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「厚労省室長」というキャリアを捨てた武内氏から見た介護業界の課題と解決策(PRESENT_07武内和久 レポート)

PRESENT REPORT Archive

 

IT・テクノロジーで日本の介護は変わるのか?

2016年6月5日、第7回目の「PRESENT」は、「IT・テクノロジーで日本の介護はどう変わるの?」をテーマに、元厚生労働省室長から外資系ITコンサルティング会社であるアクセンチュア株式会社へ転職されご活躍されている武内和久氏をゲストに迎え開催致しました。

「PRESENT」は、「Live in the present(今を生きる)」という私たちの意思のもと、私たちが私たちなりに日本の未来を考え、学びたいテーマをもとに素敵な講師をお招きし、一緒に考え対話し繋がるご褒美(プレゼント)のような学びの場です。7回目も満席での開催となりました。

PRESENTでは、毎回レポートを作成しておりますので、宜しければ最後までご覧ください。多くの介護に志ある人へ、学びを共有できますように。

 

「厚労省室長」というキャリアを捨てての再挑戦

現在、アクセンチュアという会社で介護とヘルスケアの部門の統括リーダーとして働いています。
その半年前まで、厚生労働省で介護の福祉人材確保対策の室長をしておりました。

「官僚としてのキャリアを捨て、なぜ新たな環境での挑戦を始めたのか」ということをよく聞かれます。
その理由は、介護業界を進化させたい、そのためにも国家から与えられた仕事をするだけでなく、自身の手で未来を自由に切り開いていきたいという思いが生まれたからです。

介護や、介護人材についての仕事をずっとしてきて、「介護にはまだまだ進化の余地がある」と強く感じています。
介護業界は、「生産性が低い」とか、「仕事の仕方が古い」と言われることも多いですが、アクセンチュアの強みでもあるITとテクノロジーの力を使いながら、介護業界をよりよい形にしていく挑戦をしていこうと考えています。

 

介護は人間の仕事。テクノロジーの力が介護を進化させる。

私の介護に対する考え方をお伝えします。

まず、「介護は人間の仕事である」ということ。今日では、ICTとか人工知能、ロボットなどのテクノロジーがどんどん進んでいますが、介護はどんなにテクノロジーが進歩しても、絶対に人間が最後までやり続ける仕事だろうと思います。
合わせて、介護は「日本の仕事」とも感じています。外国人受け入れがどうという話ではなくて、日本人は介護に重要な素質(ホスピタリティ、きめ細やかさ、センシティビティ、敏感さ…)を強く持っていると感じます。日本で介護を確立して、世界に発信していく、といったことを目指すべきです。

一方で、介護現場では色々な課題・問題があります。それらの課題や問題を、ITやテクノロジーの力をうまく使って、解決をしたり改善したりしていくことができれば、介護の世界がどんどんスマートに、それぞれのプレイヤーの方も強くなってくると思います。

進化する世の中の流れをキャッチする。

では、介護・医療の世界でテクノロジーをどう使うのか?
アクセンチュアでは「テックビジョン」という冊子を毎年製作し、テクノロジーの大きなトレンドを紹介しています。こちらをベースに、お話をさせていただきます。

参考リンク:主役は“ひと”――Accenture Technology Vision 2016
https://www.accenture.com/jp-ja/insight-technology-trends-2016

※最新の2017年版はこちらです。
テクノロジーを“ひと”のために――Accenture Technology Vision 2017
https://www.accenture.com/jp-ja/insight-disruptive-technology-trends-2017

2016年の私たちのVisionは、 ―主役は“ひと” ―

デジタル時代だからこそ、人がきちんとテクノロジーを使いこなしていくことが必要です。その中で、2016年のトレンドとして次の5つが柱として考えられています。

  • インテリジェントオートメーション

人工知能(AI)が単に記憶したり、計算したりするだけでなく、人間のように物事を解釈したり、意思判断をしていく力が進化していくという話です。

身近なところではiPhoneのsiriやPepperなどの音声認識や会話ができるAIが開発されたり、画像認識の分野でも、画像を見て、それが何であるかを認識するところまでできるようになっています。また、判断するという部分でも、チェスや将棋、囲碁などで人間のプロを負かすところまで進化していますし、小説の執筆、自動運転の分野でも徐々に進化してきています。

