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イベントレポート

Re.kishil【後編】時代とともに変わっていく介護の仕事。未来の介護職の姿って?

この記事は、3回にわたってお届けしているイベントレポート後編です。
12月9日にオンラインコミュニティSPACEで開催された介護の歴史を学ぶイベント「Re.kishil-歴史を知り、未来へ向かおう-」についてレポートしています。
前編では、戦前から1990年代までの介護の歴史に迫りました。
そして、中編では、介護保険制度が始まった10年間を振り返りました。
後編の今回は2011年から現在に至るまでの変遷を辿った後、“これからの介護”について予想していきます。
情報提供者は、金山峰之さん。ファシリテーターは、軍司大輔さんです。

「ともに生きる」基盤を作る

高齢者が住み慣れた地域で自立した生活が可能な限り送れるように、地域住民、医療・介護従事者、自治体が協力していきましょう!

2011年以後、この目標に向けた人材確保の取り組み、法の改正、そして混在していた介護にまつわる資格を一本化してわかりやすくすることなどが進められました。

2011年には介護保険法などの法律の一部が改正され、「地域包括ケアシステム」の実践に向けた法整備がおこなわれました。

それに伴い、痰の吸引など、介護職の医療行為が一部解禁。また、2012年の介護保険法の改正では、定期巡回・随時対応型訪問介護看護が新設。
高齢者が自宅で健康上の問題等が発生した場合でも、24時間対応できる環境が整っていきました。

介護人材の確保を目的に、国をあげての魅力発信も進められています。
厚生労働省では「介護の魅力発信事業」を2014年に開始。「福祉人材確保対策室」を設置し、民間で介護の魅力発信事業を進めている介護業界の第一人者と一緒に人材確保について考え、実践していく事業が現在でも毎年なされています。

魅力発信の他に、人材育成の側面では学習内容が重複していたホームヘルパー制度と介護基礎研修制度を一本化しました。
介護職員初任者研修、実務者研修として体系化することで、複雑化していた資格取得の環境を整えていきました。

また、2010年代は認知症になった本人たちも自ら発信する動きが活発化します。

2014年には日本認知症ワーキンググループが発足。「本人にとって良いケアとは何か」を、当事者自らが発信することで、介護者とともに「良いケア」について考えていく動きが始まりました。

現在、“ケア”として介護業界で広く知られている認知症の方とのコミュニケーション技法、「ユマニチュード」がイヴ・ジネスト氏によって日本に伝えられたのも、2010年代でした。

「2015年問題」の解決に向けて準備が進められてきた2015年は、福祉人材の確保、“ケア”の模索のなか迎えることになりました。
この年には、介護保険法改正により、10年後である2025年の「大介護時代」に向けた準備として「地域包括ケアシステム」の構築に向けた改正がなされました。

翌年の2016年。介護職の処遇にも関わる大きな国の目標が掲げられました。

それが、「1億総活躍社会の実現」です。
この目標により、少子高齢化が進む現在において、若者から高齢者までが希望を持って活躍できる社会を目指すことになりました。

それに伴い、国が掲げた目標は「介護離職ゼロ
介護職の待遇改善、そして外国人技能実習制度へ介護職種を追加することで、介護人材の量を確保していく取り組みが加速しました。
これは介護人材の確保によって、家族介護を理由に仕事をやめる人をゼロにすることがねらいでした。

次の2018年の改正では、自立支援やICTの活用、そして生産性の向上などといった、現在介護業界で取り組まれている内容が明記されていきました。

同年には介護福祉士養成課程が見直され、国として介護人材に求める能力が少し追加されました。
地域包括ケアが重点に置かれたことで、介護福祉士がその他の介護職、そして介護にかかる他職種との連携の核になることが求められたのです。

2019年には認知症施策推進大綱ができ、認知症の方もそうではない方も住み慣れた地域でともに生きることができる環境作りに関する指針がまとめられました。

介護現場に今ある大きな二つの課題とは?

ここまでが介護の歴史です。ケアについては一見すると変遷を遂げているように見えますよね。ですが、今見てきた“良い介護”から“悪い介護”までが混在しているのが、現在の介護現場の状況です。

介護の歴史を現在まで辿った後に、金山さんは現在介護現場に存在する大きな2つの課題についてお話をしてくださいました。

1つめは、「“良いケア”の乱立」です。

一見すると、介護は現在に至るまで変遷を遂げ、“ケア”だけが現存しているようにも感じます。しかし、介護事業所の規模やそこで働く介護人材によってどのようなケアが良しとされているかは様々です。まだ、「本人らしく生きる」ためのケアが浸透してるとは言えないのが現場であると言います。

この要因として挙げられるのは「メソッドが統一されていないこと」
介護は、医療や看護のように歴史が長い分野ではなく、確固たる学術的定義や理論が未だに存在せず、時代ごとに“良しとされるケア”を実践している状態です。
そのため、どのメソッドに則ったケアをするかは人それぞれ。一枚岩にならない現状があります。

介護現場に現存する大きな課題の2つめは「現場の声が国に届きにくい環境」です。

 

