MAGAZINE 読みもの

click me!
イベントレポート

ケアマネジャーの半数は不安を抱えながら仕事をしている?!社会課題をICTと先端技術の力で解決するウェルモの取組みとは(KAIGO LEADERS FORUM 2019イベントレポート⑥)

イベントレポート⑥『社会課題をICTと先端技術の力で解決する』
登壇:鹿野 佑介

KAIGO LEADERS FORUM 2019イベントレポート第6弾は、前回に引きつづき、新しい時代をつくるU35のKAIGO LEADERSのピッチを1人ずつ紹介します。4人めは、株式会社ウェルモ代表取締役CEO 鹿野 佑介さんです。

はじめに 鹿野 佑介さん とは?

大阪府出身。立命館APU卒業後、日本人の働きがいに注目しワークスアプリケーションズにて大企業向けのITコンサルタントとして勤務。

その後、仙台から福岡まで介護事業所でのボランティアとインタビューを8か月強(計400法人)行う。

2013年に、熱い自治体職員のいる地、福岡にて株式会社ウェルモを創業。2019年1月、経済産業省主催ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト2019にて最多受賞。

講師歴:経済産業省 オープンデータラウンドテーブル、つながるデータで築く未来、

総務省 データアカデミー、地域ICT利活用普及促進セミナー等。

2018年 Forbes JAPAN 「NEW INNOVATOR 日本の担い手 99選」選出。

 

社会課題をICTと先端技術の力で解決する

私たちの会社のビジョンは、「愛を中心とした資本主義のつぎの社会を描く」です。

そして、コンセプトは、「社会課題をICTと先端技術の力で解決する」。社会課題の手が出せていないところに正面から向き合って解決していき、そこから構造改革していきたいと考えました。

私たちの事業は、介護領域と障害児童教育領域に分けられます。なぜ、この2つの領域に取り組んでいるかというと、高齢化の社会課題解決を介護領域で、少子化の課題解決を、障害児童教育領域で取り組んでいこうと考えているからです。

まず、介護領域。私が、はじめて介護現場を見たとき、人事のITシステムをつくっていた人間として唖然としました。現場の職員さんは頑張っていますが、疲弊していたり、離職率が高かったり…何とかしたいと思いました。この「介護現場の働きがい」を解決し、より一層利用者本位のケアが実現できるように事業を進めてています。

次に、障害児童教育領域ですが、発達障害の子たちのケアを、福岡にある6施設で行っています。「全ての子どもたちの可能性を解放する」というテーマで、この領域においても、テクノロジーを活用しています。

 

介護現場を、もっと働きがいがある状態へ

大学卒業後は、大企業向けにITコンサル(人事領域)として働いていました。そのなかで、初めて大手介護事業所の話を聞いて、「大変だな」と思ったのが率直な感想です。超高齢社会において、正面から、この課題に向き合っていかないといけないと考えました。

そして、会社を辞めることを決意。

まずは現場をみようと思い、8ヶ月ぐらい仙台・東京・大阪・福岡でボランティアやインタビューをしながら、現場で勉強させていただきました。

その後、2013年に「介護現場をもっと、働きがいがある状態にしたい。」という思いで、会社を作りました。

事業を進めるうちに、現場の想いをきっちりと構造改革の政策のところまで落としこまないと世の中は変わらないということに気づきました。現場がどんなに頑張っても、介護保険法の構造が歪んでいたら、介護職員が疲弊します。だからこそ、介護保険法の構造の歪みの部分を解決して、介護職員が活き活きと働けるようにしていきたい

また、テクノロジーを活用し「人がしなくてもよい」作業は削減していきたいと考えています。事務作業における“二度手間”や“ダブルチェック”が結構多い業界です。現場にいた時、「もったいない」と感じたので、そこを人工知能やITの力を使って解決したいと強く思いました。

 

ウェルモの主な事業内容

次に、ウェルモの3つの事業について説明します。

1つめは、CPA、ケアプランアシスタント(ケアプラン作成支援AI)の研究開発。ケアマネジャーが作成するケアプランの内容は、基礎資格の違い等も影響して、ばらつきが大きいのが現状です。そうではなく、皆が同じように「なぜそのプランなのか」説明できるように支援したいと考え、AIを活用してケアプランの作成をサポートできるように研究しています。

2つめのミルモシリーズは、介護サービスのプラットフォームです。介護事業所は、事業所ごとに多様な取組をされています。個々の事業所の良さであったり、ご飯の内容、レクリエーションの内容、リハビリの機材は何を使っているか…等を、ケアマネジャーはなかなか覚えられなかったりするので、その“見える化”を、自治体の方々含む地域のみなさまと一緒に進めています。

