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イベントレポート

介護の当たり前を問い直す-現場を変える、問いのデザイン- (PRESENT_25 安斎勇樹)

「毎日の仕事、ずっとこの進め方でいいのかな?」
「やってみたいことがあるけど、上司に言っても聞いてもらえないかな…」

介護現場では、それぞれの職種が日々、目の前の高齢者の暮らしをより良いものにしたいと考えていると思います。
一方で、介護施設ってこうだから…、そうは言っても人手も時間も足りない…、と無意識に諦めてしまっていることはありませんか?

「少しでも良くしたい」と願っているにも関わらず、上司、同僚や他職種との考え方の違いに悩んでしまうことや、これまでのやり方に囚われて新たなアイデアを発想することも難しく、現状をそのままにしてしまうという課題もあるのではないでしょうか。

その現状は、良質な「問い」を設定することで、改善されるかもしれません。

2020年11月14日に開催されたPRESENT_25のゲストにお迎えしたのは、株式会社ミミクリデザイン CEO、株式会社DONGURI CCO、東京大学大学院 情報学環 特任助教である安斎 勇樹さん。

『介護の当たり前を問い直す-現場を変える、問いのデザイン-』

このタイトルでオンライン開催されたPRESNT_25では、メンバーの目線を揃え、柔軟なアイデアを生む仕掛けである「問い」をいかにデザインするのかを学びました。
その安斎さんのお話をレポートしていきます。

前半は、「当たり前を揺さぶる問いのデザインの技法」というテーマでお話いただきました。

ファシリテーターとしての原体験

「どうやったら人は新しいことに気づくのか」
「主体的に何か創造的な発想に取り組めるようになるためには、どうすればいいのか」
を追究する安斎さん。
もともと工学部でモノづくりをしていたそうですが、なぜファシリテーションやワークショップの研究を始めたのでしょうか。
そのきっかけとなった原体験があるそうです。

大学生の頃、小学生や中学生向けのワークショップをしていました。
その時に、小学5年生で吃音があり、言葉をスムーズに話すのが難しいある男の子と出会ったんです。毎回僕のワークショップに来てくれていたのですが、アイスブレイクの自己紹介で、言葉が詰まってしまうことがあると、同席していたお母さんが代わりに自己紹介をしていました。
「お母さんが、もうちょっとこらえてくれればな……」と思いつつ半年が経ちました。
その頃、「新しいゲームを作るワークショップ」を開催し、アイスブレイクで、「昔ハマっていた遊びって何がある?」って聞いたのです。そうしたら、彼が、誰も知らないローカルな遊びを教えてくれて、他のみんなが「何それっ!」って注目しました。それをきっかけに、彼はめちゃくちゃ喋れるようになり、その後のグループワークでも、どんどんアイデアを出すようになって、衝撃的でした。
「この説明がつかない現象を説明できるようになる必要がある」と強く感じて、ワークショップの研究を始めました。

ファシリテーションとは

安斎さんは、“ファシリテーション”について、以下のように説明しました。

ポテンシャルを開花させるのが、ファシリテーションなんです。ポテンシャルは潜在能力という意味です。
「本当はここまでできる!」「こんなことがしたい!」というのが、今の学校や家庭環境等では抑圧されてしまうんです。

では、どうすればポテンシャルを開花させることができるのでしょうか。

ひとつ鍵になるのが、衝動だと考えています。
「なにかやりたい!」と、止められなくなっちゃうみたいな。
あれは、とても大事な欲求だと思っていいます。
ジョン・デューイという教育哲学者が、「すべての人間の学びは衝動を起点にする」と述べています。伝統的な学校教育はそこに蓋をしたまま、「何かを学べ」って言ってしまうんですね。

衝動を殺しながら生きていく人は多くいます。

海外の人が日本に来ると、「トイレへ行っていいですか」と許可をとる日本人の姿に対して驚きます。「誰に許可を取っているのだろうか」と。無意識のうちに許可者を設定して、許可を取りながら衝動に蓋をしてしまうのです。ですから、「衝動に蓋をしないまま生きる」って結構トレーニングが必要なんじゃないのかなって思っています。

安斎さんは、この点について、現代企業の課題にも通じていると捉えています。

企業の商品開発担当の人から、「新しいアイデアを生み出したい」と、相談を受けることがあります。
しかし問題を掘り下げると、心の底では「作りたい」と思えてない、というケースが少なくありません。
ただ、「作らなければ」という義務感で、ものづくりをしている状況です。

どうすれば、チームの創造的な衝動を発揮することができるのでしょうか?

