですが…。
「なかなか後輩が育たない。一生懸命育てたとしても、すぐ辞めちゃう」
って言って泣き始めたんです。
涙を流すT君に何もできなくて、背中をさする事しかできなくて、ただただ歯痒かったです。
一生懸命頑張る若いヘルパーの苦悩に、 「自分にも何か出来ないのかな?」と考えるようになった吉田さん。その問いが始まりでした。
とかそんなこと。でもそれって、よくよく考えてみると全部当たり前のことじゃないですか。
離職率200%!スタッフの言葉で気づいた、大切なこと。
働くスタッフが、笑顔で働ける職場をつくりたい!と思い立った吉田さん。でもそこにあったのは「想いと勢いだけ」。でぃぐにてぃを立ち上げた当初は苦労の連続だったそうです。
その中でも、人材の採用・定着に苦労は本当に苦労しました。たくさんの人を採用したけれど、全然うまくいかない。
スタッフにとって、よりよい環境をつくるために起業をしたはずなのに、なかなか上手くいかずに多くの職員が離れていく。そんな状況を変えるきっかけになったのは、スタッフたちの一言だったそうです。
それで初心に戻りました。
その話し合いの後、でぃぐにてぃでは、訪問介護事業所の多くでは、採算上一般的には1~2回で終わることの多い新人スタッフのOJT(先輩社員が実務を通じて業務を教える手法)を3か月かけて行う形に変更しました。そしてその頃から離職率も下がり、新人職員が定着してくれるようになったそうです。
福祉以外の学校から入社したスタッフの櫻井さんも、手厚い研修やサポートがあることで安心したと語ります。
よりよいケアをするためには、職員が安心して働ける環境をつくることから。
教育制度の充実をはじめ、でぃぐにてぃでは職員の働きやすい環境づくりを進めているそうです。
訪問介護を通して、自分らしく在宅で暮らせる人を増やしたい。
職員が安心していきいきと働く環境を整えていくと同時に、でぃぐにてぃが大切にしていることは、「ご本人がしたいことを実現できること」と吉田さんは語ります。
例えば病院では6時半に起床、7時に朝食を食べ、21時には絶対に電気が落ちるんですね。ご飯の量も一定だし、メニューも決まっている。
人によって様々な事情があるので一概には言えませんが、 私たちが支援することで、可能な限り在宅でいられる 「在宅限界」の期間を上げていくことで、住み慣れた家で暮らせる人を増やしていきたい。 そういうことをやりたいというのが、私が訪問介護サービスを選ぶ理由です。
訪問介護の世界を、もっともっとよくしていきたい。
これから吉田さんやでぃぐにてぃが目指すことは何なのか。
吉田さんは 「訪問介護サービスの質の向上」と、 「介護職員の待遇向上」と語ってくれました。
訪問介護は公共のサービスであるはずなのに、ケアマネや事業所によって訪問介護のサービスの質はホントに千差万別なんです。
だから、「質の高いサービスをしている従業員はゴールド」みたいな感じでランク化したり、あとは責任や仕事量の多いマネジメント層には多く給料を出すという感じで、能力や役割で濃淡をつけるのもひとつのアイディアですね。
吉田さんから、でぃぐにてぃが大切にしていること、訪問介護サービスの意義を伺いました。
次回以降も、様々な形で訪問介護サービスの魅力を考えたいと思います!
番外編 訪問介護ワンポイント解説
①そもそも訪問介護事業ってどんなことやるの?
要介護認定を受けている高齢者や、障害支援区分の認定を受けている障害のある人の居宅を訪問して、身体介護や家事支援を行ったりします。
在宅の高齢者のための介護保険サービスの利用が増加する中で、在宅介護サービスの中心的担い手となって活動しています。
具体的なサービスは、食事・寝返りの介助・入浴、排泄、衣服の着脱など、在宅での基本的な生活を継続できるように援助します。
その他、利用者本人や家族への精神的ケアなども家族に介護の技術的な指導を行うことも大切な仕事です。
↑厚生労働省のこちらの動画がわかりやすいです!
②どうやったらなれるの?
訪問介護員になるには「 介護職員初任者研修課程」を修了する必要があります。研修は自治体や社会福祉協議会、企業などで行われています。
3年以上の実務経験を積み、「実務者研修」を受講し、国家試験に合格すると、介護福祉士の資格を取得できます。実務者研修の修了者や介護福祉士などは「サービス提供責任者」になることができるそうです。
次回予告
次回は、でぃぐにてぃの職員の方々へ、でぃぐにてぃで働くようになったきっかけや、働きはじめてからのことなど色々聞いちゃいます!
お楽しみに!
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取材記①:電動車椅子でバンドマンな熱血社長が目指す「世界いち、気持ちいい介護」とは?
取材記②:平均年齢55歳の訪問介護業界で、でぃぐにてぃに若手職員が集まるワケ
取材記③:”世界いち気持ちいい介護。”を体験してみよう! 〜でぃぐにてぃ訪問介護体験レポ〜
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この記事を書いた人・取材をした人
KAIGO LEADERS学生チーム/株式会社Blanket インターンメンバー
中央大学4年
祖母との同居を通して、介護に興味を持ちました。
お話を伺った人:
吉田 響 Hibiki Yoshida
介護の可能性をもっと知りたい!伝えたい!
そんな思いでこのプロジェクトに参加しています!