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「リロケーションダメージ」という言葉を知っていますか?災害時に高齢者が抱える‟見えないリスク”とは?|防災介護士の達人コラム02

OTHERS Column

「介護×防災」を考える、防災介護士の達人コラム第二回をお届けします!
いざという時、誰かの力になれば、とても嬉しいです。
 

熊本地震「みなし仮設」で16名の孤独死。 環境の変化への対応の難しさ。

 
大きな被害をもたらした熊本地震から今日で丸2年を迎えます。
熊本地震の被災地では、自治体がアパートやマンションなどの民間物件を借り上げ、被災した方に貸し出す「みなし仮設」の形が多く用いられました。
そして、震災発生から今年1月までで、「みなし仮説」で孤独死をした方が16人いたとの報道がありました。

【熊本地震2年】「みなし仮設」の孤独死16人 被災者点在、交流失われ孤立が深刻化(西日本新聞)

「孤独死」は被災地に限らず問題としてあげられますが、「みなし仮設」は地震前の自宅から離れた地域に転居するケースが多いため、その環境、新しい人間関係になじめず、孤立を生みやすいのです。
今回の熊本自身でも浮き彫りになった、災害により環境が変わることでもたらされる‟見えざるリスク”。今回のコラムでは、その一つである「リロケーションダメージ」という現象について、ご紹介したいと思います。
 

洋服の“襟”が変わるだけで…。些細な変化がもたらす大きな混乱。

 
あまり耳慣れない言葉かと思いますが、「リロケーションダメージ」は、「移り住みの害」とも呼ばれ、住環境の変化が心身に負担をかけ、健康を害してしまう現象を指しています。
高齢者の場合、引っ越しや老人ホームへの入居時など、転居の際にしばしば問題視されます。若い人でも新しい環境では、体調を崩したりしやすいですが、高齢者の場合は特に慣れない環境での生活が、身体機能を低下させたり、認知症の症状を進行させたりと、心身に様々な影響を与えてしまうのです。

ある施設の例を紹介します。その施設の介護職のユニフォームはTシャツでした。ある時、そのシャツが、同じ色で襟付きのものに変更になりました。すると、ある認知症の方が、急に職員のケアを拒むようになりました。 “襟がついた”は、その方にとってはとても大きな変化だったのでしょう。

認知症の方は、当然ながら何も分からなくなる訳ではありません。ただ、その方にとって覚えていること・慣れていることがちょっとでも変化したり、欠けるだけで分からなくなってしまったり、別物に見えることがあるのです。ユニフォームの件では、慣れていただけるまで時間はかかりました。

「そんなことで?」と思う些細な変化が、高齢者―さらには認知症のある方にとっては、すぐに対応するのが難しい大きな変化かもしれないということを頭に入れておかないといけません。
 

災害は「リロケーションダメージ」を大量に発生させる。

 
大きな災害が起きた場合、多くの人の生活が急激に変化するリスクが生じます。「家が壊れてしまう」、「避難所での生活を余儀なくされる」など、様々な変化が考えられます。
東日本大震災時にも、震災後3年(2011年1月~2014年1月)の要介護認定率が「被災県の沿岸部」で14.7%増、「被災県の内陸部」で10.0%増、「被災県以外」で6.2%増と、他のエリアと比べて被災県で増加率が高くなったという結果も出ています。 (※1)
「リロケーションダメージ」により、認知症の症状の進行や、ご自分で出来なくなってしまうことが増えてしまっているのです。災害が起きた時、高齢者の「リロケーションダメージ」を抑えることは、二次的な被害、負担の軽減にもつながるのです。
 

「水害の後、ばあさんの元気がなくなってな…。」災害が起こす「リロケーションダメージ」の実例

 

私自身が、災害の現場における「リロケーションダメージ」の深刻さを実感する出来事もありました。

2015年、関東・東北豪雨において鬼怒川が氾濫し、被害を受けた地域に災害ボランティアに参加した際の話です。私は、浸水被害を受けた、老夫婦二人暮らしのお宅の泥かきをしました。そのお宅は、対応が遅れていて被災から3週間以上が経ってもまだ、1階の半分が使えない状況でした。家の中に残っていた泥をかき、床板を張って、ようやく元の生活に戻れます。

そのお宅のおじいさんが、私にこんな風にお話しくださいました。

(浸水被害の後、)ばあさんの元気がなくてな…。前から話がかみ合わなかったりはしていたんだけど、家がこんななってから、下手に動けないから、さらに元気がなくてね。早く戻してやらんと。

高齢者にとって、家の活動域が狭まることは、そのまま活動の低下に繋がります。このご家庭でも一階の活動域が狭まったことで、大半を二階で過ごしていたことで、奥様の身体機能が低下する「リロケーションダメージ」が起きていたのでした。
被災後の対応の遅れは、高齢者の身体機能を低下させかねません。災害が起きた時、高齢者のなじみの場をどれだけ早く戻していけるかというのは、機能低下を防ぐ上でも非常に大切です。

「リロケーションダメージ」を起こさないための備えとは?

では、「リロケーションダメージ」を起こさない、軽減するためには、できるだけなじみの物を持っていく、なじみの所にアクセスしやすい場所を選ぶことが良いとされています。
しかし、災害は“なじみ”を消し去ってしまいます。
簡単に持ち出せるような小物であれば、避難場所へ持っていくことも出来ると思いますが、災害時に、その方にとっての“なじみ”を完全に再現することは、容易ではありません。では、どのようなことを意識すればよいのでしょうか?
ポイントは、「そのモノ・場所・習慣が、その方にとってなぜ“なじみ”となっているのか?」ということをあらかじめ理解しておくことです。

「絶対に枕はこの枕でないと嫌だ」、「このスプーンでないと食事ができない」といった強いこだわりのある方がいます。しかし、災害の状況によっては、その“なじみ”のものを使えない状況に陥る場合もあります。その時に、その方にとって「どうして、その枕が、スプーンが、“なじみ”なのか」という意味合いを知っておけば、愛用の枕はなくても、近い素材の物は手に入るかもしれません。スプーンの形を変えて近いものにすることもできるかもしれません。意味合いをあらかじめ理解しておくことで、災害現場で「リロケーションダメージ」を防いだり、軽減するアイディアを考えることが出来るのだと思います。

高齢者一人ひとりの生活スタイルの“こだわり”や、“なじみ”のものについて、お話を伺ったり、ご様子を見ながら、深く知ろうとする意識を持つ。日常でのケアにおいても重要な視点ですが、災害時の「リロケーションダメージ」への備えにもなることなのです。

高齢者の方と関わる方は、いざという時のために、ぜひその方とお話をしながら、なじみのものを探してみてください!

 
(※1)出典:東北大学大学院医学系研究科「東日本大震災発生前後における要介護認定率の長期的推移に関する研究ー全国の市町村(介護保険制度の保険者)の3年間の比較(2015年)」 

 


この記事を書いた人

清水 達人

清水 達人  Tatsuhito Shimizu
介護職、介護予防運動指導員/HEISEI KAIGO LEADERS PRチーム

学生時代に防災関係の活動や海外ボランティアに従事。東日本大震災時にも、学生ボランティアとして東北でも救援活動を行う。
介護士の経験と防災への関心から、「介護×防災」を考える“防災介護士”としての活動をスタート。
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