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イベントレポート

パターン・ランゲージが拡げる “ことば”と“福祉”の可能性。(KAIGO MY PROJECT体験イベントVol.60レポート)

 

「わたし」の中にある現状への課題認識や、「こんなことをやってみたい!」という想い。

そんな想いをもとに、社会によりよいアクションを「マイプロジェクト(以下、マイプロ)」という手法を通じて、仲間と一緒に考え生み出していくKAIGO MY PROJECT

毎月開催している体験イベントでは、自分自身の想いを形にしたマイプロを実践しているOB・OGメンバーが、そのアクションを紹介してくれています。

 

10月の体験イベントでお話をしてくれたのは、KAIGO MY PROJCTのトライアル期に参加してくれた慶應義塾大学 大学院生の金子 智紀さん。

 

ことばというツールを通して、創造的な社会・介護現場をつくるサポートがしたい。

 

そんな想いを掲げ、精力的に日本のみならず海外の様々な事例を分析・研究している金子さん。金子さんの考える“ことば”の可能性と、彼のアクションについてお話を伺いました。

 

高齢者の暮らしや福祉に色々な人が関わる社会を。

僕が介護というものに関心を持ったのは、中学生時代の経験がきっかけでした。
部活でぎっくり腰になってしまい、短い期間ですが身の回りの世話を母にしてもらう要介護状態になったのです。身体を自由に動かせず、母のお世話になることは、中学生の僕にとっては恥ずかしさや、もやもやした気持ちを感じる経験でした。今思えば、あの時「介護を受ける人の気持ち」みたいなものに関心を持ったのかなと思っています。

その後、高校生時代は生徒会に所属していたこともあり、地域活動やボランティアで介護施設に行くなどの機会がありました。そういった活動にやりがいを感じるとともに、「今の高校生という立場だから、こんな形で関われるけど、大学生・社会人になったら難しいだろうな」と感じ、もっと根本的に高齢者の暮らしや福祉に色々な人が関わるようにできないかと考えるようになりました。

そんな時に縁あって、井庭先生やパターン・ランゲージという手法に出会い、その研究を進めています。パターン・ランゲージとは、よい実践に潜む実践知や経験則を言語化する手法です。もともとは建築の分野で考案された、よい街や建物に共通する設計(デザイン)の共通「パターン」を「ランゲージ」(言語)化する手法です。ソフトウェアの良い設計や実践、教育や組織における実践に応用され、近年ではより幅広い範囲(学び、コラボレーション、プレゼンテーション、福祉、企画、料理、子育てなど)で応用されています。

 

 

創造的な高齢社会・介護現場をつくる。

僕はこのパターンランゲージを用いて、介護・福祉現場における創造性の支援の研究をしています。

 

 

僕の恩師である井庭先生は、時代の流れを3つのCで表現し、これからは創造性が重要になると、よくお話されています。

 

 

「豊かさ」の捉え方は時代と共に変化しています。少し前までは、Consumption(消費)-大量生産・大量消費が豊かさの象徴とされていましたが、最近は、Communication(コミュニケーション)-人とのつながりの豊かさの価値が見直されています。そして、これからはCreation(創造)-色々なものをつくりあげることに価値が見いだされていく…。

僕は、福祉の世界でもこのような流れが生まれ始めていると考えています。
「施設に高齢者が集まり利用する」という形から、「地域に出て、地域の人とつながる」という動きが少しずつ生まれ始めています。きっと、次の段階は「自分たちなりの暮らしをつくる」「入居しながら、そこで仕事をする」といった何かを生み出す動きが、福祉の現場でも生まれていくことになるのではないでしょうか。

 

「あれは○〇だからできるんだ」で終わらせない。

僕は研究の過程で、全国様々な地域や介護施設での取り組みを見てきました。よい事例はたくさんあるけれど、現場にはそういった取り組みを広げていくことが、なかなかむずかしいという現実も見えてきました。

人が足りなかったり、新しいチャレンジに消極的だったり、よい取り組みをしている人たちも、なかなか自分たちの活動を上手く伝えられなかったり…。もちろん地域の文化や環境の違いもあり、そのまま取り入れてもうまくいかないことも多くあります。

また、とてもよい実践をされている人たちも、本人たちは「当たり前のこと」と思っていて凄さを実感していなかったり、なぜ上手くいっているのか説明できないことも。

 

 

そういった時に僕のような外の立場から見ることで分かることや気づくこともあります。
優れた事例を分析し、他の場所でも役立てるような形にしていく。

 

「あれは〇〇だからできるんだ」となってしまいがちなことに実践の裏に潜む、構造や共通点をあぶり出し、「ことば」(パターン)にまとめることで、他者と語り合ったり、自身の活動に取り入れたりすることが可能になると考えています。

 

 

