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ゆっくり、いそげ 〜ギブから始める自分らしさの見つけ方〜 (CONA_05 影山知明 レポート)

全国での活動 REPORT 大阪 オンライン

「目の前の人を大事にする」

介護、福祉や医療と密接して働く私たちにとって、大切にしたい想いの1つではないでしょうか。
しかし、日常の業務に追われ、心に余裕が無くなり、なかなか思うようなかかわりができない時、
「本当にこれがよいかかわりなのか」
「利用者や一緒に働く仲間を大事に出来ているのか」
など疑問や難しさを感じている方も多いのではないでしょうか。
また、仕事を通してやりたいことや思いがあっても、組織の中ではなかなか実現が難しかったり、いつのまにか目の前の人を大事にすることではなく、効率や利益を追求することが目的になっていたりすることはないでしょうか。
その結果、自分らしく働けていない方も多いかもしれません。

大阪の伝統ある“粉もん”のように、人々の幸せな暮らしに関するあらゆるものをつなぎ、混ぜ合わせ、新たな可能性を探求していく場所“CONA”。

20201128日に開催されたCONA_05のゲストにお招きした東京・国分寺にあるカフェ、クルミドコーヒーと胡桃堂喫茶店の店主である影山知明さんは、お客さんはもちろん、スタッフの方に対しても「目の前の人を大事すること」を第一に、「ギブすること」つまり「贈ること」を仕事の目的とした「支援し合う組織作り」を実践されています。
そんな影山さんが大切にされている言葉が
「ゆっくり、いそげ」
一生懸命、時間をかける。一生懸命、手間暇をかける。
そうすることで、目的地には思いのほか早くたどり着けるのかもしれません。

影山さんのこれまでのお話を伺ったとともに、「目の前の人を大切にする」かかわりや「ギブから始める」実践について学ぶことができました。

そのお話の一部をレポートしていきます。

自分の中に種のあることをやる

影山さんは、カフェといった分野ではなく、もともと投資ファンドや経営コンサルティングにかかわっていました。
15年前、ご実家を建て替えるという話が持ち上がったとき、家族の中で影山さんがその話を引き受け、「その1階に地域の縁側になるような場所ができるといいな」と、カフェの立ち上げへと踏み出したのです。
クルミドコーヒーという店名の由来について、まずお話いただきました。

クルミドコーヒーの由来は、食べ物のくるみです。
カフェを立ち上げる際に相談していた井川啓央(いかわよしひろ)さんという方から、最初に「影山君の好きな食べ物は何?」と質問されました。それに対して、とうもろこし、天津甘栗、くるみパン、フルーツグラノーラや柿等好きな食べ物を挙げました。すると、「それ全部かじる物だよね、影山君はよくよく見るとネズミに似ているし、前世は絶対げっ歯類だよね」と言われたんです。確かに、自分でも思い当たることがありました。高校時代の一部でのあだ名が、似ているという理由から「ジェリー」(アニメ「トムとジェリー」のネズミ)でしたし、隠れた特技がミッキーマウスの声真似です。当時35歳で自分の前世に気が付く体験でした。

この何気ないやりとりをきっかけに、「ネズミやリスといった小動物が木の実を集めてつくった店」というコンセプトが思い浮かび、クルミドコーヒーという形に結実していったそうです。

笑い話のようなんですが、実はこのやりとりにとても大事な意味が含まれていると感じました。自分なりの解釈ですが、井川さんの言葉からは、「あなたの中に種のあることをやりなさい」と言われていると感じたのです。

「自分の中に種のあること」
影山さんにとっては、「前世がげっ歯類であること」、そこに揺るぎなさや一貫した世界観が生み出されていく源があります。

経営の方法論としては、世の中がどんな状況なのか、どんなニーズがあるのか、競合相手はどうか等、環境の分析をした上で成功しそうなお店を作る方法が一般的です。でも、そういったものづくりって、結局外発的なんですよね。そのお店をつくるきっかけが外側から与えられている分だけ、ぶれたり、世界観を貫けなかったり、薄っぺらいものになってしまったりしがちだと思います。だからこそ、頭で考えたことよりも、「自分の中にある種は何か」に気づくことが大事なのでしょう。