3つめは、UNICOという、障害児童支援•教育の施設の運営。こちらは、先ほどご説明した通り発達障害の子たちのケアをしています。

 

ウェルモが取り組む社会課題

次に、私たちが事業を通して、解決しようとしている社会課題についてお話します。

私が注目しているのは、介護給付費の増大です。そして、介護事業所数が今後どんどん増えていくことが予想されます。

介護事業所がどれくらいの数あるかというと、215,561件(2016年現在)あります。その数は、コンビニの約4倍。今後は、約8倍にまでなると言われています。それほど数が多い介護事業所が、それぞれどんな場所なのかをネット検索で把握するのは難しいし、実際に行って見てみないとわかりません。

そのため、ケアマネジャーは、利用者に適した介護サービスの選択をすることが、複雑で難しいという課題を抱えています。調査では、「自分の能力や資質に不安があるケアマネ」は50.4[i]という結果が出ています。これは、向き合うべき事実だと思います。

家族からすると、頼る先はケアマネジャーしかいないのです。そのケアマネジャーの約半数が不安を抱えているという現状があるのです。

ソーシャルインパクトに置き換えて考えてみましょう。ケアマネジャーに年間約4,860億円人件費がかかっていまして、約10.4兆円近くの差配がケアマネジャーによってなされています。その半数が不安な意思決定をしているということは、数兆円の給付意思決定は不安が混ざった相談援助業務で成り立っているという状況であると捉えることができます。

これは、とてももったいないことです。決して、ケアマネジャーのやる気がないわけではありません。思いのある方が多く、寄り添おうと努力されています。そんななか、業務内容が人間の頭の処理能力の限界を超えてしまっている状況だと認識しています。

ケアマネジャーのうち、基礎資格が介護福祉士や社会福祉士の人が、73.7%を占めています。介護福祉士や社会福祉士は、対話力・対人援助・人間関係構築力といった感情系の職能を有し、それを鍛えてきてケアマネジャーになられています。

ケアマネジャーも同じく、利用者との関係性づくりといった感情系の職能も求められます。

一方で、給付管理・アセスメント•課題分析力・調整力といった論理系の職能がメインで求められるのです。それらは、もともと鍛えてきた職能とは異なる場合が多く、ケアマネジャーになったからといってすぐに出来るようになることではないと考えます。私は、このギャップが、ケアマネジャーの不安を生み出していると思っています。

結果、人によって、これまで培ってきた能力やスキルが異なっていて、ケアの差配が属人的になりやすい現状となっています。

[i]平成28年 厚生労働省 居宅介護支援事業所及び介護支援専門員の業務等の実態に関する調査研究事業の結果より

 

ウェルモが提供する情報

ウェルモは、情報の非対称性と相談援助の不安が大きいという現状に対して、「介護に関わる全国民がアクセスできる情報と知識」を提供します。そして、「現場の負荷軽減と利用者本位の介護の実現」を目指していきます。

まず、情報とはなにかを説明します。情報は2つに分けられます。1つめは、介護保険内サービス情報、2つめは介護保険外の情報です。そういった地域にある情報の「見える化」を推進するために、地域ごとにミルモシリーズを展開しています。

居宅介護支援事業所では、地域の様々な社会資源の情報を、紙媒体でファイル整理し、管理している現状があります。これは、大変です。

写真:ウェルモ提供

そこで、皆が検索できたり、比較ができたりと使い勝手が良いようにしたいなと思い、Webのシステムにしました。ケアマネジャーが、事業所ごとの空き情報や所在地等を検索できるようになっています。事業所の様子を、現地に見に行かなくてもわかるように玄関や浴室など決まった場所の写真や、理念なども掲載しています。

本来ならば、電話を1件ずつかけて、情報収集しなくてはならないところですが、「その手間が省けて便利だ。」といった声がケアマネジャーより挙がっています。

現在、福岡、東京、横浜、札幌で展開し、14,500事業所を網羅しています。地域により、差はありますが、約82〜95%の介護事業所に導入いただいています。ほとんどの事業所にリーチができるというのが弊社の強みだと思います。

また、各地域に、地域コミュニケーターを配置し、リアルな情報を収集してもらっています。その地域に一番詳しい専門家として、有機的な関係を構築できるように地域に働きかけています。今年から、もっと介護の現場でもICTを活用できる環境をつくっていきたいと思い、介護事業所向けにICT活用を支援するサービスのご提案も始めました。これからは、今ある情報や関係を生かして、介護の現場に時間の余裕を生み出せるようなご提案もどんどんしていきたいと企画しています。

 

