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インタビュー

12ヶ月連続離職ゼロ!誰もが楽しく仕事ができる介護施設を目指して(KAIGO MY PROJECT OB/OGインタビュー Vol.10)

12ヶ月連続離職ゼロ!

人材の採用・定着難が社会問題となる今日、どの業界でもこのような実績を打ち出すのは難しいかもしれません。 なかでもこの問題が深刻な介護施設で、いま一人の管理者がこの課題に挑戦しています。
埼玉県にあるサービス付き高齢者向け住宅で働く内田和宏さん。
「みんなが楽しく働ける職場を作りたい。」その想いから大学院での学びに加え、より考えを深めるためにKAIGO MY PROJECT(以下、マイプロ)に参加されました。3ヶ月間のマイプロで得た気づきを、どのように職場で活かし、工夫をされているのか。12ヶ月間離職ゼロの秘密に迫ります。

語り手:内田和弘 
サービス付き高齢者向け住宅 管理者(写真:左端)

聞き手:石丸夕貴
医療系企業 会社員/ HEISEI KAIGO LEADERS PRチーム

 

ほっとするような幸せ、見つけた。

石丸:内田さんは異業界から介護業界への転職組なんですね!

内田:はい、まず新卒で営業職に就きました。大学で高齢者福祉を学びましたが、就職活動では父から福祉業界に対する反対もあり、営業職を選択しました。実は僕の父は地位や名誉を第一に働くタイプの人で、「他人を蹴落としてでも上り詰めなければならない」とよく聞かされていました。でも僕自身はそういった働き方はしたくなかった。
営業の仕事はやりがいはありつつも、次第に「何のために仕事をしているのか?大学で学んだ高齢者福祉を実社会で活かせていない」という気持ちが強くなっていきました。人がもっと幸せになるような仕事がしたい。僕自身も仕事を楽しみたい。そんな思いから介護の仕事を始めました。

 

実際に介護の仕事を始めてみてどうでしたか?

 

介護の仕事を通して、お金や地位、名誉ではない「ほっとするような幸せ」 を見つけられました。ただ、介護職の離職が多いことに強い課題意識を持つようになりました。社会的に介護職の離職が多いと取り上げられているので元々関心はありましたが、僕の施設も以前は離職がとても多かった。僕が管理者になったのは2016年3月ですが、その前後はほぼ毎月のように1~2名の離職が続いていました。

「離職は悪くない、施設の新陳代謝をはかって新しくなっていくんだ」という考えもあると思います。でも利用者さんから見ると職員がコロコロ変わったり、ぎすぎすした雰囲気で 過ごしたりしているのは気持ちよくないですよね?職員が長く働くことで得られるメリットの方が大きいと思います。「職員のみんなが楽しく働ければ、きっと利用者さんも楽しくなる。だからこそ、離職せずに働ける場所を作りたい」と考えていました。その想いの実現のために、マイプロに参加しました。

 

やりがいのある事業所の共通項を探れ!

マイプロに参加して、どのような気づきや変化がありました?

 

メンバーとの話や、プログラムを通して、色々な事業所を見学し、やりがいがある・楽しい事業所の共通項を調査しました。結果として、「介護経験のない人を採用している」という共通項を見つけました。

未経験者採用は即戦力ではないために敬遠されがちなイメージがありますが・・・

 

一般的にはそうかもしれませんね。でも、まだ立証前なので確証はありませんが、介護現場を長年経験している人だと独自のこだわりや介護観が出てきてしまい、入職した施設で適応が難しくなる割合が高いようです。それよりも異色の経歴を持った人を採用する方が、その施設の理念にそって自分の専門分野を活かすことができ、すごくいい働きをするようです。

自施設の職員を例に挙げると、おやつの時にドリップコーヒーを振る舞う元喫茶店員や、利用者さんのために何かしたいと「笑いヨガインストラクター」の資格を取得した職員、こだわりのカレーを提供する料理好きな職員がいます。いくつかの取り組みは施設内にとどまらず、地域の方との交流会や講座開催へと繋がっています。それぞれ自分の好きなことや過去の経験を活かして取り組んでいるんですよね。

未経験採用の方も、「介護+特技」で活躍されているんですね。

 

他にもいくつかの共通項がありました。

職員が失敗したときは、その職員を絶対責めず、次に失敗しないようにどうすべきかをみんなで考えていくことを大切にしていることリーダー職は必ずその施設で長年働いて、現場をよく知っている人にすることなどが挙げられます。

運営管理面では、シフトを柔軟に組むことが大切です。また、どうしたらもっと良くなるのか?と主体的に考えられる環境づくりを目的として、地域へ向けた職員の取り組み発表会の場を設けている事業所もありました。

なるほど。職場をよりよくするために一人ひとりが主体的に考え、関わりあえる環境が大切なんですね。

 

ポイントは「コミュニケーション」と「理念浸透」

共通項を知った上で、内田さんの施設ではどのような取り組みをされていますか?