影山さんは元々、カフェを本業としてやっていく気持ちはあまりありませんでしたが、その魅力に取り憑かれ、今では、「自分はカフェをやるために生まれてきた」、「天職にめぐり会えた」と感じているそうです。

自分の職業選択に悩みすぎない方が良いと、個人的には思います。呼ばれるところに身を預けていくなかで、きっといつか辿り着けるものなのかもしれませんから。

「ギブ」の積み重ねで、上手くいく

競合である大手チェーン店が新店舗をオープンさせたり、リーマンショック、東日本大震災、消費税の増税、新型コロナウイルス感染症感染拡大といった危機的状況もこれまでありました。でもそのような中でも、お客さんは減ることがなく、むしろ昨年の7月〜9月は、コロナ禍にもかかわらず前年の売り上げを上回ったそうです。

今からする話は、「また、なに綺麗事を言ってんだ」、「いや、そんな風に世の中うまくいかねーよ」と、聞こえる部分も大いにあると思います。でも、綺麗事も徹底してやれば、ちゃんと結果は後からついてくるものではないかと自分は信じています。

このような導入から、「なぜ危機的状況を乗り越えることができたのか」のお話を始めてくださいました。

大手資本、なかでも上場企業は株主からのプレッシャーを受けます。なので、何のためにお店を作るかを端的に言えば、「売上を上げるため」、「利益を出すため」といった側面がどうしてもあります。その結果、お客さんが売上等の数値目標を達成するための手段になってしまうことがあるわけです。働いている人が個人的にどう思っているかは別として、構造的にそうなってしまいます。
その点が、僕らは異なっていたわけです。
僕は、生まれ育った西国分寺にお店を作る際、まだ前職の仕事を続けていたこともあり、「来た人に喜んでもらえるようなお店にしたい」、「このまちが、ちょっとでも良いまちになったら嬉しいな」という想いで始めていました。

影山さんは、ギブとテイクという言葉を用いて整理します。

チェーン店は、自分たちの利益をテイクするためにお店をやっているという構造であるのに対し、僕らの店は、お客さんに喜んでもらうためにギブする側面があるということです。

大事だと思っているのは、「仕事は誰かに喜んでもらうためにするもの」ということです。クルミドコーヒーの運営を通じて確信するようになったことです。「自分のやりたいことをやる」のと、「誰かを喜ばせるためにやる」のとでは質が違うと思っています。ある人の言葉で、良いなと思って自分の座右の銘にさせてもらっている言葉があります。それは、「自分を喜ばせるためにするものは趣味だ。仕事とは誰かを喜ばせるためにするものだ」という言葉です。自分のために頑張ろうと思っても、どこか手を抜いてしまいます。一方で、誰かに喜んでもらおうと、具体的に顔を思い浮かべながらやる時は、その人が自分にとって本当に大事な人なら手を抜けないし、自分の身の丈を超えても「がんばろう」と思う。それが、結果的に人を成長させます。また、そうした仕事を届けることで、それを受け取ってくれた人がその先、お店へと返してくれることもあります。

一緒に働いている仲間にもギブする

お客さんだけではなく、一緒に働く仲間にギブすることの重要性についてもお話してくださいました。

外に向けて綺麗事を言っているけれども、結果的に、一番身近にいる仲間たちを手段にしてしまうことも起こり得ます。それは嫌だったので、「一緒に働いてくれる一人ひとりを活かしていくためには何ができるか」も考えるようになりました。

クルミドコーヒー・胡桃堂喫茶店併せてスタッフは約35名で、そのうちの14名が社員とのこと。

僕が経営者として考えていることは、その35人、一人ひとりがいかに仕事を通じて、それぞれを発揮していけるか。全員が同じ価値観や世界観を持っているわけではなく、それぞれ別々のベクトルを持っています。もちろん、「カフェを通じて来てくださった人たちに元気になってもらいたい」といった共有する思いはありますが、一人ひとりに異なる、それぞれの中で眠っている種が発芽するように応援したいという気持ちでかかわっています。

出版、地域通貨、哲学カフェ、お米づくりなど様々な事業に取り組まれています。
その背景には、常に特定の「だれか」がいるそうです。

誰かを支援するようにかかわり、かかわった人たちの中に眠っていた種が芽を出し、葉を広げ、幹となり、枝を伸ばし……という感じで育ってきたのが、それぞれの事業なんです。