そのキーが、「問いのデザイン」と「遊びのデザイン」にあります。
今日はそのなかでも、「問いのデザイン」についてお話させていただいて、皆さんの現場とかお仕事に活かせるところがあったらいいなと思っています。

問いのデザインとは

「良いアイデアが浮かばないとき」
「話し合いが盛り上がらないとき」
「わかりあえないと感じるとき」
「組織の一体感が薄れているとき」
「問題がなかなか解決されないとき」

上記のようなことが起きているときは、何かノウハウを取り入れようとしがちです。
しかし、安斎さんは、「チームが向き合っている“問い”がよくないのではないか」と指摘します。
それを決定づける具体例をお話してくださいました。

ある自動車メーカーのカーナビを作る部署の方から安斎さんは、このような相談を受けました。

「これから自動運転社会が来るから、このままだとカーナビが無くなってしまうかもしれない。カーナビを生き残らせるために、AIを活用した未来のカーナビを作るように言われていて、会議を何度もしたけれど良いアイディアが出ません。どうしたら良いのでしょうか。ファシリテーションが悪いように思うのですが……」

クライアントチームの皆さんから、「衝動を感じない」と思った安斎さんは、恐る恐る聞いてみました。

「自動運転社会のカーナビの意義ってなんですかね?」
「みなさんは、なぜカーナビにこだわってるんですか?」

すると、なかば反論するように「我々は、カーナビを作りたいわけじゃないんですよ」と返ってきました。
「自動運転技術が出来ても、車で移動する時間は無くならないと思うので、移動の時間をデザインしたいんです」とも。
この時、明確に空気が変わりました。“新しい問い”が再設定された瞬間です。

その後、カーナビに関係ないアイデアがどんどん出てきて、実際に、カーナビに関係ないプロダクトを作っているそうです。

向き合っている問いって本当に大事なんだなって実感しました。

「カーナビは当然必要だ」といった固定概念は、どのような職種でも、どうしても作られてしまいます。
固定概念があるからこそ、物事がスムーズに進むのです。
しかし、他方で、様々な呪縛に囚われてしまうのです。

問いのデザインの価値は、「良い答えを導き出せること」だけではありません。固定概念を揺さぶって、問題を捉えなおして課題を再定義することができて、本当に解くべき課題に向き合うことができるということも、問いのデザインの意義です。いろんな現場で求められていることだと思っています。

人間は、「固定概念から逃れにくい」という悲しい性質があります。なぜなら、人は勝手に枠を設定して考えてしまうからです。これを心理学では「準拠枠」という言葉で説明します。これがポジティブに働く場合もあれば、固定概念として働いてしまう場合もあります。

介護という領域の中でも様々な枠があるはずなんです。それは、業界全体に蔓延しているものかもしれないし、日々のコミュニケーションの中で発生するものかもしれないです。勝手に設定した枠が原因で、固定概念から逃れることができず、発想を制約してしまったり、コミュニケーションを深められなかったりします。

このような時に大事になってくるのが、「問題をいかに課題に変換するか」ということであると、安斎さんは語ります。

問題をいかに課題に変換するか

問題と課題の違いについて安斎さんはこう説明します。

問題は、目標みたいなものがあって、「こうしたい」と動機付けられているんだけども、どうやったらそれが上手くいくかわからない状態です。一で、課題というのは、「これが解決すべきミッションだよね」って合意した問題のことです。
職場で課題が合意されているケースなんて、ほとんど見たことがないです。「うちって離職率高いよね」「なんかギスギスしてるよね」等の問題についての会話はあっても、取り組むべき課題については、ほとんど合意されていない。あるいは、合意されていてもズレているケースがあります。

