活動内容 ACTIVITIES

「助ける介護」から「良くする介護」へ。西院の取り組みから見えるみんなが楽しい自立支援とは?

全国での活動 REPORT 全国 オンライン

「自立支援って、”できないことを支える”だけではないんです」
そう語るのは、『全国介護・福祉事業所オンラインツアーのゲストである河本歩美さん

介護職員として約27年勤務してきた河本さんのモットーは「とにかく楽しむこと
それは、利用者はもちろん、現場職員も一緒に楽しむことだそう。


今回のイベントでは主に、そのモットーから生まれた、「利用者も職員も楽しい自立支援」の取り組みについてお話をいただきました。

また、
・デイサービス発信のオリジナルブランド「sitte
・デイサービスで働くこと

上記2点についても説明されました。

どんな法人でも、なんとかすればなんとかなる

河本さんが働く社会福祉法人京都福祉サービス協会。
京都市最大の社会福祉法人であるこの法人で、河本さんは高齢者福祉施設「紫野」の施設長をされています。

昭和61年から続くこの法人では、高齢者や障害を持った方、児童などさまざまな方に対して広く福祉サービスを提供しています。

河本さんが以前勤務していた「京都市西院老人デイサービスセンターで、オリジナルブランドである「sitte」が生まれました。

「100%行政寄りの堅い法人」

河本さんはご自身が働く法人についてそう紹介してくださいました。

でも、こういう法人だってなんとかすればなんとかなるんです。それをお伝えしたくて、あえて法人について紹介しました。

なんとかすれば、なんとかなる
笑顔でそう語る河本さんはご自身の法人で一体どのように働いてきたのでしょうか。

デイサービスの役割は「1日を楽しく過ごしてもらう」ことだけ?

西院は、1日に最大で35人の方がご自宅から来所されるデイサービスです。ここで河本さんは「その日1日を楽しく過ごして帰ってもらうだけではなく、より“その人らしさ”を引き出せるようなことはできないだろうか」と考えました。

その実現のために取り組んだのが“助ける介護”から“良くする介護”へ思考を転換することでした。

それまでは“お客様と職員”という関係性だった西院の利用者と職員。それは、職員が利用者に対してなんでも手伝う“助ける介護”になりやすい関係性でした。

そこから転換しようと思ったんです。利用者の思いをもっとアセスメントして、その人のできることやプラスの面に着目していって、できることが増えることでその人の自己実現に繋がっていく。そんな“良くする介護”ができる関係性や環境づくりをしていきました。

良くする介護”への転換のために西院では、その人ができることに着目し、生活機能の向上を目指す「よくする介護委員会」、利用者の「お友達とこれがしたい」など、日々の声を拾って思いの実現を目指す「夢をかなえましょう委員会」という2つの委員会を設置。そのことで職員が利用者からよりその人らしさを引き出し、互いに自己実現に向けて取り組みやすい環境を作りました。

ここでも大切にされたのは、河本さんのモットーである“楽しむ”こと。職員も利用者も楽しみながら自立支援ができる工夫をしていきました。

例えば、お惣菜を作るチームが生まれました。みなさん自分で原価計算をしたり、家で試作をしてきてくれたりしました。販売も、もちろんみなさんにしてもらいます。その時はお揃いのエプロンなんかもつけてもらって。利用者のニーズをキャッチして楽しみながら実現に向かう手伝いをすることが、私たちの仕事だと思います

このような取り組みを通して、利用者だけではなく職員も自然と“楽しむ”ことができているのではないかと、河本さんは感じています。

西院の利用者と職員で1泊2日の富士山旅行へも行きました。
「出かけた先で利用者と話をしたり、自分自身も外出を楽しめることで、職員のモチベーションにも繋がっているのではないかと思います。」と、笑顔でお話くださいました。


“3つのステップ”で変わった意識

利用者自身が自己実現をしやすい環境づくりをするために西院では“3つのステップ”に取り組んできました。

感謝の言葉を伝える

1つめのステップは、「感謝の気持ちを伝える」です。
言葉の掛け方で、利用者の動きが変わってきたそうです。

以前は、利用者から職員へ「ありがとう」と伝えている場面をよく目にしました。それを逆に、職員から利用者へ伝える感謝の数を増やすようにしてみました。すると、進んで下膳をしてくれる人が出てきたり、自分で役割を見つけて動いてくださる方が増えました。

自分でできる環境づくり

2つめのステップは、「自分でできる環境づくり」です。

作業療法士の職員や利用者自身と試行錯誤を重ね、フロア全体の導線を見直したり、浴室の環境や使用する用具を変えたりすることで、利用者が自発的に動きやすい環境を作っていきました