病気にならないために、カフェがある

クルミドコーヒー・胡桃堂喫茶店がコロナ禍にあっても比較的堅実に売上を上げていくことができた秘訣について、影山さんはこのように話しました。

ひと言で言うと、「生命力」なんじゃないかと考えています。社会が不安な時期、見えないものに怯えざるをえない時期に、「どういう場所に行きたいか」って考えた時、「元気なところ」、「働いている一人ひとりがいきいきしている場所」を自然と選ぶ気持ちは多くの人の中にあるのではないでしょうか。もちろん、受け容れられるリスクは一人ひとり違うので簡単なことは言えませんが、生命力に満ちた場所を求める気持ちは、こうした情勢だからこそ強くなっている面もあるのだと思います。

また、コロナ禍におけるカフェの意義についても語ります。

カフェは、まちの保健室だと考えています。何かうまくいかないことがあったりして、帰り道にふさいだ気持ちでいる人が、カフェに寄ることで一息つけて、心身をリセットして家路につくことができる。来たときよりも元気になって帰る。このように、カフェのような場がまちの人たちの健康を保つことに貢献している面だってあるんじゃないかと思うんです。病気になった時に病院が必要であるように、病気にならないために、まちにカフェがあると良いんじゃないかと。

そのためには、何よりも、僕らが健康で、生命力に満ちた状態であれることが大事。会社や組織など、誰かのために利用されるということではなく、一人ひとりが自分の中の種を自然と発芽させるように仕事をする。そういう職場環境であることで、お店そのものがいきいきとした場であれるのだろうと思うのです。

最終的な解決策は、話し合いしかない

参加者のグループごとの感想共有を経て、後半は、影山さんがお話してくださったような組織を作るために具体的にどうすれば良いのかを教えていただきました。

KAIGO LEADERSの皆さんが、「2025年日本のリーダーになる」と、考えた時に、職場でなかなかそれを体現できないかもしれませんが、いずれ職場をつくる側になるというイメージを持ちながら聞いてもらえるといいんじゃないかなと思います。また、「自分の思うようにならない」という経験を積み重ねていくことは間違いなく大きな糧になると思います。人間は、違和感や不快に感じる経験を積み重ねることで、その先に「そうじゃないもの」を力強く目指せるということがあるはずです。

影山さんの組織にも、軋轢や衝突など、上手くいかないこともあったそうです。
そのような時に何をしたのでしょうか。

最終的に、軋轢や衝突を解決するのは話し合いしかありませんね。お店の定休日である木曜は、必ず社員が集まって、2〜3時間、お店のことについて話します。積み重ねる中で、お互いを理解し合い、お店をちょっとずつ良くしていく。1年に約50回、10年間やれば500回のこの定例会がエンジンとなって、これまでのお店をつくってきたと考えています。

話し合う時のコツも紹介してくださいました。
1つめは、「話すことよりも聞くことに意識を持つ」こと、2つめは、「違いを楽しむ」ことです。
これらのコツを意識することで、建設的なやりとりをすることが出来るそうです。

また、組織における“リーダー”についても言及します。

僕は、代表取締役なので、メンバーに指示命令する権限を持っているはずです。ただ、一切そういうことはしませんし、しても聞いてもらえない状況があります(笑)。もちろん、僕も意見をいいますが、あくまでそれは参加者のうちの1人の意見であり、それを含めて皆で話し合って決めていきます。別の言い方をすると、全員がリーダーである組織という言い方もできると思います。特定の誰かが決めるのではなく、一人ひとりが、それぞれの自己決定を持ち寄って組織をつくるということです。結果、その方がいい決定にたどり着けると思いますし、それぞれがたどり着いた決定を自分事として捉えられるようになると思うのです。やらされている人がいない。だからこそお店の日々が、生命力に満ちていくのだと思います。

受ける人が贈る人を育てる

参加者から「福祉職は、人のために頑張りすぎて身を削ってしまう人がたくさんいる。その塩梅はどうすればいいのでしょうか」という質問がありました。
それを受け、影山さんより組織において「受ける」役割の重要性についてのお話もありました。