では、どうやって課題を設定すれば良いのでしょうか。

目標があって、現状との差分が問題状況で、そこに解くべき課題があるのです。

適切な課題をデザインするポイントについて、安斎さんは4つ紹介してくださいました。

目標を3種類に整理する

1つめは、目標整理についてです。
目標がズレていて、合意できていないことが多いです。
さきほどの例だと、「AIを使ったカーナビのアイデアを出す」という目標が、まずズレていますよね。
なので、まずは目標を整理しましょう。

目標には3つあります。ビジョン成果目標プロセス目標です。

分かりやすいのは成果目標です。たとえば、「1年後までに100万円貯めるぞ」の様に、「いつまでに、どうなっていたら嬉しいか」みたいなものです。ここは定義しやすいし、合意しやすいです。成果目標は立てやすいのですが、これだけ合意していてもなかなかうまくいかないのは、他に異なる2つの目標があるからです。

プロセス目標については、以下のように説明します。

プロセス目標は、「どういうプロセスを辿って成果を出したいか」ということです。プロセス目標がズレてるとチームはうまくいきません。例えば、「1年後までに100万円貯める」って家族で合意していたとしますよね。奥さんは「節約頑張るぞ」って目標を立てて、旦那さんは「収入を上げるぞ」って目標を立てていたとします。成果に辿り着くためのプロセスが違うと、奥さんは旦那さんに対し、「なんであんなにお金を使ってるんだろう」という想いを抱き、一方で旦那さんは奥さんに対し、「何で節約してるんだろう。仕事するためにこの出費は必要だろう」と、分かり合えません。このように、「どういうプロセスを辿りたいか」って、結構重要なんです。

最後に、ビジョンについてです。

「100万円貯める先に何があるのか」がブレてしまうと、途中で誰かが妥協し始めたりします。
達成の先に何を目指すかがブレているんです。
例えば、「子どもが、将来に向けてコツコツ貯める習慣を身につけること」がビジョンだとします。
それにもかかわらず、子供が途中でよく分からないハッキングをして短期間でそのお金を貯めたりしたら、ビジョンは叶わないじゃないですか。成果は達成できるかもしれないけど、何のためにそれを目指してるのかがブレている状態です。

これらの3つの目標を統一するのが個人レベルでもチームでも実は重要なんです。

課題設定の罠に気を付ける

2つめは、「課題設定の罠に気をつける」です。

課題を設定するときに囚われがちなBadパターンがあります。よくあるのは「自分本位」というパターンです。
自分の問題を自分のためになんとかしよう」と思ってしまうんですね。
カーナビの例ってまさにそうです。「カーナビが無くなったら、自分が作るプロダクトが売れなくなって困る」っていう課題設定をしています。こういうのは、共感を生めない課題設定なんです。
地域の課題でもよくあります。「観光地にどうやって人に来てもらうか」、「売上をどうすれば得られるか」等…。自分の視点で課題を設定してしまうと、人を巻き込めず、人に助けてもらえないということがよくあります。

他にも、課題を設定するときに囚われがちなBadパターンがあります。

2番目の手段の自己目的化もよくあるパターンですね。
学校現場とかだと、「アクティブラーニングはどうやったら成功するか」を課題として設定したりします。「何でそんなことをやるんだっけ」という大義を見失ったまま、「アクティブラーニングを成功させること」が学校のミッションになっていたりします。

3番目の「課題の設定がネガティブで、うまくいかない原因を他責的に考える」というのも多いですね。
例えば、「上司が部下のせいにしている」というのは良くないです。自分は問題の外側に置いて、「あの人がもう少しこうしてくれたら」と他責的な課題設定をしてしまいがちですが、チームの問題として捉えないと、問題は解決されません。