このように、今後はAIが自分で物事を「認識」し「咀嚼」し「学ぶ」ことで、物事のコツを自分で覚えていくようになります。「こういう状況においてはどういう行動をするのが最適か」を自分で判断して行動していくのです。

よく、「AIが進化していくと、AIに職を奪われるのではないか」という議論がありますね。「奪う」という表現はさておき、AIと人間が仕事を手分けする状態は10年か15年以内には常態化すると思います。だからこそ、使いこなす側の人間が重要になってくるわけですね。

例として、IPソフトという会社では、AIでできた女性エージェントが相手の発言を的確に理解し、会話をするというソフトを開発し、コールセンター等での実用化が近い将来実現すると言われています。このような技術の進化で、認知症向けコミュニケーションソフトの開発や、適切な医療やケアの方法をAIが判断するということも現実味を帯びてくるかもしれません。流動化する労働力:

前述のとおり、AIやテクノロジーが発達すると、人間の役割や職場環境も変わってくることはご想像いただけるかと思います。以前から比べれば、今現在、仕事上のやり取りの多くを電話やメールで行うということも大きな変化です。少し話がそれますが、ラグビー日本代表では、選手の体にGPSを付け、試合中にどの選手がどのくらい走っているか、走っていない人は誰か、どのくらいで疲労がたまるかなどを測定し、管理・分析していました。スタッフそれぞれの動き方や負荷のかかり方などをITの力で見える化し、働きやすい職場づくりに活用していくことは、介護業界でも実現されていくと思います。このようにAI・テクノロジーの発達により、介護現場の働き方も変わっていくことでしょう。

  • プラットフォームエコノミー:

プラットフォームというのはもともと、駅のホームのことです。いろんな人が乗っている場所という意味です。

Yahoo!、Google、Amazon、楽天などのように、人の集まるプラットフォームを作って、交流や取引によってお金をとるというビジネスモデルが今後どんどん増えていくでしょう。介護という事業とは直結しないかもしれませんが、どういう風にパートナーやユーザの人たちとつながり、ビジネスを作っていくのかというのは大きな要素です。また、バーチャルではなくてリアルの世界で考えれば、介護の施設は地域のプラットフォーム的な役割を果たしていると考えることもできます。単に介護のサービスを提供するだけではなく、他の何らかの付加価値を持つことで、地域の人が集まりつながる場所になることもあると思います

「AsMama」という、子育ての世界で必要な人と働きたい人を結び付けるためのプラットフォームを提供するビジネスモデルも実現しています。この会社では、子育てしてほしい人と、子育て支援をの仕事をしたいママサポーターと呼ばれる人をマッチングしています。どういう風にビジネスにしているかというと、利用者からは500円しかとらず、収益源としては、ママサポーターが受ける研修会に、企業を呼んでいろんな商品やサービスのPRやマーケティング活動の場を提供する。そのマーケティング費用として企業からお金をもらっています。こういったプラットフォームとしてのビジネスモデルであれば、介護がらみで考えても面白いかもしれないですね。

  • 破壊を予兆する:

デジタル時代の新しい動き、イノベーションをどのように見定め、ビジネスに活用するかが大切だという話です。

例えば「Uber」というサービスをご存知でしょうか。スマホのアプリで頼んだら配車してくれるタクシーサービスです。今アメリカでは、そのシステムを使ってワクチンを配達するなど、医療分野に参入しています。オンデマンドの医療サービス、インフルエンザの予防接種、往診サービスなどがタクシー業界と相互乗り入れして、新しいビジネスの形になってきています。

今後、ITシステムやネットワークを介して、介護医療の領域でも、異なる市場と繋がり、業界の垣根を払っていく商品やサービスが生まれていくでしょう。

 