まず、コミュニケーションを密にとることを意識しました。
ただ「コミュニケーションをとる」って漠然としていますよね。介護の論文の文献を見ると「研修が職員の離職防止につながる」とか「コミュニケーションが大切だ」という研究結果が出ていますが、じゃあ結局どうするんだよと。(笑)

具体的にどんなことを実施しましたか?

例えば、インカムの導入です。導入したところ、以前よりもコミュニケーションが密になったと実感しています。
そして、新たに月に一度の会議で職員同士の発表の場を設けました。そこでは「自分たちは今月何をして、来月はこうしていきたい」という内容を共有しています。会議の場で繰り返しこういった話をすることで、施設としてどのような介護観を持ってケアにあたるかといった共通認識が徐々に浸透、醸成されてきていると感じています。

他にも、月一回の面談文字だけでなく絵を交えた連絡ノートを作成しています。いまは自分の施設の最適なコミュニケーション方法を探すために、いろいろなことを試しているところです。

連絡ノートであれば、現場ですぐに実践できそうですね!

 

他にも、「職員の話をさえぎらずに傾聴する」というのもコミュニケーションの際に大切にしています。相手の言葉を一度すべて丸ごと受け入れるようにすると同時に、相手に対しても自己の視点で物事を捉えすぎず、別の視点を持つような促しを行っています。

仏のような心ですね!(笑)

 

ただ受け入れるだけなら誰でもできるんですよ(笑)

でも誰であれ、きちんと施設としての理念に基づいて判断しなければいけない場面に遭遇する。「自分の施設はどうあるべきなのか?」という視点を職員にも浸透させるために理念共有を行うようにしています。

理念共有・・・?

 

理念共有というのは非常に大事な要素です。「施設としてどのようなケアを行うのか」という方針を理念に沿って落とし込むことで共通認識・判断基準が出来上がります。でもそれがない状態では、職員間の意見が対立し関係が悪化してしまいます。その結果、職員の離職に繋がっていくんです。そこで、この「理念をどのようにコミュニケーションで落とし込んでいくか」というのがミソなんです。

その落とし込みは、どのように行っていますか?

 

月イチの会議の場やインカムでの会話の中で繰り返し行っています。管理者自身がきちんと自分の施設がどのような理念を掲げ、どのようなケアをしていくのかをしっかりと考えて、伝えていかなければなりません。

なぜこのような考えに至ったかというと、よく国が掲げるキャリアアップの制度を見ていると「研修の実施が離職防止につながる」と言われています。ですが、あるアンケート結果では9割以上の事業所が研修を実施しています。みんな研修をやっているんですよ。じゃあ、なぜ離職に繋がっているのか?

実際、研修に行っても学んだ内容すべてを現場に落とし込めるかは難しい。大半の人は研修に参加して一瞬モチベーションが上がる程度だと思うんです。研修だけでは即効性のある離職防止方法にはなり得ません。日々の職場でコミュニケーションを密に取り、理念浸透をはかるという取り組みは明日からでも始められる離職防止対策です。

これまでの取り組みを実施する中で、職員からの反発はありましたか?

 

昔は反発もありました。「内田くんとは違うんだから」と、よく年上のスタッフに言われていましたね。
当時は、性別も年齢も違うパートのスタッフに自分と同じ行動を求めていたんです。いま思うと無理がありますよね。自分もその人と同じように料理や掃除をしろと言われたら、正直難しい。
でもあるがままを受け入れるようになってからは反発ではなく、職員から「もっとこうすればいいんじゃない?」「利用者さんがこう思っているからこうしてみよう!」という意見や提案が出てくる施設に変わりました。

また、職員の負担が大きくなりすぎないように、月一の会議は自由参加で、毎月の参加者が偏らないようにシフトを組むように工夫しています。また、きちんと議事録を作成し、話し合った内容を施設内で共有しています。会社に相談して会議手当も作ってもらいました。

会議手当てを作ってしまうとは!強制参加ではない点も職員への負担が軽減されますね。こうやって色々と実践をするなかで、苦労を感じたりはしませんか?