課題設定の罠として、「規範的で耳障りがよい優等生的な課題が設定され、課題が深まらない」、「根本的な問題の解決を目指すあまり、課題が壮大になりすぎる」といったことも挙げられていました。

リフレーミングパターンを活用する

ここからは、適切な課題をデザインするポイントの3つめ「リフレーミングパターンを活用する」についてお話いただきました。

上記の課題設定の罠を回避するために、いかに物の見方を書き換えるかについてこのように語ります。

例えば、先ほどの自分本位のパターンについては簡単です。他の人の視点で、他の人にもメリットがあるような目標に変えます。
「うちのプロダクトが生き残るにはどうしたらいいか」じゃなくて、「うちの技術で提供できる価値ってなんだろう」という風に、少し変えるだけで、利他的に変わりますよね。

「ネガティブ・他責」というのも、リフレーミングしやすいです。
「営業チームと開発チームが仲悪いんだけど、どうしたらいいか」ではなく、「営業チームと開発チームがお互いのポテンシャルを活かせる関係性って何だろう」みたいな問いにするだけで、前向きになりますよね。
「若手の主体性が足りない」ではなくて、「若手が気持ちよく働けるような職場環境にするにはどうしたらいいか」って考えると、建設的な課題になりますよね。

「優等生」的な課題設定をしてしまわないためにはどうすればいいのでしょうか。

「規範の外に一歩はみ出してみる」というのは、有効な方法です。「理想の学校教育を考えよう」といったテーマで話し合いをすると、耳障りのいい意見がいっぱい出て、グループごとに発表してみると、みんな同じ意見だったりします。
そんな時は、理想の教育を考える前に、「国を滅ぼす最悪の授業を考えてみませんか?」って言います。
そうすると、自由な意見が出たりして、想定の外に理想の学校教育を考えるヒントがあったりするんです。
介護現場でも是非、炎上しない程度にやってみてください。

他のリフレーミングパターンについて興味のある方は、是非とも安斎さんの共著書問いのデザイン-創造的対話のファシリテーション-』(学芸出版社)をチェックしてください。

ルーティンを問い直す癖をつける

適切な課題をデザインする4つめのポイント「ルーティンを問い直す癖をつける」についても説明がありました。

ルーティンとは習慣です。ルーティンを問い直すことについては、生活やお仕事の中で、問いのデザイン力を鍛える意味でも、現場を変える意味でも、考えて欲しいです。ルーティンは基本的には問い直されないんですよ。

「なぜやるのか」、「なにをやるのか」、「どうやるのか」。
英語でいうと「why」、「what」、「how」。

これらが違和感なく繋がっているルーティンは普段疑問に持たれません。
ルーティンが問い直されるときは、この構造が崩れるときです。
例えば、仕事の中でやっているルーティンのwhyのところを疑ってみる。やるのが当然になっていることを、あえて止めてみるのです。他にも、やり方をあえて変えてみるとかですね。
日常のルーティンを「当たり前じゃないかもしれないな」と距離を取ってみると、問いが生まれるきっかけになったりします。

前半のパートが終了し、「あなたの現場で“当たり前”になっている、問い直したいルーティンはなんですか?」というテーマで、参加者がグループごとで話し合う時間がありました。

問いとコミュニケーションで現場を変える

後半は、「問いとコミュニケーションで現場を変える」というお話をしていただきました。
様々な凝り固まったルーティンが蔓延していることにより、様々な別の問題が生じます。
例えば、技術系メーカーでは、以下のようなお悩みが”あるある”なのだそうです。

「うちのエンジニアは技術バカで主体的にアイデアを提案してこない。どうしたら良いのでしょうか」

こういうケースは、エンジニアの方に話を聞いてみると、
「技術を活かしたイノベーションに興味があってこの会社に入ったのですが、うちの上司の頭が固くて、技術もよくわかってないので、提案しても話を聞いてくれないんです」
などと考えていたりします。

ところが、上司からは、「技術者に向けてアイデア発想のスキルを教える研修をしてほしい」という依頼が来てしまうのです。本当の問題はそこじゃないですよね。両者に必要なのは、ノウハウとかアイデア発想フレームとかではなく、関係性を編み直す対話なのです。

