【前半】「厚労省室長」というキャリアを捨てた武内氏から見た介護業界の課題と解決策


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2016年6月5日、第7回目の「PRESENT」は、「IT・テクノロジーで日本の介護はどう変わるの?」をテーマに、元厚生労働省室長から外資系ITコンサルティング会社であるアクセンチュア株式会社へ転職されご活躍されている武内和久氏をゲストに迎え開催致しました。

「PRESENT」は、「Live in the present(今を生きる)」という私たちの意思のもと、私たちが私たちなりに日本の未来を考え、学びたいテーマをもとに素敵な講師をお招きし、一緒に考え対話し繋がるご褒美(プレゼント)のような学びの場です。7回目も満席での開催となりました。

PRESENTでは、毎回レポートを作成しておりますので、宜しければ最後までご覧ください。多くの介護に志ある人へ、学びを共有できますように。

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“「厚労省室長」というキャリアを捨てての再挑戦”

僕は半年前まで、厚生労働省で介護の福祉人材確保対策の室長をしておりました。いわゆる官僚という世界は、22歳か23歳で就職してから、係長、課長補佐、課長室長、局長とキャリアを積んでいきますが、室長くらいのレベル、すなわち、やっと若いときにこき使われたのを取り戻すポジションになってから辞める人は、ほとんどいません。

ただ、私は一念発起して、半年前に厚生労働省を離れ、アクセンチュアという会社に来ました。1万回くらい聞かれているので、先にその理由を簡単ですがお伝えします。介護のこと、介護人材のことを仕事にしていて、介護は大事な仕事であり、まだまだ進化の余地があると強く感じていました。生産性が低いとか、仕事の仕方が古いとか、そう言われていた介護業界を進化させるため、国家に与えられた仕事だけじゃなくて、未来へ自由に切り開きたいという思いからの再挑戦でした。今は、ITとテクノロジーに強いアクセンチュアという会社で介護とヘルスケアの部門の統括リーダーとして働いています。

 

“人材不足の実証/キャリアパスの提示/外国人労働者受け入れ”

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介護人材にかかる需給推計結果と「総合的な確保方策」(イメージ):厚労省報道発表資料より

厚生労働省で2年間、介護人材について主に3つのことを主に取り組みました。1つ目は、介護人材は「足りない」ということの実証です。私が着任する2年前までは、厚生労働省は介護人材について「足りる」と言ってきたのです。それに対し、現実には足りないでしょうということを見える化するため、介護人材の需給を初めて試算しました。今のままでは、2025年で、37.7万人必要だというのを、初めて数字として出しました。

2つ目は、介護職に富士山型の人材体系を作るということを提案し、世の中に提示しました。みんなが同じキャリアと役割の介護人材として働くのではなく、希望する人は、ずっとスキルを上げる、そのための研修システム、賃金体系のモデルを提示しました。

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第4回社会保障審議会福祉部会福祉人材確保専門委員会 資料

3つ目は、外国人労働者の受け入れの在り方に道筋をつけました。僕が着任するまで、厚生労働省は外国人の介護職への従事について絶対反対の姿勢でした。僕はそこで、ちゃんとした外国人なら加わってもいいだろうと、方針を変えました。具体的には、介護福祉士の在留資格の創設、技能実習をして受け入れる場合の条件づけなどを行いました。

 

“「介護」は人間の仕事である”

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僕の介護に対する考え方をお伝えします。まず、介護は「人間」の仕事だと思います。今日では、ICTとか人工知能、ロボットなどがどんどん進んでいますが、介護はどんなにテクノロジーが進歩しても、絶対に人間が最後までやり続ける仕事だろうと思います。

2つ目は、介護は「日本」の仕事だと思っています。外国人受け入れがどうという話ではなくて、日本人は介護に重要な素質(ホスピタリティ、きめ細やかさ、センシティビティ、敏感さ…)を強く持っていると感じます。日本で介護を確立して、世界に出していく、みたいなことを目指すべきです。

3つ目は、介護は「未来」の仕事であり、変化が大きい仕事だと思います。これからの10年を考えても、介護サービスの規模は倍くらいになるとマクロ的な視点から言われています。それに従って、介護のあり方も変わっていく、そんな世界を皆さんと作っていきたいです。

 

“介護・医療の世界でテクノロジーをどう使うのか”