ウェルモが提供する知識

次に知識についてです。ケアマネジャーの多くは、もともとの専門領域ではない「在宅医療看護」や「リハビリ」についても知識を求められています。その部分を支援したいと、介護における「知らない」をゼロへ をテーマにしたCare Plan Assistant(CPA)ケアプラン作成支援AI の研究開発を進めています。

ケアプランのAI化は弊社だけが取り組んでいるものではありません。内閣官房未来投資会議にて、政府による検討がなされています。16年未来投資会議では「2020年までにAI支援によるケアプラン作成(を目指す)」と文言化されました。

ケアプランには、まず本人の課題が記されています。ここから、介護の内容をつくっていく時に、色々な知識(医療•看護・介護・生活支援・言語療法・作業療法・言語聴覚等)を総動員し、課題分析しないとしっかりとしたケアプランを作成できません。

そこで、CPAには、過去のケアプランのデータや、医療看護・介護・リハビリ職の知識を人工知能に学習させます。ケアマネジャーの横に、ケアプラン作成時に必要な知識について詳しい秘書がいるというイメージですね。

そして、最終的にどの事業所のサービスを利用すればいいかを決める際は、さきほどご紹介した、地域資源の「見える化」Webシステム、ミルモを活用。

ケアマネジャーに知識と情報の支援をすることに特化しています。

物理的にできるところのみを知識支援し、感情的なところはケアマネジャーが専門として担ってもらい、協調しながら、プランを作成できるようにしています。

AIを導入することについて、「仕事を奪うんじゃないか。」といった声もあります。しかし「AIは、あくまでアシスタントです」としっかりご説明すれば、必要性を理解し使いこなしていただけると、説明会や、グループインタビューなどの調査を通して確信しています。

 

今後の取組み

今後は、ケアプラン作成にとどまらず、「モニタリング」においてもAIの活用が必要だと考えています。

一人暮らしの高齢者、認知症の高齢者はますます増えていきます。さまざまな見守りサービスが出てきていますが、現状のサービスでは足りないのではないか、プライバシーに配慮しつつも、ゆるやかな見守りが、人間の手を介さずに出来ないかと悩みました。

そこで、東京電力とコラボレーションし、見守りシステムの実証実験に取り組んでいます。分電盤周辺に専用の電力センサーを配置し、どの家電をいつ使ったか等の生活パターンを分析することで、ケアマネさんにLINE等のチャットツールでレポートやアラートを届けるシステムです。

認知症の方の場合、本人の発言をエビデンスとすることが困難な場合もあります。一方で、このデータは、信頼できるエビデンスとなり得ます。完成したら、見守りの社会的インフラになると思います。昨年の12月から実証実験を始め、今年から本格的に社会実装していく予定です。

テクノロジーを活用し、ケアマネジャーの事務作業や情報収集をサポートすることで、相談支援業務に集中する心と時間の余裕を生み出していきたい。ケアマネジャーが「知らないことで困らない」、「文章を書く手間が省ける」、また、「機微な個別ニーズに応じた事業者が見つかる」ことを目指しています。

 

当たり前の幸せを、すべてのひとに

この仕事をしていて強く思うことは、「当たり前の幸せを、すべてのひとに。」ということです。高齢化し、財源が無いなか、そして、家族介護者の負担も大きいなか、色々なものが失われていきます。自治体も財源がないなかで運営しており、徐々にもたなくなっていってしまいます。

そのような状況が続けば、当たり前の幸せは失われてしまう。人がいなくても、様々なテクノロジーを使って、今までの生活を可能な限り守っていく。そのようなことを、続けていく会社でありたいと考えています。

 

いま、現場で抱えている課題も、もしかしたら、ICTや先端技術で解決できるかもしれません。「どうにもならない。」と、思考停止するのではなく、「どうすれば。」を考え、さまざまな力を活用していくことの重要性を感じました。

同時に、専門職が、より専門性のある仕事に注力できる未来を想像しワクワクしました。

 

次回のレポートは、新しい時代をつくるU35のKAIGO LEADERSのピッチ5人めを紹介します。5人めは、トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社代表取締役 中西敦士さんです。

 

KAIGO LEADERS FORUM 2022開催決定!

毎年、様々なテーマで開催しているKAIGO LEADERS FORUMを今年も開催!
テーマは、「感染拡大から2年。これまでを振り返り、これからの介護を考えよう~」に決定しました。

収束が未だ見えない新型コロナウイルス。感染の最前線を2年間目の当たりにしてきたゲストの皆さんとともに、「“介護”はコロナ渦の2年間から何を学び、これからどこへ向かっていくのか」を2日間に渡って考えていきます。
お申し込みはこちらから。

 

KAIGO LEADERS FORUM 2019写真撮影

近藤 浩紀/Hiroki Kondo(Hiroki Kondo Photography)

この記事のタグ