介護現場でも、このような問題は色々あります。

問いのデザインのファシリテーターとして私たちが大事にしていることは、「現場の課題はコミュニケーションで解決する」ということです。みなさんにも大事にしていただきたいです。自分がどのような固定概念に囚われているか、どのような課題をリフレーミングすれば良いのか、自分の物の見方やルーティンをどう捉え直していくかというのも、もちろん重要ですが、自分だけで実践し、自分のなかで大事にしておくだけでは、もったいないと思います。自分のなかの問いを変えるだけでなく、他者と共有してコミュニケーションをとることがとても大事です。

ダニエル・キムの成功循環モデル

ここで、「組織をより良くする」というテーマで話をする時によく引用されるという、ダニエル・キムの成功循環モデルを安斎さんは紹介しました。

良い結果を出したいと思った時、根本的には、人間関係の質を上げる必要があります。その関係の質が良くなれば、日々考える思考の質が良くなるし、思考の質が良くなれば、行動の質が良くなる。そして、「結果の質が上がります。これが、成功循環モデルです。

先ほどの上司と部下のように関係の質が悪いと、「提案しないエンジニアだ」とか「上司の頭が固い」という質の低い思考になり、アイデアの提案をしないといった様に行動の質が低くなったり、「外部の研修を導入しよう」といった謎の無意味な行動をとったりして良い結果が出ない悪循環になるんですね。

安斎さんは、このダニエル・キムのモデルを書き換えているそうです。

関係の質」の背後には、「問いの質」というものがあると思っています。そして、良い問いをチームで共有すると、良い対話が生まれます。良い対話が生まれるから関係が良くなる
つまり、チームが共有する問いの質が変わりさえすれば、対話的なコミュニケーションが生まれます。対話があるから、お互いの溝が理解できて関係の質が良くなるので、やっぱり関係の質が改善しなかったら問いを変える必要があるのです。

対話とは

「対話」については、次のように説明します。

対話というのは、「相手の意見、事実への意味付け、背後にある価値観に目を向け、お互いの相互理解をしながら、共通の意味づけを生み出すこと」です。お互いのわかり合えなさを乗り越えて、お互いが納得できる新しい意味を共有したり、作ったりすることとも言えます。

もう少し解像度をあげて説明していきます。オットー・シャーマーの『U理論』という本で紹介されるオットー・シャーマー・モデルを少し改変したものを、さらにわかりやすく改変したものを用いて説明していきます。

会話における4つの領域

人間のコミュニケーションは、領域1(儀礼的会話)→2(討論)→3(探究的対話)→4(創造的対話)になるにしたがって、より良い対話になっていくと説明しているんですね。

レベル1は儀礼的会話です。

習慣的な儀礼に従って相手の意見に当たり障りなく合わせ、お決まりのセリフを再現しながら会話するような状況です。

レベル2は討論です。

「どちらが正しいか」と、相手の意見をジャッジしながらコミュニケーションを取るようになります。「なんか違う」と思ったら、流さないで、「何でですか」って食い下がっていき、お互いの意見を組み交わして討論していきます。そして、最終的に正しさを決めようとするのが、“討論”というコミュニケーションですね。

レベル3は、探究的対話です。

ここからは、いよいよ“対話”になっていきます。お互いのことを分かり合おうとする探求的対話が発生するようになります。

自分の意見に固執したり、自分の正しさを主張しようとせず、自己を内省しながら語ります。また、相手の意見について、すぐに「間違っている」等は言わずに、相手に寄り添いつつ、相手がどう考えているのかを聞きます。
この探究的対話には、「自分自身を全体の一部とみなす」ということが大事だと言われています。

