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津軽三味線で在宅での暮らしを彩る。”離島”の訪問看護師の挑戦(KAIGO MY PROJECT体験イベント Vol.54レポート)

KAIGO MY PROJECT REPORT EVENT

訪問看護と津軽三味線で、“いい時間”を共に奏でる。

「あなた」の「想い」をカタチにする。そんな3か月。

HEISEI KAIGO LEADERSが手掛けるKAIGO MY PROJECTでは、毎月体験イベントを開催しています。今回は、KAIGO MY PROJECT参加者のOBメンバーをゲストにお迎えし、2018年3月30日に行われた第54回の体験イベントのレポートをご紹介いたします。

看護も三味線も、“いい時間”を過ごしてもらうための手段の一つにすぎません。

こう話されるのは、この日のゲスト、KAIGO MY PROJECT4期に参加された看護師の‟えんぱちさん”こと遠藤肇さん。
伊豆諸島・東京都新島村―人口2700人・高齢化率38%の小さな島で、訪問看護師として働かれています。

遠藤さんのもう一つの顔は、澤田流津軽三味線名取。
3年前から、縁もゆかりもなかった新島で島の皆さんに看護によるかかわりと、津軽三味線で奏でる曲」を届けています。

島内にはこの時間を楽しみに待たれている方が多くいらっしゃるそう。遠藤さんはこの時間を通じて、ご本人やその周りにいるご家族に“いい時間”を過ごしていただけるようにしたいと強く感じられているそうです。

遠藤さんの考える“いい時間”とは、いったいどのような時間なのでしょうか?

「生」と「死」を見つめた末に行きついた、離島での訪問看護

大学卒業後は病院やハンセン病の療養所、訪問看護等で働いていました。働きながら社会福祉士や精神保健福祉士、ケアマネージャーの資格を取得し、いまは看護師として働いています。でも最初から離島で訪問看護師として働きたいと考えていたわけではありませんでした。

昔から「人が死ぬこととは一体どういうことなのか?」ということに、強く関心を持つ自分がいました。若い頃、死にたいわけではないけれど、自分が生きている意味を感じられなくなり「生きるということ」を、そこから対にある「死」についても考えを巡らせていくようになり、医療や介護にも興味を持ちました。

津軽三味線は大学在学中から始めました。ボランティア活動を通じて、津軽三味線の音色によって高齢者の方々の感情や身体への変化を肌で感じられた経験から、仕事と組み合わせることでより役立てられるのではと考えたんです。

そもそもなぜ新島で働いているのかというと、新島出身の友人との出会いがご縁でした。

ある時、友人のお父さんが島で難病にかかっていると伺いました。当時の新島には訪問看護ステーションはありません。「島で最期まで過ごしたい」というお父さんの気持ちを叶えたい。「在宅で看られる体制が整っていれば…」と感じていたところ、偶然にも、島に訪問看護事業所が立ち上がったのです。「友人のお父さんを看てあげたい」という気持ちから、そこで働き始めることにしました。

また、その頃ちょうど「お日様を浴びながら働きたい・快晴の日でも病棟内にいることが不自然だ」と感じていたんです。それもきっかけの一つとして新島へ行くことを決めました。現在は週の半分ずつ、埼玉と新島を行ったり来たりしながら過ごしています。

 

限りある時間のなかで穏やかな“いい時間”を過ごしてもらう

残された時間を在宅で過ごされる方々は、リハビリをして「元気な姿に戻る」というよりも、残存機能を活かしながら「いまを生きる」方が多くいらっしゃいます。

新島では、普段病気に苦しんでいらっしゃる方も、三味線で奏でる民謡を聴いたり、ともに歌ったりすることで、日々の生活に楽しみを感じてくださっています。

訪問看護と三味線の演奏を続けていくなかで、民謡が「記憶の引き出し」となって、普段はなかなか見せてくださらない表情を見せてくださったり、会話のきっかけとなったり、何かをしようとする元気が出るということに繋がると気がつきました。

また、ある利用者さんは処置終えた後の一曲をいつも楽しみにしてくれていました。僕はそこではあえて1回の訪問では1曲しか弾きませんでした。「あんまり弾くとレパートリーがなくなっちゃうから」と冗談めかしつつ「明日また来る時にはまた違う曲をやります。だからそれを楽しみに元気でいてくださいね」と伝えていたのです。

このようなかかわりを続けていたところ、僕の訪問日ではない日にも僕が弾いた唄を再現しようとご家族と手拍子で民謡を楽しまれる日があったと伺いました。僕がいない時間も、ご家族も含めて穏やかな時間を過ごせたのだと嬉しくなった出来事です。