 

自分がやりたいと思ってやっているから、苦労は感じていません。「躓いていることや失敗したことすべてが自分の成長や前進に繋がっていることだと思っているから、悩みはないよね」とマイプロの同期とも話していました。やっぱり好きなことを見つけるっていいことだなと思います。

 

一人ひとりの人生を、目の前の一瞬ではなく線で受け止める

なぜ内田さんはそこまで相手を受け入れられるようになったのですか?

 

マイプロのワークの一つである人の生い立ちを聞く「ME編」がきっかけです。
「ME編」では自分自身のこれまでの人生に向き合うとともに、他の仲間の生い立ちをあるがままに受け入れるというワークを行います。そのワークを通じて、人の成り立ちには意味があり、いまがあるということを実感しました。施設の職員も同じで、相手がいまこう考えているのにはさまざまな経験があり、彼/彼女らとして生きているということを理解しました。すると、次第に職員の話に耳を傾けられるようになったんです。

それまでは職員の話は聞かずに一方的な対応をしていましたが、その人の成り立ちや良さがあり、得手不得手が必ずあるから一人ひとりのことを尊重しようという気持ちが芽生えました。みんなが完璧なわけではないから、それを補って助け合える施設づくりを目指しています。

まさにチームですね!

 

抽象的ではありますが、職員の雰囲気も少しずつ変わり、他人のことを悪く言う人が少なくなりましたね。また、以前は上司と職員の意見の不一致が多く、軋轢が起きて離職や不満が多くなっていたと考えています。自分の当たり前が相手の当たり前ではない。その人のペースで成長してもらえればいい。職場のみんなの可能性を信じています。

 

さまざまな人が交じり合う「福祉のイノベーション」

内田さんは、マイプロに参加したことで大きな変化を得られたんですね。

 

そうですね。マイプロのいいところとして「介護」というキーワードでいろんな業種の人が集まってくる。

僕が参加した4期では、親を介護している介護者の方や学生、看護師、鍼灸師、普通のサラリーマンもいた。さまざまな業種の人が「介護」について話し合うことで、自分と異なる視点で物事を見られ、考えがブラッシュアップされる。そういうことが福祉業界全体でも必要になってきていると思います。 介護って介護・福祉の現場の人が突き詰めて考えてきている流れが強い。もちろん福祉の専門家なのでいいことではあります。ですが、福祉とはこうあるべきだという考えが先行していると「障害/障碍」の「がい」は「害」ではなく平仮名にしようという議論など「誰のための福祉なのか?」という課題が生じてしまいます。特に福祉業界は外の業界との壁ができやすいので、内にこもってしまうと絶対に向上していかないと考えています。

普段介護や福祉に関わらない方こそ問題意識をもって自分のフィールド・社会に帰っていくことで、いろんな場所に福祉の理解者が存在するようになる。すると、自身の専門性プラス福祉の視点で社会が動くようになっていく。それこそが「福祉のイノベーション」になると感じています。

 

最後に今後の目標を教えてください。

 

1年間離職ゼロを達成し、なぜ達成できたのかをきちんと分析したいと思います。そして他施設でも実践できるような方法を見せていきたいです!

なにも特別なことをしなくてもいい。明日からできる小さな実践の積み重ねと相手を尊重する気持ちが施設内の職員の離職防止に繋がっていることを実感しました。私も現場で働いていた時は「若者とおばちゃん世代との軋轢」や「個々のこだわりによるバラバラなケア」など、施設としてまとまりのない時期を経験しました。皆さんの施設でもよくあることなのではないでしょうか?
職場の空気を変えるには、小さな実践の積み重ねが効果的ですよ。

 

実はインタビュー当時、内田さんは1年間離職ゼロという目標を立てておられ、見事に達成されました!皆さんも「自施設でできること」に取り組んでみませんか?これを機に、離職防止における実践方法が多くの介護施設へ広まっていくことを期待しています。

 

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この記事を書いた人

石丸 夕貴

石丸 夕貴Yuki Ishimaru

HEISEI KAIGO LEADERS PRチーム

介護サービス会社で4年間勤務。介護職、入居相談窓口担当を経験。
介護者支援に興味があり、「ライフにワークを溶け込ませたい」をキーワードに介護にかかわれるお仕事探し中!
情報の整理整頓、改善、アイディア出しが好き。