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イベントレポート

これからの医療と介護をつくるのは誰だ!?次世代に告ぐ、在宅医の覚悟(PRESENT_13佐々木淳 開催レポート)

超高齢社会は明るい社会だと思いますか? 介護・医療に携わっている私たちも超高齢社会を暗いと思っている人が多い。 本当にそれでよいのでしょうか?

HEISEI KAIGO LEADERSがつくる学びの場「PRESENT」。第13回目となる本イベントは、お盆休み真っ只中の8月13日、サイボウズ株式会社の素敵なオフィスにて開催しました。今回のテーマは、「これからの医療と介護をつくるのは誰だ!?次世代に告ぐ、在宅医の覚悟」。

ゲストの医療法人社団悠翔会理事長 佐々木氏のこんな問いかけからスタートしました。

佐々木氏の推し進める、高齢者の地域での生活を24時間365日支える在宅医療システム。地域医療に新たな風を吹かせる挑戦と、その背後にある思いを語っていただく中で、よりよい超高齢社会をみんなで築いていくための熱い対話が生まれた夜となりました。

「健康的に、幸せに生きる」ということ

健康とはいったいどういった状態を指すものでしょうか?

日本人の死亡についての統計を紐解くと、大きな疾病等なく老衰で亡くなる人は全体の5%、いわゆる「ピンピンコロリ」と言われるような突然死的な形で亡くなる方が15%というデータがあります。

つまり、8割の人は人生のどこかで病気や怪我で要介護となり、リハビリなどで回復と悪化を繰り返し、最期を迎えるということになります。多くの人にとって、医療と介護のお世話になる機会は他人ごとではありません。

私たちは一般的に「健康」という言葉を聞くと、「五体満足」であること——つまり、身体的機能が健康であることを連想します。体の機能や構造に着目し、健康かそうでないかを判断する形を「医学モデル」といいます。

この「医学モデル」の観点から言えば、年をとったり病気になったりして、身体的機能が損なわれている状態は、総じて健康ではないということになります。 それでは、身体だけ健康であればよいのでしょうか?身体機能が損なわれたら、幸せな生活はできないのでしょうか?

心身の機能や構造が健康であることは確かに重要ですが、 もっと大事なことは「健全な人生を送れるか」ということです。

佐々木氏は、「医学モデル」とは別に「生活モデル」という観点から、健康を考えるべきではないかと説きます。

「生活モデル」では、体質や病気・障害の有無といった事象のみで判断するのではなく、その人の生活機能水準に着目をして、健康かどうかを判断します。 たとえ、障害があっても医療技術やテクノロジー、社会インフラの整備によって、健全な生活を送ることが可能であれば、健康であると判断であるとする考え方です。

例:視力が悪く裸眼での日常生活が難しい人 「医学モデル」的に考えると「健康でない」が、眼鏡やコンタクトレンズを使用することで支障なく生活できるのであれば、「生活モデル」的には「健康である」と言える。

私たちがどんなに努力しても、健康寿命には限界があります。 障害を負ってもポジティブに生きることのできる社会を作ることが大切です。 コミュニティがしっかりと機能すれば障害があっても人生・生活を継続することはできると思います。

これからの高齢社会においては、年をとって病気・障害を抱えた状況でも、その人らしい人生・生活をおくれる環境を、地域コミュニティの中で、社会全体で整えていくことが重要であると感じました。

超高齢化時代の医療システムとは?

高齢化が進むと、医療に対する考え方も変化が求められていくこととなります。高齢者の疾病は若い世代と異なり、いくつかの要因が複雑に絡み合っていて、対処しにくいことが特徴です。

例えば骨折で入院して整形外科で骨折のみの治療だけを考えればよいのでなく、入院が原因で廃用症候群になったり認知症が進行したり…という危険性も踏まえて、「この人にとって最適な医療とは何だろう?」と考える必要があります。

仮に病気やけがが完全に治らなくとも、今の生活が継続できるように地域が力を持つことが必要です。病院に頼り切るのではなく、具合の悪い人を支えるのが地域であり、その仕組みを考えるのが私たちの仕事だと思います。

高齢者への医療は病気・怪我だけを直すだけでなく、その先の生活への復帰を視野に入れて、何をどこまで治療するのか、その先の地域での生活をどのように支えるかという視点が重要となってきます。

しかし、医療の側にも「生活モデル」の視点に立ち、考えることがまだまだできていない。 これからの高齢者医療は、ケアと一体になっていかなければならない、と佐々木氏は考えています。

地域の暮らしを支える在宅医療

望む人は自宅で最期まで過ごせる環境をつくるために、佐々木氏が理事長を務める悠翔会では、地域コミュニティの中で在宅医療を中心としたシステムの構築を進めています。

在宅医療とは、その名の通り自宅で暮らせるようにするために、医療・介護チームによる往診や健康管理を行う医療で、緊急時の365日24時間対応も行います。

悠翔会では、首都圏内に複数のクリニックを開設し、医師、看護師、理学療法士、歯科医師、歯科衛生士、栄養士…と様々な職種が連携しながら、約3400人の患者の生活をサポートしています。
また、地域で活躍される開業医の人たちが抱える患者の副主治医として、主治医だけではサポートしきれない24時間・365日の支援体制を敷くことで、5,000人の地域での生活を支えています。