  • デジタル時代の信頼:

情報を使う人の信頼関係をセキュリティで強化していこうという話です。

いろんな情報を集約したり、データを集めたりすることによる弊害が出てくることも大きな問題になっています。前述の「Uber」では、ある事件が発生した際に、その近辺から脱出するタクシーの需要がものすごく大きくなったため、通常の4倍くらいの特別料金を請求するタクシー事業者が出て、炎上してしまったことがあります。

今後様々な情報が集まって、それを分析して使っていく時代だからこそ、セキュリティや安全面を強化し、利用者にしっかり伝えていくことが重要です。例えば有名なところだと、AppleがFBIから事件の調査のためApple所有のデータを抽出するためにパスコードの開示を依頼されましたが、断固拒否を貫いて、顧客からの信頼を守ったという話があります。

技術の進歩に伴い、セキュリティを強化し、信頼を維持することが大事になってくるということですね。

以上、5つの柱をご説明してきましたが、やはり、デジタルあるいはテクノロジーが進む中でも、人がしっかりそれをコントロールしていくということが大事だということです。

これから介護業界もデジタル・テクノロジーの力がどんどん入ってくると思いますが、介護業界だけでなく、あらゆる業界でテクノロジーの進化の流れに乗れる人、スキルをキャッチアップできる人とそうでない人に分かれると思います。

全業種においてこれからは自分が、一人一人が、目まぐるしく変化する世の中の産業構造、雇用の構造を泳いで渡っていけるようなスキルを身に着けないといけないのではないでしょうか。みなさんには、ぜひ泳いでいってほしいと思います。(笑)


武内氏の話を受けて、参加者同士での意見交換も熱を帯びます。


対話を促すデザインにも工夫を。梅雨の季節を彩る鮮やかなお食事をご用意しました。

 

IoTの活用で、新たなサービスが生まれる社会に

私自身はこれから、企業や自治体などと組んで、介護と医療両方の分野で、IoT(Internet of Things;すべてのモノがインターネットに繋がる状態)という、現場の器具や現地にあるモノからデータを収集し、それを分析することで少ない人数で効率的にサービスできるような仕組みを作りたいと考えています。

分析とは、どういう時間帯に、どの人が、どういう風な行動を起こしやすいとか、どういう行動になりやすいかということを過去のデータなどからはじき出すことです。そして、そういったデータ(情報)を集約したIoTプラットフォームを地域で作り、データ自体はオープンにすることで様々な企業の方が自由に使って、新しいサービスを生み出せるようにしたいと思っています。

例えば、ある検診のデータと、いろんな人の属性データ、疾病のデータなどを集めて、企業がデータを活用して、こういう人にはこういう食事のメニューが一番健康にいいのだ、と提供するサービスを作り出すとか。

ある地域でIoTの情報プラットフォームを作ろうという動きはもう始めていて、健康とか介護とかに何か形を与えるような新しいサービスを生み出すということを、まず第一歩としてやろうとしています。

これから高齢化が進展し社会保障費が増大する中で、介護保険サービスを維持するためには、介護保険の中で担う領域を絞って、介護保険外のサービスを拡大させていく必要はあると思います。徐々に高所得者の方は少しずつ介護保険から出ていくのではないかと予想しますので、介護保険外のサービスも見合わせて、新しいサービスを生み出すのは、これからの介護サービス経営において重要だと思います

 

介護から、新しい価値を発信してほしい

私が医療・介護をずっと見ていて思うのは、保険制度の中でじっとしていれば、とりあえず食べていけますし、業界としてはつぶされないようにはしてもらえるものの、そのうち、厳しい言葉を使えば「お荷物感」が、他の業界や社会から持たれる危険性があると思っています。

医療も今直面しているのですが、他の経済界からは、「終末医療を削れ」とか、「一定年齢以上の医療は抑制しよう」といった議論が平然となされています。また、年金に代表されるような世代間ギャップもあります。すごく即物的に言えば、富を生み出す人たちではないところに巨額の財源を投下するのですからね。医療でさえこのような議論がされている流れの中で、「介護は保険の中で今のサービスを維持していく」という姿勢はとても危険だと思います。