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これは、僕が介護・医療の世界でテクノロジーをどう使うかを考えるために、課題と解決策を一枚の絵にして考えたものです。(レポートには著作権の都合上記載していません)

介護施設などのプロバイダー、ケアワーカーなどの従事者、家族、高齢者、自治体(保険者)のそれぞれの課題を個々の課題、連携情報共有に関する課題という観点で記載しています。

■個々の課題

  • 当事者(高齢者):孤独感・人との接点不足、自宅内での活動や外出が身体的に困難
  • 従事者:物理的な負荷が高い、文書処理の負荷が高い、専門性が蓄積しにくい、スキルや成果に応じた報酬がない
  • プロバイダー(介護施設):小規模が多く、キャパシティー(処理能力)不足、魅力のつきにくい就労環境、組織変革が難しい
  • 自治体(保険者):給付管理(介護保険で必要なサービスを給付として支払う管理)、新総合事業への対応(自治体中心として介護予防などに取り組むこと)

■横断した問題

  • 高齢者/従事者:現状把握は実際に対面でないと難しいが、常時監視にはリソース不足、自分に合った相手(介護者)をどう見つけるか
  • 施設間/業種間:情報共有・連携における価値観の相違
  • 自治体/プロバイダー:介護保険給付の請求・支払いのみのやり取りになっている、サービスの質を評価できない

これらの問題を、テクノロジーを使い解決していきたいと考えています。具体的には次の通りです。

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高齢者

課題;(身体機能の低下)社会的孤立、生きがいの喪失、認知症

解決策;転倒防止の電気センサー

手すり付きベッド導入(Ex.広島市立大学)

手すり付きベッドとは、高齢者がベッドの手すりに触れたことを検知することで、起き上がろうということがわかる仕組みです。介護者や家族の方が気づき、補助することで転倒を未然に防止することができます。ドア、トイレ、家の中にセンサーがあり、異変を感知すると登録された家族の方々の連絡先に通報する、というものです。

移動

課題;高齢者・医者・移動弱者へのアプローチ。移動の手段が少なく、限られる。

解決策;自動運転車、もしくは近くで移動しているほかの住民の方とニーズをマッチングし近くまで運ぶというサービス。

ニーズとリソースのマッチングをITで実現するという例です。シェアリングエコノミーの発想ですね。技術的にも、自動運転車は今後増えると思います。15年くらいで、自家用車を持つ人が世の中からいなくなって、街で走っている車をみんなでシェアする、そんな時代が来るのではないかとも言われています。

家族と従事者の情報共有

課題;状況確認のための自宅への訪問や、施設でも状態確認に時間と手間がかかる。

解決策;緊急対応時予測(いつ緊急対応が必要なのかわからないのでその負担を減らそうという考え方)

緊急対応時マッチング

(緊急時に同じ人が毎回駆けつけるのは難しいため、対応可能な人を配置する)

上記緊急対応時予測の例としては、次回のPRESENTでも紹介予定の、排尿・排泄感知システム:トリプル・ダブリュー・ジャパンの開発した、おなかにパッチを張って排泄感知するDFreeというものが既に開発されていて、今アクセンチュアと共同で実証実験中です。事前に排泄を感知し、トイレまで連れていくことで自力の排泄ができるというものです。

ちょっと話がずれますが、デバイス関連の例として、手振れを吸収するスプーンとか、薬の飲み忘れを見える化するものもあります。3回ちゃんと飲むとマークが笑顔に変わるとかですね。認知症のスクリーニングとかができる人工知能も、今後できてくるかもしれません。

要介護者と従事者

課題;要介護者に対して、介護従事者が足りない

解決策;地域住民と要介護者の直接マッチング

これも、シェアリングエコノミーの考え方ですね。要介護者のニーズに対して、地域住民のリソースを直接マッチングするという発想です。現行の介護保険上は、要介護者と従事者のマッチングは基本的にあまりしない前提です。介護保険の中でできるかというとまだ制度上の制約もありますが、介護外の部分で、地域住民とその介護者の方のニーズに応じてマッチングするということは起こり得ると思います。

既に子育て世代にはそういったサービスが存在します。後で詳しく述べますが、横浜の「AsMama」という、地域のお子さんを持つお母さんたちと地域の子育てをサポートしたい人たちがネット上でマッチングして、今空いている人、手伝える人をマッチングするものです。