レベル4は、創造的対話です。

お互いにとっての新しい意味を見出したり、みんなが同意できるものを作ろうとする、クリエイティブな対話のことです。

各領域ごとのイメージ図は以下の通りです。

まとめると、お互いの自分の本当の意見をボールに例えた場合、自分のボールを隠して会話するのが儀礼的会話です。自分のボールをお互いにぶつけ合って、どちらが正しいのかを決めるのが討論です。相手のボールをよく見て理解しようとするのが探求的対話です。あなたのボールはわかったし、私のボールもわかったので、一端ボールを置いて新しいものを作ろうかというのが創造的対話です。普段、儀礼的会話や討論しかしていない場合、お互い分かり合えない状態から脱することができないのです。現場で良い対話を生み出せれば、良い状況を作れますが、なかなか奥深く難しいですよね。

自分のなかだけでなく、他者とともに

人が「協力したい」とか、「対話をしよう」と思うのは、その人とコミュニケーションをとらないと、問題が解決しないという状況の時です。これは、とても大事なことです。

皆さんが考えていきたい介護の課題があると思うのですが、これを自分のなかに持っているだけでは、もったいないので、誰かに問いかけたり共有したりして、その問いに立ち向かっていくという構造を作っていかないと、現場は変わらないと思います。

問いを他者に投げかける際のヒントを共有しておきます。

「問いを投げかければいいんですね」と、研修から帰って職場に問いを投げかけてみると結構失敗する人がいます。理由は、自分が問いかけたい問いを投げかけて上手くいくとは限らない場合があるからです。これ要注意ですね。

ファシリテーションの本質は、本当に解くべき課題を設定して、それをチームに共有して、その課題がちゃんと良い感じに話されるプロセスを組み立てることが重要で、いきなり本題に入らないことが大事だと思います。

自分のなかで「ルーティンを変えよう」、「問いを変えよう」と、前半の講義ではそれぞれが考えていたと思います。
しかし、それだけでは足りないと安斎さんはメッセージを送りました。

次の段階で、これを是非他の人にどう投げかけ、どう共有するかを考えていきましょう。そして、コミュニケーションを引き起こすことで、現場が変わり、皆さんの職場がよりよく変わるんじゃないかなって思います。

安斎さんのお話をふまえて、「あなたの現場の問題解決に向けて、誰とどんな問いを共有したいですか?」というテーマでグループごとに話し合いました。

皆さんは、安斎さんのお話を聞いて、どのように目標を整理し、課題をリフレーミングし、ルーティンを見直しますか?
また、それを他者にいかに働きかけていこうと考えますか?

是非とも、一緒に考えていきましょう。

ゲストプロフィール

安斎 勇樹

株式会社ミミクリデザイン CEO。株式会社DONGURI CCO。東京大学大学院 情報学環 特任助教。1985年生まれ。東京都出身。東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)

研究と実践を架橋させながら、人と組織の創造性を高めるファシリテーションの方法論について研究している。組織イノベーションの知を耕すウェブメディア「CULTIBASE」編集長を務める。

主な著書に『問いのデザイン-創造的対話のファシリテーション』(共著・学芸出版社)『ワークショップデザイン論-創ることで学ぶ』(共著・慶応義塾大学出版会)『協創の場のデザイン-ワークショップで企業と地域が変わる』(藝術学舎)がある。

開催概要

日時:2020年11月14日(土) 19:00~21:30
場所:オンライン(Zoom配信)

PRESENTについて

2025年に向け、私たちは何を学び、どんな力を身につけ、どんな姿で迎えたいか。そんな問いから生まれた“欲張りな学びの場”「PRESENT」。「live in the present(今を生きる)」という私たちの意志のもと、私たちが私たちなりに日本の未来を考え、学びたいテーマをもとに素敵な講師をお招きし、一緒に考え対話し繋がるご褒美(プレゼント)のような学びの場です。

 

この記事を書いた人

森近 恵梨子

森近 恵梨子Eriko Morichika

株式会社Blanketライター/プロジェクトマネージャー/社会福祉士/介護福祉士/介護支援専門員

介護深堀り工事現場監督(自称)。正真正銘の介護オタク。温泉が湧き出るまで、介護を深く掘り続けます。
フリーランス 介護職員&ライター&講師。

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