自己選択・自己決定ができる環境づくり

3つめのステップは、「自己選択・自己決定ができる環境づくり」です。

今日1日の過ごし方を利用者自身で決めてもらうために“レクリエーションボード”を設置しました。そうすることで、自己選択・自己決定の機会を意図的に生み出しています

ステップが生んだ意識の変化

この“3つのステップ”を踏んだことで、利用者だけではなく、職員にも意識の変化が見られたと河本さんは言います。

以前は利用者が椅子から立ち上がっただけで「支えなくちゃ!」とすぐさま駆けつけていく職員が多かったです。しかし、利用者自身の力を信じて見守ることができる等、本人の能力を活かした介護ができる職員が増えました。
さらに「あ、この方意外とこんなことできはるんや!」という新たな発見にもつながっているようです。

 

自発的に利用者が動ける工夫、そして本人の力を活かした介護に取り組む職員。

まだまだできることはどんどんやってもらいます。だから、包丁も針も使ってもらうことはやめません。それがお惣菜チームやこれから紹介する「sitte」のような“はたらく活動”につながっているんだと思います。

はたらくことは「今までの生活を続けていく」こと

西院では「はたらく活動」があります。デイサービスの中で自分ができることを活かした仕事をし、対価を得る活動です。

「はたらく」ことには3つの定義があると言われています。西院では、この3つの定義が重なることを「はたらく活動」として取り組んでいます。

そう語る河本さんは、西院で「はたらく」ことの意義として最も大きいのは経済活動を通じて「社会とつながり続けて、今までの生活をしていけること」であると考えています。

 

はたらく内容はその人ができることによってさまざま。絵馬の作成や駄菓子屋、Tシャツの発送業務など、個人個人の“できること”を活かした活動が行われています。
子ども食堂に出す150人分の食事を下準備するチームもあります。地域の企業と連携して洗車や封筒の作成などの取り組みも始まりました。

それから、私たちが最近力を入れているのが地元高校生との商品開発です。90代のおばあちゃんと17〜18歳の林業を学ぶ高校生がオンラインで「どんな商品を作る?」と話し合いました。

貯金箱などさまざまな商品を一緒に作ってきましたが、今年は鞍馬寺というお寺の記念品を作成しました(※)。普段登れないような段数の石段を登って、記念品をお渡ししていました。外部の方と連携して何かを作るのは職員はもちろん、やはり利用者もモチベーションが上がるようです。

※この様子は9月にNHKハートネットTVで放送されます。

「認知症があってもできる環境を整えれば、できることがたくさんあることを“知って”欲しい」
この「はたらく活動」は、そんな思いから「sitteプロジェクト」と名付けられました。

オリジナルブランド「sitte」に込められた思い

「もっとできることも、やりたいこともある。」そんな思いをより広く知ってもらい、啓発ができる仕掛けとしてブランドを立ち上げました。今まで取り組んできた商品作りももちろんその役割を果たしているのですが、より多様な人が商品の価値を認めて買ってくれるようなことができたら、啓発力はもっと上がるんじゃないかと思ったんです。

ブランド立ち上げの思いを語ってくださった河本さん。
「はたらく」ことを通して地域の多様な人と携わることが、利用者の生きがいづくりにもなるのではないかと考えています。

sitte流「はたらく意欲」の作り方

ブランド「sitte」で作っている商品はまな板とカッティングボード。デイサービスの時間で作成作業をしています。

大切にしていることは「はたらく意識の維持とモチベーションの向上」
そのため、「やりたい」と手を挙げたメンバーがチームになって活動されています。
そのことで仲間意識や所属意識を持ってもらうことが狙いだそうです。
作業をする部屋はデイサービスのフロアとは別の場所。出勤簿も設置されています。そうすることで、「働きにきている」という気持ちを高めてもらっています。

作成した商品は、京都と大阪に店舗を持つ「mumokuteki」にて販売しています。
自分たちで作った商品を店舗に見に行くことも。

商品価格が1万3千円であると知って「おお〜!」、「もっと頑張らなな」と、商品を眺めながら話す利用者もいるんです。

お金を地域に落とす意義

「sitte」から利用者さんへお渡しする謝礼は全て商店街で使用できる金券です。

現金でも良かったんですが、地域の商店街で買い物ができる仕組みにしました。そうすることで地域貢献にもつながってくると思ったからです。

金券ということもあって、最初は「なんじゃこの団体は」と不思議な目で見られることもありました。ですがしばらくすると「あ、これはsitteさんね」と知ってもらえるようになり、最近では利用者がお店の人に値切るなんてこともあります。