医者と要介護者

課題;診察のために毎回訪問診療をするには時間と手間がかかる

解決策;ITを使った遠隔診断。軽度の体調不良などの時に遠隔相談できる

身の回りの困りごとについてもカウンセラーとマッチング、相談に乗る

介護従事者

課題;介護施設の従事者について労働の負担が重い(記録、資材の運搬など)

解決策;

・眼鏡型デバイス(グーグルグラスのような)による会話の記録

・ロボットアシストウォーカーによる状態把握

・プロファウンドによる移動。

眼鏡型デバイスは、その名の通り眼鏡のような機械を身に着け、目で見た情報、データを自動で電子カルテに送信することで記録にかかる事務作業を軽減するというものです。

ロボットアシストウォーカーは、高齢者がある通信機器をもって歩くことで、位置情報、状況(正常歩行か転倒なのか)をワーカー側が把握できるというものです。

プロファウンドというのは、単身の歩行困難な高齢者の方々のための足漕ぎ用車いすです。心身機能が低下した高齢者でも自分で動けるものです。

他職種の連携

課題;情報連携が紙ベースのため時間・手間がかかる。情報が点在し記録方法もバラバラ。

解決策;インターネット上でのデータ集約。

様々なデータをインターネット上で集約して、いつでもどこからでも内容を共有できる仕組みです。医療から介護、住宅まで情報を共有できるようになります。個々の事業所は規模が小さいことが多いので、24時間の緊急対応を実現するためにも、共有を進めていくことが重要だと考えています。

事例もあります。名古屋市の医師会では、連携して緊急対応を行うことで、個々の事業所・医療機関の負担を減らしています。また、情報を共有することで、この患者に対しては何か起こった時、最初はこういう応急の仕方をするべきということも把握することできます。

事業所と自治体

課題 ;情報連携が診療報酬請求や定期的な報告のみに限られている

解決策;行政・自治体でのデータ分析による活用

各事業所や自治体で得られるデータを集約し、それを分析することで、地域の特色や、要介護者の特色、有効なケアの分析、認知症の方の徘徊ルートなど様々なことがわかります。そういった情報プラットフォームを一緒に作っていったらいいと思います。

自治体の担当者

課題;介護報酬などの変更が多く、変更に対応するだけで業務が追いつかない

解決策;行政システム導入による業務効率化を行い、有効な協力の仕組みを作る。

自治体や行政の担当者とお話ししていると、制度改正の資料を理解するだけで大変、どんどん仕事も増えるし、どうやっていいのかわからないという悩みをお聞きします。これらをシステム導入により業務の効率化を行い、もっと前向きな業務にその時間を充てていただきたい。

前向きなことというのは、今、厚労省では地域包括ケア見える化システムを作っていこうとしていますが、これは介護だけじゃなく、医療、住まい、地域の情報を合わせて、実際の中の情報を集約したら色々わかるのではないか、という考えです。高齢者がどういうところで活動しているのか、どういう場合に自立度が上がったり下がったりしているのか、などを行政と地域と一緒になって分析を進めていくということも今後進むと思います。

 

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以上が具体的なご説明でしたが、僕が厚労省やアクセンチュアで取り組んでいるだけの話ではありません。国としてもかなり大きな動きとして支援しています。

今、厚労省では、「介護のシゴト魅力向上検討会」というのを立ち上げて、介護現場のロボットの活用やICTの活用をどんどん進めようとしています。また、地域ごとの柔軟なサービスや予防のサービスも強く支援していて、認知症を早めに予防・自立促進しようとしています。お金としても、昨年度の補正予算で50億円ほどはICRの関係で予算を付けており、今後も発展させようとしています。

また、介護の海外輸出の話も結構出てきています。僕が人材室長だった時にいろんな政治家と話しましたが、日本の介護を世界に打ち出すべき、という話は結構盛り上がっていました。日本はテクノロジーも強いので、介護の現場のケアレベル、ケアの技術、と、テクノロジー、システム、介護保険の仕組み、ノウハウをひとまとめにパッケージングして、途上国や東南アジアを中心に輸出するという議論です。

今申し上げたような取り組みが進めば、色々な問題が解決され、介護の世界がどんどんスマートに、それぞれのプレイヤーの方も強くなってくると思います。そのために、デジタル、ITの力をうまく使っていきましょうということをもう一度申し上げたいと思います。

後半は最新のIT・テクノロジーの進化から見る、これからの介護の進化の可能性に迫っていきたいと思います。

(文:江原里沙 写真:近藤浩紀)