そして、僕自身もあることに気づくことができました。 

僕のやりたいことは「自分の関わる方々に支援を提供することで、ご本人や周りにいるご家族に“いい時間”を過ごしてもらうことなんだ」という気づきです。

それまでは「自分のやりたいことは一体何だろう?」と、いまいち分からないまま仕事をしていました。津軽三味線を演奏する人も多くはない。かといって、別に目立ちたいわけでもない。「なぜこういうことをわざわざやっているのか?」と考えたときに、急にしっくりきたんです。

「島に来てよかったんだ」と自分で自分を認められたような、すっきりした気持ちになったのを覚えています。

今は、残された日々の中で「あの時間はよかったな」と思ってもらえるような時間を作ってさしあげるサポートをすることが一番だと思っています。

自分も相手も充足できるような関わりこそが“いい時間”を生み出す

このようにお話する機会をいただいたことで、自分の仕事内容を整理してみました。

専門職の仕事とされる介護・看護の仕事は、排泄・食事・入浴・予防・処置も含めて、マズローの5段階欲求の最下層にある「生理的欲求」を充足させるのに役立っていると考えます。

三味線に関しては、それらが満たされた上で、更に上部にある「楽しみ・交流・自己実現」の欲求を満たし、動機づけに繋がっているのだと感じています。

看護も三味線も“いい時間”を過ごしてもらうための手段の一つにすぎません。
何が“いい時間”なのかは人によってそれぞれ違います。お一人おひとりの性格や環境、今までの人生の経験などから人の数だけ存在すると言っても過言ではないと思います。関わる人にとっての“いい時間”を過ごしてもらえるなら、他にもさまざまな手段があっていいと思います。「すべては“いい時間”を過ごしてもらうために」という観点から介入することが大切だと考えます。

人間関係が広がり、馴染み、そして続いてゆく。


 

 元々、縁もゆかりもなかった新島でしたが、津軽三味線がきっかけで地域の行事にも参加するようになり、島の皆さんとも知り合いになれました。ほどよい距離感のつかみ方が難しく感じていた時期もありましたが、知り合いが増え、日頃から多くの方にお世話になっています。

そんな僕が感じている島の魅力は、人間関係が続いていくところです。

多くの場合、利用者さんが亡くなると、契約終了と同時に家族との関わりもなくなりがちです。でも、島は小さなコミュニティなので、空港や道端でお会いしたり、お盆にお線香をあげにいったりと交流が続いていきます。他にも、本土へ帰る時にタイミングが悪くゴミ出しができないこともあるんですが、それを手伝ってくれる人もいらっしゃって。どちらがお世話になっているかわからない関係性ですね。(笑)

最後に、僕が働いている新島村の状況についてご紹介させていただきます。 

高齢者福祉の社会資源としては、特別養護老人ホームの中に居宅介護支援事業所・地域包括支援センターや訪問介護が入っています。医療体制は島内に医師が3名とこの規模の離島としては恵まれた環境ではありますが、24時間ご家族がつきっきりでないと入院できません。もし入院が必要な場合は、ヘリで本土の病院へ搬送されます。

島内に仕事が豊富にあるわけではなく、島外から来た人もなかなか長くは続かないこともあるようで、慢性的な人手不足という問題を抱えています。新島に限らず、離島ではマンパワーが不足しています。僕自身も島の皆さんにお世話になっている身でもあるので、こうした発信によって貢献できればと考えています。

 

島の穏やかな日常を思わせるような、落ち着きのある語り口の遠藤さん。
彼の願いである「限りある日々のなかで穏やかな“いい時間”を過ごしていただきたい」という想いは、介護や看護の根底にあるものなのではないでしょうか。ご本人とそのご家族にまで広がってゆく取り組みに、思わず胸が熱くなりました。

この“いい時間”は、高齢者の方に限らず誰しもが感じるべき時間かもしれません。
私も周りの方々に“いい時間”をもってもらえるよう、まずはともに「いま」を生きることを意識していきたいと思いました。


 

■ゲスト紹介

遠藤 肇 (えんどう はじめ)

訪問看護師/澤田流津軽三味線名取

立教大学文学部史学科卒。在学中の津軽三味線に出会い、特別養護老人ホームにボランティアに行き、福祉の世界に興味を持つ。
介護の世界に入り、特別養護老人ホームや病院勤務と共に介護福祉士・社会福祉・精神保健福祉士・介護支援専門員・看護師を取得。
現在、伊豆諸島新島と埼玉県の2拠点で訪問看護師として勤務している。
島やへき地の文化・民族・民謡にも興味を持っている。澤田流津軽三味線名取。澤田勝邦に師事している。

 

この記事を書いた人

石丸 夕貴 Yuki Ishimaru
HEISEI KAIGO LEADERS PRチーム
介護サービス会社で4年間勤務。介護職、入居相談窓口担当を経験。
介護者支援に興味があり、「ライフにワークを溶け込ませたい」をキーワードに介護にかかわれるお仕事探し中!
情報の整理整頓、改善、アイディア出しが好き。

 

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