はじめこそ驚いた様子の商店街側でしたが、現在ではさりげなく認知症の方へのサポートをしてくれることもあり、「金券で地域の商店街へ行く」ことは、一つの啓発に繋がっているのではないかと河本さんはお話してくださいました。

この取り組みが、NHK厚生文化事業団が主催する「認知症とともに生きるまち大賞」で表彰されました。その時、審査員からのコメントが印象的だったと河本さんは話します。

「頑張ってる社会福祉法人に賞をとってもらいたかった。」って言われたんですね。もちろん、他の社会福祉法人もいろいろな取り組みをされて、頑張っています。ただ、外側へ向けたアプローチは少ない印象を受けています。内側だけではなく、外側にも発信していることを評価してもらえたならとても嬉しいと思いました。

“参加”からアプローチすることで生み出す好循環

こういう取り組みをしてるって言うと「“動けなくなった人とかはどうするんですか?」ってよく聞かれるんです。きっと、「その取り組みを物理的に実行する」という部分に囚われがちになってしまうんやろなって思います。西院では“体を動かすこと”よりも“参加すること”に意義があると思っています。

そう言って、河本さんが示してくださったスライドにはICF(国際生活機能分類の概念図。

河本さんはまとめとして、西院で大切にしている“参加”についてお話ししてくださいました。

表の中央に位置する“生活機能”のところだけを取り出すと、こんな矢印の流れになるのが一般的だと思います。

私たちもこの流れを大切にしていますが、反面、”身体の機能が制限されていたら、活動や参加も制限されてしまう”ようにも見えるんですよね。”体を鍛えろ”って方向になってしまうのかなと思うんです。だから、西院デイサービスでは逆の流れもあっていいんじゃないかと思っていて。

この矢印の流れによって、“心身機能/身体構造”の状態にかかわらず、“参加”にフォーカスできると言います。

好循環な流れとして考えたのが“参加”にアプローチするということ。例えば、体は動かしにくいけど料理が得意な人がいたとします。料理自体はできなくてもその人の指示通りに作っていったらその人の味になりますよね。そうやって体は動かせなくても活動や参加につなげられることが大切なのかなと思います。

また、河本さんは“参加”について、「できないところよりもできる部分に焦点を当てること」が大切だとお話ししてくださいました。

どうしても介護職って“生活”の中で、“できないこと”に目がいってしまいがちだと思いますし、そこってすごく大切なことなんですけど、人の“生活”って働いたり、遊んだり、学んだり…いろんなことが重なり合ってできているものです。だから社会で生きていくためにはそれらが重なり合ったところが大事なんじゃないかと思うんです。その全体像で、「その人ができることは何か?」「参加できるところはどこか?」と、利用者自身と職員が一緒に考えていけたら良いのではないかと思います。

そうすることによって、認知症の有無や年齢にかかわらず、一つの目的に向かっている仲間のような関係性が作れているんじゃないかなと思います。なので、これからもいろんな人と関われる環境づくりは大切にしたいと思っています。

“自立支援とは、「その人の生活を支えること」である”と、言葉では表せます。しかし、“生活”とはいったいどこからどこまでなのか。そこに関わる人はいったいどのくらいいるのか。想像力を広げると1人の人が過ごしている“生活”はとても幅広いものだとわかります。
その一部分を“楽しむ”、そして“はたらく”ことで支えているデイサービス西院。

介護職として大切なヒントを得られたように思いました。

河本さん、お話しいただき、ありがとうございました。

ゲストプロフィール

社会福祉法人 京都福祉サービス協会 高齢者福祉施設 紫野 施設長 河本歩美
(前:京都市西院老人デイサービスセンター 所長)

1994年より介護職として、法人に勤務。2021年より、現職場で管理者として従事する。介護が必要となった高齢者が、その人らしく輝き続けるための仕掛けとして、「はたらく」活動を通して、高齢者が活躍できる機会づくりに取り組んでいる。最近は、異業種連携や山間地域の活性など、福祉の枠を超えることで高齢者を含む誰もが暮らしやすい社会づくりになると信じて活動に励んでいる。
https://www.saiin-essassa.com

イベント概要

2日連続オンラインにて開催しました。
❶7月17() 13:3016:1516:30〜交流会あり)
❷7月18() 13:3016:1516:30〜交流会あり)

この記事を書いた人

渡部真由  WATANABE MAYU
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株式会社あおいけあ ケアワーカー/KAIGO LEADERS PR team


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