組織やチームを作っていく関係性のなかで、僕はピッチャーよりキャッチャーの方が大事だと思っています。つまり、受ける人が大事。
実は、誰かのために尽くして身を削ってしまうケースというのは、それを受けてもらえないことによって報われない気持ちを蓄積した結果ということが多いと思います。「受けることを上手になろう」、これは僕らチームの1つの標語にもなっています。

「受けること」の大切さを、土を例に挙げて説明してくださいました。

「種が芽を出すためには土が必要」というすごく単純な理屈がありますね。種だけでは芽を出せず、それを受け止めてくれる土があって初めて芽が出て、育ち続けることができる。
でも、土って何もしないですよね。
別に、大したことはしなくても良いんですけど、ちゃんとその人の存在を受け止めることができたなら、それだけでも贈る側は報われるのだと思いますし、その過程で自分のなかに眠っていた言葉やアイディアがどんどん発現してくるのだと思います。
自分のなかの種に意識を向けることと同じように、自分の種を受け止めてくれる土がどこにあるかをイメージすることも大事なのでしょうね。

「受け止めてくれる土に出会いたい」、そう感じた方に、影山さんはメッセージを送ります。

まずは、あなたが土になればいい。あなたによって、受け止めてもらえる経験をした人が、次に「自分も周りの人を受け止める土になろう」と思ってくれることだってあるんじゃないでしょうか。

最後にまとめの言葉がありました。

世の中に今、必要なものは土だと考えてます。そして、カフェというのは、特に土としての側面を強く持てる場だと考えていて、それこそが僕が「一生を捧げる甲斐がある仕事だな」と思える理由の1つです。介護施設・福祉施設がそういった場になることも大いに考えられるでしょうし、様々な土のような場が世の中に増えていけば良いですね。いずれ皆さんが、そういった場をつくる側へとなっていったなら、少しはこの世の生きづらさが減るかもしれないなと思います。

福祉分野で働く職員の皆さんへもメッセージをいただきました。

目の前の人を大事にする気持ちと、その一方で組織の目標を達成することも目指さなくてはいけないということの葛藤に苦しんでいる際たる現場が、福祉領域なのかもしれません。逆に、そういう現場だからこそ両立を実現していく方法論を他の組織や他の現場以上につくり出していかなきゃいけないし、つくり出していける可能性があるのだとも捉えられないでしょうか。だからこそ、「ゆっくり、いそげ」で、「目の前の人を大事にするからこそ、組織としての目的地にも近づいていける」という両立するやり方を一歩一歩、一緒にチャレンジして実現していけたら良いですね。

ゲスト紹介

影山知明(かげやま・ともあき)

クルミドコーヒー/胡桃堂喫茶店 店主
1973
年東京西国分寺生まれ。大学卒業後、経営コンサルティング会社を経て、ベンチャーキャピタルの創業に参画。その後、株式会社フェスティナレンテとして独立。2008年、西国分寺の生家を建て替え、多世代型シェアハウスの「マージュ西国分寺」を開設。その1階に「クルミドコーヒー」をオープン。2017年には2店舗目となる「胡桃堂喫茶店」を開業。出版業や書店業、哲学カフェ、大学、米づくり、地域通貨などにも取り組む。
著書に『ゆっくり、いそげ ~カフェからはじめる人を手段化しない経済~』(大和書房)
『続・ゆっくり、いそげ ~植物が育つように、いのちの形をした経済・社会をつくる~』
(査読版、クルミド出版)

イベント概要

【日時】2020年11月28日(土)19:00~21:30(Zoom開場18:50)

CONAについて

CONAの由来は、大阪の伝統ある粉物から。いろんな食材をまぜこぜにして、食材と食材をつなぎ、美味しさを引き出す粉のように、人の幸せな暮らしに関わるあらゆるものをつなぎ、掛け合わせることにより生まれる可能性を探求していく場です。

この記事を書いた人

森近 恵梨子 Eriko Morichika
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株式会社Blanket ライター/プロジェクトマネージャー
社会福祉士/介護福祉士/介護支援専門員
介護深堀り工事現場監督(自称)。正真正銘の介護オタク。温泉が湧き出るまで、介護を深く掘り続けます。
フリーランス 介護職員&ライター&講師。


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