具体性の罠、ことばの可能性。

よい事例、成功した事例の話を聞いた時、気を付けなければいけないことがあります。

例えば、駄菓子屋さんを開いて地域の子どもたちが自然と集い、入居者と触れ合う高齢者施設の話を、地域とのつながりをつくる成功事例として聞きます。

そうすると、私たちは「どうすれば駄菓子屋ができるのか?」と具体的なことを考え、実行しようとしてしまいがちです。しかし、その駄菓子屋の取り組みは、その施設に暮らす人たちがやりたいと思ってやっているから、その地域で受け入れられる文化や風土があったから、上手くいっているとも言えます。環境や風土が違う中で、ただ「駄菓子屋をやる」ということを実行しても上手くいかないことも多くあります。これを「具体性の罠」と呼んでいます。

僕は、「具体性の罠」から抜け、よい事例の背景にある本質を掴み、それぞれの場所ごとの状況や環境においt、新たな価値観や文化が生まれていくサポートをしたいと考えています。

 

 

パターンランゲージは言葉をつかって対話のきっかけを作ります。

ある地域で「認知症カフェに地域の高齢者に参加してもらうためには?」というテーマで、パターンランゲージを使ってもらいました。パターンが書かれたカードを使いながらおしゃべりをしている中で、「“なじみの場所”になれるといいね」「“ないまぜのイベント”を企画してみよう」といったアイディアが生まれ、地域の人が集まるお祭りが企画・開催されにぎわいを見せていました。

 

 

パターンランゲージという言葉があることで、一旦抽象化して考えることができ、「何が大切なのだろう」「自分達ができることは何だろう」と考えることができるのではないかと考えています。

 

「よりよく生ききる」ことのできる社会をつくる。

 

 

今、僕がやろうとしているマイプロジェクトは、これからの創造社会で「よりよく生ききること」をデザインするツールをつくること。

人はいつか必ず死にます。自分自身の死、大切な人の死…。
死は誰しも考えないといけないところだから、考えるツールがあるといい。僕は、そのツールをことばでつくりたいと思っています。

「よりよく生ききる」ということは、「生ききったという感覚を本人も家族も最期に感じることができる」こと。本人はもちろん家族も、そして介護に携わる人たちも、「生ききった」と思えるようなかかわりができないだろうか。そんなことを考えています。

今、たくさんの事例から「よりよく生ききる」ためのパターンを作成中です。完成して、みなさんにお見せできること、完成した“ことば”が、誰かや社会の役に立てることを楽しみに、頑張っています。

 


 

 

 

金子さんのお話の後は、参加者一人ひとりが自身のやりたいこと―マイプロジェクトの種ともいえる考えや想いを共有しました。

よい事例やアクションの奥に潜む、本質を捉え、環境や状況に即したアクションに落とし込んでいく。パターンランゲージの視点は、これから自身のマイプロジェクトをはじめようとしている、加速させようとしている参加者の皆さんにとって、よい刺激となったようでした。

目の前の人を笑顔にしたい。自分たちが抱える困りごとを解決したい。
そのような想いで新しいことに挑戦をしたり、困難な課題に向き合ったりしている人は多くいると思います。
そんな人たちが、何か一歩を踏み出すきっかけとなる“ことば”の力。

金子さんが可能性を感じ、推し進めていくマイプロジェクトの先には、きっと多くの人の力になる新たな価値が生まれるのではないかと感じます。

 

 

KAIGO MY PROJECTに参加してみませんか?

落合さんも参加されたKAIGO MY PROJECTは、ただいま2019年1月からスタートする15期の参加メンバーを募集中です。

新しい年の始まりに、仲間とともに自分の想いを見つめ、新しいアクションを形にしていきませんか?
ご参加お待ちしております!

KAIGO MY PROJECT15期の詳細はこちら

【イベント情報】12月26日KAIGO MY PROJECT紹介・体験イベント特別編開催!

KAIGO LEADERS発起人の秋本可愛が、自身のマイプロジェクトを語ります!

2015年1月にスタートしたこのプログラムは、全14期131名が参加、それぞれの想いから生まれたマイプロジェクトが動き出しています。

プログラムスタートから5年目、1月から開始予定の15期より、これまで以上に、一人ひとりのプロジェクトを加速させるため、プログラムを大幅にリニューアルすることになりました。

今回のKAIGO MY PROJECTの紹介・体験イベントでは、新しいプログラムの特徴をご紹介すると共に、KAIGO LEADERS発起人の秋本可愛が、自分自身のマイプロジェクトや、その背景の想いをお話させていただきます。

・KAIGO MY PROJECTについて、詳しく知りたい。

・新しい年に、何かをスタートさせたい。

・発起人秋本可愛の話を聞きたい。

そんなお気持ちの方は、ぜひご参加ください!

⇒体験イベントの詳細はこちら

 

 

この記事を書いた人

野沢 悠介

野沢 悠介Yusuke Nozawa

株式会社Blanket取締役|ワークショップデザイナー

大手介護事業会社の採用担当者・人事部門責任者として、新卒採用を中心とした介護人材確保に従事。
2017年より、Join for Kaigoに加入、介護領域の人材採用・定着・育成をよりよくするために活動中。
趣味は音楽鑑賞。好きなアーティストを見に、ライブハウスに入り浸る日々。

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