介護保険制度にはいくつかの業界団体がかかわっています。

介護医療系の職能団体、事業者経営団体、当事者団体、教育関係団体などです。その中でも比較的影響力があると考えているのは事業経営団体と医療系の職能団体の2つです。

僕も職能団体に入って活動をしています。頑張ってはいたけど、僕は他の業界団体ほど声を届けることに十分力を発揮仕切れませんでした。

利用者の声を1番代弁できるはずの介護系の職能団体は組織力の面で、現在の介護を取り巻く大きな課題の1つと言えるかもしれません。

資格ではなく、求めらることをどれくらいやっていけるのか

現在、国では「介護人材確保に向けた基本的な考え方(案)」を作成しています。そこには介護人材の確保に向けたこれからの計画が記載されています。

頑張る人はキャリアアップできる仕組み、そして裾野を広げてどんどん色んな人材が入ってこられるような仕組みが出来上がっていこうとしています。僕らの頃はお金を稼いだりキャリアアップを目指したいならケアマネジャーに転職するしかなかった。でもこれからは、介護福祉士を続けながら給料もキャリアアップもできる道が開けるようになっていくんじゃないかと思います。

チームマネジメント力や他職種と連携する力。
現在介護福祉士に求められる力を発揮できる人がこれからはキャリアアップできる時代になっていくと考えられます。

とはいえ、介護の仕事に参入する人はどんどん多様化し、求められる介護も多様化する一方で、様々な人をまとめてやりがいのある職場を作って尊厳ある自立した生活を地域の中で実現するって相当なことなんですよね(笑)

介護職に求められるマルチな力。金山さんは最後に、これからの働き方についての難しさもお話してくれました。 

金山さんが予想する“これからの介護”とは?

ここまでの変遷を元に、金山さんは今後介護がどのように変わっていくかを予想していました。

今後、介護保険が使える利用者さんは限定されてくると思います。

現在検討されている「要支援者や軽度要介護者の利用見直し」が実現すると予測しているそうです。

介護保険制度を使える人って重度の方や医療依存度の高い方などに限定されてくると思うんです。

制度を利用できる人が分類されていくと、自ずと介護職員側も分類されていくのではないか。
金山さんは介護職の働き方をこのように予想していました。
予想される分類は、大きく分けて4つです。

・保険利用が必要な方の支援を行う介護職
・それ以外の方を支援する介護職
・要介護者が自費で必要とする介護内容と介護職をマッチングさせた市場サービスとしての介護職
・地域での互助

仮にこのように分類されたら、どの働き方で働くか、想像するのも面白いかもしれません。

次の介護業界で注目されていく、つまり、政策に則った人材というのも、注目されていくでしょうね。

 その「政策に則った人材」として金山さんがあげたのは、

・ICTを利用し、機能回復をする介護職
・大規模で生産性の高い介護事業を展開する経営者
・重度の利用者などを介護する介護のスペシャリスト
・在宅介護事業に進出した医療職

ではないかと予想していました。
金山さんは特に在宅介護事業に進出した医療職と、これからの介護職について最後にお話をしてくださいました。

これまで介護職は医療を敵として見ている部分があったと思います。でも今、医療が本人の生活の場で人生を支えるという専門性を発揮し出しています。医療職がこれからどんどん、地域や生活に密着した働き方をし始めたら、もしかしたら“本人らしく生きること”をどう支えていくか、僕ら介護職が教わる時代も来るかもしれないですね。それを医療職に伝えられる介護職が相対的に減ってきているから。

様々な変遷を経てきた介護の歴史。
その歴史を振り返ってみると、これからの未来でどのような“介護職の働き方”、そして“求められるケア”が生まれてくるのかが少し想像できるかもしれません。

イベントを通して、私は介護の歴史はどの時代も民間の動きが国の政策を動かしてきたような印象を受けました。

現場で働く中で疑問に思うことや、必要とされていると感じたことを草の根的にでも取り組んでいくことが、これからどんな時代が訪れても大切なのではないかと考えさせられました。

そして、金山さんがお話をされていた「現在、介護職に求められている力」

「自分だけで解決するべき」と考えるととても難しいことが求められているように感じる一方で、介護業界で働く人の力のみならず、他業界で働く人や地域の人からの協力も得られるのもなのであり、いかに「他者との協力ができるか」が鍵になっているように感じました。

介護の仕事を始めて3年目。介護の歴史に今回触れたことで現場での実践だけではなく、今までの介護業界の流れを知ることで、これからの仕事に対する意識や考え方も変わっていくのではないかと思います。 

金山さん、軍司さん、お話いただきありがとうございました。

話題提供者・ファシリテーターの紹介

話題提供者:金山峰之(かやま・たかゆき)

介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員。
ケアソーシャルワーク研究所 所長。
現場で働く傍ら、職能団体の活性化をはかる活動や、研究、コンサルティング、介護関連の講演、講師、教育活動に取り組んでいる。

ファシリテーター:軍司大輔(ぐんじ・だいすけ)

NPO法人コトラボ代表理事。
珈琲豆屋&珈琲スタンド OLIVE HOUSE COFFEE を運営する傍ら、医療福祉系大学での非常勤講師や 各種介護研修講師を務める。 

この記事を書いた人

渡部 真由

渡部 真由MAYU WATANABE

株式会社あおいけあ ケアワーカーKAIGO LEADERS PR team