より多くの在宅での暮らしを支えるため、地域の様々なプレーヤーが連携し、サポートしあうシステムをつくりあげることによって、これから深刻化していく都市部での在宅医療難民問題を解決していこうとする悠翔会、佐々木氏の挑戦は続いていきます。

地域の「根っこ」を再生させる

佐々木氏は、高齢者が地域で自立した生活を送るためには、医療・介護の領域だけでなく、地域全体でどのようなシステムを作っていくかを考える必要があると感じられています。

これから高齢化が進展し、サポートが必要な人は増えていく中で、医療・介護の支え手は足りなくなっていく。その中で医療・介護の力のみで自立支援を行うことは難しくなります。 だからこそ、発想の転換をすることが求められます。

「そもそも、なぜ高齢者が自立できなくなっているか?」ということを考え、その原因部分について着目すると、自立を支える“根っこ”の部分が弱くなっているということに気が付かされます。

一般的に私たちは、家族や友人がいて、仕事や学校などの社会的居場所があり、それらが社会で自立して生活するための支えとなる部分——木で例えるなら“根っこ”の役割を果たしています。

ですが、高齢者の場合、死別や離別、定年で職を失うなどといった形で、人や地域とのつながりという“根っこ”の部分が弱くなってしまい、孤立してしまう。人とのつながりが薄い場合ほど、高齢者の死亡リスクが上昇するというデータもあるそうです。

つまり、高齢者を取り巻く環境の中で弱ってしまった、人とのつながり——“根っこ”の部分を再生させることが、医療・介護の負担を減らし、誰もが自立して暮らせる持続可能な社会を作ることへとつながると言えるのです。
そのプレーヤーは誰でしょうか? きっと、地域に暮らす一人ひとりなのであろうと思います。
医療・介護に携わる人はもちろん、様々な世代・職種の人が自分自身の住む地域のこととして、何ができるかをそれぞれの地域特性に合わせて考えていく。

その際の旗振り役として、高齢化社会・在宅医療のキープレーヤーとなる医療・介護職が地域と積極的に関わっていく。それが、これからの医療・介護の領域に求められるスキルの一つではないでしょうか。

行動しないと未来は変わらない

必要とされることだから、やっています。
首都圏ではこれから高齢者が増えてくるなかで、少ないメンツで多くの人を見るシステムを構築する必要がある。
「この人がいるから安心」ではなく、「このシステムがあるから安心」だという風にしていく必要がある。 本当は、もっとマイペースに仕事がしたいんですけど。(笑)

スピード感を持ち、多職種連携を強めながら、地域に在宅医療を広げる活動を精力的に進められる原動力は何か?そんな質問に、佐々木氏は笑顔でそう答えられました。

求められているからこそ、これからの時代・社会に必要だからこそ、「医師として自分に何ができるだろうか?」と常に問い、行動をされ、地域で安心して暮らせる仕組みづくりに挑戦され続けている佐々木氏から、次代を担う若い人たちへこんなメッセージを頂きました。

高齢社会は誰の問題でしょうか? これは日本に暮らす私たち一人ひとりの問題なのだという意識を持ってもらいたいです。

そして、現役の高齢者・40~50代の世代よりも、若者や子どもたちがより深刻な課題をこのままでは抱えてしまうことになります。
だから、なんでもいいので小さな行動を起こしてほしい。私自身も行動してみないとわからないことがありました。上手くいくかどうかは分からないけど、行動することで自分が成長するということはあると思います。行動しないと未来は変わらないと思います。

今一歩踏み出すことで10年後の自分は違う姿になっているかもしれません。 誰かが行動して、穴をあけるとそこから何かが変わるかもしれません。私はそこを応援したいです。

日本の在宅医療のパイオニアとして最前線を走る佐々木氏からのメッセージを受け、参加者一人ひとりが当事者として考え、対話をして一歩行動してみようというエネルギーを得た、非常に熱量の高いプログラムであったと思います。

ここを起点に様々なアクションが生まれ、広がっていくことを私たち運営メンバーも楽しみに、応援をしていきたいと考えています。ご来場の皆様、ありがとうございました!


写真撮影


近藤 浩紀/Hiroki Kondo
HIROKI KONDO PHOTOGRAPHY

この記事を書いた人

野沢 悠介

野沢 悠介Yusuke Nozawa

株式会社Blanket取締役|ワークショップデザイナー

大手介護事業会社の採用担当者・人事部門責任者として、新卒採用を中心とした介護人材確保に従事。
2017年より、Join for Kaigoに加入、介護領域の人材採用・定着・育成をよりよくするために活動中。
趣味は音楽鑑賞。好きなアーティストを見に、ライブハウスに入り浸る日々。