 

だから、若い世代の人たちには、「何とか生き延びていく」という発想ではなく、「介護から新しい価値を発信する」という視点を持っていただきたいです。経済的な意味でも、社会的な意味でも、介護が地域の中心であったり、何か新しいサービスを生み出す母体になったり、「介護にかかわることが、人間としてものすごく意味のあることなのだ」という流れを作っていかないといけないと思っています。

そのためにはどうしたらいいのか。

例えばみなさんが、介護で培ったサービスの価値をもっと高めて発信するでもよし、介護で培った経験や知識を使って新しいサービスを作り出す側に回ってもよし、地域の人たちを巻き込んで、街づくりとか地域づくりのリーダーになるのもよし。

色々な形で介護業界から外に働きかけていく流れを強く望みますし、そのためにテクノロジーやITの力がサポートになればそれを使っていっていただきたい。僕がITを使って新しい価値を生み出したい、というのもそういう文脈に一脈通じるのかなと思います。

個々の力は小さくても集まれば、かなり大きなエネルギーになるので、“介護のリーダーは日本のリーダーになる”ということも実現できると思います。


IT・テクノロジーの進化は日進月歩であり、私たちの生活・仕事を大きく変えていくことになります。

その大きな変化をポジティブにとらえ、いかによりよい方向に結び付けていくか、という視点を持つことが重要だと感じました。

“2025年、介護のリーダーは日本のリーダーになる。”

この言葉を掲げる私たちこそ、現状にとどまらず、日々多くのことを学びながら、新たな変化を巻き起こす主体になることを目指していきたいと思います。

貴重な示唆をいただいた武内さん、どうもありがとうございました!

 


 

ゲストプロフィール

 

武内 和久 Kazuhisa Takeuchi

アクセンチュア株式会社(元・厚生労働省 室長) 公共サービス・医療・健康本部 マネジング・ディレクター

1994年東京大学法学部卒業、同年厚生省(現厚生労働省)入省。

大臣官房、政策統括官、医政局、在英国日本大使館一等書記官などを経て、マッキンゼー・アンド・カンパニーに出向(執筆およびインタビュー時)。

2013年8月末から厚労省に復職。福祉人材確保対策室長として介護人材の確保、外国人労働者の受入れ、社会福祉法人改革の制度改正等を担当。

2015年からアクセンチュア ヘルスケア部門統括。厚生労働省参与(保健医療2035推進)、東京大学非常勤講師 等を兼務。

 

開催概要

日時:2016年6月5日(日)
会場:株式会社Disco 神楽坂Human Capital Studio

PRESENTについて

2025年に向け、私たちは何を学び、どんな力を身につけ、どんな姿で迎えたいか。そんな問いから生まれた”欲張りな学びの場”「PRESENT」。
「live in the present(今を生きる)」という私たちの意志のもと、私たちが私たちなりに日本の未来を考え、学びたいテーマをもとに素敵な講師をお招きし、一緒に考え対話し繋がるご褒美(プレゼント)のような学びの場です。


 

この記事を書いた人


江原 里沙 Risa Ebara
IT営業/HEISEI KAIGO LEADERS PRチーム
群馬県出身。大学ではロシア語を専攻しながら政治経済史を学ぶ。田舎と都会、日本と海外を経験し、労働としての介護に興味をもつ。
卒業後はITの営業として活動。CRM、デジタルマーケティング、IoTなど。

野沢 悠介 Yusuke Nozawa
株式会社Join for Kaigo取締役/ワークショップデザイナー
大手介護事業会社の採用担当者・人事部門責任者として、新卒採用を中心とした介護人材確保に従事。
2017年より、Join for Kaigoに加入、介護領域の人材採用・定着・育成をよりよくするために活動中。
趣味は音楽鑑賞。好きなアーティストを見に、ライブハウスに入り浸る日々。